迷探偵 番外編 Part.1

 カリフラワーとにんにくの対決がどうなったかを知りたい皆様へ。
 れんたからのささやかなプレゼントであります――

 チュンチュンチュンチュン……
 時は平成。世間様が何かと忙しく動いてる中、この守山家でも一日が始まろうとしていた。

 ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!
 ガオーガオーガオーガオー!!!
 アサデスヨ!アサデスヨ! コラ、オキンカイ!

 目まぐるしく鳴る目覚ましも今日は用無しである。
 何故ならその人物はもう起きていたからだ!なら何故目覚ましがなるのか……、というと止めるのを忘れていたから。その人物、久しぶりに早く起きたものだから寝ぼけていたのだ。
 そして目覚ましが鳴った途端ビクッと肩を震わせ硬直してしまっていた。

 さてこのまぬけな人物だが守山美沙(もりやまみさ)という、結構な美少女であった。しかしその「美」も全身黒ずくめという風貌とそのまぬけ、アホさによって台無しだったが。ちなみに今はパジャマだ。これを読んでいる皆さんは『まっさかパジャマはねぇ……』などとお思いだろうが甘い!甘い!甘い!!甘いっ!!!
 そんな常識が通じる相手ではない!予想と違って申し訳ないがパジャマもきっちり(?)黒ずくめである。上下ともトレーナータイプでもちろん黒。まだ肌寒いこともあって靴下を履いている。言うまでもないが黒。そして今時めずらしくまるで漫画のような寝るときの帽子。黒。先っちょについているフワフワは普通白だがなぜか黒。怪しいことこの上ない。
 そんなまぬけな上に、バカで、アホな美沙君が早起きした理由は……。
 いや、やめておこう。読んでるうちに絶対わかる。ここで言うのはあまりにも情け過ぎるし。

 そんなこんなでまぁ早起きして硬直している美沙君だったがやっと硬直がとけたようだ。
 なにやら部屋の片隅でゴソゴソやっている。なっ、なんと!!にんにくの袋をいっぱい取り出した!!なるほどお父さんに見つかるとヤバイので部屋に隠しておいたようだ。さっきからやけに嫌な匂いがするな、とは思っていたが……。

 美沙君はそれをつかんで、意気揚揚と台所へと向かったようだ。



 ――時を同じくしてこちらは父親、守山滋(もりやましげる)の部屋。

 ジリリリリリリリリ…………パチッ……・

 守山滋(以下、守山父)。さきほど話したあほでまぬけな美沙君のお父上である。
 その風貌は結構な美少女の美沙君のお父さんとはとても思えない、あまり長いことは見たくない物である。しかし、こんな顔でも実は腕利きの警視だったりするから世の中驚きというものである。まぁ、外見や職業はともかくこの守山父も美沙君と同じくいつもより早くに起きていた。
 その理由は……・いや、これも言うのはやめておこう。情けなくて泣けてくるし。

 説明しておくが守山父は一人で寝ているのではない。ちゃんと(?)奥さんと寝ていた(違うベッドだったが)。奥さんの名前は守山碧(もりやまみどり)。まぁ、少々年はいっているが、かなりな美人である。これであの美沙君が生れたわけもわかるというものだ。奥さん……母親が美人だったのだ!
 その碧さんだが……・さっきの目覚ましでは起きなかったようだ。熟睡している。そんな様子を見て守山父は鞄から何かを取り出した!それは……大量のカリフラワー……娘はにんにくで、父はカリフラワーですか。心底情けないね。

 守山父も美沙君同様それをつかみ、意気揚揚と下へ降りていった。(夫婦の寝室は二階)



 もちろん2人は台所で出会う。



「父さん!!!!」
「美沙!!!!!」
「「どうしてこんな早くに?!?!」」
 っていうかお前ら朝の挨拶しろ。……その前に手に持ってるものどうにかしろ……。
「んっふっふっふっふ……そうか……父さんも早起きして゛何か”を作ろうとしていたんだな……。
 しっかぁぁしっ!! 私は負けんぞ!!!」
 高らかに宣言する美沙君。朝っぱらから煩すぎる。
「美沙も何か作ろうとしていたようだがこの私も負けるつもりはない!!!! 受けて立つぞっっ!!!」
 この父にして、娘有り……だったようだ……。
「望むところだ!!!」

 こうしてわけのわからない2人の朝のお料理がはじまった。
 守山家のキッチンは今、流行(はやり)のアイランドキッチンである。2人は向かい合わせの形で料理を進めていた……。

 タタタタタタタタッ!!!
 ジュワジュワジュワジュワ
 シュパシュパシュパッ!!
 グツグツグツグツグツ……

 またたくまに朝のお食事セットが出来上がっていく。しかしその材料は異質。
 美沙君の作っているのは、目玉焼き(付け合せはにんにく、にんにく油使用)、ガーリックフランス、スープ(具はにんにくだけ)、コーヒー(にんにくエキス入り)である。
 一方守山父はというと……ご飯(細かく刻んだカリフラワー入り)、味噌汁(白ミソでホワイトシチュー風に。もちろん具はカリフラワーのみ)、納豆(細かく刻んだカリフラワーと納豆が9:1の割合で)、お茶(アクセントにカリフラワーをミキサー状にしたものを混ぜてある)である。
 両方ともアホとしか言いようがないのだがかなり一生懸命作っている。
 見かけだけは素晴らしく、料理研究家に見せても、まさか、具がそんな偏っているとは思わないだろう。しか、し見かけとは裏腹にその具のエグみ、最悪な臭さを最大限に引き出した最低な食べ物である。

「はははは、なかなかやるじゃないか父さん」
「ふっ、お前こそ腕をあげたな美沙」

 ドンッ!!!

「「さぁ!! 食べたまえ!!」」
 もちろん2人とも料理には一切手をつけずひたすらにらみ合い笑い続けている。
 すると、そんな2人の前にある人物があらわれた……!!!

「おはよう、2人とも朝から仲良く料理してたのね〜。お母さん、とってもうるさくって、ぜっんぜん眠れなかったわ……」
 言わなくてもわかるだろうが美沙君の母、守山父の奥さん、守山碧さんである。この人はやたら低血圧で朝に弱いらしく、いつも起きてくるのが遅い。しかし、今日こんなに早く起きてくるということは……かなりうるさかったのであろう。

「あら?2人とも、とーってもおいしそうなもの作っていたのね。
 それに2人の大好きなカリフラワーとにんにくがたくさんで

「かっ母さん……おはよう……朝からうるさくしてすまなかった……」
「碧……もううるさくしないからもう少し寝てきたらどうだ……?」
 さっきまでのにらみ合いはどこへいったのか……、今2人は裏で手と手をにぎりあって、新たな敵に抵抗していた。けれども、敵は手強かった。
「え?私だけ仲間はずれにするの? 嫌よ。 それにお互いに作ってあげた料理を2人が全部食べるのを見ておきたいし
 ハートを乱舞させ、凄まじく美しい微笑みで碧さんは言った。
「母さん……本当に悪かったと思っている……しかしそれだけは勘弁を……」
「そうだよ碧……わかっているんだろう? これ嫌いなんだよ……」

「え? よく聴こえなかったわ」

「母さんーーー…………・・」
「碧ーーーー………………」

「あ、それじゃぁ何。 2人ともまさかとは思うけど残すつもり?捨てるつもり……………………・・?
 まっさかねぇ。自分で作っておいて捨てるなんてこと……・・しないわよね……・?」

「「わかりました……・」」
 (おぃ、父さん。私はにんにくを食ってやるから、父さんはカリフラワーを食ってくれ)
 (了解だ)
 裏で手をつないだ2人は巧妙に連携をとりあって危機を逃れようとしていた。
 しかし……・・。

「何やってるのよ。食べるものが違うでしょ?
 美沙はお父さんが作ってくれたカリフラワーたっぷりの朝ごはんを。あなたは美沙が作ってくれたにんにくたっぷりの朝ごはんを。ちゃんとそれぞれの大好きなものをたっぷり食べないといけないでしょう?」





 こうして守山家の朝は過ぎていく…………。





 わかったことはただ一つ。
 結局この家で一番強いのは『母』なのだということ…………・・。





 F i n .

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