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▼ 第3章 第7話 Dパート

Dパート

那月君

「あ、あのさ那月君。良かったら一緒に居てくれない――かな?」
 去り際、那月君を呼び止めてそう言った。
 後夜祭に一人は淋しいっていうのは勿論あるんだけど――でも、そういうのは置いといたとしても、那月君と一緒に居たかったというか。
「お、おぅ!オレも今まさにソレを言おうと思ってたんだ!」

 というワケで、二人で後夜祭を回る事にした。
 無料で配布し出した食べ物類を貰って、後は突如として始まったビンゴゲームなんかにも参加して。
 こういうのも生徒会が指揮してるのかなぁ。
 私達は部活とクラスで手一杯だったけど、生徒会含め実行委員の人達は大変だったんだろなー。
 だんだん暗くなってきて、キャンプファイヤーに火がついた。
「わぁ……なんか幻想的な感じ」
「あぁ……そうだな」
 なんとなく、もっとインディアンとかの原住民っぽい雰囲気になるかと思ったけど、そんな事も無いし。
 てな事を言うと呆れられてしまった。
「原住民ってお前……生贄の儀式でもすんのかよ」
「いやー、でもそんな雰囲気なのかなって思っちゃって。
 ドンコドンコと太鼓鳴らして、絶世の美女なんかが神様に捧げられちゃうわけよ」
 人差し指を立てて妄想を説明してみる。
「絶世の美女、ねぇ……」
「いやっ、そこはまぁ、別に普通の人で十分なんだけどね!日本でもそういうのあるじゃん?山神様にニエを~とか。
 んで神様ってのが山猿だったり、大蛇だったり、っていうさ」
 だんだん話が逸れてきてる気がするけど……話し出すと止められないモンもあるよね。
「あ、そうだ。そういうのだったらさ、ある意味コンクールの話もそうだと思うんだ。
 アレは進んで生贄になったワケじゃないけど、人外のヤツに襲われちゃうワケだし」
「……そう、か?」
「た、多分。 過程や結果は違えど、現状を変えようと化け物のもとへと行くワケでしょ。だから、きっとそう!うん!」
 言いながら、絶対違うなとも思ったけども。
 ……よく考えずに話し始めると困る、っていう典型だわ、コレ。
 ふー、とため息をついていると、那月君がぽつりと呟いた。
「もし、美波がそんな風にして何かに攫われたとしたら――オレは絶対助けに行く」
「……へ?」
「コンクールの時の騎士みたいに、絶対に助ける。絶対に守ってみせる」
「な、那月君……?」
 突然何を言い出すのやら。
 しかも発言内容が――ど、どうにも赤面モノな気がするんですけど!
「どうか、したの……?」
 恐る恐る問いかけてみると、ガシッと手を握られた。
「っ!」
「美波、オレ――オレ、お前が好きだ」
「なっ?!?!」
 握られた手が、熱い。
 そしてそれ以上に頬が熱かった。
「いきなりこんな事言って悪い。でも……もう、黙ってるなんて出来ない」
「な、なな、なにを……」
「最初に会った時から、なんか話しやすいヤツだなって思ってたんだ。オレこんな適当なヤツだしさ、昔から冬輝と比べられて――だから初対面でちゃんと“オレ”を見てくれる人ってあんまり居なくて」
 ……そう、だったのか。
 全然そうは見えなかったんだけど、そもそも“初対面”率が低いこの学校では気づかないのは当たり前、なのかな。
 というような事を言うと、那月君は力無く笑った。
「中学とかな、結構酷かったんだぜ。あの時は髪の色も一緒だったから余計にな。
 それがスゲー嫌で高校では染めてやったんだけど。
 でも、さ、美波は冬輝の事知っても、それでも比べたりとかしなかっただろ」
「そ、そりゃあ……そんな事しても意味無いじゃん」
「そういうのが――ホント、嬉しかったんだよ」
 過去の話はよくわからない。でもそんな事がきっかけで私を意識してくれるくらいに――それが珍しい事だったのかもしれない。
 でもそれって、どうなんだろ。
「じゃあさ、那月君はこれから先、私みたいに比べたりしない人が現れたらその人の事好きになるの?」
「! そ、そんなワケねぇだろ! 美波だから、好きになったんだ!
 そんなにホイホイ好きな人変えられるくらい、感情のコントロールが出来たら――こんな気持ちになんかなんねぇよ。
 お前の相手役になりたい、ってあんなに我侭言う事も無い!」
 強く言い放たれて、思わず少し身を引いた。
 ……でも、すぐに引いた分以上に近づく。
「ごめん、私バカな事言った。……ホントバカだ、こんなすぐに――嫉妬の感情が出てくるなんて」
「え?」
「那月君の言い方がさぁ、なんか私じゃなくても好きになったって言ってる気がして。
 だから同じような状況だったら他の人の事――好きになっちゃったのかもしれないって……そう思ったら、なんか悔しくて。悲しくて」
「美波……」
 へへ、と力無く笑う。
「ごめんね、こんなバカだけど。でも好きで居てくれるかなぁ?」
「ったりめぇだろ! お、おおお、お前こそっ、ど、どうなんだよ!なんかさっきの言い方――嫉妬とかさ、オレの良いように取りたくなるだろっ」
「ん、勿論良いように取ってくれて構わないよ」
 好きとか嫌いとか――そこまではっきりしてるモノではないけれど、でも少なくともそんな嫉妬の感情を覚えてしまう程度には那月君の事を意識していたんだと思う。そう、無意識の内に。
「じゃ、じゃあ――つ、つつつつ、つつ付き合っ、ってくれるか!?」
 そのどもりっぷりについ笑ってしまう。
 それから私は深く頷いた。
「うん、不束者ですが――どうぞよろしく!」
「お、おう!!!」
 握られた手が外され、その手は肩に回された。
 ぐっと抱かれ、ちょっと倒れこむようになってしまう。でもそれもきっちり受け止めて。
「すっげー、嬉しい!ありがとな、美波!これからもヨロシク頼む!」
 負け時とこちらも抱き返す。
「うん、こちらこそ!」
 胸の辺りに頭を押し付けるようになるんだけど――ん?何だ、コレ。
 何か不自然な膨らみがある。ま、まさか豊胸!?
 なんてギャグを飛ばしてる場合でも無いか。
 不思議に思った私に気づいたのか、那月君はぽむっと手を叩いて、ソレを取り出した。
「あ、幸せの花だ」
「ん……コレ持ってたら“幸せ”になれんだろ?だから、美波との事がうまくいけばいいなって。
 そうじゃなかったとしても――ハイ」
「え……?」
「美波に幸せになって貰えたらって、渡そうと思ってたんだ」
「那月君……」
 花を受け取り、ぎゅっと抱え込んだ。
 そして私もポケットを探って――“花”を取り出した。
「あれ、なんだお前も貰ってたのか」
「うん。幸せになれたらな~ってほとんどおまじないなんだけど。でも、ホントに幸せになれたと思うんだ」
 それから自分が持っていた花を那月君の手に握らせる。
「私も那月君へ幸せ、あげるね。ていうか交換かな。へへ、幸せの交換――ホント、幸せモノだ私」
 ニコッと笑って言った。
「オレもだ!」
 そして再び抱きしめ体勢へ。
スチル表示  本当に――幸せ!

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城崎君

「あ、あのさ城崎君。良かったら一緒に居てくれない――かな?」
 去り際、城崎君を呼び止めてそう言った。
 後夜祭に一人は淋しいっていうのは勿論あるんだけど――でも、そういうのは置いといたとしても、城崎君と一緒に居たかったというか。
「あぁ、勿論だよ。僕もね、誘おうと思ってたんだ。だから丁度良かった」

 というワケで、二人で後夜祭を回る事にした。
 無料で配布し出した食べ物類を貰って、後は突如として始まったビンゴゲームなんかにも参加して。
 こういうのも生徒会が指揮してるのかなぁ。
 私達は部活とクラスで手一杯だったけど、生徒会含め実行委員の人達は大変だったんだろなー。
 そうこうしている内に空は暗くなり、キャンプファイヤーに火がついた。
「わぁ……綺麗」
 私達はそれを遠目に眺められる所に陣取っていた。
 丁度芝が生えていて、じかに座ってもソレほどダメージが無いのがありがたい。
「うん、そうだね。一応去年も見たんだけど――なんだか今年の方が綺麗に見えるよ」
「へ? 何か去年と違うの?」
 首を傾げるとクスと笑われてしまった。
「そうだね、違う事はあるかな。―― 一緒に見る相手、とか」
「え」
 ぼふっと顔が熱くなる。
 そ、そそそ、それってえっと、え、ど、どういう意味!?
「わからないかな。同じ景色であろうと、一緒に見る人が違うと、それは全く違うものになるんだ。
 好きな人が一緒だったら――本当に、こんなにも違う」
「じょ、城崎君――えっと、その……ええええええ!!」
 つまり、それって、私の思い上がった勘違いで無ければっ、
「も、もしかして……城崎君、それ……告白、ですか?」
 恐る恐る訊くと、ものすごく嬉しそうに満面の笑みで頷いた。
「良かった。伝わっていたんだね。少し遠まわしにしすぎたかなって思っていたんだ」
「どこが遠まわしですか!!モロに“好きな人”とか言ったじゃん!?」
「いや、でも高科さんはもっと鈍いかなって思って」
「うっ」
 ……まぁ、否定出来ないけども。
 でも今回は気づいたんだからいいじゃん!
「うん――僕は君が好きだよ。最初に会った時から――、嫌な僕が出なかったから、もしかしたら一目惚れだったのかもね」
「?!」
 ひ、一目惚れとか……!!お米の名前じゃ、無いんだよね!?
 なんてギャグを飛ばしてる間にも城崎君は先を続けていく。
「もしかしたら桐原への態度とかで気づいてたかもしれないけどさ――僕、結構酷いヤツなんだ。気に入らない相手にはどこまでも冷たく出来る。
 一時期双子だって事でからかわれて――那月の事以外“敵”だと思ってたこともあるくらいだしね。
 そんな事があったから、初対面の人には特に警戒して冷たくあたる事があったんだ。
 でも、高科さんには何でだろ――そんな風に接する事、全く考えられなかった」
「城崎君……」
 なんだか辛辣な過去がスルリと出た事も驚きだけど、でも……それ以上に今は恥ずかしさと照れが勝った。
「あ、あの私――」
 告白されて初めて今までの城崎君との事を思い出してみる。
 そうしたら、好きとか嫌いとかはっきりした事はわかんなかったけど――でも、意識はしてたんじゃないか、って思った。
 だから、それを伝えようとしたんだけど。
「ね、高科さん。僕、やっぱり酷いヤツみたいで。……高科さんが僕の事どう思ってようと、――ずっと傍に居て欲しいって、そう思うんだ」
 ぎゅっと手を握られた。
「僕の傍に居て――くれるよね」
 疑問系ですらなく、それは言い放たれた。
 私はそれに深く頷く。というか、頭を深く下げて――――
「っ!?」
 そのまま頭突きしてやった!!
「なっ、何をっ!?」
「何を?!じゃないよ、こっちの台詞だよ!何その自己完結満足タイプ!ふざけないでくれるかなぁ!」
「えっ」
「私の気持ちまるまる無視とか――しかも、明らかにプラスだった場合の事考えて無いし!!アレですか?城崎君は拒まれても繋ぎ止めて、監禁とかに走っちゃうクチですか!いや、まぁ……創作としてみるならソレもアリだけど……。
 ってそうじゃなくて!!」
 こんな状況にも関わらず、ついバカな妄想に行きそうになった頭をフルフルと振った。
「リアルでは通じないんです、犯罪なんです!まずはお伺い立ててくんないといけないんです!!!」
 一度は振りほどいた手を今度はこちらから握った。
「いや、お伺いとかまどろっこしいし、私から言いますけど!私も多分城崎君の事好きだよ!」
「え」
「そりゃあ“愛してるよ冬輝”……とか囁きつつディープキスかませるレベルじゃあないけどさ、でも――少なくとも、好きって言って貰えたらすごく嬉しくて、泣きたい気持ちになるくらいには――城崎君の事、好きだもん」
「高科さん……その台詞が男っぽいのが気になるけど――でも、それは本当?」
 冷静にツッコミを交えつつ、でも驚きながら城崎君は言った。
「ほ、本当……デス」
 自分で言った事の恥ずかしさが徐々にやってきて、最後の方はボソボソと呟くようになってしまった。
 カーッと熱くなった頬は、自分では見えないけれど発光してるんじゃないかって思うくらいだ。
「そう――そうか。どうしようか、すごく……嬉しいよ」
 城崎君もまた顔を真っ赤にして言った。
「えと、じゃあ……その、相思相愛みたいなんですけど」
「うん――そう、だね」
「つっ、付き合う、とか!?」
「うん――そうだね」
 ……ん?返答が同じだ。
 もっぺん同じ事訊いて同じ事返したら……ロボット決定かい。
「あの、もしもしー?」
「うん、そうだよね」
 少し違うけどほとんど一緒じゃん!真面目に答えてよ!
 ――と言おうとしたその瞬間、ぐいっと肩を押されて強制的に向きを変えられた。
 そして目の前には城崎君の顔が。
「愛してるよ美波」
「へ」
 顔はそのまま近づいてきた。
 そうなるとどうなるか――っていうのは、まぁ、お分かりの通りで。
スチル表示 「っ?! ~~~っ、っ!??!っっ!!!」
 バシバシと城崎君を叩くも、唇は離れない。その上、ちょっ、し、舌ぁ?!?!
 酸欠で死ぬ!――と本気で思い始めた頃、それはやっと終わった。
「っぷはっ、!!ちょ、ちょちょ、ちょ!??!」
「ごめん……ちょっと抑え切れなくて」
 さっきの私の台詞そのままに、愛を囁いてディープキスとか――初心者にはハード過ぎるんですけど!?
「理性と欲望が戦って、結局理性が負けてしまったようだね」
「ようだね、じゃないでしょうに……」
 さっきのロボット返事はその戦いで放心してたせいか。
「ごめん。でも、君が可愛すぎるのがいけないと思うよ」
 何だソレ。
 ぷいっとまるでこっちに非があるかのように仰いますけどね。
 そういや――
「その、“君”っていうの……なんか、気になるなぁ。 美波、じゃダメなの?」
 高科さん呼び以外ではこういう風に言ってる気がするんだよね。
 城崎君は一瞬固まった後、笑った。
「美波って呼んでもいいのかな?」
「勿論だよ!」
「じゃあ、僕の事も冬輝って呼んでね」
「勿論だ……えっ!?」
 ま、まさかそっちの方向に持っていかれるとは!?
「ダメって事は無いよね?」
「そ、そりゃあ……いい、けど……」
 うわ、恥ずかしいかも、コレ。

「じゃあ改めて、美波」
「は、はいっ」
「好きです。付き合ってください」
「――うん、こちらこそ、よろしくね冬輝君」
 言い終えてからお互い顔を見合わせて笑ったり。
「あ、そうだ。お付き合い記念に――」
 ポケットを探って劇の時の花を取り出す。“幸せの花”だ。
「私、もうすっごい幸せになれたから。だから、次は城崎君に幸せ来ますように!」
 ぐいっと押し付けると受け取りはしたものの、少し呆れたように笑われてしまった。
「な、何よー」
「いや、……同じ事考えてたんだな、って思って」
 そう言って城崎君もまた、花を取り出した。
「僕もすごい幸せなんだ。だから――君に」
 私の手に再び花がやってくる。別の、幸せの花が。
「ホント、同じだ」
「ね?」
 なんだかそれが面白くって二人して噴出してしまった。
「まぁ、お互い幸せって事で。これからも幸せでいれたらいいね」
「うん! 絶対、そうなるよ!」
 ぐっと握りこぶしを握って言い放つ。
 うん――ホントに、そうなってみせるよ!

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奏和先輩

「あ、あの先輩。良かったら一緒に回りませんか?」
 去り際、奏和先輩を呼び止めてそう言った。
 後夜祭に一人は淋しいっていうのは勿論あるんだけど――でも、そういうのは置いといたとしても、先輩と一緒に居たかったというか。
「勿論、いいよ!ふふ、丁度僕もね、美波ちゃんの事誘おうかと思ってたところなんだ」

 というワケで、二人で後夜祭を回る事にした。
 無料で配布し出した食べ物類を貰って、後は突如として始まったビンゴゲームなんかにも参加して。
 こういうのも生徒会が指揮してるのかなぁ。
 私達は部活とクラスで手一杯だったけど、生徒会含め実行委員の人達は大変だったんだろなー。
 だんだんと空は暗くなり――そしてキャンプファイヤーに火がついた。
「わ、綺麗~。先輩の言った通りですね!」
 前に部活の出し物について聞いた時、奏和先輩はキャンプファイヤーがいいんだって言ってたんだよね。
「でしょう~。去年もだけど、これぞ後夜祭!って感じでさ。ホラ、テンションあがった人達が踊り出してる」
 あ、ホントだ。酔ってんのか、っていうくらいはっちゃけてるなぁ。ま、高校の文化祭だからソレはありえないんだけど。
 いや、だからこそ――アレが素面っていうのがちょっと怖いかもね。
「毎年あんな風にして皆変質者へと変わっていくんだよね」
「先輩、何涼しい顔してとんでもない事言ってんですか」
 変質者て。ゾッとするじゃないですか!
「でも本当にそうなんだもん――ホラ、見て」
 つい、と示された先には――ぎゃああ!
 いつの間にやら上半身裸になった男子生徒が。て、ていうか、おいお前えええ!!その胸に二つ咲いてるのは我が演劇部の“幸せの花”なんじゃないのかよ!!!
 どこの誰だか知らないけれど、ハレンチ衣装に貶めるとは――許せんっ!!
 握りこぶしを固めて滅多打ちに出陣しようとした時、いきなりそのハレンチ野郎が声を上げた。
「オレは、同じクラスの美奈子が好きだあああああ!!!!!」
「おおおおお!!!!」
「美奈子付き合ってくれええええ!!!!」
 ……ちょ。
「せ、先輩……変質者が居ますけど」
「ね、言ったでしょ?」
 突然バカな恰好で愛の告白をかましたハレンチ野郎。……見かけだけでなく、言動もアレとか。
 しばらくしてソイツのもとに可愛い女の子がやってきて、スパーンとほっぺたにビンタをした。
 あちゃー、振られたかぁ……とは思いつつも女の子はソイツの腕を引っ張っていってしまった。
「……先輩、あれって……」
「僕のクラスの人達なんだけどね。前々から相思相愛だったっぽいんだよねぇ。だからさっきの彼女のビンタは照れ隠し、かな」
「なるほど……」
 よくわからないけど、祭りの魔力ってモノがあるのかなぁ。
 ソレを見ていた人達はひゅーひゅーと囃し立ててるし。うーん、盛り上がってる……のかなぁ。
 ま、それはともかく。
「さっきの見ました? 幸せの花がとんでもない使われ方してたんですけど」
「見たねぇ。でもアレ、僕許可しちゃったから何も言えないかな」
「え゛っ!?」
「彼ね、劇見てくれたみたいで、“幸せになるためにあの花が必要なんだ”って。だから告白する時に力を借りたいって言って僕にわざわざ訊いてきたんだよ。……使い方までは言わなかったけど」
 使い方言ったら許可下りないって思ってたんだろなぁ……。
「でもさ、美波ちゃん。使い方がどうあれ、彼は幸せになったんじゃないかな。
 それはもしかしたら、あの花のおかげかもしれない。――そう考えたら、素敵じゃない?」
「ん……確かに、そうですね」
 あの設定は劇の中だけで、決して現実に影響を及ぼすものではないけど。
 でも、そうだとしたらそれはとっても素敵な事だ。
 ウンウンと頷いていると、ふいに目の前に何かが差し出された。
 何かっていうか――
「先輩も持ってたんですか」
 “幸せの花”だった。
「うん、僕も力を借りようと思って」
 ……え?
 先輩はニッコリ笑ってその花を私の髪ゴムの辺りに挿した。
「僕は同じ部活の美波ちゃんが好きです」
「へっ?」
「付き合って欲しいと思ってるんだ。どうかな?」
「っ?!」
 あまりにサラリといわれたものだから一瞬理解出来なかったけど……こ、コレって!?
「せ、先輩、それって……?!」
「言葉の通りだよ。結構前から僕、美波ちゃんの事好きだったんだ。気づいてなかっただろうけど――」
「き、気づいてませんでした……」
 ボボボボッと点火するように頬が熱くなっていく。
 気づいてない――けど、思い返せば、抱きつかれたりしてたもんなぁ。
「美波ちゃんはどうかな? 僕と付き合ってくれる?」
「え、そりゃ、勿論……」
 OKですけど、と言いかけて、そこで止まってしまった。
 ――こんなに簡単に返事をしてしまってもいいんだろうか。
 少しの間でもいいから、自分の気持ち整理してから答えないと、なんだか悪い気がした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
 ええと……まずは出会いから。迷子になりかけのトコを案内してくれたんだよね。
 んでもって入部でしょ、啖呵切った私を最終的にはちゃんと受け入れてくれて。
 その後も、色々とあったけど、いつでも優しくて素敵な先輩ばかりを思い出す。
 ……ちょっとした乙女アルバムだよね、コレって。
 もしかしたら先輩の気持ちにも気づかなかったように、自分の気持ちにすら気づいてなかったのかもしれない。
「美波ちゃん……?」
「先輩、私――私も、好き、みたいです」
「えっ!!」
 思い出されるのはほとんどが先輩の笑顔だ。
 そのどれを思い浮かべても、二文字をすぐに直結出来る。
 ――好き。
 そう、先輩の事、好きになってたんだと思う。
「えと、だから、その――お付き合い、よろしくお願いします!」
 ズビッと手を差し出して頭をぺこりと下げる。
 しかしその手は握られることは無く、体ごと抱きしめられた。
「うん!よろしくね、美波ちゃん!」
 ぎゅむーっと抱きしめながら先輩は言った。
「やっぱり幸せの花の効果はあるんじゃないかな!だって、僕今こんなにも幸せなんだもの」
 それならきっと私の貰っておいた花の効果も入ってそうだ。
スチル表示  私はポケットからその花を取り出し、先輩の胸辺りにつけた。
「美波ちゃんも貰ってたんだね」
「はい。――効果、ありましたね」
 ニコッと笑って言った。
 実際にこの花のおかげじゃなかったとしても――今幸せなのは偽りない真実であって。
「ホント、嬉しいです!これからもお願いしますねっ」
「うん、こちらこそ、だよ!」
 再びぎゅむっと抱き寄せられる。
 へへ、本当に――幸せ!

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 一同解散――の後、私はその場に立ち止まり、ぽちぽちと携帯を操作していた。
 送り先はまたもや櫻で。
「櫻ドコー?キョロ(゚∀゚≡゚∀゚)キョロ」
 っと。
 ややあって返事が来る。
 さっきは電話で返ってきたけど、今度はちゃんとメールのようだ。
 どれどれ――。
『お前の後ろに居る……』
 ……ちょ、ちょおおお!??!
 思わずガバッと振り返った。
 櫻は――居ない。
「……び、ビビらせおって……居ないじゃ」

 ぽんっ

「ひっ、ぎゃああああ?!?!?!」
 突然肩を叩かれ、思わず叫んで飛びのいた。
 さっきまで向いていた方向に、いつの間にやら櫻が出現していた。
「もっ、もう!びっくりさせないでよ……!!!」
「いやー、悪い。そこまでビビるとは思わなくて。で、どうかしたのか?」
 ぜはーっぜはーっと荒くなった息を整える。
「と、特にはどうもしないけど――その、後夜祭一緒に回れないかなって思って」
「あぁ、その事か」
 ウンと櫻は頷いた。
「俺も今それでお前の事探してたんだよ」
「へ、そうなの? あ、じゃあ丁度良かったんだ」
 もしかしたらこっちからメールしなくても櫻の方から声かけてくれてたのかなぁ、なんて。……ifの話をしても意味ないんだけど。
「ん、それじゃ早速行こうぜ!なんか余った食べ物とか無料になってるらしいし!」
「うんっ!」

 というワケで、二人で後夜祭を回る事にした。
 さっき櫻が言った通り、無料で配布し出した食べ物類を貰って、後は突如として始まったビンゴゲームなんかにも参加して。
 こういうのも生徒会が指揮してるのかなぁ。
 私達は部活とクラスで手一杯だったけど、生徒会含め実行委員の人達は大変だったんだろなー。
 櫻も、なんだかんだで陸上部の方大変だったみたいだし。
 そしてだんだんと空は暗くなっていき、キャンプファイヤーに火がついた。
「へぇ~、なかなかのモノだな」
「ん、そだね!」
 組み立ててる時は、てっきりもうちょっとショボイものかと思ってたけど。見直したぞキャンプファイヤー君!
「形とかは違うけどさ……向こうの祭りとか思い出すよな」
「あー、言われてみればね」
 私達が居た所でこんな風に盛大に火を炊くタイプのお祭りがあったんだよね。
 人が少ないせいか、毎年強制参加だったんだけど――でも櫻に言われてやっと思い出した。
「まだこっち来てそんなに経ってないのに、色々ありすぎてもう忘れかかってるみたいだよ。参るね、ホント」
 たはは、と笑うと櫻も笑った。……でもすぐに悲しそうな顔になって。
「俺も。……なんか新しい記憶に塗り替えられて、昔の事忘れちまいそうで怖い時があるくらいだ」
 エラく落ち込んだように言うので、内心焦ってしまった。
「ま、だ、大丈夫でしょ!なんたって記憶力の一番良い辺りなハズ――だし!完全に忘れてるワケでもなし!」
 ぽむぽむっと背中を叩いてフォローする。
 するとその拍子――というのか――に、ズボンのポケットから何かが転げ落ちた。
「……あれ、これって」
 それは劇で使った“幸せの花”で。
「櫻、持ち帰ってくれてたんだ」
「あ、あぁ……」
 なんだか嬉しくなってつい口角が持ち上がる。
 劇中の“幸せ”がどんなものかはわからないけど、少なくともこうして持って帰ってくれてる人を目の当たりにする事で、演劇部員としては“幸せ”を感じられるワケで。
「ありがと、櫻!すっごく嬉しいよ!」
「そ、そうか?」
 何故か照れてるらしい櫻の背中を再びぽむぽむっと叩いた。
「うん、ホントに嬉しい!」

 それから近くの芝の所に腰を下ろして、そこからキャンプファイヤーを見ていた。
 櫻と同じように私も持って帰っていたので、それを見せつつ話をする。
「幸せって漠然としたもので、人によって違うけど――でもさ、櫻、私ここに来て良かったなって思う」
「……」
「寮生活とか未知過ぎたし、前に居た所よりかなり都会だからなんかちょっと怖かった。でも――周りの人は皆良い人ばっかだし、何より」
 コテンと横に座ってた櫻に寄りかかる。
「知らない人ばっかだと思ってたトコに、櫻が居たから――それが良かったな、って」
「美波……」
 最初は何で居るの、とかやっと離れられたのに、とか思っちゃったけど。
 でも、やっぱりずっと一緒だったから、また一緒に居れる事にどこか安心感もあったんだよね。
「へへ、だからさ、櫻。これからも幼馴染としてヨロシクね!」
 ニコッと笑うと、櫻は表情を硬くして言った。
「……それは、もう無理だ」
「え……?」
 ゾクッと背中を悪寒が走り抜ける。
 それって……どういう意味?もう私とは――仲良くしてくれない、とか?
 そんなの、ヤだよ!!
 ぎゅっと服の裾を掴むと、その手を上から握られた。……え?
「俺はもう――幼馴染っていう肩書きは嫌なんだよ。俺は、――俺はお前の、恋人になりたいんだ!」
「……へ?」
「知ってたかもしれないけど、小さい頃からずっと好きだったんだ。多分……初めて会った時から、ずっと」
 初めてって……物心もついてなかったような時期じゃない!
「お前だけを好きだ、きっとこれから先もずっと――お前しか好きになれない。俺にはお前しか居ないんだ!」
「櫻……」
 握られた手を角度を変えて、こちらからも握り返す。
「ありがと、櫻」
 櫻の事、好きとか嫌いとか深く考えたことは無かったけど――でも、何にも変えがたい大切な人である事は確かだ。
 そして櫻の気持ちを知って、改めて考えてみると、恋愛感情が乗っても全然不思議じゃない気持ちを持っていた。
「私も……櫻の事、好き」
 でも櫻は首を振った。
「そういう……んじゃねぇんだ。俺のは、もっと、違う、意味で……お前の思ってる好きは違うくて」
 ……は?
「違うって、何でそんな事言うのよ」
「じゃあ、同じだって言うのか? 俺と付き合えるのか?抱きしめてもいいのか?キスとか――そういうのもして、いいのかよ!?」
「はあああ!? 何言ってんのバカじゃない!?」
 思わず声を荒げた。
「ンなの、当たり前じゃん!!好きなんだったら、そうなるよ!!マジでバカにしてんの!?」
「だ、だって……」
「あーもう!くどい!私が好きって言ってんだから、素直に受け取ればいいじゃん!
 何信じられないの?じゃあ、論より証拠!!」
 ぐいっと櫻の胸元を引っ張って顔を近づけた。
 そして勢いのまま、ぶちゅっとやってやる。勿論、唇に、だ。
スチル表示 「?!」
「っはっ、ど、どうだ!!」
 放心状態の櫻にヘヘンッと勝ち誇ったように言い放つ。
 昔のCMの奪っちゃった~♪てなモンか。ざまーみろ!
 と、意味不明な事を考えていると、今度は逆にぐいっと引っ張られてしまった。そうして、そのまま櫻の腕の中に閉じ込められる。
「なっ?!」
「やっべぇ、俺――嬉しすぎて、昇天するかと思った」
「こんな事で!?」
 放心状態はマジでヤバイ状況だったんですかい。
「美波、本当に――俺の事好きなんだ、って思っていいんだな?」
「うん。さっきからそう言ってんじゃん」
「そ、そっか。……そうだよな」
 櫻は小さく頷きを繰り返し、
「じゃあ――肩書き、変更しても大丈夫か?」
「恋人に?」
「あぁ……幼馴染じゃなくて、恋人、に」
 真っ赤に照れて言う櫻。きっと同じくらい私も真っ赤だろう。
「勿論だよ。へへ、彼氏さん」
「!」
 言うや否や再びぎゅーっと抱きしめられる。
 なんだか急展開だったけど――えへへ、嬉しいなー!
 劇中の幸せがどうだったのかはわからないけど、少なくとも私にはコレも幸せ。
 “幸せの花”ってのは案外、本物なのかもしれないなぁ。
 ――なんて考えつつ、私はその幸せに浸っていたのだった。

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恵梨歌ちゃん

「恵梨歌ちゃん、一緒に居ようよー!」
 ガバッと恵梨歌ちゃんに抱きつく。
 だって一人じゃ絶対淋しいんだもん!
「美波ちゃんってば、甘えんぼさんね~。でも――ごめんね、わたしちょっと用事があって……」
 なっ、なんだって……!
 なんとなしに恵梨歌ちゃんは絶対OKしてくれると思ってたから、余計に衝撃だった。
「え、その用事ってのは――何なのか、訊いても?」
「うん。一剛君がね、一緒に回ろうって」
 ち、ちくしょおお!!おのれ一剛!!
 いやっ、応援はしてるよ!?してるんだけど――ち、ちくしょおおお!!
「だからごめんね、美波ちゃん。じゃあ、行かなきゃ――」
 そう言って恵梨歌ちゃんは行ってしまった。
 後に残されるのは悲しい人間が一人……。

 うー……しかし、本当に一人は悲しすぎるので誰か探そうっと。
 とりあえずは周囲を見渡して、っと。
「あ、香さん発見!」
 丁度校庭に出てきたトコらしい。
 香さん以外にも、紅葉さんや川北先生も居た。
 タッタッタと近寄ると、香さんが真っ先に気づいてくれた。
「あら美波ちゃんじゃない」
「皆さんお揃いでー!3人で回ってたんですか?」
 私から見ると、かたや先生かたや食堂のお姉さんで、そこまで接点無いように思うんだけど――よく考えれば昔からの知り合いなんだもんなぁ。
「うん、そう。と言っても午後からなんだけどね。ホラ、午前中は演劇部忙しかったでしょ?」
 紅葉さんは当然、川北先生も顧問だもんね。そりゃ確かに忙しい。
「先生は午後もクラスの方に顔出していたんだけどね、それも終わったから」
 川北先生が言った。
 クラスの方――っていうとA組だから、お化け屋敷か。
 なんか先生キャーキャー言いそうなんだけど、どうなんだろ。
「思った以上に盛況で楽しかったわ。先生が言い出したんだけど、皆本当によく頑張ってくれたし!」
 ……よりにもよって先生の提案かい。
「翠先輩は見た目に反してホラー好きだからな……」
 私の心中を察したのか、紅葉さんがこそっと言った。
「ちなみに俺は苦手だ」
「うわー、それこそ見た目に反してって感じですね。紅葉さんなんて見た目からしてホラーなのに」
「お前……」
 最初に会った時、お化けかと思って悲鳴を上げたくらいだしなぁ。
「ま、それはさておき。美波ちゃんはもしかしてもう帰るの?」
「いや、後夜祭満喫しようかと思ってたんですけど――生憎恵梨歌ちゃんに振られちゃいまして。誰かお相手探してたトコなんですよ」
 一剛君に呼び出されたのだ、と言うと紅葉さんは満面の笑みで頷いた。
「一剛も男だな!よくやった!」
 ……そうは言いますけども、ご自身はどうなんですか、っていう。
 ――そうだ!
「香さん、一緒に回ってくれません? あんまり人数多いとアレですし。私と香さん、紅葉さんと川北先生って事で」
「! うん、いいね~。わかった!じゃ、一緒に行こ!」
 香さんは私の言わんとする事を察してくれたらしい。
 サッと紅葉さんの背後に回ってたきつける事も忘れない。
 あ、そだ。
「紅葉さん!イイモノあげます」
「ん?」
 そう言って手渡したのは、“幸せの花”だ。
「紅葉さんが幸せになりますように!」
 ぐいっと押し付けるようにして手に握らせる。
 少しの間放心していた紅葉さんだったけど、私の言いたい事がわかったようで。
「お、おぅ……頑張ってくる!」
 気合を入れて頷いてくれたのだった。

 そうして別れて、紅葉さんと川北先生の組を見送る。
「……告白するのかなぁ。うまく行くといいけど」
「本当にそうよね~。一応アドバイスはしておいたけど――どうなる事やら」
 やれやれ、と肩を竦める香さん。
 ま、一筋縄では行きそうにないからなぁ。でもそろそろいいんじゃないかと、思う。
 なんたって高校の時から――だもんなぁ。
「まぁ、なるようになるわね。 あとは若い二人に任せて、あたし達は思いっきり楽しみましょ!」
「はいっ!」
 あえて“若い”二人ってトコはスルーして、私は深く頷いたのだった。

 そして配布された食べ物片手に、いつの間にやら始まったゲームに興じていると、わらわらと散っていた皆がまた集まってきて。
「へへ、やっぱりお祭りは大人数が楽しいですねぇ!」
 キャンプファイヤーも皆で見て、なかなかに充実した時間を過ごしたのだった!

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