噴水を見た後はただ館の入り口へと続く道を歩いていった。
その道にはレンガが敷き詰められていて、歩くと“カツン”という音がした。
まぁ、スニーカーとかで歩くと音はしないのだろうが。……僕はその日、ちゃんとしたビジネスシューズを履いていた。
その道の両脇には芝生が広がっていて冬だというのにも関わらず、所々には華が咲いていた。どんな名前かは知らないが甘い感じの良い匂いが漂っていた。
周りの景色やリズミカルに鳴る靴の音を楽しみながら歩き、僕は玄関口に着いた。
これまた素敵な彫刻が施されていて、何処と無く神秘的な感じだった。
とりあえず僕はここに入ってきたときと同じようにインターホンを探した……。が、ここの家はインターホンをつけていないようで、いくら探しても見つからなかった。
なのでしばらく扉の前で待っていたのだが、さっきのように自動で開いてくれるわけでもないようで。
扉は鎮座している。
仕方なく僕はノックをした。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」
はじめのノックでは誰も出てこなかった。もしかしたら聞こえなかったのかもしれない。
そう思い、僕はもう1回ノックをしてみた。 すると、
「どなた様でしょうか?」
声だけで判断するのはあまり得意ではないが、年の頃なら19、20歳くらいだと思われる女性の声がした。よくいう召使(メイドさん)……というやつなのだろうか?
しかし、この召使 ―― 本職なのかバイトなのかどうかは知らないが ―― 声に警戒心がある……?
そりゃあ初めてだし、昨日あんな事があったのだから仕方ないだろうけど……。
それは不自然すぎるほどのものだった。
その時、僕は不意にあの片羽の天使がいる噴水のことを思い出した。
ま、まさかしょっぱなからヤバイ感じなのだろうか?うー……ヤダなぁ……。
「……・・あの?どなた様でしょうか?」
「へっ?」
はっ、色々考えているとつい返事が遅れてしまったようだ。
考え事を始めると人の話しが聞こえなく ―― “聞かない”じゃないぞ、“聞こえなく”だ
―― なってしまう。……僕の悪い癖だ。
「あ、すいません。ぼ……いえ私、県警の山下尚吾と申します。お宅で盗難事件があったとの通報があったので伺ったのですが……」
扉を挟んでいるので見えないのは分かっているけど、僕は背筋を正しながら言った。
「県警の方……ですか?…………・・少々お待ちください。」
そう言われたので僕は扉が開くのを待っていた。
しかし……思い違いかもしれないが少し疑問を持ったように聴こえた。それと不信感が入ったような……。
なんだか不安だ。
しばらくすると……さっきの声の人だろう、若い女性が扉をあけてくれた。
声から創造するともう少しキャピキャピ(死語?)しているのかと思っていたが割りと大人しそうな子だった。 いや、大人しいというか……キリっとした感じの整った顔立ち。スタイルもいいし……はっきりいって可愛い。
それに自分に責任を持っていて、しっかりしてるような印象を受けた。
「ご主人様がお待ちです。こちらにどうぞ。」
とりあえずその子のあとについて行くと、ある部屋に通された。
ソファやテーブルが綺麗に配置されている、所謂客間というやつだった。 |