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▼ 第1章 第3話 「演劇部始動!」

 5人目にするぞ!という決意を胸に再び乗り込んだ幼稚園。
 そこで私を待っていたのは、「あら、また来てくれたの?」という保母さん達の温かい言葉と――
「……高科さんじゃないか」
「へっ?!」
 ――何故か、……城崎君だった。

 *

 昨日、奏和先輩に宣言してそのままの興奮状態で寮に帰り恵梨歌ちゃんにもどどんと報告。
 そしてご飯食べて寝て朝起きてご飯食べて学校行って……まぁ、ここの過程は別に言わなくてもいいか。
 兎に角そういう日常を過ごしている最中に城崎君にも昨日の話をした。
「実はね、部員見つけたんだ!まだ勧誘途中なんだけど!」
「へぇ、それは良かった。今日が期限の日だったからね……。誘われて入った部活だったけれど、僕としても無くなるのは悲しかったから、人数が集まりそうで安心したよ」
「うっ……いや、まぁ、さっきも言ったけど勧誘途中なんだけどね!」
 にこーっと昨日の奏和先輩みたいに笑う城崎君に良心がちくちくと刺されるような気分だ。
 これは彼らの笑顔と、そして半ば強制的に入れる事になるだろうナツキ君への罪悪感のせいかもしれない。
 ――や、でもここはなんとか入って貰わないと!ごめんねナツキ君、けどもう決めたから!
「途中でもさ、高科さんのそのヤル気具合見てるとちゃんと入ってくれそうな気がするから」
「……ちょ、ちょっとそれは買いかぶりなのでは……とか、ま、頑張るけど!」
 ヤル気でどうにかなるのなら人間悩む事は無い!なんて胸の中で別の自分がツッコミを入れてくるけれど、そこは無視だ。
 人間出来ない事は無い!くらいの勢いで行かないと、出来るモンも出来なくなるのだっ。
 ――と、そんな風に一人燃えつつあった私の横で、城崎君、こんな事をぽつりと言いました。
「そうか……でも保険は必要かもな……アレを入れるか……」
「……へ?」
「あ、いや、こっちの話」
 にっこーにっこ、とこれまた素敵な笑顔で城崎君。ううっ、眩しい笑顔だ!
 で、その後は別の会話に移っていったんだけど……。

 放課後、帰る準備をしてから出口に向かう。
 なるべくササッとしたつもりだったけど、既に両隣の城崎君・櫻が居ない辺りがなんとも……。うーん、案外モタついてたのかね。
「じゃあ、恵梨歌ちゃん!行ってきまっす!」
 スチャッと手を上げて恵梨歌ちゃんに言った。
 教卓付近で何やらやっていた恵梨歌ちゃんは顔を上げて、
「行って……ってどこに?」
「幼稚園!勧誘の続きっ!」
「あ……そっか。うん、いってらっしゃい美波ちゃん」
 と、にこやかに送り出してくれたので、るんるん気分――ていうともう死語な気がするけど――で私は幼稚園に向かっていた。
 昨日と違って道には迷わない。
 ふっふっふ、もう景色ちゃんと覚えたもんね!櫻にもバカにされないぞっ。
 程なくして着いた幼稚園、昨日と同じようにまだ迎えが来ていない子供達が遊んで待っていた。
 遊具で遊んだり、追いかけっこしたり。うーん、元気でいいねぇ。
 なんて思いつつ建物の方に向かうと、保母さん達が「あら」とこちらに気づいた。
 幼稚園と関わりの無い人間がこんな風に入るのはマズいと思うんだけど、昨日の一件で顔パス状態にしてくれたらしい。
 保母さんは優しい笑みで迎えてくれた。
「また来てくれたの?小夏ちゃんと晴矢君に会いにかしら?あ、それともナツキ君?」
「こんにちはです!えっと……ナツキ君、ですね。いやっ、でも小夏ちゃん達にも会いたいような……!」
 勧誘が最大の目的だけど、あのちみっ子達にも会いたい気持ちはかなりあるワケで!!
 と悩んでいると保母さんはクスッと笑った。
「今、皆一緒に居るからそこに行けば全員に会えるわ。だからそんなに悩まなくても大丈夫よ」
「あ、そうなんですか。えへへ、それは良かった~」
 教えて貰った場所は昨日入れてもらった部屋だった。
「でも3人一緒って、何かしてるんですか?なら邪魔しない方が……」
「あぁ、違う違う。4人よ」
「へっ……4人、ですか?」
 小夏ちゃんに晴矢君、そんでもってナツキ君でしょ……。後は一体誰が?
 疑問は完全に顔に出てたらしい。それを言葉にして出す前に保母さんが答えてくれた。
「お兄さんが来てるのよ。ちょっとお話してるみたいだけど、大丈夫でしょう」
「なるほど……ちょっと見て、お話中だったら待ちますね!ありがとうございました!」
 保母さんにぺこりと頭を下げて部屋の方に向かう。

 しかし、お兄さんかー。
 自分の中で3人兄妹というイメージが固まってきてしまってたせいか、意外に思ったりもしたけど……いや、別に意外でも無いか。そもそもあの3兄妹の事を詳しくは知らないし家族構成わからなくても無理は無い――。
 と、ここで気づいた。
 私、家族構成どころか、彼らの苗字すら知らないんだった。
 更に言えばナツキ君の漢字すら知らないぞ?カタカナの可能性もある事はあるんだけども。
 そんな事をぐだぐだ考えながら部屋の前までやってくる。
 確かに部屋の隅の方に人影が4つ。ちっさいのが2つと、でっかいのが2つだ。
 外からじゃ話をしているのかどうかがよくわからなかったので、そろーっとドアを開けて中に入る。
 ――いや、訂正。
 “入ろうと、した”。

 ガラガラガラ

 引き戸のドアは開ける時に派手な音がする。
 これじゃあ、そろーっともクソも無い登場だ。
 案の定部屋の中の人間の視線はこちらに集まることになり……。
 人影の一人がこちらを見て言った。
「……高科さんじゃないか」
「へっ?!」
 ――そして冒頭に戻る。

 *

「じょっ、城崎君?!」
 部屋の向こうに居る人は間違いなく城崎君だ。
 そういえば今日はやたらと早くに教室を出て行ってたっけ……。
 いや、それは今は関係無くて。
「え、ちょっ……なんで居るの?」
「それはこっちの台詞なんだが……」
 お互いに驚きの表情で顔を見合わせていると、
「あれ?お前等知り合いだったのか?」
 ひょっこり、その向こうからナツキ君が顔を出した。
「お前こそ……高科さんを知っているのか?」
「あぁ、昨日言ったろ。小夏助けてくれたんだ」
 ナツキ君の言葉にぽんと手を打つ城崎君。「そうだったのか」と呟いた。
「そーいうお前等は何だ?」
「何だも何も、クラスメートだ」
 問いに答えつつも城崎君はこちらへ歩みを進める。
 そして私の近くまでやってきて、手を取った。……って、手!?
スチル表示 「高科さん、小夏を助けてくれてありがとう。コイツが名前を言ってくれればすぐにわかったんだが――本当に、感謝する」
「え、いい、いや!きっ、のうも言ったけど、アレはその、こっちも助かったんであって!!」
 取られた手に全神経が集中してしまって上手く考えがまとまらなくなる。
 鏡を見なくても顔が真っ赤になってる自信があるぞコレは!!
「それでも、ありがとう」
「あ……う……え、と、う、うん……」
 手を取られて、更には見つめられて、しどろもどろ状態で、あああもう、色々ゲージ振り切れてテンパりまくりだよっ。
 あわわわわわと頭が沸騰状態だったけど――なんとか戻して、戻してっと!!
 取られた手を丁重に外してから小さく息を吐いて、それから大きく吸って。
「そっ、そういう二人は知り合いなの?友達だったんだ?」
「は?」
「何言ってんの?」
 平常心を装って言った言葉は、二人の台詞で切り捨てられました……。
「え……と、友達じゃ無いっていうと……どういう関係?」
 今度はそう訊いてみる。
 すると城崎君、大きくおおきーくため息をつきました。
 むっ、そ、それはどういう意味なのかな?!
 そう思って再度訊き返そうとした時だった。
「美波ちゃん!美波ちゃん!あのねっ、お兄ちゃんだよ!」
 小夏ちゃんが可愛らしい笑顔でそう言った。
 うん、そりゃお兄ちゃんだよね、ナツキ君。
 コクコクと頷いた所で、やっと――そう、やっと、さっきの保母さんの言葉を思い出した。
『お兄さんが来てるのよ』
「……お兄……さん……?」
 ギギギギッとブリキのおもちゃのごとく、二人を見比べる。
 城崎君とナツキ君は顔を見合わせてから頷いた。
「兄です」
「一応な」
「……マジ、ですか」

 うーん……それにしても世の中ってのはどんだけ狭いんだ。
 二人を見ながらしみじみ思った。
「それにしても名前で気づかなかったかな?城崎って苗字でさ」
「気づきようが無いよ……だって私ナツキ君のフルネーム知らなかったんだもん……」
 昨日も座らせてもらったトコに再び腰を下ろして私は城崎君と話していた。
 ナツキ君はちみっ子二人と床に座って遊んでいたけれど、私の言葉が聞こえたのかぐりっと首をこちらに向けた。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「うん、言ってない。そもそも下の名前だってアドレスからだし」
 natsuki、それしか彼についての情報は無かったのだ。
「そか、じゃー、改めて」
 ナツキ君はすっくと立ち上がって鞄をごそごそと漁る。
 それから何かを持ってこちらへやってきた。
「城崎那月(じょうさきなつき)だ。よろしくな!」
 ずいっと差し出されたのは生徒手帳だった。
 そこには名前とかクラスとか写真とかが載っていて。
「……って、写真別人じゃん」
 金髪が見えない。
「や、これは染める前に撮ったヤツだから。別人ってこたぁねぇだろ。ホラ、顔は同じだし」
 まぁ、そりゃよく見るとそうなんだけど……髪色で随分とイメージが変わるものだ。
 でもこの生徒手帳の写真って入学後に撮ったんだけど、その時にまだ染めてなかったって事なのかな?
 疑問に思って訊いてみたら首を振られた。
「外部はそーだろーけど、持ち上がりは中学ン時に撮ってんだよ。だからコレはそん時の」
 また持ち上がりの話か。なんて思いつつもなるほど、と思った。
 中学の時と言っても1ヶ月も経ってない。そして1ヶ月やそこらで劇的に顔が変わるワケでもなし、時間がある時に撮ってしまった方が良いというのは当たり前なのだ。
 写真撮るのって結構時間かかったもんなぁ……。
「ん?ちょっと待てよ……同い年で城崎君がお兄さんって事は、双子?」
「あぁ。生まれ順で僕が兄、」
「いちおー、オレが弟」
 一応って何だ、とすぐさま城崎君が言っていたけどそれは置いといて。
「じゃあ年はあいてるけど、続けて双子だったんだ?すごい確率だよね、それって」
 小夏ちゃんと晴矢君も同い年のようだし、うーん、やっぱり生まれるトコには生まれるんだなぁ双子って。
 ウンウンと一人頷いていたけれど、彼らは複雑な顔をして笑うばかり。あれ、私変な事言ったっけ?
 首を傾げつつ生徒手帳を返して……っと。
「――って、あ、そだそだ!こーいう話をしに来たんじゃなくて、ですね!」
 手帳を受け取ろうとした那月君の手をガシッと掴んで言う。
「昨日の演劇部の事なんだけど、考えてくれたかな?!」
 ぎょっとしたような顔をする那月君。
 でもすぐにそれは表情は変えて、うーんと首をひねった後、小さく言った。
「あ、あぁ……。昨日も言ったっつーか、言おうとしたんだけど、やっぱりオレはちょっと無理かな……」
 私はそれに深く頷きを返す。
 そして、
「テイク2! さ、どうぞ!」
「なんだそりゃ!」
「やっ、私の台本的にその答えはNGなんで!もっぺん!」
 右手の人差し指を立てて高らかに言い放つ。
「そう言われてもオレは――」
「テイク3!ホントにお願いだから入ってよーっ!!」
 腕を掴んで揺さぶってみたり。傍から見ると変な状況な気もするけど。
 と思っていると、こそこそっとちみっ子二人がこちらを見て話していた。
「なんかこないだママが見てたテレビのやつみたいだねー。女の人が泣いててさぁ」
「あぁ……あーいうのはね、修羅場って言うんだよ」
 ……ちょ、なんちゅー事話してるんだ。
 や、確かにそう見えなくも無いかも、と自分でも思いましたけども!
 慌てて手を離してコホンと咳払いをした。
「何回も言ってうるさいヤツって思われるかもしれないけどさ――でも本当に演劇部、部員が必要なんだ。
 1年生の知り合いで部活に入ってないのって那月君くらいしか居なくて。
 だから、お願い!名前だけでもいいから、演劇部に入ってください!!」
 ガバッと頭を下げて半ば叫ぶように言った。
 これでもし入ってくれなかったら……今から他の人を探す余裕も無く、演劇部は廃部になってしまうだろう。
 そう考えてじわっと目頭が熱くなる。
 けど悲しいかな、そろっと上げた視線の先の那月君の顔は困った風で。
「――何回言われてもさ、わる、むぐっ?!」
 最後の方が変なのは、いつの間にやら背後に忍び寄った城崎君の手によって那月君の口が塞がれたからだ。
 ……マジでいつの間に。
「僕もすっかり言うのを忘れていたけれど――那月、お前演劇部に強制入部だから」
「っ?!」
 口を塞がれたまま驚く那月君。
 私も同じくらい驚いていた。
「高科さんが勧誘してるのが他の人だったら別に良かったんだけど、そうじゃないみたいだから」
 最初は保険程度に誘おうかと思ってたんだけどね、と城崎君。
 あ……保険ってそういう事か。ぽそりと呟いていた言葉の意味がわかって一人納得。
「という事で、5人集まって良かったね高科さん」
「う、うん、そだねー」
 手放しで喜べないのは城崎君の手が未だに那月君の口を塞いでいるからか。
 むぐぐぐと言いながらその手を剥がそうと奮闘していて。
「っぷはっ!冬輝っ、お前何しやがる!」
「何って……後ろから口を」
「そうじゃなくて!」
 バシッと塞いでいた手を振り払って那月君は城崎君と距離をとった。
「オレは入らないって言ってるじゃねーか!その理由くらいわかんだろ?!」
 理由って言うと、やっぱり小夏ちゃんと晴矢君の送り迎えだろうか?
 でもそんなのは兄である城崎君にはわかりきった事だろうし……。
「勿論わかっているけど、だったら那月。お前送り迎えさせて貰ってる理由もわかっているんだろうな?」
「うっ」
 途端口ごもる那月君。
 ……ん?部活に入れない理由が送り迎えで、更にその送り迎えに理由がある?
 一体どういう事なんだろう?
「……あの、理由って訊いてもいいかな?」
 おずおずと手をあげつつ訊いてみると、城崎君がふっと笑って言った。
「簡単だよ。学校生活全部ちゃんとする代わりに送り迎えの担当になってもいいって話でね。
 最初は僕がするって言ったんだけど、どうしてもやるって言い張るから――でも」
 那月君の方を向いて肩を竦める。
「部活も学校生活の一部だってわかってるか?それが出来ないんなら、お前は寮に入って送り迎えの役も無しだ」
「っンな事言ってもよう!」
「絶対出来るからって僕や母さん達に啖呵切ったのは誰だ?アレは嘘か?」
 おー、追い詰められてる。
 淡々と言う城崎君とおろおろしてる那月君。ちょっぴし那月君が小動物っぽく見えてくるから不思議だ。
 ……と、あれ?
「そういえばお母さんは?送り迎えって親御さんがするイメージがあったんだけど……」
 ふと思った事を口に出してみると、ちみっ子達が答えてくれた。
「ママ怪我しちゃったから!」
「少し前に骨折してしまったので」
「そうなんだ……」
 そーいや小夏ちゃんが四葉のクローバー探してたのもお母さんの怪我が早く治りますように、だっけか。
「普段は母さんがしてるんだけどね、運悪く足を痛めてしまって……松葉杖生活をしてるんだ。
 そんな状態で二人の送り迎えっていうのは厳しくてね。治るまでは僕らがする事になったんだよ」
「なるほど」
 色々と腑に落ちた。
 思えば朝や放課後の那月君の急ぎっぷりは慣れてない~って感じだったもんなぁ。普段からしてるならもうちょっと時間調整とかがうまいだろう。……多分。
「まぁ、そういうワケで演劇部に入る事。学校生活全部ちゃんとするなら当たり前だよな? そもそも演劇部じゃなくても1年生はどこかに入らなくちゃいけないんだし」
「うう……」
「まだ渋るのか、強情だな」
 ハァとため息をついて城崎君はつらつらと先を続ける。
「じゃあお前はもう送り迎えの役は無し。部活も演劇部以外のどこかを自力で見つけてそれもちゃんとやる事。勉強がわからなくても泣きつかない事。家からも出て寮生活する事。ちなみに僕が代わりに送り迎えするから家で生活する事になるし、そうなったらお前、寮で一人部屋だから」
 ……お、おおぅ。
 気分的には“ごめん、もう一回言って?”っていう感じだ。
 でもなんか色々引っかかるところがあったぞ?!
「送り迎え云々はともかく、演劇部に入ってくれないと困るよ!」
「ああ、それはそうなんだけど……例えとしてだよ。だって、なぁ、那月。これだけの事を引き換えに渋ったりしないだろう?」
 その問いにプルプルと肩を震わせていた那月君。
 下げていた顔をバッと上げて言い放った。
「だああああ!!わかったよ、入りゃいいんだろ、入りゃ!でもなっ、ホンットーにオレは演劇とかわかんねーからな!」
「わぁっ、ありがとう!!!うん、大丈夫、それはこれからなんとでもなるよー!!」
 そもそもが皆素人集団なのだ。今更それが1人追加された所で大して変わらない。
 要は“今”それを知っているか、じゃなく、“今後”それを知る機会を得られるか、だ。つまりは、部として学ぶ場所を残す事が大切なのであって!
「えへへ、じゃあこれで5人集まったって事だね!本当にありがとう、那月君!城崎君も!」
「あぁ」
「お、おぉ……」
 よーっし、これから頑張んないとね!

 *

 今日が期限の日って事で、生徒会に報告しなきゃいけない。
 ってことで、奏和先輩に電話で連絡したらそれはもう喜んでた。もしかすると飛び跳ねてたんじゃないかってくらい。
 ……や、まぁ、私も同じくらい喜んでたんだけど。
 部屋を出て建物の脇で電話してたんだけど、その様子を見た保母さんに笑われちゃったもんなー。
「ふふ、どうしたの、すごく嬉しそう。何かあったの?」
「えっへへー、それがですねー!!」
 ついつい嬉しくなってその理由を話すと、保母さんはまるで自分の事のように喜んでくれた。
「わかるわぁ。あたしも弱小部だったから、定員割れの危険も何度かあったし。そっか、良かったわね」
 てれてれ状態になってニコニコしている時、保母さんの持っているモノに目が留まった。
 ……なんだろう、コレ。紙の、束?絵本?
 その視線に気づいたのか、それが何なのかわかるように見せてくれた。
「紙芝居、ですか?」
「えぇ。毎週読み聞かせる日があるんだけどね、どうにもちゃんと聞いてくれなくて……。だから子供の好きそうなのを選んでるところ」
 へぇ~、そんなのがあるんだ。
 私の行ってた幼稚園でもそういうのがあったんだろうか?あんまり覚えてない。
「大変そうですね」
「そうね、大変かしら。聞いてくれない子は暴れちゃったりするからね、こういうのに興味を持ってくれると嬉しいんだけど」
 ふむ……聞かない=退屈する、って事なんだろうか。子供相手の仕事は本当に大変そうだ。
 なんて事を言うと、保母さんは
「でもこの仕事が大好きだから」
 と言って笑った。うーん、流石です!

 その後保母さんは園長室に行き、私は言伝を頼まれてしまった。
「那月君」
「ん?」
 いっせいに迎えに来る時間はともかく、こうして残ってる場合は帰る時に声をかけて行くのが決まりらしい。ま、そうじゃないとちゃんと帰ったかわかんなくて困るもんね。
 そしてその声をかける相手である保母さんが今は園長室に居るという事を、那月君――つまりは小夏ちゃん達の保護者に伝えてくれ、という事だった。
「そっか、了解した。そだな、今日はそろそろ帰るか」
 そこまで長話をしていたつもりは無いけれど、外を見ればそろそろ空の色も変わってくる時刻。
「じゃあ僕達も学園に帰ろうか」
「うん」
 城崎君も帰り支度を始める。
 聞いたところによると、那月君は通学だけど城崎君は寮に居るとの事で。
 もっとも那月君の通学はお母さんの怪我が治るまでの期間限定らしいんだけど。それが終わったら城崎君との二人部屋なんだとか。
 最初に寮受付辺りで会った時は、しばらく那月君が寮に入らないって事を伝える為だったらしい。

 園長室に回ってコンコンと扉を叩く。
 少しして部屋からおじさんが出てきた。……園長先生だろうか。
「ん、帰るのかな?」
「はい。今日もお世話になりました。さ、小夏晴矢、挨拶して」
「先生さよーならー!」
「さようなら、園長先生」
 城崎君の促しに元気よく挨拶するちみっ子二人。
「那月も挨拶しろよ。毎日お世話になってるんだろう」
「ちょ、その言い方じゃあオレがまだここに通ってるみてぇじゃねぇか!」
 あれ?“まだ”って事は、昔ここに来てたのかな。
 その疑問はすぐに解決された。
「はっはっは、別に構わんよ。那月君も冬輝君も、私にとっちゃまだまだ通ってた頃と変わらないからね」
「先生……それは流石に無いですよ」
 大らかに笑う園長先生に、ちょっぴり汗かきの城崎君。まー、もう高校生だしねぇ、流石に幼稚園は無いか。
「じゃあ、そちらの彼女さんもお気をつけてお帰りなさい。小夏ちゃん晴矢君も、また明日」
「あっ、はい!ありがとうございますっ」
「はーい、また明日ー!」
 小夏ちゃんは大きく声をあげて、晴矢君はぺこりと頭を下げた。
 そして幼稚園を出るまで園長先生が見送ってくれて、私達は各々帰途に着いた。

 *

 帰り道、途中でお子様チームとは分かれたので城崎君と二人で歩く。
「しかし意外だったよ、那月とはどこで知り合ったの?まさか昨日幼稚園で会ったのが初めてじゃないよね?」
「何でそこで“まさか”が付くのかはわかんないけど……」
「だって、アイツがアドレス教えたりする理由としてはちょっと弱いからね」
「なるほど」
 流石は兄上様、と言った所か。弟の行動くらい想像がつくんだろうか。
 実際にその通りなので私は最初に会った時の話をした。――つまりは階段での九死に一生状態の話だ。
 話すと城崎君の顔は呆れに変わる。
「……バカかアイツは」
 ついでにその後更に朝当たったことも言ってみる。
「……バカだ、アイツは」
 断定になっちゃったよ。
「や、でもさ!そのおかげでこうして部員ゲット出来たワケだし、そもそも私に怪我は無かったし!」
「それは……そうかもしれないが」
 ホントにアレが無ければ那月君の存在を知る事も、更には部員として勧誘する事も無かったかもしれないのだ。
 奏和先輩風に言うと、さしずめ“運命”かな?
 ……ちとクサいか。
 まぁ、それは置いといて!

選択肢1

冬輝 +2

「でもさ、私だけじゃ断られてたし、こうして入って貰えたのは城崎君のおかげだよ!」
 入って貰えたっつーか、強制だったけども。
「それにさぁ、演劇部の一員として考えてくれてたんだなぁって思って嬉しかった」
 誘って入ってもらったから、そんなに部員ゲットに燃えてくれるとは思ってなかったんだよね。
 なんて事を言うと、城崎君何故か顔を背ける。……え、何で?
「い、いや……それは……」
 ごもごもと何か言っているがよく聞き取れないのでぐいっと覗き込むと――あ、りんごだ。
 ほっぺ真っ赤に染めて照れる城崎君。
 そして、
「……君が、すごく頑張ってたから――それに動かされたんだと思う」
 ちょっ、そ、そういう事その顔で言われたらこっちも照れるじゃないですかっ!!!

冬輝 +1

「もー何回も言ってるけどさ、本当に、ありがとうね!」
 ニカッと笑うと、城崎君もそれに笑顔で返してくれる。
「いや、構わないよ。何れにせよ那月はどこかに入れなきゃいけなかったしな」
「ん、そうなんだけどさ。でもこうして入ってくれたから演劇部は救われるワケだし!」
 むんっと拳を作って更にこう付け足した。
「つまりは城崎君は救世主だったんだよ!」
「……それはちょっと恥ずかしいけどね」
 ちょっぴし頬を赤くして笑う城崎君。……確かにちと恥ずいか。
 私も釣られて赤くなって、二人して笑っていた。

選択肢1 終わり

 ◇

 顔を赤くした状態でお互い照れたり笑ったりしつつ学園への道を行く。
 そして部室に着くと笑顔の奏和先輩が迎えてくれた。
 生徒会に行って報告したら無事にOKが出たらしい!
「良かったですね、先輩!」
「うん!これも美波ちゃんのおかげだよ!冬輝君もありがとう!」
 ガシッと手を取り合って二人でその場でぴょんぴょん飛び跳ねる。
「……元気ですね、二人とも」
 城崎君には呆れられちゃったけど、でも嬉しいから仕方ないのであるっ!


 * * *


 さて、その日はもう帰り、翌日の昼休みに部室に集まる事になった。
 何故昼休みかと言うと、放課後は那月君のお迎えがあるからだ。

「では改めまして、演劇部一同顔合わせです!」
 先輩の言葉で皆それぞれの顔を確認する。
 って言っても十分顔見知りばっかりなんだけど。
「奏和君が部長なのか?つか、恵梨歌まで」
「ふふ、よろしく那月君」
 と、言う風に那月君と奏和先輩・恵梨歌ちゃんも知り合いのようだった。これはアレか、所謂持ち上がりの力……ッ!
 そう思っていたのだが、どうやらそれ以前の付き合いらしい。
 つまりは恵梨歌ちゃんも奏和先輩のあそこの幼稚園の出身って事で。
「でも不思議です。風倉にも幼稚舎はあるのに、何で皆かえで幼稚園なんです?」
「あぁ、それは簡単な事だよ。僕らが幼稚園生の頃は風倉に幼稚舎が無かったんだ。出来たのは結構最近なんだよ」
「へぇ……そうだったんですか」
 なるほど、それなら合点が行く。
 となると案外かえで幼稚園出身の子は多かったりするんだろうか。

 そういう雑談を少ししてから、先輩が切り出した。
「部員もギリギリだけど集まったし、生徒会にも部としての届けを受理して貰った。……で、次は何しよう?」
「そりゃあ勿論、演劇部らしくどっかでババーンと、ですね!」
 立ち上がってそう言ったものの、
「どっかって、どこだよ?」
「ババーン……かぁ。5人で出来るかな?」
「あまりに曖昧過ぎないか?」
 などなど。言われてみればその通り。
 しおしおと椅子に座りなおして、さっきよりも酷い体勢で机に突っ伏した。
「だよね……場所も無いし人数も少ないし、ていうか演劇ってどうやればいいんだろう……」
 それにはウーンと首を傾げるしか無い一同。
 憧れと思い込みと興奮とで演劇部立て直しを誓ってみたものの、やはりさっぱりわからないというのは問題か。
「……何にせよ、目標と目的は持っておきたいよね。どこかで何かをする!っていうさ」
「ですよねぇ」
 先輩の言葉に頷く。
 しかしさっきの那月君の言葉のまんま、“どこ”で?
 更に、5人で出来るっていうと相当幅は狭められるだろう。
 色々と考えている時だった。

 ふと保母さんとの会話を思い出した。
 確かあの時、紙芝居で子供が聞いてくれなくて困る、とか。
 紙芝居。つまり、紙でやる“芝居”じゃ、ないだろうか?!
 そして紙芝居と生の人間を合わせれば、もしかしたら面白いものが出来たりするかもっ。

「あのっ、私一つ考えたんですけども……っ!!」
 安易な考えと一蹴されたらそれまでだけど、素人考えでもある程度まではいけるかもしれない。
 そう思いつつも皆に話してみると、案外反応は悪くない。
 保母さんの言っていた事も付け加えて話して、それならば一度幼稚園に赴いて頼んでみようかという事になったのだった。

 *

 そして放課後。
 迎えに行く那月君と共に、演劇部一同で幼稚園に向かっていた。
 はあああぁぁっ、近づくにつれて心臓がバックンバックンしてきたぞ?!
 つい無意識に目の前の人の服を掴んでしまった。

選択肢2

奏和 +1

「ん?どうしたの美波ちゃん」
「……へっ?あっ、す、すみません!!」
 目の前に居たのは奏和先輩だったらしい。
 掴んだ時の振動が伝わったのか、振り返っていた。
 パッと離したものの、掴んだという事実は無くならないワケで。
「なに、もしかして心臓ドキドキで怖くなってきちゃった?」
「! えっ、なんでわかるんですかー!!」
 まさしくその通りだったのでびっくりした。
 すると奏和先輩、小さく笑って、
「僕もそうだからね。前に人が居たら掴んでたかも」
 だって。
 へへ、なんか似たもの同士なトコあるのかな~。

那月 +1

「……お?どーしたんだ美波」
「えっ、あ、ご、ごめん!」
 目の前に居たのは那月君だった。
 慌てて手を離す。……って、ちょっと待てよ?
「あの……今、“美波”って……」
「あぁ、言ったけど。――あ、悪ぃ、呼び捨てはマズかったか?」
「いっ、いや!いいんだけど!」
 下の名前で呼ばれる事は多々あったけど、呼び捨てってのは実は少ない。今だと身内と櫻くらいじゃないかな。
 なのでかなりびっくりしてしまった。
「そか?気ぃ悪くしたらごめんな、でもクセみたいなモンかもしんねーから大目に見てくれよ」
「ううん、嬉しいからいいんだけど、ちょっとびっくりしただけ!」
 そういや恵梨歌ちゃんの事も呼び捨てだったもんな~。アレにもビビったけど、奏和先輩と間違えないようにって事もあるんだろうなぁ。

選択肢2 終わり

 ◇

 そんなこんなで幼稚園に着き、園長室へとやって来た。
 昨日と同じくらいの時間帯だけど子供の数は少なく、先生達もまったりお茶を飲んでいるトコだったようだ。
「あら、今日も来てくれたの。あ、那月君、小夏ちゃんと晴矢君教室に居るからね」
「あ、どもっす」
 いつも応対してくれていた保母さんが気づいて話しかけてくれた。
「今日は随分大人数なのね。何かあるのかしら?」
「はい。あの、園長先生とお話出来ますか?」
 代表して奏和先輩が話す事になっていた。
 その声が聞こえたのか園長先生がやってきて、
「何か用かな?――……ん?もしかして、……秋ヶ谷さんの所の兄妹かな?」
 おお!園長先生すごい!よく覚えてられるものだ!
「はい、ご無沙汰してます。今日はお願いがあって来たんですが、聞いてもらえますか?」
「ふむ、何かわからないけど聞かせてもらおうか」
 そして園長先生に話す。
 自分達は演劇部で、良かったらこちらで何か芝居をさせてもらえないか――と。
「部員数も少なくて素人ばっかりなんですけど、それでも良ければ……」
 奏和先輩が話している間、緊張してぎゅっと拳を握り締めていた。きっと皆もそうなんじゃないだろうか。
 それに対する園長先生の言葉はこうだった。
「芝居をする、それ自体は面白そうだし構わないよ。だがね、その“素人”というのは頂けないな」
「……え」
「仮にも大勢の前で何かをしようとする人間がそういう事を言ってしまうと、結果がどうあれ“素人だし”という評価しか得られなくなる。
 だからそうであったとしても、それは表に出さずに堂々としていなければ」
「は、はい!」
 実際問題素人でしか無いからそう言ってしまうのも無理は無いのでは、と思ったりもしたけど園長先生の言う事も確かだ。
 このままでは“素人”という言葉を免罪符にして逃げてしまう時が来るかもしれない。
 技術が素人だとしても、気持ちだけはきちんとしておかなければいけないのだ。
「――さっきの言葉は取り消します。部員は少ないですけれど、演劇部として精一杯させて頂きます!」
「うむ、よろしい。では楽しみにさせて頂くよ」
 園長先生が深く頷いて言った。
 という事で……!
「ありがとうございます!!」
 皆でいっせいに頭を下げる。
 よーっし、これでまた一歩進めた気がするぞー!

 *

「それで、何か演目は決まっているのかな?」
 他の保母さんにも話をして貰い、大まかな事を決めるために少し広い部屋に移動した。
 そこで園長先生が言ったのがさっきの言葉だ。
「い、いいえ……それがまだ考えてなくて……」
「劇の形式は?部員数が少ないと随分限られるんじゃないかね?」
「そ、それもあまり……」
 奏和先輩ばかりに答えさせているけれど、私や他の人だって似たような答えしか持てていないだろう。う、うぐ、これはあまりに計画性が無さ過ぎたか……。
「そうか。さっきの言葉は自分を卑下するだけのものでも無かったわけだね、“素人”ってのは。まぁ、仕方ない、最近は風倉の演劇部の話もとんと聞かなかったし――そういう指導の環境が無くなっていたんだろうね」
 まさしくその通り。
 先輩が入った去年は既に堕落部活だったみたいだし、更に今年は指導者どころか顧問すら居なかったんだもんね。
 百瀬先生に頼んだはいいけれど特に助言を得られるわけでも無いし。
「よし、今回は私達の方で協力してあげる事にしようか。
 毎年園児達が劇をするからね、少しは勝手がわかっているはずだよ」
「本当ですか!!ありがとうございます……!」
「ありがとうございます!」
 園長先生、そして保母さん達に頭を下げる。
 まさかこんな風に協力を得られるなんて思ってもみなかった!なんて頼もしいんだ!

 という事で、準備や細々したものを手伝ってもらえる事になった私達。
 さて問題は何をするか、だけど――。
「あの、紙芝居を使ってやっていきたいんですけど、そういうのはいいですか?」
「紙芝居?……あら、それってもしかして……」
 そう言ったのは、話をした保母さんだった。
「あ、はい。差し出がましいかとは思ったんですが、少しでも退屈しないように出来たらと……」
「いいええ、嬉しいわ。そうね、紙芝居……あ、そうだわ」
 保母さんが取り出して見せたのは、赤いフードの少女が表紙の紙芝居。
 これはタイトルを見なくてもわかる――“赤ずきんちゃん”だ。
「登場人物も少ないし、背景も森がほとんどでしょう?あとはおばあさんの家ね。でもそれもなんとか出来そうだし、どうかしら?」
「おぉ……!いいですね、赤ずきんちゃん!」
「確かに話としても入りやすそうだし、いいかもしれない」
 そこからはあれよあれよと話は進む。
 練習する上で配役も決めておかなければならない。
 赤ずきんちゃんの登場人物は大まかに4人。
 ――赤ずきんちゃん・おばあさん・狼・狩人だ。
「まぁ、見た目から考えるに那月君が狼だよね」
「おい、見た目って何だ見た目って」
 うっ、あまりにストレートに言い過ぎてしまったか……。
 そう思って口ごもっていると、城崎君がなんともないかのようにサラリと言った。
「それはお前の目つきとか口の悪さとかだろう。狼、似合ってると思うよ那月。おめでとう」
「なっ!それは全然褒めてねぇぞ?!」
「当然褒めてないけどね。じゃあ――僕は猟師かな。男だし、奏和君には向いて無さそうだし」
 確かに。見た目温厚そうな先輩は猟師ってよりおばあさんの方が合ってる気がする。性別的には違うけど。
「じゃあ後は赤ずきんちゃんとおばあさんだよね……」
 つつつと恵梨歌ちゃんの方に視線を向ける。
 性別で言えば私と恵梨歌ちゃんがそれぞれの役になるんだけど……。
「やっぱり赤ずきんちゃんは恵梨歌ちゃんだよなぁ」
「えっ、美波ちゃんの方がいいんじゃないかな!」
「いやいや……私なら狼に食べられる前にノシちゃいそうだし」
「ちょ、お前それってオレを倒す気かよ」
 腕っ節に自信があるワケではないが、手の早さには自信がありますッ!
「まっ、そんなワケで恵梨歌ちゃんに決定ー!私はおばあさんやるよ!」
「……おばあさんだとノさないのか……」
 城崎君のツッコミが聞こえたようだけど、あえて聞こえなかったことにする。や、だって年齢的におばあさんが狼を倒すのはおかしいでしょ。
 ――それ言ったらか弱い女の子が倒すのもおかしいけども。
「えっと、じゃあ僕は……」
「はっ、そ、そうでした!ええと……どうしましょう?!あ、お母さんとか!」
 最初に赤ずきんちゃんにワインとお菓子を渡す役として入れる事も出来るハズだ。
「いや、そうじゃなくて。僕は赤ずきんちゃんの紙芝居を作ってみようかと思って」
「……え?」
 奏和先輩の言葉にキョトンとなってしまった。
 だって紙芝居自体は既にあるのに。
 すると、ううんと首を振って紙芝居を手に取る。そこに描かれた女の子は露出している肌部分が黒く、表情も見えない、所謂版画のようなもので。
「もっとふわふわな感じで、絵本っぽいのにしてみようかなって思って。その方がやりやすくなるかもしれないしね」
「なるほどー!!」
 ぽむっと手を打った。


 * * *


 かくして演劇部はやっと始動した。
 かえで幼稚園での公演へ向けて、一同頑張りますよ……!