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▼ 第3章 第7話 共通
Aパート
花を降らすにはタイミングが重要だった。
奏和先輩、そして城崎君が同時にロープを操って布を一度バウンドさせてからふわっと落とす。
……って説明してもよくわかんないか。
とりあえず二人の連携にかかってるって事よ!
それから――観客を舞台に集中させる私の役目もまた、重要だった。
「ラッパ吹きから幸せのおすそ分けです!
よろしければお手に取り、持ち帰ってやってくださいませ。
それは皆様方、文化祭を最後までどうぞお楽しみください!!」
言い終えてからお辞儀をする。――そこで花が降るのがベストタイミング。
私は成功を祈りつつ深く頭を下げ、それから――上げた。
わぁっ……!
ひらひらと降る紙の花。それは遠目に見るとまるで本物のようで。
「えっ、わっ、コレ何!?」
「すげー、無駄に凝ってんなー」
「ゴミ……いや、さっきの花か?」
観客の皆さんも突如振ってきたモノに驚きつつも手にしてくれていた。
それを見ながら私は内心ガッツポーズ。
そして観客席が驚きに包まれているうちに端の方に移動する。
「このラッパから生まれた幸せの証、どうぞ皆様お手にとってくださいませ!
皆様に幸せがありますように!
本日は真に、ありがとうございました!」
再びお辞儀をして、それからソデへと引っ込んだ。
*
「美波ちゃんお疲れ様!」
もう既に着替え終わったらしい恵梨歌ちゃんが迎えてくれる。
恵梨歌ちゃんはコンクールの時も役掛け持ちとかしてたからなぁ、早着替えの達人になりつつある。
「恵梨歌ちゃんこそー!お疲れ様!」
ソデに引っ込むと同時に拍手が起こったらしい。パチパチという音が聞こえてきた。
一度劇が終わった時点でもう貰ってたんだけど、またしてくれたらしい!
拍手って、今まで頑張ってたのはコレの為だったんだ!ていうくらい貰えると嬉しいモンなんだよなぁ。
そんな事を思いながら舞台の片付けを始めていく。
午前の部の最後だから余裕はあるんだけど、舞台だけじゃなく観客席の方も片付けなきゃなんないからね。
花ぶちまけたっていうのもあるし、区切りの最後だから一応は掃除しなくちゃっていうのもある。
進行の人によるアナウンスがかかり、中に居た人達が出て行く音がした。
チラリと隙間から見ると――お、おお!!
「えっ、恵梨歌ちゃん見てみてー!」
バシバシと近くに居た恵梨歌ちゃんの腕を叩いてこちらに気を向かせる。
「ほらほらっ、ちゃんと持って帰ってくれてる!」
そう――出て行くお客さんの中には、先ほどの花を持ってる人がちらほら居たのだ。
「うわぁ……すごいね、本当に持って帰る人とか居たんだ……」
「恵梨歌ちゃん、君きみ」
“そういう”目的で花を降らしたというのに、――その言い方だと、それがさも珍しいかのようじゃないの。
思わずジト目で見てしまう。
すると恵梨歌ちゃんは顔の前でパタパタと手を振った。
「あ、ううん、ごめんごめん。目的はソレだったってわかってるんだけど。
こういうのってある意味、街頭で配ってるチラシみたいなモノなんじゃないかなぁって。だから一度は手に取っても、持って帰る人は居ないのかな……ってちょっと思ってたんだ」
「……まぁ、確かに」
もう一度お客さんを見た。
街頭チラシのように、後で捨てられる運命だとしても。
「今、持って帰ってくれてるんだから――目的は達したって事で!」
「うん……そうだね!」
それからまた舞台の片付けに戻る。あらかた片付けた後、客席の方へと行った。
上から落とした数に比べれば、思った以上にその数は減っている。
私は残っていた花を手に取った。
「……へへ、幸せげっと――なんちって」
劇中では“幸せ”の定義は人それぞれだったけど、私の場合は何になるんだろう。
ふと、そんな事を思った。
周囲を見渡すと片付けをしている仲間達。
――入部した時はどうなるかと思ったけど、今やこんな風にちゃんと活動も出来る。勿論、ここには美術部の皆も居るし、吹奏楽部にも随分とお世話になった。だから、演劇部だけの力じゃないんだけど。
「美波ちゃん、どうかした?」
「先輩」
奏和先輩も落ちてた花を拾い集めていたらしい。
その手に持った“幸せ”を見て、つい口元が緩む。
「私、幸せだなぁって思って」
「え?何なに~、いきなり~」
先輩はそう笑ったけど、すぐに小さく頷いた。
「ふふ、僕もなんだけどね。ほんの数ヶ月前には廃部を覚悟してどんより気分だったのにね。
でも今はこうして劇も出来る。この数ヶ月で3本もしたんだよ!すごいでしょう、コレは」
誇らしげに胸を張って先輩は言った。
「まぁ、3本――って言っても、条件付みたいなのが2本だから、言ってみれば今回が初めての純粋な活動かもしれないけどね」
1本目の赤ずきんちゃんは廃部ギリギリで何か少しでもやらなくちゃ!という危機感から。
2本目の薔薇姫は今までのツケのせいでされた廃部宣告から逃れる為に。
そして今回は……文化祭の出し物として。ただただ楽しいモノとして。
だから、何の制限も無かった。
「なんだか怒涛の数ヶ月って感じでしたよね~」
たはは、と笑いながら言うと先輩も笑った。
「うん、ホントに。……ね、美波ちゃん」
「はい?」
「もう何回も言ったかもしれないけどさ――美波ちゃんが来てくれて、本当に良かった」
優しい笑みで先輩は言う。
「だから――ありがとうね」
「先輩……」
確かにもう数回言われたような気がしますけど……いや、でも!
「こちらこそっ、先輩が居てくれたから部活があったワケですし!へへ、ありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げる。
「ささっ、片付け続行しましょー!んでもって文化祭巡りに繰り出さないと!」
「うん、だね!」
拾った花を持ってきた時と同じ箱に詰める。
箱いっぱいにあったソレが随分少なくなっているのに喜びつつ、
「……私も、貰っとこ」
“幸せ”を一つ頂いた私なのだった。
* * *
その後空き教室まで道具諸々を全部運んで、それから紅葉さんのお言葉。
「上出来!ミスも無かったし、最後もうまく行ったな!」
ウンウンと頷きながら紅葉さんは言う。
「観客の反応もまずまずだったぞ。花を持ち帰ったヤツも多かったみたいだしな」
おお……!
今回紅葉さんは客席側から見ていたので、その言葉は確かなんだと思う!
「まぁ――それでも反省点がある事はある。でも、それは後だな!今日は祭りだ、まずはそれを楽しめ!」
「はいっ!」
一同返事をして深く頷く。
それから紅葉さんは美術部の面々を呼び寄せた。
「前回も今回も手伝ってくれて本当に助かった。お礼――というのもなんだが、飲食系の店で使えるタダ券をやろう」
言いながら一人ひとりに券を配っていく。
わ、私も欲しい……と思うものの、これはお礼だからね。そんな事は言えない。
「こちらこそありがとうございました。また何かあったら是非手伝わせてくださいね。
あぁ、後――良かったら、展示も見に来てください」
部長さんが優しく笑って言ってくれた。
「はい、是非!」
もとより、見に行くつもりではあったんだけどね!
そうだ。お礼と言えば――
「吹奏楽部のヤツ等にも渡さなきゃな。あと、午後の部で手伝いするからな。忘れずに時間になったら来るように」
「了解でっす!」
そうそう。今回ラッパ吹きを教えて貰った代わりに楽器の運びいれとか手伝うことになってたんだよね。
「じゃあ、それまでは自由行動。 ひとまずは解散だ」
ぺぺぺいっと空き教室から出され、各自散っていく。
私はと言うと……。
「高科さん、行こうか」
「うん! 恵梨歌ちゃんも行こっ!」
「はいはい~」
クラス当番なので、同クラスの2人と一緒に教室に戻る事になっていた。
「美波も当番かー。オレもー……お化け役だぜぇ、タリーわぁ」
那月君がダレながら言う。
「僕も丁度当たってるんだ。残念だな……美波ちゃん確かメイドさんになるんだよね?」
「……そ、そぉですが」
クラスの事はあんまり話してなかったハズなんですが。
とか思ったけど――また例の秋ヶ谷情報網ですかね。ていうか恵梨歌ちゃんが話さないはずが無さそうだ。
「見たかったなぁ。……でも当番がなぁ……」
午前の部に本番があって、午後の部にも手伝いがある私達は丁度この時間しか都合がつきそうになかったんだよね。だからまぁ、仕方ないという事で。
「私達も頑張りますから、先輩も頑張ってください!」
「うん、頑張る!」
ぎゅっと両手を握って頷いた先輩の横にひょこっと那月君が現れる。
「美波っ、オレは?!」
「那月君は――……ほ、程ほどに頑張ってね」
「!? なんだよー、ソレ!」
だってお化け役なんでしょ!?ホラー苦手な私に頑張れなんて言えるかい!
……と思ったんだけど、あんまりショボくれているのでぽむぽむと肩を叩く。
「嘘ウソ。頑張ってね、那月君!」
「お、おぅ!悲鳴上げさせまくってやるぜ!」
……。
――前言撤回したくなったけど、ま、いいか。
そして教室へとやってくる。
朝ちょっと顔出したんだけど、客が入るとまた印象違うなぁ。
「あ、高科ちゃん来たー!早く早く!」
着くや否やタカに腕を取られて、奥のスペースに連れて行かれる。
「思った以上に人が来てて大変なんだよ~。あ、秋ヶ谷ちゃんも!ね、着ない?」
メイド服にも限りがあるので、女子でも着ない人は居る。恵梨歌ちゃんはそっちに入っていたハズなんだけど。
「服余ってるんだよー。ね、ね?」
タカの言葉に恵梨歌ちゃんはにっこりと微笑み。
「うん、着ないかな」
……ですよねー。
いやいや、でもコレは決して意地悪で拒否したワケじゃなくて!
「だってわたしはお菓子作らなきゃ、でしょう?大切な衣装が汚れたら困るわ」
「それもそうか」
ぽむっと手を打ってタカは続ける。
「別室で作る予定の分が足りなくなってきてるみたいだから、お願いします!」
「了解。それじゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃーい!」
ひらひらと手を振って見送る。
そして私はカーテンを利用した即席更衣室でササッと着替えた。
店になってる方に出ると、確かに随分と急がしそうだ。
「高科さん、お客さんだ」
「あ、はい!いらっしゃいませ!」
呼び込みをやってた城崎君がお客さんを連れてくる。
ちなみに男子の役はこんな風にお客さんの案内やビラ配り、それに家庭科室で作ったお菓子の運搬やジュースの買出しだ。
女子ばっかり大変な気がしてたけど、そんな事も無さそうで。
「まだまだ居るようだから、頑張って」
「うん!」
小声で言葉を交わしつつ、私は接客業に徹するのであった――。
*
「っはー……終わったぁ」
「お疲れ様!さっ、コレでも飲んで~」
タカからジュースを受け取り、それを飲む。
当番中はひっきりなしに人が来て、息つく暇も無かったからなぁ。
……やっぱアレか、皆メイドが気になったのか。結構ジロジロ見られたしなぁ。
「次の当番の子も来たし、高科ちゃんは祭りを楽しんできてね!」
「うん、ありがと~。タカもファイトッ」
制服に着替えて、いざ出陣だ!
さて、誰の所へ行く?
那月君
城崎君
奏和先輩
櫻
恵梨歌ちゃん
ゲーム内では6話最後でキャラを選択するようになっていました。
Bパート・Dパート共に同じキャラを選択すると、話が破綻しないようになっています。
「恵梨歌」はノーマルになります。
Cパート
色々と回った後、美術部にもちゃんと行ってきた。
芸術が今ひとつわからない私でもなかなか見ごたえのある展示作品達で。……ていうか、これだけの力作を描いた上で手伝ってくれてたとか――あの人達は超人か何かなんですかね。
「高科ちゃん、来てくれたんだ!」
「もっちろんですともー!当番、お疲れ様~」
丁度木場ちゃんと安部ちゃんが当番だったらしく、話に華を咲かせる。
それぞれのテーマなんかを解説して貰いつつ、十二分に芸術に触れたのだった。
* * *
そして午後の部の最後――吹奏楽部の出番がやってきた。
体育館に手伝いに来た私はまず、その楽器の量に驚いた。
トランペット習いに行ってた事は行ってたんだけど――まともにこういのは見なかったからなぁ。
「そこの入り口打楽器類運び入れてくれる?無理はしないで、着実に、ね」
「はいっ」
結構重いモノが多いらしく、なるほど、打楽器の皆さんの腕がムキッとしてるのはこのせいだったのか。
私達はどらむせっと?やら、まりんば?やらを運んだ。
てぃんぱにーとやらも運ぼうと思ったんだけど――アレ、わけわかんないだもんなぁ。キャスターついてるけど操作難しいし!
それをすいすいっと運んでいくかっちゃんに尊敬の念を抱かずにはいられなかったものだ。
ややあってアナウンスがかかり、指揮台に顧問の先生が立った。
演奏が始まる。
私達は体育館の端に寄りかかって聞いていた。
「……やっぱり生の音はいいね」
「そうですね……すごい迫力、です」
先輩が小声で言う。私も深く同意しながら、頷いた。
何が違うんだと言われたら説明しにくいかもしれない。でもやっぱり、生の音っていうのはそうじゃないのとは一線を画していると思う。
直接響くっていうか……おかしいな、別にそういう曲じゃないのに――泣けてくる。
「本当に――すごい、です」
「うん、そうだね……」
何曲も演奏したから実際は長かったんだろうけど、なんだかすぐに終わってしまったような感じだった。
「木ノ川先輩、お疲れ様でした!」
「ありがと、美波ちゃん」
楽器を運び出しながら、横を通った先輩に小声で話しかける。
木ノ川先輩はなんとソロもあって、すんごいかっこよかったんだよなぁ!
「美波ちゃんも劇、決まってたわよ~。吹奏楽部に欲しいくらい」
「へへ、ありがとうございます。 でも私は演劇部員ですから!」
「わかってるって~」
うりうりぃっと突かれる。
「楽器運ぶのも手伝ってくれてありがとね。おかげですごいスムーズだったよ」
あたふたしちゃった部分もあったので邪魔になったんじゃないかと思ってたけど――それなら良かった。
演奏前と同じように楽器を全て運び出して音楽室まで運んだ。
全部を終えた後、美術部と同じように紅葉さんがタダ券を渡してお礼タイム。
「今回もご協力、ありがとうございました!」
また何かあったら頼みます、なんてちゃっかり言ったりなんかして、ね。
*
そうして吹奏楽の面々とも別れた後、意外な人に会った。
「美波ちゃん見っけー!」
「小夏ちゃん!?」
パタパタと駆け寄ってくる幼女はまさしく小夏ちゃんで。
「あれー!お前等来てたのか!」
「那月お兄ちゃんー!来たに決まってるじゃん!劇もね、見たよ!」
「おおー、そうかそうかー!!」
きゃっきゃとじゃれあう兄と妹。
その横で、それの更に兄と、そして弟君が和やかに見ていた。
「冬輝お兄ちゃんのもバッチリ見ましたよ。女の人でしたね」
「……あ、あぁ、そうだったな」
晴矢君――そこはスルーしてあげた方が良かったと思うよ……。
「それにしても、何で制服なんだ?今日はお休みだったんじゃなかったか?」
「そうだよー!でも用事があったから仕方ないの!ね、ママ!」
あ、城崎母も来てたんだ。
まぁ、子供達だけって事は無いだろうから当たり前なんだけど。
「えぇ、先生方にちょっとお話をね。ホラ――小夏も、それに晴矢までこないだ脱走したでしょう?だからそれのお詫びに行ってたのよ」
全くこの子達ったら、と奈津さんは困ったように笑う。
そういや二人して (それぞれに、だけど) 居なくなったりしてたもんなぁ……。本人達は悪気無いんだろうけど、アレは肝が冷える。
「ごめんなさい、お母さん」
「ああ、ううん。怒ってないわよ。でもね、先生達にも心配かけたから、お母さんが直接言ってお話しなきゃいけないな、と思っただけ」
項垂れる晴矢君の頭を奈津さんが撫でる。
……こうして見るとホントの親子にしか見えないんだよなぁ。
そして更に、今回は母だけでなく、
「いつも息子達がお世話になっています」
父も居た!
確か前に名前教えて貰った……も、貰った――けど、覚えてるハズが無い!
「城崎優希です。この子達の父親やらせて貰ってます」
やらせて……って、その言い方だとなんか義理の人みたいですよ。
まぁ、そんな事は無いんだろうけど。
「いえいえ、こちらこそお世話になってます!」
ぺこりと頭を下げる。
柔和な顔つきの、すごく優しそうな人だった。
なんかおかしいんだけど――子供達の中で、一番晴矢君に似てるような気がするのは気のせいかな?次点で城崎君か。
そんな事を失礼は承知で城崎君に言ってみた。
――晴矢君って本当に血繋がってないんだよね、と。
「勿論繋がってないけど。……でも確かに、晴矢は随分と父さんに似てる気もするよ。
思い返せば、父さんと春菜さん――あぁ、晴矢の母親だけど――は似てたし、そういうモノなのかもね」
「へぇ~」
まぁ、世の中似てない親子なんて腐るほどいるし、その逆で似てる他人ってのもいるからなぁ。
「晴矢は本当に春菜さんにそっくりだからね。微妙にちゃっかりしてる所は父親似だろうけど」
クスクスと笑いながら城崎君は言った。
……そこは笑ってもいい所なんですかね、とは思いつつ、私も微妙に笑い返したのだった。
そんな風にしてちょこちょこ話をしてる時、ふと奈津さんが言った。
「あぁ、そういえばさっき素敵な話を聞いたわよ~」
何でも劇が終わった後、出て行く時に前に居た中学生とおぼしき子達の話が聞こえたそうで。
「劇にいたく感動して、来年この学校に入学したら絶対演劇部に入る!って」
「ええええ!!それ本当ですかー!!!」
うっはぁあ!!未来の後輩って事でしょ、それ!!
「“来年”ってトコは聞き間違えていないと思うから――気が変わらなければきっと大丈夫よ」
まだ入学までは時間があるから、ああ、何卒何卒気を変えませんように!
なむなむなむ!と両手を刷り合わせる。
それにしても後輩、か~。次も私達と同じくらい入ってくれないと、将来的にマズい事になるのかなぁ。
とりあえず一剛君は絶対入ってくれるでしょ、んでもってその子もゲットで――後二人かー。
ムムムと考え込んでいると、ぽむっと肩を叩かれた。
「美波ちゃん、今“取らぬ狸の皮算用”してないかな?」
「あ、先輩――バレました?」
「うん、……なんとなくそうかな、って」
でも嬉しい方向への妄想は止め処なく広がるってモンなんですよ!
……とは言え、程ほどにしておかないと予想通りじゃなかった時のダメージがデカいんだけどね。
「素敵情報ありがとうございました、奈津さん!かなり未来に希望が持てましたよ!」
「ふふふ、頑張ってね皆。応援してるわ~」
そうして城崎家族は去っていった。
この後、まだ祭りは続くんだけど小さなお子さんがいるからなぁ。早々に引き上げ、ってトコだろう。
そう――まだ、祭りは続く。
午前の部、午後の部が終わった後、やってくるのは後夜祭、だ!
『皆さん文化祭をお楽しみでしょうか。じきに後夜祭が始まります。係りの人は速やかに準備を始めてください』
放送がかかり、ゾロゾロと皆移動し始める。
後夜祭ってのが何をやるのかはいまいちわからないんだけど、テンション上がりまくってはっちゃける時間って認識は間違ってないと思う。
聞いた話によると、売れ残った食べ物系とかは無料配布されるらしいしね!
……だからそれまでにいかに売るか、が腕の見せ所ってワケだ。
「さて、僕達はどうしようか?」
「特に係りとかは無いんですよね?」
係りというのはほとんどが部活ごとに割り振られているものらしい。
文化部は色々と忙しいから、それらの役は運動部に回されることが多く。
「うん、無いねぇ。どうしても暇だったら、何かあるか聞くけど?」
……折角の自由時間をむざむざ潰すのもなぁ、とは思いつつ、でもやる事が無いのも確かだった。
というワケでとりあえずは校庭で作業中の軍団の所へ行く事に。
*
校庭ではキャンプファイアーの準備が進められていた。
指示をしているのは副会長さんだった。周囲には生徒会と思しき人が居る。顔は見えないけどもじゃもじゃ頭だ。ちょっと紅葉さんを髣髴とさせる。それに……あれ?その向こうに居るのは、一剛君かな?
「壱奈」
「奏和か。どうかしたのか?」
「うん、僕達も何か手伝えないかなって思ってきたんだけど―― 一剛君にも手伝って貰ってるの?」
やっぱり一剛君だったらしい。
……あれ、そういや今日見るのもしかして初めて?
練習や準備段階ではちょこちょこ顔見せては手伝ってくれたけど、今日はあくまで“高校”の出し物だからなぁ。劇を見てはくれたんだろうけど――その後どうしてたんだろ。
そう思ってこそこそっと恵梨歌ちゃんに聞くと、すぐに返答があった。
「美波ちゃんがメイドさんしてる時にわたしの方には顔出してくれたよ。劇もちゃんと見てくれたって。その他の時間は生徒会の助っ人してたみたいね―― 一剛君、中学で生徒会だから」
「そうなんだ」
だから今もここで作業してるってワケか……。
それにしても恵梨歌ちゃんのトコには顔出しって――ちゃっかりしてるなぁ、一剛君ってば。
ともかくとして、私達もその作業に加わることになった。
やはり5人足されると随分違ったらしい。予定よりもかなり早くに組み終わる。
「よし、こんなモノかな――後は先生方に点検してもらって、っと。
皆ご苦労様。生徒会の人間は残ってる部分を担当してくれ。それ以外の面々は祭りに戻ってくれて構わない」
テキパキと指示、行動する副会長さん。うーん、ホント“副”とは思えないよなぁ。
この人の更に上に居る生徒会長さんってのはどんな人なんだろ。
もう散っちゃったけど、生徒会の人達がここにほとんど居たとしたら――近くに居たかもしんないよねぇ。
そう思ってキョロキョロしていると、先輩が不思議がって寄ってきた。
「何してるの美波ちゃん?」
「あ、先輩。 いや、生徒会長さんってどの人なのかなーって思って」
ここに居たという保証も無いんだけどね。
でも先輩は首を傾げつつ、言った。
「どの人って――さっきからそこに居るじゃない」
指差したのはさっきのもじゃもじゃ頭。……。……え?
「ええええ!!あ、あの人が生徒会長さんなんですか?!あの影の薄そうな!?」
副会長さんがアレだから、もっとオーラのあるスゴイ人かと思ってた。
もじゃもじゃ頭の人は顔はよく見えないけど、どう思っても“そういう人”とはかけ離れてる気がして。
「前にも言ったけど、生徒会長さんはあんまり人前に出るのが好きじゃなくてね。あんな風に普段から目立たないようにしてるんだよ」
「へ、へぇ……」
それって生徒会長としてどうなんだろ、とは思いつつ、でも仕事はきっちりしてるんならそれでいいのかなぁ。
先生の点検も無事に済み、キャンプファイヤーは準備が整った。
他の所も徐々に後夜祭モードに移っているらしい。
「それじゃあ僕らはそろそろ解散しようか。後夜祭まで部活で固まってる理由も無いしね」
先輩のその一言で私達の集まりはそこでお開きが決定した。
皆それぞれに散っていくけど―― 一人で後夜祭っていうのは些か淋しいモノがあるってもんで。
誰か誘おう、っと! 誰にしようかな?
那月君
城崎君
奏和先輩
櫻
恵梨歌ちゃん
ゲーム内では6話最後でキャラを選択するようになっていました。
Bパート・Dパート共に同じキャラを選択すると、話が破綻しないようになっています。
「恵梨歌」はノーマルになります。
Eパート
後夜祭が終わり、浮かれ気分は私は寮へと帰った。……ま、仕方ないよね!
で、部屋に入ったんだけど。
「ひっ、座敷童?!」
ずどーんという効果音を背負った恵梨歌ちゃんが部屋の真ん中に座っていた。
「え、恵梨歌ちゃんか……どうしたの、電気もつけずに」
ぽちっとボタンを押して電気をつける。
すると恵梨歌ちゃんの頬が妙に赤いのに気づいた。
「……もしかして―― 一剛君に何か言われた?」
途端、ビクゥッとなる恵梨歌ちゃん。わほー、図星っすな!
「い、一剛君と回ってて……それで、キャンプファイヤーに火がついた頃に、ね、その……こ、告白っ、されて」
真っ赤になって話す恵梨歌ちゃん。
あぁ、神様。昨今の彼女は悪魔のようでしたが、まるで憑き物が落ちたようですよ!
「ふふふ、恵梨歌ちゃんかーわいー」
ツンツンとつついてしまうくらいに可愛いっ。
「それで?返事はどうしたの?」
「う、うん……もうちょっと考えさせてって――逃げてきちゃった」
ありゃりゃ。
「でもさ、恵梨歌ちゃん、前に告白してきた陸上部のヤツとは随分反応が違うじゃない?
だから――もう、何て返事すべきか、わかってるんでしょ?」
私の問いに恵梨歌ちゃんは小さく、とても小さくだけど頷いた。
「……わたし、多分一剛君の事好きなんだわ。気づいてなかっただけで……きっと、ずっと前から」
頬を押さえつつ言う恵梨歌ちゃんに正直、悶えずにはいられなかったワケで!
「じゃあ、そのままの答えをすぐにでも一剛君に伝えるべきだよ!ほらほら、善は急げっ!」
そうやって恵梨歌ちゃんをたきつけて電話を入れさせる。
メールでもいいんだろうけど、やっぱり文字より声でしょ。
……欲を言えばじかに会って、ってのがベストなんだけど。でも時間が経って言うのに躊躇しそうになったりしたら困るしね!
少しの時間そうやって話していて、なんとか話はついたようだった。
「付き合うことになっちゃった」
放心状態で恵梨歌ちゃんは言う。
「そっか。 うん、おめでと恵梨歌ちゃん!」
それからは文化祭の事、劇の事、一剛君の事――そういうので盛り上がりつつ、夜は更けていった……。
* * *
文化祭終わって、次の日。
祭りの後は片付けさんが待っている。
美術部や吹奏楽部の面々が手伝いを申し出てくれたんだけど、流石に片付けまで手伝ってもらうのは気が引ける。
という事で演劇部だけで黙々と片付けていた。
「ようし、大体終わったな。じゃあそのままでいいから昨日の反省点言っていくぞー」
「はいっ!」
ミスは無い――とは言え、もっと良く出来る部分も多々あって。そういう所を紅葉さんは上げていく。
つまりはそこを直せば、まだまだ良くなるって事なのだ!
「――とまぁ、こういうトコを踏まえてこれからも練習に励む事。いいな!」
「はい!!」
片付けを終えて、空き教室から出る。
次にまた大きな劇をやらない限り、しばらくは部室オンリーになるんだろうなぁ。
サラバだ空き教室さん。また会う日まで――なんちって。
部室に帰るともうすぐにその日のメニューを始める事になる。
でもその前に。
「次の予定は何かあるのか?」
「そうですね……積極的に行きたいですし、調べてみますね」
奏和先輩が言った。
他の部活とかから考えると、夏のコンクールとかあったりするのかなぁ。
まぁ――何があるにしても!
「次がなんであれ、全力でぶつかっていくだけですよね!!」
「いや、美波――この場合、ぶつかるんじゃなくて“立ち向かう”にしとけ。なんかぶつかった後、砕け散りそうだから」
「……で、ですね」
ぶつかるのは全てをやり終えて、あとは本番!っていう時だけにすべきかな。
「でも、美波の言う通りだな。何事にも全力で――それでこそ、道は開けるっていうもんだ」
紅葉さんがウンウンと頷きながら言う。
ハハーン、さては川北先生と何か進展があったな?全くこの幸せモノめー!
「俺は今まで通り、お前等をビシバシ指導していってやる。
とりあえずは色んな劇を、色んな役をやっていこう。人は人生で自分しか演じられないけど、芝居では誰にでもなれる。その喜びを、快感を。舞台に立つってのがどんなに素敵なものか――きっちりわからせてやるから」
紅葉さんの言葉にゾワッと肌が粟立つ。
“芝居では誰にでもなれる”とか――あぁ、こういうのに弱いんだよね、私。
まだ3役しかやってないけど、でもこれからどんどん新しいモノに挑戦していくんだ。それこそ、数え切れないくらい。
そして数え切れないくらい舞台に立ってみたい。
紅葉さんの言うような喜びや快感は全てをわかったワケじゃないけど、でもその端っこにはもう触れてしまったから。
一面からだけでなく、他方面からの人生を演じる。一色だけじゃない、七色に輝く舞台に立ちたいんだ。
「という事で、その為には日々の鍛錬は欠かせない。早速筋トレ行ってこい!」
「はいっ!!!」
一同は深く頷いた。
そして準備を始めるんだけど――あ、ダメだなんかもうニヤけてきちゃう。
「美波ちゃん笑いっぱなしね」
「そういう恵梨歌ちゃんこそ~」
だって嬉しいんだもん!次はどんなお話なのかな、とかさ!
そういう事と、さっきの妄想を合わせて話してみると恵梨歌ちゃんも同意してくれた。
「七色に輝く舞台――か。うん、本当にそうだね。虹色の舞台って事だ」
「そそ!その虹色の舞台の上で、色んな役の人生をドラマチックに彩っていくワケよ!っくー、しびれるぅ!」
まだ何も決まっていないけれど、興奮は高まるばかりってヤツだ!
私はその勢いのまま、
「これからもこの風倉演劇部――盛り上げていっきましょー!!」
握りこぶしを掲げて半ば叫ぶようにして言った。
掲げた拳の横に、他の人のも加わっていく。
「うん、頑張ろうね!!」
「おう、あったりまえよ!」
「あぁ……そうだな、気合を入れていこう」
「そうだね、盛り上げて行こっ!」
*
そんな風にして、私達はまた新たなステップへ向かっていった。
例え何があろうとも全力ぶつかっ――じゃない、立ち向かっていく。
そう心に決めて、一歩を踏み出していくんだ!
終わり