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▼ 第2章 第3話
球技大会が無事に終わった後の学校の行事と言えば、皆さん大好き、テストさんだ!
いや――わかってます、わかってますとも。
一部の奇特な方々は好きかもしれないけど、私はごくごく普通の一般人。
テストなんてクソくらえ!
……って、ちょっと過激すぎるか。でも結構本気で滅びて欲しいとか思ってる。
しかし悲しいかな。私の意見など全く関係なく、テストさんはじわじわとその距離を縮めていたのだった……。
*
「というワケで」
パシンと机に手を乗せて奏和先輩が言った。
「もうすぐテスト期間に入るので、その間部活は無しです。部室にも入れないから気をつけてね」
「えー……別に活動するんじゃなかったら部室には入ってもいいんじゃあ」
そう言うと、ノンノンと指を振られる。
「部室どころか、部室棟閉鎖されるから無理だよ。部活もいいけど、勉強にも力入れてもらわないと学校としても困るからね。
だから皆ここに来ても意味ないから、テスト期間中はおとなしく部屋に帰って勉強する事!」
いつになく強い口調で先輩は言う。
「わかりました。部活再開日はテスト終日という事でいいですか?」
城崎君がそう返すと、先輩は頷きながら更に返した。
「うん、そうだね~。その辺りに話し合わないといけない事もあるし」
「えっ、何かあるんですか?」
私の言葉に深く頷いて、
「前に言ったでしょ?ホラ、あの――死の宣告書」
「あ、はい」
死の宣告書――なんて大げさな事言ってるけど、それはただのお知らせの紙の事だ。
近々部活会、というものがあるらしい。
「その部活会がテスト明けにあるからね、どういう風な事を話すのかとか決めておかなきゃいけないんだ」
「なるほど……」
何でも去年ボッロクソのカスミスに言われたらしいので、今年はそうならないように事前の話し合いって事か。
……いや、去年がどうあれ、事前の話し合いはするか。
「りょーかいっ!部活会って事は予算とかの話なんだろ?次に何するのか全然考えてねぇけど、予算たんまり貰って色々豪華にやりてぇよなぁ!」
「だねぇ!この間の幼稚園の劇はほとんど幼稚園側の人に出して貰ったようなモノだし……」
本来お金を出して買うべき、道具の材料なんかは先生達が調達してくれたものがほとんどだったのだ。園長先生の趣味が日曜大工で残った材木なんかを貰えたから良かったけど、そうじゃなかったら大道具関係なんか相当の出費だっただろう。
衣装の布とかも保母さんや保護者の方から頂いたものが多かったし。
「うん、たんまり――とは無理かもしれないけど、そういう部分はきちんと話して、貰えるようにしなきゃいけないと思ってる」
先輩は首を縦に振る。
「だから皆、テスト期間中に頭の片隅にちょろっとでもいいから、部活会の事一応考えておいてね」
「わっかりましたぁ!」
「はい」
「おう!」
「うん、わかった」
それぞれに頷いて、部活は解散。
次にここで皆集まるのはテスト明け……か。
「じゃあ、失礼します」
「じゃなー」
「うん、また明日~」
城崎君と那月君が出て行くのを手を振って見送った後、私はため息をついた。
「……明日、かぁ」
「ん?どうかしたのかな、美波ちゃん」
ため息を聞かれたらしい。
奏和先輩が首を傾げてこちらを見ていた。
「いや――どうかした、ってワケでも無いんですが……」
自分が何故ため息をついたのかはわかってる。
でもそれを口に出すとちょっと恥ずかしいっていうか……。
と、そんな風に口ごもっているとポンと恵梨歌ちゃんが手を打った。……んん?
「あ、わかった」
「え、何が?」
恵梨歌ちゃんの言葉に奏和先輩が“?”マークをつけながら振り向く。
「わたしや城崎君達は同級生だから明日も会えるけど、部活が無かったらお兄ちゃんには会えないのが寂しいなぁ――って事でしょう?」
?!?!?!
思わず目を見開いた。
「えっ、そうなの?」
「違ったかな、わたしにはそう思えたんだけど……」
ちょっぴし顔を赤くする先輩とにこっと笑う恵梨歌ちゃん。
私はただただその二人を見る事しか出来なかった。――口をあんぐりと開けながら。
でもそのあんぐり口はすぐに奇声を発し始める。
「い、いやっ、あ、あのっ、その――あああ、ううう!!」
音を発するごとに顔が熱くなっていくのが自分でもわかった。
「ふふ、ホラ当たってたみたい」
あああ……く、くそうっ。
「恵梨歌ちゃんのばかぁっ!あ、当たって……るけど、でも、……うう」
もう完全にほっぺたの熱さは最高点に達していた。
た、確かに――明日から奏和先輩に会えないのはちょっぴり寂しいなぁ、とか思いましたよ。思いましたけども!
恵梨歌ちゃんを見るとニッコニコとそりゃあもういい顔で笑ってらっしゃる。
そゆ事、わかったならわかったで黙ってて欲しいよー!
「美波ちゃん、恵梨歌の言ってる事当たってたの?」
奏和先輩が手をもじもじさせながら言うので、どこの乙女だ、なんてツッコミを入れつつ――私の思考も十分乙女臭いのだが――もう腹をくくる事にした。
両手を握り締めて体を挟むようにぎゅっと脇をしめる。
それから先輩の方を向いた。
「いや、その、ですね!先輩とは、部活でしか会わないじゃないですか……教室も離れてるし。
入学して、部活始めてからほぼずっと会ってたんで、それが無くなるのはちょっと……寂しい、なって」
カカカカカーッとほっぺたのみならず全身が熱くなってくる気がした。
自分の思考を改めて口に出すことの恥ずかしさったらありゃしないですよ、全く!
言うにつれて真っ赤な顔を隠そうと自然に下を向いてしまう。
だから先輩がどんな表情をしてるのかはわからなかった。
けど、
「お兄ちゃん顔真っ赤」
恵梨歌ちゃんはクスクスと笑いながら言うので顔を上げてしまった。
「えっ、こ、これは……!」
「ホントだ……真っ赤」
さっきより更に赤くなってる気がする。
「ふふ、美波ちゃんもだけどね」
「うっ」
先輩のあまりの真っ赤具合に忘れてたけど、そーいや自分もそうだった。
てことで、真っ赤な顔の二人。
顔を見合わせて――
「ふふっ」
「へ、へへっ……」
笑ってしまったり。
「あのね、美波ちゃん。もし本当に寂しいって思ってくれるんなら――テスト期間中も会おうか?」
「へっ?」
部室に来てはいけない、とさっき言ったばかりなのに、突然何を言い出すのやら。
するとその疑問が伝わったのか、先輩は人差し指を立てて話し出す。
「僕等の接点は確かに部活しか無いかもしれないけど、それ以外で会っちゃダメって事は無いからね?」
「え、えぇ……そりゃあ、まぁ」
でも、それ以外で会う理由が無い。
と言うと、
「理由なんて作ればいいんだよ!」
だ、そうだ。
そして――
「そうだ、丁度テスト期間だし――勉強教えてあげようか?」
「えっ」
「聞くところによると、美波ちゃん結構ヤバイらしいしね……どうかな?」
「どうかな、も何もそれは大変ありがたいお申し出なんですが一つお聞きしたい!
その聞くところって――どこですか」
確かに結構ヤバイ状況なので先輩に教えて貰えるなら本当に嬉しい!
けど、どーにも聞き捨てならないフレーズがあった事も確かで。
先輩に問うと、その横で恵梨歌ちゃんが朗らかに笑ってみせた。
「やだもう、美波ちゃんってば。わかってるんでしょう?」
「ああうん、わかってたけどあえて聞いてみたんです、うわああん!!」
ちくしょー!相変わらず秋ヶ谷兄妹には私の事が筒抜けらしいっ。
自分の中で恵梨歌ちゃんが天使から悪魔にクラスチェンジしていくのを感じつつ、私は奏和先輩に勉強を教えてもらう約束をしたのだった――。
*
約束をした次の日、朝起きるとメールの着信があった。
開いてみると奏和先輩からだった。
「うわ……送信時間めっちゃ早いんですけど……」
「お兄ちゃん朝起きるの早いからね。ふふ、ご老人みたいでしょ」
優しく笑って何言ってるんですか、恵梨歌ちゃん。
そりゃまぁ、確かに年を取ると早くに目が覚めるらしいけど――実際におじいちゃんとおばあちゃんはそうだったし。
「内容は何だったの?勉強の事かな?」
「ん、そうみたい。放課後図書室で勉強しようか、だって」
基本は寮の部屋で勉強だろうけど、如何せん男女の行き来は禁止されている。
一応兼用の部屋もあるけど、それよりかは図書室を使ったほうが良さそうだ。
「わたしが言うのもなんだけど、お兄ちゃん教えるの上手いから勉強も捗ると思うよ」
「おお、そうなんだ?それは嬉しいな~!」
にへにへと笑いながら着替えをする。
ついでに教科書も鞄に詰めて――っと。……今日、何の教科教えてもらおうかな。
別にそこまで自分はバカだとは思ってないけど、ここ最近の授業放棄っぷりは酷かったからな……。先輩に教えてもらうだけじゃなくて、ちゃんと自分でも教科書読んでやり直さなきゃいけないなぁ。
食堂に下りて朝ご飯を食べて、また部屋に戻って身だしなみを整えて学校へと向かう。
今日から部活も無いからいつも朝練でうるさい運動場からは何も聞こえなかった。してるトコは少なくて、運動部は野球・文化部は吹奏楽くらいだったけど――この二つはかなりの騒音部活だからなぁ。
まぁ、私は楽器の音が結構好きだから吹奏楽の方はいいんだけど――野球は……いや、うん、頑張ってるよね。運動部って辺りで既にマイナスなもんで、評価は落ちるけど。
なんて思いつつ肩を竦める。球技大会のせいで余計に偏見がついてしまったかもしれないな、って。
「朝っぱらからため息かぁ?」
背後から突然櫻の声。
振り返るとタタッと駆け寄ってきて、すぐに横に並んだ。
「おはよ美波。秋ヶ谷も」
「おはよう春日井君」
「あー、おはよー櫻。って、別にため息ついてなかったけどね」
ハァと今度は本当にため息をついた。
「そうか?肩すげぇ勢いで落ちてたからてっきりため息かと思ったぜ」
「……まぁ、確かにモーションとしてはソレなんだけど」
ため息っていうよりは、ふーやれやれ、みたいな――って、こりゃため息か。
「ため息ばっかついてると幸せが逃げるんだぜ?」
「あ、じゃあここ最近の櫻の幸せってモンはどんどこ逃げ出したんだろうね」
球技大会前から櫻のため息率はそりゃあすごいモノがあった。大会後は復活するかと思いきや、そうでもなく――むしろ増えたような感じで。
ほぼ生まれた時から知ってるけど、こんなに短期間でため息を連発する櫻というのは初めて見たかもしれなかった。
「……そーいう事は言うなよ……」
「だって櫻が言ったんじゃん。それに基づいて、私は事実を述べただけで」
櫻はまたため息をついていた。あー、さようなら櫻の幸せさんー。
「でもホントに連発するからちょっと心配だったよ。何かあったの?」
そう聞くと、いや、と返されついでに肩を竦められた。
「何その反応。むかつく」
「……だって、お前に言っても絶対わかんねーもん。言うだけ無駄」
「ハァ?何それ、更にむかついた」
そしたら今度は苦笑して、
「俺はその何倍も何十倍もむかつく思いしてるから大丈夫だ」
……とか。何がどう大丈夫なんだ、わけわかんない。
ぶーたれていると隣に居た恵梨歌ちゃんがクスクスと笑っていた。
「頑張ってね春日井君。結構手ごわそうだよ」
「――あぁ、かなり前から知ってる」
櫻もそれに笑って返してるし……一体何の話してるんだか。
完全に置いてけぼりを食った私を見て二人とも更に笑うし!
「もー、なんなの二人とも!もういい、先行く!」
ムキーッとなって歩みを速めた。
「あぁ、美波ちゃん!ごめんなさい、つい面白くて」
「恵梨歌ちゃんのそーいう正直なトコは好きだけど、直球過ぎるよ!」
しかも何が面白いのかわかんないぞ!
そう思ってることが伝わるくらいの表情になってたらしい、恵梨歌ちゃんはちょっと苦笑気味になって言った。
「――本当にわからないかな?春日井君のため息の理由」
「わかんないよっ」
「んー、じゃあもう一つヒント。今の春日井君は機嫌が良いみたいです、何ででしょう?ちなみに今日から部活は休みだよね」
人差し指を立てて言う恵梨歌ちゃんに私は首を捻る。
そんなヒントとか出されても――
と思いつつも一応考えてみる。
うーん……ん……――っと、もしかして――!
「櫻……!!」
「お、おぉ?」
小走りで私の近くまですぐに来た恵梨歌ちゃんと違って、櫻はそのままのスピードで歩いていたからちょっと離れた所に居た。
その櫻に向けて私は言った。
「部活でいじめられてるの?!」
「ハァ?!」
「だって、ため息多くなったのって球技大会で余計に部活に縛られてる時からだし、今日から部活が無くて機嫌良いって言ったら……!」
どちらかと言うといじめっ子な櫻がいじめられる日が来るなんて……っ!なんて怖い世の中だ!
「だ、誰?!私が言っていじめる気なんて起きないくらいに滅多打ちにするよ!!!」
「ちょ、ちょっと待て美波!わけのわからん妄想のまま暴走し始めんな!!」
ガシッと肩を掴まれる。
「誰もいじめられてるなんて一言も言ってねぇだろ!ていうか俺がいじめられるなんてありえんっ!」
「そ、そう……? ならいいけど……」
確かによくよく考えれば櫻がいじめられるなんて想像もつかないワケで。
掴まれた肩から手を外しながら再び首を傾げ、
「でもだったら何で?部活がめんどくさくなったの?」
もしそっちだったとしたら、それはいじめよりも大問題だ。――だって櫻は推薦で入ったのだから。
「いや、それもねーから。……つか、もう考えんな。秋ヶ谷も変な風に煽んなよなー」
「そうかな?助け舟のつもりだったんだけれど」
「その舟は確実に沈むから出すだけ無駄なんだよ……」
ハァとまたまたため息をつく櫻さん。
「幸せさんグッバイ……」
小さく呟くと睨まれてしまった。
どうやら“ため息をつくと幸せが逃げる”というのは本当らしい。
幸せな気分が無いから、そんな風に人を睨みつけるようになるんだよ!
教室に着くとお隣の城崎君は既に来ていて、机に教科書を広げていた。
「おはよー。うわー、朝から勉強かぁ。すごいなぁ、城崎君」
「あぁ、おはよう。……いや、これは勉強とは言えないんだけど……」
? どう見ても勉強してるようにしか見えないんですけど。
疑問をぶつけてみるとそれに答えをくれた。
「那月のね、頭が壊滅的だったからわかりやすいようにまとめてるんだ。昨日色々教えてやったんだけど、ぜんっぜん理解しないもんだから」
「な、なるほど……」
タラーッと冷や汗が流れる。
城崎君は頭いいから十分に教えられるんだろうけど、……なんかスパルタ先生っぽいよなぁ。
普段からどうも那月君相手にはキツいみたいだし――というよりかは遠慮が無いって感じ?兄弟だから当たり前なんだろうけど――ハハ、大変そうだなぁ。
なんて笑ってる場合じゃないんだけど。
奏和先輩がスパルタ先生じゃないとも限らないし、そもそも誰に教わるにしても気合は入れなければ!
パシンッと両頬を打つ。
「うっし、頑張るぞー!!」
「? よくわからないけど……頑張って」
突然気合を入れ始めた私を訝しげに見ながらも、城崎君はそう言ってくれた。
ちなみにもう一方の反対からは、
「……もうちょっと可愛い気合の入れ方しろよ……うっし、とかどこのオッサンなんだよ……」
という嘆きの声が聞こえたけれど、まるきり無視する事にしました。
* * *
あっという間に放課後になって、いよいよ奏和先輩とのお勉強タイムが近づいてきた。
「図書室だったっけ? 場所は知ってるよね?」
「うん、だいじょーぶ! 流石にもう敷地内では迷わないよ!」
ぐっと拳を作りながら答えた。
「多分!」
「……う、うん……そうだね、多分――ね。 まぁ、万が一迷ってもお兄ちゃんに連絡すればなんとかしてくれると思うよ」
恵梨歌ちゃんは空笑いのままそう言った。
てっきり一緒に図書室に行って勉強するのかと思いきや、恵梨歌ちゃんは部屋に帰ってしまうらしい。
「図書室も人が少ない時ならいいんだけど、この時期はきっと多いからね。それよりかは部屋で勉強しようかな、って」
周りに大勢人が居ると集中出来ないってのはあるしなぁ。
私の場合、そんな贅沢は言ってられないんだけど。
「じゃあそろそろ行くね」
「うん、頑張ってね」
ひらひらと手を振って教室を出る。
えっと確か図書室は――ぽわわんと敷地内の地図を思い浮かべる。
行った事は無いんだけど、記憶に間違いが無ければ図書室は校舎とは別の建物だったハズだ。
とは言え、中履きのまま行ける様に繋がってはいるのでそのまま向かった。
*
無事に着いた図書室。……思った以上に大きく、これは図書館レベルなんじゃないかと思った。
「あ、美波ちゃん」
「先輩!」
入り口の辺りに突っ立ってると、中から奏和先輩が出てきた。
「こっちこっち」
招かれて行った先は隅の方の奥まった所で、既に机の上には勉強道具が広げられていた。
「はい、座って」
椅子をスッと引いてくれたので、ありがとうございますと言ってから鞄を下ろして腰掛ける。
机の上の教科書は見慣れないものだったので、2年生用のものなんだろう。
「さっ、じゃあ何からやろうか?」
その教科書類を片付けながら先輩が言った。
私はふいに思い出して、口元を覆った。
「先輩……あの、私完全に失念してたんですけど――先輩は勉強しなくてもいいんですか?」
教えて貰えるのは嬉しいけど、それで先輩の勉強を邪魔するのは嫌だった。
すると先輩は笑って、
「大丈夫大丈夫。僕勉強には自信あるから。それにちゃんと自分用の勉強もするから、安心して」
「そ、そうですか……?」
「うん、だから気にしないで、勉強に集中すること!」
「は、はいっ!」
「よろしい――さて、じゃあ何やろうか?」
「はいっ、えっと……!」
それから空の色が変わる頃まで、ずっと教えて貰っていた。
大体は教科書を一度さらってから書いてある問題を解く、わからない場合に助言を貰って、その後に応用問題へ進む――という感じだ。
「うん、正解。恵梨歌が言ってたほどじゃないね、美波ちゃん結構勉強出来る方なんじゃないのかな?」
「おおぅ……恵梨歌ちゃんがどう言ってたのか気になる所なんですけども。 いや、でも出来るって事は無いですよ!出来ない事は無い、ってだけで。ランクで言うなら中間――いや、中の下……」
バカとまでは行かないけど、秀才や天才なんてのにも到底及ばない。
所謂一般ピープル、平均点な学力なのだ。
「そうかなぁ? こうやって見た感じ、どの教科もそれなりに応用まで出来てるし。今までの勉強の仕方が悪かったのかな?」
「うーん……」
首を捻る。勉強の仕方の良し悪しなんてよくわかんないや。
「ま、いいや!今回はきっといつもより出来ると思うよ!この調子で全部の教科詰めていこうね」
「はいっ!お願いします!」
ぺこりと頭を下げる。
そして、ヨシ、次は何をやるかな!と意気込んだんだけど――
「じゃあ、今日はこの辺で終わろうか」
「……あ、え、は、はいっ」
ヤル気は空振りに終わり、思わず頭をガクッと傾けた。
「あれ?まだやりたかったのかな。 でもホラ、結構遅くなっちゃったし――あぁ、そうだ」
ポンと手を打って、先輩はポケットをごそごそと探る。
「この間の球技大会でのご褒美――僕等はジュース券だったんだけど、美波ちゃん達は何だったの?」
「あ、私達もそれでした!えっと……ホラ!」
同じくごそごそと――私の場合は鞄だったけど――探ってジュース券を取り出した。
「ホントはテスト役立ちクンの方が良かったんですけどね~」
「あぁ――テスト範囲とか詳しく教えてくれるんだっけ。でも僕はそういうのよりかはジュースの方がいいけどなぁ」
「……それは勉強が出来る人の言葉ですね」
「ま、まぁ……そうかもしれないけど」
自然とジト目になってしまった私に、奏和先輩はちょっぴり苦笑。
その様子を見てジト目を解除して笑う。
「――ま、でも、その役立ちクンが無くなったおかげで先輩に教わってるようなモンですし、無くて良かったのかも」
「美波ちゃん……」
「えへへ、だからこれからしばらくよろしくお願いしますねっ」
「うん!任せて!」
その後机を片付けて図書室を後にした。
そしてそのまま部屋には戻らず、学食へと向かう。
勉強で集中した後には甘いモノを!――という事で、早々にジュース券を使ってしまおうと思ったワケだ。
「何がいいかなぁ。美波ちゃんは何にするか決めた?」
「んー……そうですねぇ、ちょっと迷い中なんですけど……」
甘いモノと言っても色々あるが、今はなんとなく冷たいモノを飲みたい気分。
で冷たいモノに絞ると、今度は炭酸系か普通のかで迷うんだよなぁ……どうしよっかな。
選択肢1
奏和 +1
「それじゃあ……炭酸のにしようかな。オーソドックスにコーラで」
カウンターで券を渡すとすぐに食堂のおばちゃんが持ってきてくれた。
「あ、じゃあ僕はアイスカフェオレで」
先輩が頼んで、こっちはちょっとかかって出てきた。
コーラは既製品を注ぐだけだろうけど、カフェオレは色々混ぜたりするだろうから、それで時間の差があったんだろうか。
「うん、美味しい。美波ちゃんはどう?」
「美味しいですよー。久しぶりに炭酸飲みました~」
ぷはーっとビールを空けた親父のように口元を拭っていると先輩がクスクスと笑い出した。
「な、なんですか?」
キョトンとして返すと、ぬっと手が伸びてきて、
「っ」
唇辺りに触れられた。
「拭い残しだよ」
「っ!!!」
ちょっ、い、いきなりそーいう事しないでくださいよー!!!
奏和 +2
「それじゃあ……普通のにしよっかな。何があるんだろ」
一覧を見ると果実系のジュースが多いみたいだ。その中から何となしにグレープフレーツジュースをチョイスしてみた。
カウンターで券を渡すとすぐに食堂のおばちゃんが持ってきてくれる。
「あ、じゃあ僕はアイスカフェオレで」
先輩も頼んで、こっちはちょっとかかって出てきた。
私の方はきっと既製品を注ぐだけだろうけど、カフェオレは色々混ぜたりするだろうから、それで時間の差があったんだろうか。
「うん、美味しい。美波ちゃんはどう?」
吸っていたストローを口から離し、苦い顔をする。
「……結構酸っぱいデス。いや、美味しいんですけど!」
これは冒険なんてせずにオレンジジュースで手を打っておくべきだったかな?
なんて思っていると、ついと手が伸びてきてコップを持っていかれてしまった。
何を――と、聞く前にコップに刺さったストローが咥えられる。
「ん……確かにこれは酸っぱいね。でも僕は好きかなぁ」
一口飲んだ後先輩が言った。
ありがと、とコップを返されるがとてもじゃないけど受け取れる状態じゃなかった。
だ、だって、今のって!!
「せ、先輩……か、間接キスじゃないですか!!何やってるんですかあっ!!」
「え? あ、あぁ、ごめん――嫌だったかな」
「いや、別にそうじゃないですけど!い、いきなりそういう事されるとビビるっていうか!!!」
しどろもどろになって言う。顔が熱い……!
先輩は顎に手を当てながら少し考えて、
「うーん、じゃあ次からはちゃんと宣言する事にするね」
そーいう話でも無いんですけどね!!!
選択肢1 終わり
◇
……ホントもう、奏和先輩には驚かされるよ……。
時々台詞がかった言葉を言うのは重々承知してたけど、まさか行動の方までサラリとこーいう事をやっちゃう人だったとは……。
ほてった頬を覚ますべくコップを当てる。
あー、気持ちいい。
「ふふ、美波ちゃんの焦った顔可愛いね~」
「……っ?!」
にへっと笑う奏和先輩に、私の頬は更に熱くなってしまったのだった……。
* * *
そんなこんなでテスト期間の放課後は先輩に勉強を教えて貰い、その甲斐あってかいつもよりも出来た気がする!
「終わったー!!!」
全ての教科が終了した後、伸びをして言った。
テストは出席番号順で受けたから、机の位置がいつもと違う。それを戻してから、横の櫻に話しかけた。
「今回はかなり出来たよー!!」
「えっ、出来たってどのくらい?40%くらい?」
言い終わった後にニヤッと笑うのでこれは確実にからかいだと判断。ていうか笑いが無くてもからかいなんですけど。40%て何だ!かなり出来てそれだったら普段ヤバすぎるだろ!
「もう櫻なんて知らん!」
くるりと体を回転させて城崎君の方を向いた。
「ねね、城崎君聞いてよ~。今回さ~」
「おい、知らんは無いだろ知らんは!」
「……む、櫻割り込まないでよ」
ガタッと席を立って私の横にやってくる。
ええい、貴様との会話はもう終わったんじゃい!
ぷいっと無視をして先を続けた。
「今回はね、結構出来たと思うんだ!こんな手ごたえあるの初めてかも~」
「へぇ、それは良かったね。奏和君の教え方が良かったのかな?」
「うん、そうだと思う!奏和先輩様々だよ~」
えへへ~と緩むほっぺたを押さえて、でも抑え切れずにニマニマが溢れ出す。
「僕の方の教え子もそれくらいの手ごたえを感じてくれてたら嬉しいんだけどね……」
「あ、那月君……どうだったんだろ」
「きっとダメだね。同じDNAだとは思いたくないくらい壊滅的だよアレは」
「ハハ、そこまで……」
思わず苦笑してしまう。
テスト期間中は廊下でたまに話をしたりしたけど、スパルタ教育の弊害か、どんどんやつれていってたなぁ那月君……。
そんな風に思考を飛ばしていると、突然頭に負荷がかかった。
スチル表示
「ぐっ……さ、櫻……重いって!!」
「無視するのが悪い」
顔は見えないけどさぞかし嫌な笑いをしてるに違いない。
私の頭は肘掛じゃないっつーのに!!
「ていうか、何?お前秋ヶ谷先輩に勉強教わってたの?」
「そうだけど!」
ぐいぐいと頭の上の腕を押しのけようとするけれど、更に負荷は増してくる。
「へぇ……放課後すぐに居なくなるから、てっきり部屋に篭って猛勉強してんのかと思ってた――そう、先輩と勉強してたんだ」
「だからそうだって言ってるじゃん!もー、何なの!」
今度こそ腕を跳ね除けてギッと睨んでやる。
すると冷めた目でヤツは言った。
「いつもみたいに勉強くらい俺が教えてやったのに」
……う、わ。
「いや――遠慮するわ……」
「何でだよ!」
「だって櫻に教わると小言の数が半端無いんだもん。アレは勉強してるのか、それとも精神を鍛えてるのかよくわかんなくなってくるし」
「……春日井、お前は兄でも父親でもなく姑だったのか」
「ちげぇよ!何でそうなる?!」
ズビシッと否定するけれど、その否定を否定してやるぜぃ!
「いや、城崎君の言うとおりだよ!つつつつーって窓の桟とかに指走らせてフッとかやりそうだもん。そんでもって、あらなんですかこの埃……?ちゃんと掃除はしているのかしら美波さん? す、すみませんお義母様、今すぐ!!! みたいな感じだもん!!」
「途中で小芝居を挟むのはヤメロ!てかンな事言わねぇよ!!」
「いーや、言う!絶対言う!」
「言わねぇ!!」
なんてしばらく言う言わない論議を続けていたんだけど、聞くに堪えなくなったんだろう、途中で城崎君が止めた。
「もうわかったから……。春日井は兄兼父親兼姑――という事でいいね?」
「うん、オッケー」
「だからオッケーじゃねぇよ!」
櫻がまだ何か言っていたけど、それに返すとまた不毛な争いが始まるので今度はすっぱり無視させて頂いた。
*
さて、テスト最終日という事で今日から部活が再開される。
颯爽と部室棟に向かい、部室のドアを開け放つ。
「高科美波、参上!!こんにちはっ!」
「あぁ、美波ちゃんこんにちは。テストどうだった?」
「ばっちりですよ!かーっなり出来ました!これも先輩のおかげです……!」
既に来ていた先輩に駆け寄ってへへーっと頭を下げる。
今回は本当にいつもより出来たのだ!
「そう?なら教えた甲斐があったというものだね、良かった。 あ、冬輝君と恵梨歌も。テストどうだった?」
「僕はいつもと同じです。多分ちょこちょこミスがありそうなので満点は無さそうですが……」
「わたしもそんなものかな~。お兄ちゃんは?」
恵梨歌ちゃんが訊くと先輩はビシッとVサイン。
「ほぼ完璧と言ってもいいね!美波ちゃんを教えたのが基礎の復習になって良かったのかも!」
「わ、ホントですか!良かったぁ~、お邪魔虫なだけにならなかったみたいで!」
先輩は快く教えてくれたけど、実際の所気が気じゃなかったんだよね……。
ホッと胸を撫で下ろしたとき、ぺたぺたと廊下から音が聞こえた。
城崎君がドアから顔を出して、
「那月」
「冬輝……」
どうやら那月君が来たらしい。
「その様子だと惨敗か?」
ハァと息を吐いて城崎君が嘆くように言った。あれだけ教えたのに、という言葉が言外に籠められてる気がする。
しかし那月君はブンブンと首を振った。
「いや、それが思った以上に出来て……正直ビビった……」
「そうなのか?」
「うん。最初は冬輝の言ってる事ちんぷんかんぷんだったけど、だんだんわかってきてたし。つーかよ、テストの方が簡単だったぜ?冬輝の出す問題よりも」
……城崎君、一体どんな鬼畜問題出してたんだろう……。
「だから今回はテスト返しが楽しみだぜ!こんなの初めてだ!」
ぐっとガッツポーズをする那月君。
私もそれに便乗させて貰う。
「うん、私も初めて楽しみ!ふへへ、早く返ってこいー!!」
那月君と二人で返ってこい音頭でも踊りそうになったのだが、コホンと奏和先輩の咳払いで我に返った。
「はしゃぐのはいいけど――それより前に、まだ残ってる問題を解決しようね」
「は、はい……」
有無を言わせぬ何かを感じて、素直に頷いた。
問題と言うのは、例のアレ。部活会の事だ。
予算云々を決める大事な会という事で、部長さん達が集まって色々と話し合うらしい。
私達の場合、去年の事は全く参考にならないし、今年も一応一つ劇をやらせてもらったけど、どの程度の出費があるのかなど正直よくわからなかった。……ので、部室内をひっくり返して過去のデータを探し、それを元にちょちょいと考える事になった。
もっとも過去のものと今とじゃ色々と違いすぎるからそこまで参考には出来ないんだけど……。
「……っと、こんなものかな」
皆の意見をまとめて1枚のプリントに書き込んでいく。
部活会で発言するのも当然なんだけど、それより前に生徒会に提出する必要があるらしい。
とりあえず、って感じのものだけどよっぽど変なものが無い限り最低限のラインは保たれるだろうし、問題はそこからどうプラスさせていくか、だ。
また皆であーだこーだ言い合って、幼稚園の劇での事をとことん言いまくるという戦略(?)に落ち着いた。ってそれしかないもんなぁ。
「それじゃあ、明日の放課後に行ってくるからね」
「はい!頑張ってください……!!」
部活会は部長だけしか出席出来ないので私達は部室でひたすら祈りを捧げるだけだ。
奏和先輩頑張ってください!――と。
* * *
さて、その手の祈りは届かないという事が決まっているのか。
翌日の部活会の後、先輩はヘロヘロになって部室にやってきた。
「せ、先輩?!」
「美波ちゃん……」
うるうると両目にうっすら涙が溜まっている。い、一体何事だ!?
「も、もしかして予算あんまり出なかったんですか?」
「……い、いや」
恐る恐る訊くと、更に顔を青くして先輩は首を横に振った。
「それより悪い」
「……えっ?」
ゴクリと生唾を飲み込んだ。それより悪い――って、ど、どういう事だ?
私と同じように城崎君と那月君、そして恵梨歌ちゃんも神妙に次の言葉を待っていた。
そして紡がれた言葉は――
「また、廃部の危機、かも……」
一瞬理解出来なくて。
「はい?」
「今までのツケが溜まりすぎてたみたいで……今年にちょろっとやったくらいじゃ認められないって……」
「え、えっと、それってつまり……?」
ぞわぞわと背筋に悪寒が走り始めた。
「早く何かしらの実績を残さないと……予算どころか、強制廃部にする、って……!!!」
最後の方はほとんど泣き声で先輩は言い放つ。
「な、何だよソレ!?わっけわかんねぇ!!!」
「実績っていうのは例えばどういう物を言うんですか?」
憤る那月君に冷静な城崎君。
恵梨歌ちゃんとは言えば顔面蒼白で固まっている。
「生徒会の人が言うには……コンクールとかで賞っていうのが一番なんだけど……」
「コンクールで賞!?ンな無茶な!!」
「僕もそう言ったよ!そしたら、とりあえず出て――高評価じゃなくても、“好評”だったらいい、って……」
先輩が言うには、コンクールに出たら実力はさておき全ての団体をきっちり評価してくれるらしい。そしてそこでそれなりに良い事を言われたらOK……という事なんだそうで。
「じゃあ、ともかくもそのコンクールとやらに出なきゃ始まらないって事ですね?」
「うん、そうなんだ」
「それで、コンクールはいつ開催されるんです?」
城崎君の言葉に力なく肩を落とした先輩が続ける。
「――あと2週間とちょっと……」
「……え」
2週間とちょっと、で……受付締め切り、とかそーいう甘い話じゃない、よね?
「それは本番が、ですか?」
「うん」
先輩はコクリと頷き、私の甘い幻想は砕け散った。
「ぜってぇ無理!無茶振りにも程がある!」
那月君が頭を抱えて叫ぶ。
「で、でもさ――幼稚園の時だって準備期間はそんなに無かったじゃない?」
「アレとは一緒に出来ねぇよ!オレ等だけの力じゃなかったじゃん、ほとんど手伝ってもらったし――何より、子供向けだ!」
「そ、それは……そうなんだけど」
那月君の正論過ぎる言葉に私は口ごもってしまった。
「確かに今の時点では高評価どころか好評も厳しいですね……。コンクールというとこの間のようなのは通用しないでしょうし。
誰か――指導者が居てくれれば良かったんですが」
城崎君もまた、そう言って口を噤んでしまった。
5人も居るのに誰も口を開かなくて、沈黙が部室を支配した。
……城崎君が言うように、指導者とまでは行かなくとも少しでも知ってる人が居たらいいのに。
そう思っていると、ずっと固まっていた恵梨歌ちゃんがふいに口を開いた。
「ここって結構母校な先生が多いから、学園内に一人くらいは演劇部のOBが居たりするんじゃないかな?」
なるほど、それは一理ある!
と思ったんだけど、
「もし居たら演劇部をここまで放置しなかったんじゃないかな……せめて顧問になるとか、してくれたと思うよ」
という奏和先輩の言葉で葬られた。
それも確かに一理あるんだよなぁ……。
演劇部に関係のある人で、少しでも部の事を好きだったら何かしら助けてくれたかもしれない。そしてもし居たとしても助けてくれなかった時点で、今の状況で助けを求めても無駄な気がする。
「……OB、かぁ……」
口に出して言ってみる。
心で思うのと何も変わらないとは思うんだけど……と、しかし、実際には何かは違ったらしく。
「あれ、ちょっと待てよ?」
私はふと思い出した。
「幼稚園で――親御さんに、それっぽい事聞きましたよ!なんか昔の結構スゴイ人で、ご近所に住んでるって!」
「ええ!それは本当なの!?」
うん、確かに言っていたハズだ。
『なんか、こう――紅っていう字があったような……』
「名前はわかんないですけど、紅っぽい感じで。親御さん達の話ですけどかなりすごかった時期……ってのは10年?9年くらい前ですかね?」
私がこの学園の文化祭に来た時の年や、俊兄ちゃんの年齢を考えるとそんなモノだろう。あの頃が全盛期だとして、だけど。
奏和先輩も多分そうだと思う、と頷いた。
「じゃあ、演劇部のOBは居なくとも、その辺りの年代の先生は居ますよ!そういう人を探して聞き込みしてみましょう!」
親御さんの噂話にも満たない話かもしれないけれど、藁にもすがる思いとはこういう事で。
「とりあえず指導者になってくれそうなその紅なんとかさんの情報を集めて、あわよくば指導して貰って!
それがもし無理でも、図書館はしごしたりして資料集めて自分達で頑張りましょう……!!」
突然やってきた再度の廃部の危機。
ここで諦めてしまったら入部してから今までの時間がバカみたいだ。
「そ、そうだね、それがいいと思う」
「わかった……やるか!」
「じゃあ、とにかく情報を集めよう。人探しも、演劇についても」
「うん!」
それぞれに頷いて気合を入れる。
さぁ、私もやるぞっ!
紅なんとかさんを見つけて指導者になって貰って、実績残して部活も残して!ついでにきっちりばっちり認めさせて予算ふんだくって――ってそこまで考えるのは取らぬ狸のなんとやら、か。
とにかく今やるべき事は城崎君が言ったように情報集めだ。
よーっし、いっちょやってやるぜぃっ!!