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▼ 第3章 第2話

 悪夢のテスト週間が過ぎ、テスト本番も順調に終わっていった。 
 流石にスパルタ教育の成果が出たのか、面白いほどに問題が解ける、とける。
 あまりに面白いんでつい笑いを漏らしてしまい、監督の先生に注意されたくらいだ。……恥ずかしい。
 とにもかくにも、結果は良さそうなので私は安心しきっていた。

 そして最後の教科も終わり、席を元に戻して息をつく。ふひー、疲れた疲れた……っと。
 結局未だに席替えはされてない。……結構経ったし、してもいいとは思うんだけどねぇ。
 でも、ま、斜め前の桐原を除けば周りは仲の良い人ばっかだし、ベストポジションである事も確かか。
 っくー!と伸びをして辺りを見渡した。
 早速部活に行くぞーっと、恵梨歌ちゃんを探したんだけど――あれ?
 教室内に居ない。じゃあ廊下か?と思ってひょっこり顔を出すと。
「あ、居た」
 なにやらちょっと離れた所で誰かと話しているらしい。
 お、何か受け取ったぞ?
 そして恵梨歌ちゃんはコクンと頷き、相手は去っていった。
 一体なんなんだぁ?
 じぃーっと見ていると、恵梨歌ちゃんがこちらに気づいた。手には手紙のようなモノを持っている。
「どうしたの美波ちゃん」
「恵梨歌ちゃん……それはもしや……」
 これが噂に聞く、――果たし状なのでは?!
「ああ、うんコレね。なんか話したい事があるから放課後屋上に来てくれって言われて」
 やはり!!
「そんなわけだから、部活少し遅れるね。皆に言っといてくれるかな?」
「うん、りょーかい!」
 スチャッと手をあげて敬礼のポーズを取る。
 それから屋上へ向かう恵梨歌ちゃんと別れて、私は城崎君と一緒に部室へ向かった。

 *

 部室に着いてみると、既に奏和先輩が来ていた。
 更に、
「あれ?一剛君?」
「美波さん。それに城崎先輩。こんにちは」
「あぁ、こんにちは。どうして君がここに?」
 城崎君が不思議そうに訊くと、一剛君は笑って言う。
「特に理由は無いんですけれど――あれ?恵梨歌は一緒じゃないんですか?」
「もしかして恵梨歌ちゃんに会いに来たの?」
「い、いやっ、そういうワケでは――」
 何故かしどろもどろ状態になる一剛君を見つつ、私はメッセンジャーの役割を果たすことにした。
「恵梨歌ちゃんねぇ、なんか呼び出されて。てことで、部活ちょっと遅れるそーです」
「そうなんだ。うん、了解したよ」
 奏和先輩はそうやって簡単に流したんだけど、
「よ、呼び出され――ってどういう事です?」
 一剛君は気になるみたいだ。
「アレだよアレ。果たし状ってヤツ」
「はい……?」
 首を傾げる一剛君に私は追加説明をする。
「果たし状っていう名のラブレター貰ったみたいなんだよね~。で、更にお呼び出しかかりましたぁ」
「……は、い?」
「つまりは平たく言うと、告白ターイム!ってヤツでしょ!」
 っくー、セイシュンだねぇ!と言おうとしたそれに、一剛君の声が被った。
 ――否、絶叫が被った。

「なっ、なんだってええええ!??!?!?!」

 ちょっ、うるさ!
「な、な、なんなんですかソレ!じゃあ恵梨歌はその呼び出しに応じたって事ですか、返事もしたんですか、付き合うんですか!?」
「い、いや知りませんけど!!」
 まさかの大声だったのでかなりびっくりしつつそう返した。
「……そんな、恵梨歌が――……恵梨歌が」
 ぶつぶつ言ってらっしゃるし。
 前々から思ってたんだけど、もしかして一剛君って恵梨歌ちゃんの事が好きなんじゃなかろうか?
 全く、紅葉さんといい一剛君といい、セイシュンしおって羨まし……くも無いけど。
「まぁ、すぐに帰ってくると思うし聞いてみたらいーじゃん~」
「そんなの訊けるわけないじゃないですか!! 美波さんはそういうのに疎すぎます、普通は訊きません!!」
 えっ、そうなの?
 思わず城崎君と奏和先輩の方を見ると、
「あぁ……面と向かってはなかなか訊きづらいものだな」
「だねぇ。ましてや好きな人相手なんて、僕は……よっぽど決心しないと、ねぇ」
 そ、そういうもんなのか……。
 しかし二人とも既に一剛君の気持ちをきっちり把握してらしたようで。
 えっ、じゃあやっぱり私は疎いのか?いや、わりと普通だと思うんですけど!

 *

 それから十数分も経った頃か、どっかの誰かさんに呼び出されて部活に遅れると言った恵梨歌ちゃんは、結局、大した時間も空けずにやってきた。
「すいません遅くなりました」
「ううん、いいよ~。そんなに遅れてもないしね」
 華麗にスルーした奏和先輩を始め、誰も例の話題を切り出そうとしない。
 私も一剛君に“普通は訊きません”と言われてしまった手前、ホイホイと訊けるハズもなく。
 ……くっ、なんかコレもやもやするぞー!



 * * *



 その日の部活はテスト明けという事で、文化祭での演目の話になった。
 ――何か案を考えておくように。
 そう言われてましたね。えぇ、言われてましたとも!
 ……完全に忘れてましたとも……。
「その顔じゃあ、まともに考えて無かったでしょう?ヤル気あるの?」
 奏和先輩の言葉にぐぅの音も出ない。
 ちなみに顔を背けたのは私と那月君だけだった。
 城崎君と恵梨歌ちゃんはきっちり考えてたみたいだし、一剛君は関係ないので後ろから見てるだけ。
 さて、そんな二人の意見はというと。
「僕は今度は同年代のキャラクターの居るものがいいなと思います。この間のはちょっと年齢が高かったでしょう?」
「わたしはまた恋愛が絡んだ劇がいいなって。全面には出さなくてもいいんだけど」
 こんな感じ。
 なるほど、考えてきたって言っても“○○という劇をやりたいです”って話でもないんだな……。これなら今からでもササッと考えられるかな?
 という事で脳みそをフル稼働して考え始める。
 そう――だなぁ。
 純粋に楽しめるお芝居をやりたい。それが大前提だ。
 でも自分達だけが楽しいのはダメだ、やっぱり楽しんでもらうっていう事は一番大事なのであって。
 そんでもって、最後にほわんとして貰えるような、ちょっぴしでも幸せを感じてもらえるようなのがいいなぁ。
 ……というような事をもうちょっと言葉を考えつつ言ってみた。
「なるほどな。主要キャラクターの年齢が同年代で、恋愛を少しからませた幸せストーリーって事か」
 3人の言った事を総合して、紅葉さんは頷いた。
「わかった。考えてみよう」
 それに一同頷きを返す。――んだけども、……あれ?
「考える、って。紅葉さんがお話考えてくれるんですか? え、ていうか書けるんですか?!」
「はぁ? 何言ってんだお前。“薔薇姫と騎士”も俺が作ってきたんだぞ?」
「えええええ!!!!」
 ガタンッと椅子が転げるくらいの勢いで立ち上がる。
「ちょっ、なんでそこまで驚く?! 大体言ったハズだぞ、“話を考えてきた”って……」
 え、そうだっけ。
 と思って思い返してみると――……って思い出せたらここで驚いてないか。
「いや、すいません覚えてないですけど。でも」
「でも?」
「……あんなベッタベタな恋愛モノを紅葉さんが考えたと思うと、自然と笑いがこみ上げてきますね!!」
「お前……!」
 だって、川北先生相手にあたふたしてきたって過去を聞かされちゃったし。それなのにどエラいベタベタ王道恋愛モノを書いてるとか、……作家本人と作品を比べちゃいけないけど、ちょっと考えてしまう。
 そのベタベタっぷりを何故現実にも反映出来なかったのか、と。
「ま、まぁ、とにかく。考えてくるから――出来るまではいつものように、練習用劇やる事。はい、わかったら行くいく!」
 ジャージに着替えて筋トレに向かう。
「一剛はどうするんだ? お前もまた加わるか?」
「いいんですか? じゃあ俺もやります!」
 どうやら一剛君も一緒にやるらしい。
 その日は紅葉さんの言った通り、練習用の小芝居をやり、そして時間は過ぎていった。

 *

 そして部活の時間も終わり、制服に着替えて別れの挨拶の後。
「美波さん、ちょっといいですか?」
 一剛君に呼び止められた。
「ん? 何?」
「その……ちょっとご相談が」
 モジモジと言う一剛君を不思議に思いながらも
「うん、いいけど」
 と承諾する。
 恵梨歌ちゃん達には先に帰って貰うことにした。……これじゃ放課後すぐの時と反対だなぁ。
 いつもなら奏和先輩が最後まで残って戸締りするんだけど、今日は紅葉さんも居るし、って事で任せて貰った。
 他の人達を見送ってから、
「で、相談って?」
「えぇ……」

 一剛君の相談とは何のその、恵梨歌ちゃんの事だった。
「さっきはあんな事言っちゃったんですけど……やっぱり俺、気になって」
「あぁ、“普通は訊かない”云々?」
「そうです。……確かになかなか訊けないと思うんですよ、当人は。 でも逆に言えば当人以外なら訊いてもなんら問題無いわけで」
「うん、まぁ、そうだよね」
 だから私も颯爽と“恵梨歌ちゃんさっきの何だったの~?”って訊くつもりでいたんだけど。
「お願いします美波さん!それとなく恵梨歌に訊いて貰えませんか?
 今日の呼び出しは何だったのか。もし告白されたんなら、どう返事したのか!」
 真正面から言われて、思わず一歩後ずさった。
「美波さんは恵梨歌と同部屋なんですよね? だったら機会は十分にありますよね?!」
「い、一剛君落ち着いて……」
 思った以上の剣幕に驚いて、ついでにちょっと引いて。
 おとなしい感じの一剛君がこうも熱くなるなんて、恋とはなんてすごいものなのか。
 なんて事を考えていると、パンパンッと後ろから音がした。
 手を叩く音だ。
「いーちーたーかー?」
「な、なんですか紅葉さん……」
 ニコッと笑った紅葉さん。今度はズビシッと指を突きつけて、
「お前はそこまで意気地なしなのか!」
 と来た。
 ……いきなり会話に参加してきて、なんなんですかい。
「いっ、意気地なしってどういう意味ですか!?聞き捨てなりません!」
「そのまんまの意味だ。お前はそれでいいのか?本当にいいのか?」
 そして紅葉さんは大きく息を吸った。
「お前が真剣に恵梨歌の事を好きなら、誰かに仲介して貰おうとするな!」
「!!」
「美波を使おうとしないで、自分で訊け!そうじゃないとどっかで妥協したって気持ちが出てきて、後から悔いる事になりかねんぞ!」
「!!!」
 紅葉さんの言葉に衝撃を受ける一剛君。
 私はその横で失笑していた。
 ――言ってる事はまぁ、いいんだけど、そのせいでもう何年も気持ちを伝えられてない人にアドバイス貰っても仕方ねーだろっていう。
「男なら真正面からぶつかって行くもんだ!」
「そ、そうですよね……!俺とした事が、間違ってました!!」
 おいおい、なんか変な事になってってないですかコレ。
「そうだな――恵梨歌に結果を訊くだけじゃない、いっその事お前も告白してデートでも申し込んで来い!!」
 なにいいい!!!!
「そっ、それは……っ」
 私に訊いてきて貰う、から随分と飛躍したもんだ。一剛君も流石にすぐには賛同出来なかったようだ。
「で、でも――俺は、今の関係を壊したくもなくて……」
「甘っちょろい事言ってるなよ、一剛!もしうまくいけば、今よりもっといい関係が待ってるんだぞ!
 恵梨歌を前にしてもやもやした気持ちを隠さずに、実行に移せるんだぞ!
 抱きしめたり、キスしたりも出来るんだぞ!!」
「!!!!!」
 アンタ等……。
 私ここに居る意味あんのかな?と思いつつも、一応聞いている。
 ちなみに右手はさっきからわなわなと震えている――いつでもツッコミ発動が可能な状態だった。
「紅葉さん、俺……!」
「あぁ、わかってる。行って来い……!」
「はい!!」
「って、ちょっと待ったあああ!!!」
 はい!!じゃないよ、はい!!じゃあ!!
 その場のノリに任せて駆け出そうとする一剛君を寸でのところで押しとどめた。
「な、なんです美波さん?」
「なんです? じゃないよ!よく考えて一剛君!いきなり押しかけて、それで告白して――本当に良い返事が貰えると思ってんの!?」
「えっ……?」
 恵梨歌ちゃんの事だから、いきなりそんな事を言ってもにこやかにスルーされるんじゃないかと思うんだよね。
 そもそも今から会いに行くって……寮に帰ってるだろうし、呼び出すのか?
「いい?一剛君!女の子ってのはシチュエーションを重要視するんだよ!」
 ……多分。
「だからその場の勢いでいきなり告白しちゃダメ!
 もともと両想い確定なら問題ないけど、微妙な場合、せめて雰囲気は重視しなきゃいけないよ!」
 ……多分。
「そ、それもそうですよね……」
 項垂れる一剛君にちょっぴし罪悪感が芽生える。
 恋愛経験はほとんど無い私は、紅葉さん以上にアドバイス出来る立場でもないからなぁ……。
「とっ、とにかく!デートはともかく、お出かけなら何か理由つけて出来ると思うんだ!」
 意気込んでいた一剛君を止めて、消沈させてしまったので慌てて取り繕うように続けた。
「えっ?」
「ホラ、もうすぐ文化祭じゃない!そのためにまた色々道具必要になるでしょ?
 だからそれの買出しとか!」
 我ながら良い考えだ、と手を打った。
「ですよね、紅葉さん!」
「あ、あぁ――そうだな。今回も大道具とか背景は当然必要になってくるし。絵の具類だけでも買いに行かなきゃな」
「うん、だからそれを恵梨歌ちゃんと一剛君の二人に買いに行って貰うって事で!」
「――じゃあとりあえずは話を考える所から始めないといけないって事だな」
「……ですねぇ」
 そう、そこから始めなくては。
「という事で、素敵なお話期待してますね紅葉さん!」
 ガシッと紅葉さんの手を握って振り回す。
「お、おぉ!」

 そんな風に話は落ち着いて (?) 私達は部室を後にする事にした。
 点検をしてから鍵を閉める。
 それを職員室に持っていくんだけど――
「あれ? おかしいな……」
 職員室に行って、“一応”顧問の百瀬先生に鍵を渡す手筈になってるんだけど、いやしねぇ。
 キョロキョロと見渡していると……あっ。
「あら、高科さん。丁度良かったわ!」
 川北先生がテトテトとこちらへやってきた。
 丁度良いって、何が?
「あのね、遅くなっちゃったけどやっと決まったの!だから本当は明日そっちに行くつもりだったんだけどね」
「え、あ、あの先生。いまいち意味が――」
「ああ、ごめんなさい。先生ったら勝手にしゃべってごめんなさいね」
「いや、いいんですけど。……で、何の話ですか?」
 そう言うと、川北先生は可愛くきゃ~っと声をあげてぴょんと飛び跳ねた。
 子供の喜び方っすか!
 とは思うものの、先生は似合うから恐ろしい。つーか可愛い、可愛すぎる!
 口元を押さえてニヤける顔を隠していると――あ、横にも同じ事やってる人が居たわ。
「翠先輩、犯罪的可愛さです……」
 小声で言ってるけどばっちり聞こえましたよ紅葉さん。犯罪的て、なんか毒されてる人みたいですよ。
 まぁ、そんな怪しい紅葉さんは置いといて、なんとかニヤけを戻した。
 それから川北先生の方に向き直って次の言葉を待つ。
 そして言われたのは、
「少し前から申請していたんだけどね、先生演劇部の正顧問になったの!」
「え」
「百瀬先生とお話してね、譲ってもらったの!やっと願いが叶ったわ~!」
「ええええ!!」
 うおおおおお、マジでかー!!!
 あのヤル気の無い俊兄ちゃんから、ヤル気ありまくりでオマケに可愛い川北先生が顧問になってくれるなんて!
「ありがとうございますありがとうございます!!!!」
 ぎゅむっと川北先生に抱きついた。
 私よりちっちゃい先生は抱き心地が思いのほかよくって――ははぁ、堪らん。
「なっ!?美波?!?!?!」
 紅葉さんが後ろで叫んだけど無視だ。
 一度体を離して、ぐっと頭を下げた。
「これからどうぞよろしくお願いします!」
「えぇ、こちらこそお願いします! 葉月君も、ね?」
「はっ、はい!」
 紅葉さんってば顔真っ赤にしてコクコク頷いてる。人形みたいじゃん。
 えへへ、でも私もそんな風になっちゃってるかも~。
 川北先生という心強い顧問が加わって、更に演劇部は進化するよ!

 って事で、顧問の先生に鍵を渡して職員室を後にした。
 ちなみに紅葉さんは川北先生と話があるそうなので、一剛君と二人だ。
「確か演劇部に居たんですよね、あの先生。紅葉さんもそうだけど、指導に力が入っていってこれから楽しみですね」
「だね!私達人数は多くないけど、それでも紅葉さん一人じゃ大変そうだったし」
 そこに川北先生が加わったら百人力ってもんだよね!
 それに……、
「紅葉さん、めっちゃ喜んでたっぽいし。デレデレだったよね~」
 出る間際にチラッと見た表情はそれはもう緩みきってた。
 ね? と同意を求めるように一剛君を見たんだけど……あれ?
「え、紅葉さんって川北先生の事を好きなんですか?」
「うん」
「……って事は、あの二人付き合ってるんですか?」
 それにはフルフルと首を左右に振った。
「ンなわけないじゃん~。もし付き合ってたら、あんな純情ボーイみたいな反応しないでしょ。顔真っ赤にしてさぁ」
「それじゃあ――あの紅葉さんのアドバイスに、あまり信憑性は無い、……と?」
 うはっ。
「男なら真正面からぶつかっていけ!というわりには自分は全然ぶつかってない……と?」
「まぁ、そういう事になるねぇ」
 ちなみに私にもアドバイスする資格は無かったりするんだけど、そこはそれ棚に上げておくって事で。
 一剛君は何かを考えるように顎に手をあて、しばらく沈黙。
 それから決心したように視線をぐっと上げた。
「美波さん」
「ん?」
「俺、決めました。恵梨歌を誘います」
「へっ?!」
 告白するって事!?
 と思わずwktkしてしまいそうになったんだけど――
「あ、違いますよ!……その、告白は、まだしません。美波さんの言った通り、確かに雰囲気は大切だと思うから、ちゃんとセッティングします。俺、こう見えて結構段取り上手なんですよ?」
 こう見えて、って辺りがどう見えると思ってるのかよくわかんないけども。
「今回はとりあえず恵梨歌と二人で出かけるって事を目標に、買出しを口実として使わせてもらいますけど、でも自分で誘います」
 ぐっと拳を握り締めた一剛君。
「美波さんを使おうとしたりしてすみません。俺、後悔はしたくないから、自分でやってみます」
「私は別に気にしないけど――でも、一剛君が良いと思う事、やったらいいよね」
「はい、ですよね。頑張ります!ありがとうございます、美波さん」
 なんて、ぺこりと頭を下げるもんだから焦ってしまった。
「い、いや!私は何もやってないっていうか!」
「アドバイスくれましたから。――身近に女性が恵梨歌と姉くらいしか居なかったもので、新しい意見を頂けるのはありがたいです」
「そ、そう……かな?」
 畏まられて言われると照れてきてしまう。
 緩み出すほっぺたを押さえつつ、いえいえこちらこそ。とお互い頭を下げる。
 ……何してんだか、私達。



 * * *



 私は寮へ、一剛君は家へ。
 という事で今日は別れて一人、寮へと向かう。
 そして玄関付近で人影を発見した。ここ女子側の入り口なのに……ストーカーに見えますよ、君。
「美波」
「……櫻」
 ストーカー君は櫻だった。
スチル表示  しかも何故か怒ってる。何もしてないじゃん!いきなり怒り顔で迎えないで欲しいよ!
「美波お前さ――どんだけはべらしてんの?」
「は? はべ……なんだって?」
 はい?と疑問を全面に出していると、チッと舌打をされた。
「また演劇部と帰りの時間が同じになったから、秋ヶ谷兄妹とか城崎兄弟には会ったけど、お前は居なくて。
 秋ヶ谷に訊いたら、お前、香澄とかいうヤツと二人で部室に残ってたって?」
「あー、うん、まぁ」
 二人っていうのはちょっと違うけど。
 でもあながち間違っても無いのでコクンと頷いた。
 ら、
「美波っ!」
「っ!」
 バシンと近くの壁を殴る櫻。うっわ、痛そう。
「……いい加減にしてくれよ。俺、もう嫌だよ……」
「……櫻……」
 意味がわかんないっての。
 でもとりあえず何だか悲壮な顔をしているので、近くまで寄ってぽむぽむと頭を叩いてやった。
「何の話してんのか全くわかんないけど、壁が可哀想だから殴るのはやめよーよ」
「お前なぁ!」
「言いたいことがあるなら、はっきり私にもわかるように話してくんないかなぁ?」
 また大きな声を出した櫻を遮るように言った。
「私バカだから抽象的に言われてもわかんないもん」
「ッ……!」
 ――そしたら今度は言わないでやんの。全くなんだっつーんだ。
 櫻は視線を逸らして、下唇を噛み締めていた。
 けど、ふいにこちらを向いたかと思うと、
「じゃあ、わかりやすいように直球で訊くけど……」
「うん」
「その香澄ってヤツと、付き合ってんのか?」
 ……。
 ……思考停止中。
 えーっと。

選択肢1

櫻 +2

「どゆ事? 何それ、新手のジョーク?」
「ジョークってお前!俺は真剣なんだぞ!」
 怒気をはらんだ声で言われ、それが私にも伝染した。一気に沸点が下がる。
「こっちだって真剣だっつーに!ジョークかって訊いてんのよ!?」
「ジョークじゃねぇって言ってるだろ!!!」
 ……ほう、ジョークでは無い――と。
「じゃあ、頭でも打った?」
「おい」
「だって……そんなのありえるハズ無いじゃん」
 ふー、とため息をついた。
「大体さぁ、誰かと付き合ったりしたら訊くまでも無くバレバレだと思うんだよね。特に櫻には」
「俺……には?」
「そ。なんか隠し事出来ないっていうか。わかるでしょ?」
 私の場合すぐに顔に出るから、っていうのもあるんだけど――それを差し引いても櫻には筒抜けな感じがしてる。
「ま、確かにそれはあるかもな……」

櫻 +1

「ごめん。……ワンモア」
「わかるように言ったろ!!なんでもう一回、になるんだよ!」
「だって言葉は理解出来たけど、意味は理解出来なかったんだもん!なんだって私が一剛君と付き合ってるとかそういう事になるわけ!?理解不能だよ!!!」
 ドドドドっと捲くし立てると、櫻は口をポカンと開けた。
「……え、って事は――」
「付き合ってるわけないでしょ!大体なんでそういう思考に行くかな?!」
「だってそれは……」
「わかった。櫻は私の事信用してないんだ」
 ふんっと顔を背けると、途端ぐいっと肩を掴まれた。
「そっ、それは違う!俺は――そんな事じゃなかったらいい、って思って……!」
「櫻……?」
 顔を真っ赤にして、それから俯いてしまった。
「違うん、だよな……?」
「うん。違いますから」
「そっか――良かった」

選択肢1 終わり

 ◇

 怒ってた櫻もやっと落ち着いたので、一応事の顛末を話しておくことにした。
 変な誤解で怒られちゃあたまんないからねぇ。
「今日二人で残ったのは確かだけど、その二人ってのは“生徒”二人って事ね。紅葉さんも居たの」
「紅葉さん? あのもじゃもじゃ髪?」
「……それ言ったら怒られるよ」
「まぁ、とにかく、その紅葉さんも一緒に話してて。所謂恋愛相談ってヤツで――好きな人についてって事なんだけど」
 うーん、これはどこまで話すべきか。
 悩んで顎に手をあてたけども、全部言う前に櫻はなにやら察したらしい。
「……その好きな人って、お前っていうオチじゃ……いや、それは無いか……じゃあ、秋ヶ谷?」
「それは無い、って辺りがすごく気になるんですけども」
 しかしなんて鋭いヤツだ。
 バレちゃあしょうがない、という事で私はコクリと頷いた。
「さっきも言った通り、一剛君――あ、香澄って人の事ね?――から相談を受けてたの。恵梨歌ちゃんの事でさ。
 櫻は知らないだろうけど、今日恵梨歌ちゃん呼び出されたんだよね。多分アレって告白タイムだと思うの!」
 キラリーンと人差し指を立てて言うと、何故か櫻は深く頷いた。
「あぁ、知ってる」
「へっ、何で?!」
「だってコクッたの、陸上部のヤツだもん」
 な、なんだってー!!
「え、そ、それで結果はどうなったの!?」
「詳しくは聞いてねーけど、涙目だったからつまりはそういう事なんじゃね?」
 ……あ、ふられたんだ……。
 一剛君を応援する身としてはラッキーてなもんだけど、その人はショックだっただろうなぁ。ご愁傷様です。
「ま、それで呼び出されたって事を言ったらさすごい危機感を覚えちゃったみたいで。
 自分も何かリアクションを起こしたほうがいいのか悩んでたみたい。
 それで、身近な女性であり、恵梨歌ちゃんのルームメイトでもある私に相談してくれた、ってワケ」
「なるほどな……」
 ふーん、とさっきの怒気はどこへ言ったのか。涼しい顔で櫻は言った。
「まぁ、そういう事ならいいけどよ。で、結局ソイツはどうする事にしたんだ?」
「ん、告白とかはまだ先だけど、とりあえず二人でお出かけ~とかには挑戦するみたい。今度恵梨歌ちゃんを誘うってさ」
「へぇ!なかなかやるじゃん」
 ニカッと櫻は笑った。
 私もそれに笑顔で返す。
「だよねぇ」

 *

 もう時間も遅くなったし、女子寮の入り口でずっと男としゃべってるのはあまりよろしくないのでもう帰って貰った。
 ……ていうか櫻、付き合ってるどうこうだけを訊きに来たのかね?暇人だなー。
 なんて思いつつ部屋に帰る。
 ドアを開けると、部屋では正座の恵梨歌ちゃんが待っていた。
「美波ちゃんおかえりなさい」
「た、ただいま……」
「鞄置いたらちょっとこちらに」
「は、はい……」
 有無を言わせぬ何かを感じて、逆らわずに従っておく。
 そして言葉通り、鞄を置いてから同じように正座した。
「単刀直入に訊くね」
「うん……?」
「全部知ってたの?」
 ……はい?
 首をカクンと傾げる。単刀直入なのは良い事だけど、主語が抜けるのは困る。
 いや、しかしコレはアレでしょ。一剛君の事に決まってるでしょ!
 って事は何?!恵梨歌ちゃんちょっぴし怒ってるし、それは嫉妬!?嫉妬の感情ですか!!
 つまりは――いっちたっかくぅーん!!結構期待出来るんじゃないの!!
 そんな風に脳内でお花畑を駆け回りつつ、コクコクと頷いた。
「そう……やっぱりそうなのね」
 悲しそうに顔を俯かせる恵梨歌ちゃん。……あ、あれ?嫉妬より悲しさが勝るタイプなのかな?
 なんだかこっちまで悲しくなってきて慰めようと手を差し伸べる。
 すると、ガバッと恵梨歌ちゃんは顔を上げて――
「顧問の先生が代わったって本当なのね?!」
 ――――――アーハン?
「……恵梨歌ちゃん?」
「帰りに百瀬先生に会ったの。一応顧問だったじゃない?だから文化祭の事話そうと思ったら、自分はもう顧問じゃないからって」
 そっちかい!
「その時の先生の言い方が、他は皆知ってるぞ?見たいな感じだったから――そう、やっぱり知らされてなかったのわたしだけなのね」
「いやっ!!それは違うから!!」
 ブンブンブンッと首を振って否定する。
「私もさっき知ったんだもん、次の顧問って川北先生でさ。職員室に鍵返しに行ったら、丁度!」
「そうなの?」
「うん、そうそう!!だから落ち込むような事じゃないって!」
 ……ホントにね。
「ならいいんだけど……」
「ふー。……もう焦るじゃん、正座して待ってるんだもん。割腹自殺するので介錯を、とかかと思ったよ」
 茶化しつつ言うと、恵梨歌ちゃんはにっこり笑う。
「嫌だわ美波ちゃんってば。わたし介錯はしても、きっと自殺はしないわよ」
 ……あ、はい。
 そこはスルリと流して欲しかったトコロなんですけどね。



 * * *



 という事で、やっと長い一日が終わった。一日――というより、半日か。
 明日は川北先生が正式に顧問になったのだと挨拶に来るだろうし、いよいよ文化祭も始動していくだろう。
 そう、演劇部だけでなく、クラスの出し物もあるんだよね。
 時間はあんまり用意されてないけど、頑張るぞーっ!