召使(メイドさん)に連れられてやってきた客間。
 その客間には、とても偉そうにふんぞり返ったガマガエル……もといこの館の主人が待っていた。
 見るからに脂ぎった顔、思わず「生きてますか?」と聞きたくなるくらいの瞳。どこからどう見ても“ヒト”と言う哺乳類ではなく“カエル”とか“イモリ”とかと一緒の両生類である(両生類が可哀想かもしれないが)。

 吐き気を感じたが僕はソレを必死で隠し、とりあえず勧められたソファに座った。
- 第3話 「ガマガエルの言い分」 -
 このガマガエル……じゃなかったこの館の主人。
 名前は筋谷陽一(すじたによういち)と言い、あの有名な筋谷グループの会長だそうだ。筋谷グループとは今、売れに売れているコンピューター会社だ。まぁ、最近は他社も売上を伸ばしてきてちょっと大変という噂だが……。
 そこで僕は改めて筋谷さんを見た。……流石に真正面から見る根性はなかったが。
 この会長、おそらく年は50代前半。52,3というところだろう。でも脂ぎった肌やあまりにも不相応に黒い髪で本当の年齢はわからない。もしかすると40代後半かもしれない。
 しかし40代後半にしても50代前半にしても会長というのはちょっと引っかかる。 なんというか会長というのは現役引退して後ろから……というイメージが強い。
 だからもっと60代とか70代というのが普通だと思うのだが。 もしかするとこのガマガエルの風貌が嫌がられてさっさとこの会長職に追いやられたのかもしれないな。
 などと思い苦笑していると、突然ガマガエル(筋谷さん)が言い出した。

「私は無実だ!!あいつだ!!あいつがやったんだ!! おぃ、貴様本当に刑事なんだろうな? それだったら早く宝石を取り返せっ!!」

 ……………………。
 こんのクソガマガエル。ちゃんとわかるように説明しろっての。
 あいつって誰? 本当に刑事? 当たり前だろっ!!

 声には出さないが思い切り叫びたくなる感じだった。
 世の中には1人ならず何人もいるタイプ。 自分よければ全て良し。こういうやつは一度ならず、何度も罰を受けたほうがいい。
 色々と思うことはあったがいつも通りの営業スマイルで訊いてやった。
「はじめまして。私、県警から参りました山下尚吾と申します。 お宅で宝石が盗まれたとの通報があり伺ったのですが……。 さきほど申されました“あいつ”とは?」
 警察手帳を見せながらとりあえず“あいつ”のことを訊いた。
 すると、このクソガマガエルは後ろに倒れるぞ、というくらいに踏ん反り返って言ってきた。
「あいつが誰だと? 貴様そんなことも調べてないのか?! なんてやつだ。さっきのやつも全然調べてない風だったし。 ……警察も腐ったものだ。」

 んっんっんっんっんっんっんっんっんっ。 えぇかげんにせぇよ、おっさん。
 折角出向いてやったっていうのにまったく近頃の年寄りはなってねぇ。
 まず質問には答えねぇし、ちゃんとしたこと言わねぇし、勝手にわけわからんことで怒るし。あげくの果てに警察が腐ったものだとよ。そりゃぁ警察だって新鮮とはいえねぇけどよぉ、まだ食えるぜ?

 と、どなり倒してこの館からさっさと出て行こうかと思ったが、僕は寛大な心でその言葉を飲み込みんだ。そして、さっきのガマガエルの言葉をもう1度考えてみた。
 ……“さっきのやつ”? 一体どういうことなのだろうか?
 さっき、つまり僕の前にこうしてこのガマガエルに会ったやつがいるってことか?でもどうやって……?それよりどうして?なんの為にこのガマガエルに会ったんだ……?
 疑問が増える。……そういえばさっきの召使も不信そうな声で言ってたな。
『県警の方……ですか?』
 これはもう来ているのにおかしいと思ったのだろうか。 と、いうことはこのまだわからないやつは県警の名を語りこの館に入ったということだ。
「おぃ」
 …………ますますわからん。一体何で、そんなことをする必要があるというのだろう。
「おぃ。 聴いているのか?」
 だいたい僕じゃなくても誰かはここに来るはずだし。こういう風になることはわかるはずだ。
「おぃっ!!こらっ!!聴いているのかっ!!!」
 第一ここにきて同じことを訊く。それがわからん。あーもー……なんなんだ。

「こらぁっ!!聴けというとろうがっ!!!」

 ん?何か声がしたような……・。
 と、顔を上げてみるとガマガエルが椅子から立ち上がり、何かを叫んでいた。

 …………………………。
  ……………………………………・・。
   ………………………………………………………………・。

 っっっはっ!! しまったっ!! またやってしまったようだ……。考えると周りが見えなくなる癖。ヤバイ、ヤバイ。あー。どんなこと話してたっけ? そうそう確か“あいつ”がどうのこうの……。
 僕は気を取り直し、極力普通の顔をして口を開いた。
「すみません。それで“あいつ”とは?資料には何も書かれていませんでしたが?」
「うむ……そうか。 では改めてお話しよう」
 何故だかわからないがいきなりガマガエルがおとなしくなった。故意ではないといえ僕に無視されたのが嫌だったのだろうか?
 ……まぁ、違うと願うが。



 僕はとりあえず話を聴いておきたいので色々とツッコミたい衝動を抑え、ガマガエルの話を聴くことにした。
 迷探偵のTOPへ