あの嫌な気分は一体なんだったのだろう?
 たかが噴水と言ってしまえばそれで終わりになるのだが、されど噴水。噴水好きの僕にとっては“どーでもいいや”と簡単に流せるようなものではなかった。
 片羽……なんでンなもん作ったんだ。
 そう、あれはどう見ても作られたもの ―― 壊れたような感じではなかった ―― だった。
 ……なんか不吉な感じがするなぁ……。

 僕は思わず震えた肩を抱いて、小走りに入り口へと向かっていった。
- 第2話 「深まる不安と不思議」 -
 噴水を見た後はただ館の入り口へと続く道を歩いていった。
 その道にはレンガが敷き詰められていて、歩くと“カツン”という音がした。
 まぁ、スニーカーとかで歩くと音はしないのだろうが。……僕はその日、ちゃんとしたビジネスシューズを履いていた。
 その道の両脇には芝生が広がっていて冬だというのにも関わらず、所々には華が咲いていた。どんな名前かは知らないが甘い感じの良い匂いが漂っていた。



 周りの景色やリズミカルに鳴る靴の音を楽しみながら歩き、僕は玄関口に着いた。
 これまた素敵な彫刻が施されていて、何処と無く神秘的な感じだった。
 とりあえず僕はここに入ってきたときと同じようにインターホンを探した……。が、ここの家はインターホンをつけていないようで、いくら探しても見つからなかった。
 なのでしばらく扉の前で待っていたのだが、さっきのように自動で開いてくれるわけでもないようで。
 扉は鎮座している。
 仕方なく僕はノックをした。

「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」
 はじめのノックでは誰も出てこなかった。もしかしたら聞こえなかったのかもしれない。
 そう思い、僕はもう1回ノックをしてみた。 すると、
「どなた様でしょうか?」
 声だけで判断するのはあまり得意ではないが、年の頃なら19、20歳くらいだと思われる女性の声がした。よくいう召使(メイドさん)……というやつなのだろうか?
 しかし、この召使 ―― 本職なのかバイトなのかどうかは知らないが ―― 声に警戒心がある……?
 そりゃあ初めてだし、昨日あんな事があったのだから仕方ないだろうけど……。
 それは不自然すぎるほどのものだった。
 その時、僕は不意にあの片羽の天使がいる噴水のことを思い出した。
 ま、まさかしょっぱなからヤバイ感じなのだろうか?うー……ヤダなぁ……。

「……・・あの?どなた様でしょうか?」
「へっ?」
 はっ、色々考えているとつい返事が遅れてしまったようだ。
 考え事を始めると人の話しが聞こえなく ―― “聞かない”じゃないぞ、“聞こえなく”だ ―― なってしまう。……僕の悪い癖だ。

「あ、すいません。ぼ……いえ私、県警の山下尚吾と申します。お宅で盗難事件があったとの通報があったので伺ったのですが……」
 扉を挟んでいるので見えないのは分かっているけど、僕は背筋を正しながら言った。
「県警の方……ですか?…………・・少々お待ちください。」
 そう言われたので僕は扉が開くのを待っていた。
  しかし……思い違いかもしれないが少し疑問を持ったように聴こえた。それと不信感が入ったような……。
 なんだか不安だ。



 しばらくすると……さっきの声の人だろう、若い女性が扉をあけてくれた。
 声から創造するともう少しキャピキャピ(死語?)しているのかと思っていたが割りと大人しそうな子だった。 いや、大人しいというか……キリっとした感じの整った顔立ち。スタイルもいいし……はっきりいって可愛い。
 それに自分に責任を持っていて、しっかりしてるような印象を受けた。
「ご主人様がお待ちです。こちらにどうぞ。」
 とりあえずその子のあとについて行くと、ある部屋に通された。



 ソファやテーブルが綺麗に配置されている、所謂客間というやつだった。
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