「っっかーー! 良い天気だ!!」
――確かに、良い天気だった。
「見てみろよ! あの澄み切った青い空!」
――確かに空は青く澄み渡り、とても綺麗だった。
「この清々しい空気! 心が晴れていくようだ!」
――確かに空気も澄んでいて、少しばかり心が軽くなったような気さえする。
「まるで俺たちを祝福しているかのようじゃないか! なぁ、そう思わないかビスター?」
そう言って振り向いた僕の連れは、その全てをぶち壊しにする――
半分腐りかけたアンデッドだった。
- 第1話 「死霊使い」 -
事の起こりは1ヶ月前。
僕の家は、代々死霊使い(ネクロマンサー)として栄えてきた、由緒正しい旧家だった。一緒に暮らしている両親も、祖父母も、当然の事ながら死霊使いだった。しかし、僕にはその力が受け継がれていなかった――という事になっていた。
死霊使いは、その才能をわずか3歳の時のテストで決める。
3歳の幼児の前に白骨を置きしばらく待つ。この時、才能のある者は白骨をスケルトンとして動かすことが出来るらしい。わずか3歳で、だ。そして、才能の無い者の前に置かれた白骨は永遠に動かない。
僕の場合がそうだった。
両親をはじめ、一族の者は大変ショックだったようで、しばらくアンデッドを作るのをやめてしまうほどだったようだ。――これは乳母のスティルから聞いた。
そんなこんなで才能が認められなかった僕は、普通の子供として育ってきた。普通の学校へ行き、普通の友達と遊び、普通の生活をしてきた。
しかし僕は、才能はないが、“ネクロマンサー”という職業に少なからず興味を持っていた。
そしてある日、書庫で興味深い書物を見つけたのだった。
――”易しいアンデッドの作り方”
……なんて胡散臭い。そうは思ったものの、ちょっと面白そうなので僕はその本を自室に持ち帰った。
* * *
その本には、事細かにアンデッドの作り方が記載されていた。簡単なゾンビの作り方からしゃべるレイスの作り方まで――一般の人が見たら、思わず吐きそうになる事間違いなし、な図で説明されていた。
僕も若干気分が悪くなったが、いつもゾンビやらスケルトンやらを見ているせいか、それほどでもなかった。
――僕の家では、普通にアンデッドが廊下を歩いているのだ。
パラパラ、と通し読みをしていたら、少し気になるページを見つけた。普通の白地に黒の文字のページだったが、そこの上――つまり見出しの部分には、“人と見紛うアンデットを作ろう!”と書いてあった。
死霊使いにもレベルがあり――といっても天性のものだが――レベルが上な人ほど、精巧なアンデットが作れるようになる。レベルの低い人はせいぜい腐りかけなゾンビや、ただ言われたことしか出来ないスケルトンぐらいしか作れない。その人たちより少しレベルが上がると、レイスやおしゃべりをするゾンビ等が作れるようになる。
人に聞いた話によると、僕の家のレベルはとても高いらしい。
お爺ちゃんは秘書にスケルトンを使っている。もちろん秘書の仕事は一流で、暇な時にはしゃべり相手になるし、仕事に忠実だから下手な人間よりよっぽど良い、と言っている。
しかし、ここに書いてあるように「人と見紛う」ゾンビというのは、とてつもなく難しいものだった。
ゾンビというのはまず第一に『腐りかけ』のイメージがある。才能のある人だと少しは隠せるらしいが、人間のような肌のゾンビは世界がはじまって以来出てきていない。よって、ここに書いてあるのが本当だとすれば、世界的な大発見となる!!
そこには呪文が書いてあり、死霊使いの才がある者がその呪文を唱えると、その……「人と見紛う」ゾンビが出てくる、とも書いてあった。
――やっぱり胡散臭いことに変わりはない。
死霊使いの才能がないことは、3歳の時のテストでわかっていたので僕は冗談で、呪文を口にした。
はっきり言って……ていうか、本気で嘘っぽい。
呪文も今までに聞いた事あるような、ないようなもので、色んな呪文を混ぜて作った眉唾モンとしか思えない。おそらく落ちぶれた死霊使いか魔法使いかが、嫌がらせ目的で書いた物なのだろう。
パタン
僕はその本を書庫に返しておこうと思って、本を閉じた。机ではなく、ベッドに横になって見ていたものだから、体が痛かった。ベッドの上に立ち、背伸びをしながら部屋を見渡す。
――部屋には僕しかいないはず……なのだが、そこには僕と同い年ぐらいの少年がいた。
髪の毛は色素の薄い茶色で、顔は女の子にも見えるほど整っている。服装は至って普通で、黒いTシャツにカーキー色のズボンを履いていた。
……ってそうじゃないだろっ。 なんで僕の部屋にそんなのがいるか、ってことだよ!!
「あ、えっと……君、誰?」
失礼かもしれないが、僕はこんなヤツ知らないので尋ねる。おそらく……学校のヤツだと思うんだが。いや、でも、こんなのが学校の生徒としていた記憶はない。
するとこいつ――誰?
「俺? もうヤダなぁ〜 。さっき、自分が召還したんだろ?」
「は?」
「召還されたので来ましたよ。 マ ス タ ー ?」
にこやかに差し出された手が僕の前でチラついた。
* * *
結局、3歳の時に行うテストは意味のないものだとわかった。
突如現れた人物……否、アンデッドは、名前を「ファルギブ=ライアン」と言い、れっきとした(?)ゾンビだった。ファルギブ、改めファル――ファルちゃん、って呼んで!と言われた(汗)――は、どうやら僕が召喚したアンデッドらしい。
見かけはまるっきり人間なのだが、少しでも気を抜くと肌が腐って見えるそうだ。といってもすごいレベルの高い者か、同じ種族……つまり、アンデッドにしかわからないらしいが。一般の人には、例え気を抜いていたとしても人間にしか見えないらしい。
しかも、レベルが高いとされる家の人間すら、彼をアンデッドだと見破ったものはいなかった。――というのも、僕はファルのことをアンデッドだと云わずに普通に過ごしていたからだ。流石に、お爺ちゃんはちょっと怪しいと思っていたようだったけれど……。
ファルを召還(?)して3日後、僕は修行だ、と言って家を出た。
前々から家を出たいと考えていたのだけれど、なかなか機会がなく今まで出し渋っていたが、ファルが出てきたことで踏ん切りがついたのだ。それに、あの呪文が合っていたとしても――あんなに綺麗なゾンビが作れるはずがない。
誰かの陰謀だ!!!
――というのは冗談で、それほどまでの能力が僕にあるかどうかを確かめたかったのだ。
――確かに、良い天気だった。
「見てみろよ! あの澄み切った青い空!」
――確かに空は青く澄み渡り、とても綺麗だった。
「この清々しい空気! 心が晴れていくようだ!」
――確かに空気も澄んでいて、少しばかり心が軽くなったような気さえする。
「まるで俺たちを祝福しているかのようじゃないか! なぁ、そう思わないかビスター?」
そう言って振り向いた僕の連れは、その全てをぶち壊しにする――
半分腐りかけたアンデッドだった。
- 第1話 「死霊使い」 -
僕の家は、代々死霊使い(ネクロマンサー)として栄えてきた、由緒正しい旧家だった。一緒に暮らしている両親も、祖父母も、当然の事ながら死霊使いだった。しかし、僕にはその力が受け継がれていなかった――という事になっていた。
死霊使いは、その才能をわずか3歳の時のテストで決める。
3歳の幼児の前に白骨を置きしばらく待つ。この時、才能のある者は白骨をスケルトンとして動かすことが出来るらしい。わずか3歳で、だ。そして、才能の無い者の前に置かれた白骨は永遠に動かない。
僕の場合がそうだった。
両親をはじめ、一族の者は大変ショックだったようで、しばらくアンデッドを作るのをやめてしまうほどだったようだ。――これは乳母のスティルから聞いた。
そんなこんなで才能が認められなかった僕は、普通の子供として育ってきた。普通の学校へ行き、普通の友達と遊び、普通の生活をしてきた。
しかし僕は、才能はないが、“ネクロマンサー”という職業に少なからず興味を持っていた。
そしてある日、書庫で興味深い書物を見つけたのだった。
――”易しいアンデッドの作り方”
……なんて胡散臭い。そうは思ったものの、ちょっと面白そうなので僕はその本を自室に持ち帰った。
* * *
その本には、事細かにアンデッドの作り方が記載されていた。簡単なゾンビの作り方からしゃべるレイスの作り方まで――一般の人が見たら、思わず吐きそうになる事間違いなし、な図で説明されていた。
僕も若干気分が悪くなったが、いつもゾンビやらスケルトンやらを見ているせいか、それほどでもなかった。
――僕の家では、普通にアンデッドが廊下を歩いているのだ。
パラパラ、と通し読みをしていたら、少し気になるページを見つけた。普通の白地に黒の文字のページだったが、そこの上――つまり見出しの部分には、“人と見紛うアンデットを作ろう!”と書いてあった。
死霊使いにもレベルがあり――といっても天性のものだが――レベルが上な人ほど、精巧なアンデットが作れるようになる。レベルの低い人はせいぜい腐りかけなゾンビや、ただ言われたことしか出来ないスケルトンぐらいしか作れない。その人たちより少しレベルが上がると、レイスやおしゃべりをするゾンビ等が作れるようになる。
人に聞いた話によると、僕の家のレベルはとても高いらしい。
お爺ちゃんは秘書にスケルトンを使っている。もちろん秘書の仕事は一流で、暇な時にはしゃべり相手になるし、仕事に忠実だから下手な人間よりよっぽど良い、と言っている。
しかし、ここに書いてあるように「人と見紛う」ゾンビというのは、とてつもなく難しいものだった。
ゾンビというのはまず第一に『腐りかけ』のイメージがある。才能のある人だと少しは隠せるらしいが、人間のような肌のゾンビは世界がはじまって以来出てきていない。よって、ここに書いてあるのが本当だとすれば、世界的な大発見となる!!
そこには呪文が書いてあり、死霊使いの才がある者がその呪文を唱えると、その……「人と見紛う」ゾンビが出てくる、とも書いてあった。
――やっぱり胡散臭いことに変わりはない。
死霊使いの才能がないことは、3歳の時のテストでわかっていたので僕は冗談で、呪文を口にした。
埋もれし魂よ 埋もれし記憶よ 我の命を受け 今此処に 蘇れ 死霊召還!
はっきり言って……ていうか、本気で嘘っぽい。
呪文も今までに聞いた事あるような、ないようなもので、色んな呪文を混ぜて作った眉唾モンとしか思えない。おそらく落ちぶれた死霊使いか魔法使いかが、嫌がらせ目的で書いた物なのだろう。
パタン
僕はその本を書庫に返しておこうと思って、本を閉じた。机ではなく、ベッドに横になって見ていたものだから、体が痛かった。ベッドの上に立ち、背伸びをしながら部屋を見渡す。
――部屋には僕しかいないはず……なのだが、そこには僕と同い年ぐらいの少年がいた。
髪の毛は色素の薄い茶色で、顔は女の子にも見えるほど整っている。服装は至って普通で、黒いTシャツにカーキー色のズボンを履いていた。
……ってそうじゃないだろっ。 なんで僕の部屋にそんなのがいるか、ってことだよ!!
「あ、えっと……君、誰?」
失礼かもしれないが、僕はこんなヤツ知らないので尋ねる。おそらく……学校のヤツだと思うんだが。いや、でも、こんなのが学校の生徒としていた記憶はない。
するとこいつ――誰?
「俺? もうヤダなぁ〜 。さっき、自分が召還したんだろ?」
「は?」
「召還されたので来ましたよ。 マ ス タ ー ?」
にこやかに差し出された手が僕の前でチラついた。
* * *
結局、3歳の時に行うテストは意味のないものだとわかった。
突如現れた人物……否、アンデッドは、名前を「ファルギブ=ライアン」と言い、れっきとした(?)ゾンビだった。ファルギブ、改めファル――ファルちゃん、って呼んで!と言われた(汗)――は、どうやら僕が召喚したアンデッドらしい。
見かけはまるっきり人間なのだが、少しでも気を抜くと肌が腐って見えるそうだ。といってもすごいレベルの高い者か、同じ種族……つまり、アンデッドにしかわからないらしいが。一般の人には、例え気を抜いていたとしても人間にしか見えないらしい。
しかも、レベルが高いとされる家の人間すら、彼をアンデッドだと見破ったものはいなかった。――というのも、僕はファルのことをアンデッドだと云わずに普通に過ごしていたからだ。流石に、お爺ちゃんはちょっと怪しいと思っていたようだったけれど……。
ファルを召還(?)して3日後、僕は修行だ、と言って家を出た。
前々から家を出たいと考えていたのだけれど、なかなか機会がなく今まで出し渋っていたが、ファルが出てきたことで踏ん切りがついたのだ。それに、あの呪文が合っていたとしても――あんなに綺麗なゾンビが作れるはずがない。
誰かの陰謀だ!!!
――というのは冗談で、それほどまでの能力が僕にあるかどうかを確かめたかったのだ。