違色の瞳が開かれる。
 絶望と、憎しみの瞳が開かれる。


第17話 「そして生まれた“子”」

何が正義で何が悪だ。
見分けもつかないこの世で何を頼りにすればいい?





「よるな化け物、と、そう言われた。
 最初はワケがわからなかった。ついさっきまで、一緒に居て、遊んで、笑いあっていたはずなのに。死んで欲しくなくて、それで生き返らせたのに!
 こんな、言葉が飛んでくるなんて露ほども考えてなかった。
 ファルギブとアルスラも同じようで、3人で目を合わせて、ただひたすらに動揺していた。

 アーシアルはそんな私達から目を離さないように、でも距離を取るように視線を動かさないまま起き上がろうとした。けどそんなの出来るハズがない。 さっきまで“死んで”いたんだ。いくら体を治したからってすぐに正常な動きが出来るとは限らない。
 起き上がることも出来ない体で、それでも体全体で。

 彼は私達を否定していた。

『何でこんな所に居る……?!ちゃんと通報したんだ、警備隊に捕らえられてなきゃおかしいじゃないか!
 それに……覚えてる、ちゃんと覚えてるんだ。僕は――“死んだ”ハズ、なのに?!』

 僅かに動くようになった顔を下へ向け心臓の辺りを見る。
 布団に隠れてはいるが正常な動きをしているソコは、とても刃に貫かれたとは思えない。
『お前ら――何か、したのか』
 低い、冷たい、声。
 私は必死で動揺を押し隠して、
『お前を生き返らせた』
 そう、言った。
『寝ていたら悲鳴が聞こえたから慌ててやって来たら既に村全体が警備隊のヤツ等に壊されていた。私達は……私は、助けたい人が居て、でもその人はもう死んでいて。 人を生き返らせる、生死の研究をしていたから……生き返らせた』
 ぼそぼそ、と小さく紡いだ声は果たして彼に聞こえたのだろうか。
 言い終えた時、彼はもう目を閉じていた。

 体の疲れから眠りについたのか、それとも私達を見たくなかったのか。
 どちらなのかはわからなかったが、アーシアルは再び目を閉じたんだ」

 心臓が、本当に痛い。
 鼓動がうるさいから、だけじゃない。
 引きつるような痛み。これはきっと“彼女達”の痛みだ。
 信じている人に裏切られ、それでも助けて、生き返らせて……結果があれだ。
 確かにアーシアルという子に彼女達を恨む理由はあっただろう。お互いの思いが食い違うのは他人だから当たり前だ。

 それでも。

 やっぱり、酷すぎるよ――

「次に目を開いた時にはもう体は全快していた。
 私達は必死で状況を説明して、わかってもらおうとした。
 けれどアーシアルの中での“私達”は、もう既に憎むべき“敵”でしかなかった。
 化け物という言葉が相応しい、忌むべき存在。世界中が殺したがってる……存在してはいけないモノ達。
 そんなヤツ等がいくら説明したって聞く耳を持つはずが無い。
 結局アーシアルは私達の話を一切聞かなかった。

『近寄るな化け物。薄汚い……お前等が居るだけでどれだけ迷惑すると思ってるんだ?!なんで生きてる?!早く死ねばいいのに!!!』

 死にたい!
 何度そう思ったことか。
 死なせてくれ!
 何度試みたことか。

 でもそれを今更この幼い子に言っても仕方が無いだろう。
 それにもう私達は会話をしようとする度に言われる容赦の無い言葉に酷く傷つけられていた。
 何の関わりも無い人間から言われる中傷とは違う、深く胸を抉る言葉に打ち拉がれていたんだ。

 でもやっぱり今思うと、この時にもっとちゃんと話をしておけば良かったのに、と思う。
 私達は何も出来ないまま日々を過ごし――
 そしてある日、アーシアルは居なくなった。

『フレア!!! あの子が居ないわ!!』
『アルスラ、今はその名前を使う……って、え? なん、だって?』
『だから、アーシアルのベッドが空で!衣服や食料も少し無くなってる。あの子、一人で行ってしまったのよ!!』

 アーシアルを避けるように地下室に籠もっていた私は一人反応が遅れた。
 既にファルギブは捜索に出ており、アルスラも私に伝え終えるとそれに続いた。

 一人で、あの小さい体で、生きていけるハズが無い。
 森は獰猛な獣だって居るし、何より、

 “あの違い目は迫害される”

 私も慌てて後を追った」

 そこまで聞いて、僕はふと疑問に思う。
 何故その子だけ目の色が違ってしまったんだろう?と。
「ねぇ、ルカ。何でその子だけ……その、目の色、違ってたのかな?」
 話を中断させてしまうのを悪いなと思いつつ、でも気になったので僕はそう訊いた。
 するとルカは「あぁ」と軽く頷いて説明を始めた。

「少し前に3つパターンがあるって話をしただろう?……あんまり理解出来なかったみたいだけど。
 この目の色が変わる、ってのが3つの内、最後のパターンなんだ。

 瀕死の人間、一度死んでヒトガタに入れた人間。
 そして、死んで、更にその死体を利用して生き返らせた人間。
 2つはさっき説明した通りだ。外見的には正常だった時となんら変わりない。
 しかし最後、この場合だけは違っていた。

 アーシアルが一度目を覚まして再び眠った後だった。
 目の色が違うことを皆確認していたのでそれについて話し合っていたんだが、どうにも彼の“死体”から私の魔力が相当量感じられるようだった。
 だから恐らく――生き返らせるときに大量の魔力を注いだ事が原因で、“私の目の色”が写ってしまったんだと思う。
 この時点での確証は無かったけど、その後3人同じ生き返らせ方をして、全く同じ結果になったからたぶんそういうワケなんだろう。

 そしてやっぱりこの時点ではわかってなかったけれど、この場合もまた“死なない””成長しない”体になってしまっていた」

 ふ、ふぅぅーん……。
 またよくわからない……僕ってばアタマ悪いのかなぁ……。
「あ、いや、すまない。私の説明の仕方が悪いんだ。 だから気に病まないでくれ」
「へっ、あれ?声出してた?」
 ピンポイントな返答をくれたので思わず顔を上げて、――すぐにしまった、と思った。
 彼女の顔が見るからに曇っていたから。
「――すまない。ちょっと今揺れてるから、制御出来てないんだ。
 だから聞こえてしまった。気持ち悪い思いをさせて本当にすまない……」
 話の内容からも彼女が動揺してるって事わかってたはずなのに、僕ってヤツは……!
 あっ、コレも聞こえてるのかな? えと、だから、その、僕の落ち度なワケであってルカの方こそ気に病まなくていいわけで!!
「ふふ、ありがとうココロ。本当にお前は優しいな。
 “フレア”と旅してくれるのがお前で良かった……」
 笑う彼女に僕も笑い返す。
 でも――聞こえる事は承知で、
 でも。
 彼女が“フレア”と“ルカ”を別に考えてしまっているのが、何だか無性に淋しかった。

 そして話は再開する。

「外に出た私は飛んで空から探すことにした。 家の周りは鬱蒼と生い茂る樹木。常人なら見つけることは出来ないが、気配くらいなら感じられるかもしれないと思ったからだった。

 ―― 一体、どれくらい探しただろうか。

 その日だけでなく、次の日も。その次の日も。そのまた次の日も。
 探しまわったけれど、結局アーシアルを見つける事は出来なかった。

 後から聞いた話だと、生き返らせるときに入った私の魔力を使って“飛んで”遠くへ逃げていたらしい。普通の人間や魔法使いは出来なくても私達の魔力を使ってならどんな事でも大抵出来たからな。 基礎をアルスラから教わっていたアーシアルにはとても簡単な事だっただろう。

 とうとう探すことを諦めた私達は、当初の目的通りリューイ達の体を3体分作り、すぐにそこを後にした。
 優しい人々が暮らしていた、無残に壊された村を目に焼き付けて」

 苦痛に耐えるような表情。閉じられた瞳の向こうにはその村が見えているんだろうか。

「アーシアルという“新しい事例”を作ってしまった事は別行動していた3人にも知らせる必要があった。
 だから3人に連絡を取り、久々に全員が集まった。
 リューイとステア、クルル、それにアーシアル。私達のせいで変わってしまったヒト達。その事を報告して、皆で話し合った。
 一緒に行動してなかったミライザ達にはすごく叱られた。浅はかな行動が多すぎる、とね。確かにそうだ。少なくともリューイとステアは絶対にこっち側に来なくても良かったハズだった。クルルだって私が唆さなければ、アーシアルだって私がドジを踏まなければ!
 悪い考えばかりが頭を満たし、それからまたしばらく悪夢を見る日が続いた。
 レイサーが食べてくれてるハズだけど、やっぱり辛い。特にアーシアルの罵倒が出てこない日は、無かった。

 辛い日々が続いたが、各地を移動するのは止められなかった。
 特に今は大人数で理由のつかない団体だから少しでも目立ったらおしまいだった。

 細心の注意を払っていた。少なくとも私はそう思っていた。
 けれどある場所でリーテスが勝手に一人で離れ、問題を起こした。
 “遺跡の守人”をしている一族の女の子に惹かれ、人間のフリをしてその村に住み着いた。そしてとある事件が起こりその一族は全滅。リーテスはその原因となった存在を有無を言わさず嬲り殺しにして――その女の子を、生き返らせた。
 生き返ったその子の両目は赤い瞳と黒い瞳。
 その女の子はマジュと言って、それこそ状況的にはアーシアルと同じだったけれど、その後は違った。
 罵倒も無く、その瞳には絶望の色さえ無い。ただ、生き返らせてくれた事に感謝を。
 その上私達からも、彼女からも逃げ出したリーテスを追って、見つけて、連れ戻してくれた。
 勝手な行動をしたリーテスは彼女が疲れて眠った後にこっぴどく叱った。どうしてこんな事をしたんだ、と。
 でもリーテスはただ、“ヒトに戻りたかっただけだ”と。
 一番若くしてこうなったし、何より先天的な違い目という障害を持っていたせいで辛い日々を送ってきたようだから。……“普通”に酷く憧れていたらしい。

 その時、既に私達の誰もがそうだった。
 この逃亡生活に疲れ果てていたんだ。
 一箇所に留まれない、いつでも人の目を気にして、仲間以外全く気を許せない状況。
 全員が限界に近かった。
 でも死ねない体が付きまとい、どうする事も出来ずに逃げまどう日々が続こうとしていた。

 けど、リーテスと一緒に来たマジュのおかげで私達は救われた。
 彼女は遺跡をずっと悪人の手から守ってきた一族の出だということもあり、呪い(まじない)事にも詳しかった。
 その中に特定の場所を人目から消してくれる、という物があったんだ。
 試してみて効果を実感すると、もう、すぐにどこかに住もう、という話になった。

 話し合った結果、リーテスはマジュと元居た遺跡の村に、ミライザはティカと2人で小さな家に、アルスラは調べたい物があるとかである森に大きな家を建て、ファルギブと私は――アーシアルと出会ったあの村の、館に戻る事にした」

「それからしばらくは本当に見つかる事無く過ごした。
 必要なモノは遠くの街に飛んでいって買ってきていた。
 空間移動の魔法もあったけれど、その当時はまた“行きたい場所に必ず行ける”ものではなかったから使い物にならなかった。

 相変わらずの研究の日々。
 リューイやステア、グリッセル達が家事をして、クルルが宝石を作って金に換えてくれる。
 まだずっと見ていた悪夢を和らげる為にレイサーは粉骨砕身してくれた。……まぁ、結局食事なんだけどな。
 ファルギブは相変わらずのカルさで皆の気を紛らわせてくれたし、何より支えになってくれていた。
 ただ黙々と作業を続けているなんて――私一人では到底出来なかっただろうから。
 あんなカルいヤツだけど、たぶんそれをわかっていたから一緒に居てくれたのだと思う。

 ヒトガタの事は当然だけど、その頃は魔法の研究もしていた。
 さっき言った空間移動の魔法も行き先が不安定なようでは使えない。だから行き先指定が出来るように改良した。

 ――でもそのせいで、また事件が起きた。

 今度はミライザだった。
 ミライザも“こう”なったのが比較的遅く、彼女と同世代の人間は年を取ってはいるがまだ生きていて、運悪く空間移動の魔法でミライザの生まれた街に行ってしまったのが原因だった。
 力が覚醒した時のミライザは半ば発狂していて、そうなった要因は全てその街での出来事だった。
 だから当時のミライザを知っていた老人の言葉と、蘇ってしまった思い出が彼女を圧迫して……暴走してしまった。

 その暴走のせいでマジュに教えて貰った呪いが弱り、しばらくして場所が割れた。
 ミライザとティカはそこを動く事を余儀なくされ、不安定なままのミライザをティカだけには任せておけない、と私とファルギブも同行する事になった。
 幸いリーテスやアルスラ、それに私達が暮らしていた館の場所はバレなかったのでそのままにしておく事にした。
 しかしグリッセルやレイサーはともかく、リューイ達3人は身体的にはほぼ“人間”なので危険だという事になり、アルスラの家に行かせて貰うことになった。

 そしてまた、今度は4人(+2人(宝石の状態のグリッセルとレイサー))で各地を転々とする、目的の無い旅が始まった。

 最初は1~2週間程、各街に滞在して過ごすつもりだった。
 けれど3つ目の街に着いた頃からすぐに警備隊がうろつき始めていた。居そうだが確証が持てないため見回りをしている、といった面持ちで……そういう場所は早々に引き上げるほか無かった。
 4つ目の街も同じように、そして次もその次も。
 正常な状態に戻ったミライザと2人で何だかおかしい、と思い始めてていたが、7つ目の街はそれが無かったのでそこでしばらく落ち着くことにした。

 実はそこはティカの生まれた街で、直接の血縁は既に居ないものの、親戚はまだ住んでいるらしかった。
 素性を知られるわけにはいかないがそれでも親戚の顔は見てみたい、と言った彼と共に生家を訪れて―― 一人の少年と出会った。
 少年の名前はセシア。セシア=エスルダ。
 ティカと同じ血がほんの少しでも流れているようには思えない、とても賢くて可愛らしい少年……だった」

 どこか遠い目で語るルカ。
 あぁ、そうか。……きっと、その少年も死んでしまったのだろう。
 そう思ったのだが、
「いや、死んでない」
「へっ、あっ、そうなの?」
 コクリ、と首が縦に振られる。
「人間誰でも小さい頃は可愛いモンさ――今はいつでもニコニコしてるような得体の知れないヤツになってしまった。当時の面影なんて全く無いんじゃないのかってなくらい腹黒くなってるしな。今にして思えばアイツ等はまさしく血縁だよ」
 ケッと悪態をついてるガキのような表情でルカは言った。
 アレ、もしかしなくとも嫌い……とか?
「いや、別に嫌いってワケでもない」
「あっ、そ、そうなの?」
「でも時たま存在自体がウザい」

 ……。

 それってかえって厄介なんじゃ――
 口には出さなかったが伝わってしまっているのだろうか……。

「と、兎に角!その街でセシアに会ったんだ。
 血縁という事も大きく働いてるのか、特にティカによく懐いていた。――懐くだけの時間が、この街では用意されていた。
 今までの街を3日ほどで立ち去らなければいけなかったのに対し、この街では既に2週間が過ぎようとしていた。
 その異変に気づかなければいけなかったのに、
 気づけなかった。

 気づけないまま、“ヤツ等”はやってきた」

「目を覚ますと、外が明るかった。
 まだそんな時間ではないはずだ、と外を見る。

 明るいんじゃなくて、 赤 か っ た 。

 既に火の手が上がり、街は壊されていく最中だった。
 慌てて起き上がり周りの連中も叩き起こす。何故こんなになるまで気づかなかったのか?! ――実は夕飯に睡眠薬を大量に入れられてたらしいのだが、それさえも気づけなかった。
 外に出てあまりの惨状に言葉を無くす。
 街全体が燃えていた。 逃げ惑う人々を容赦なく炎が襲う。 運良く逃げ果せた人を――“ヒト”が、警備隊が襲う。

 ただひたすら見える範囲だけでも救おうと駆けた。
 人の命の重さが違うとは思わないけれど、少なくともこの2週間共にした人達を優先してしまうのは人間の心理として当然のものだろう。
 だから襲い掛かる警備隊の命を獲って、襲われた街の人の命を、守った。
 自分では冷静に対処してるつもりだったけど――やっぱりどこかおかしくなっていた。
 セシアの存在を、ティカ以外全員が失念してしまっていた。

 ティカが一人どこかへ行こうとするのを呼び止め、その時にやっと気づいた。とても助けたいと思っている人間が居るのだ、と。
 命の重さは違わない。それはわかってる。
 けど、その人に対する心の重さは違うと思った。
 背後の悲鳴を聞きながら、それを無視して飛び立った。 断末魔が耳に次々と入ってくる。全てを無視してセシアを探し続けた。

 しばらくしてガレキの下で彼を見つけた。
 幸い倒れた家屋が邪魔をして火の手がこちらまで来ず、ガレキも足に乗っただけで折れてはいるものの、全体の状況から考えれば軽傷だった。
 すぐにティカ達を呼んで場所を移動する。
 もう他の人間に構っている余裕は無かった。
 火の手の上がる街を後にして、アルスラの家に逃げ込む事にした。
 私達――特に今はミライザが動く事によって位置がバレるかもしれないとは思ったが、それよりもセシアの命が大事だった。

 軽傷だったのと、アルスラのおかげで人体に影響無くセシアは元気になった。

 アルスラが住む家を分けてまで調べたい物というのは実は魔法の事、それも回復魔法についてだった。
 リューイとステアを生き返らせた時使って不死にしてしまった要因、その回復魔法のメカニズムを解明して、なんとか副作用の無い物を作ろうとしていたらしい。
 その時はまだ完全じゃなかったけど、その後研究を進めて……アルスラはとうとう新しい方法を生み出した。
 回復師が宝珠<オーブ>を使って治療するのは回復師自体の魔力を補助する役割もあるが副作用を抑える意味合いもある。このシステムを作ったのは実はアルスラなんだ」

 回復師と言われてヘイドルさんや昼食時にやってきたお医者さんを思い出す。
 なるほど……確かに宝珠を使ってた。 でもそれを考えた人がルカの仲間だったなんて!
 世の中広いんだか、狭いんだか……。
「あ、ところでそのセシア少年は助かったんだよね。じゃあえっと今は――もうお爺さん?」
「いや」
 と首を横に振る。
「その時は助かったけど、また別の時に襲われてそれで死んだ。
 今はティカが生き返らせて一緒に暮らしてるよ。瞳の色は元々の黄色とティカの紅。――やっぱり人目に晒すのは嫌みたいで顔を黒い布で覆い隠して過ごしてる」
「そうなんだ……やっぱりそういうのって今でも危険、なんだね?」
「違い目の事か? そうだな、いつの時代でも珍しい物を欲しがるヤロウってのが居るからな……そしてそういうのに限ってたっかい賞金賭けたりするんだよ。 そういうのに見つかったら煩わしいからな。
 いや、まぁ、でも成った直後はともかく、最近のセシアの場合顔の覆いはほとんど趣味だな。今はカラコンつけてるからホントはしなくっても大丈夫なのに」
 ……。
 ルカ曰く、ニコニコと得体が知れなく腹黒い。オマケに顔を覆い隠す趣味をお持ちなセシアさん。
 ああ、なんだか変なイメージがついてしまいそうだ。
「いや、別に変でも何でもなく、それがまんまだから気にしなくていいぞ」
 ルカは顔の前で手を左右に振った。

「話を戻そう――――

 セシアは助かった。
 けれど今回の事は明らかに何かおかしかった。
 数日間しか居られなかった街々から順々に追い出されあの街に着き、ホッとしたそのスキに襲われたようなもんだ。
『じゃあなにか? 俺達の行動がバレてるって事かよ?』
 そう言ったのはファルギブだった。
『……そうとしか思えない程の用意周到さだったな』
 ミライザがそれに返す。
 確かに今回襲われた時に居た街はそれなりに大きかったのに全焼・壊滅してしまった。それというのも投入された警備隊の数が半端じゃなかったからだ。
 明らかに長い期間の準備がされていたように思う。
『でもどうやったらンな事が出来んだ?マジュの呪いだってそんな事まで出来んの無かったじゃねーか』
 この口が悪いのはティカ。
 でも全くその通りだった。

 けれど、私にはどうしても気にかかる事があった。
 ――逃げてしまったアーシアルの事だ。

 あの後彼は一体どこに行ってしまったんだろう。
 死ぬことの無い体で、私達への憎しみと自分の生への絶望を持って、どこに行けると言うんだろうか。

 出したくない、でも出てしまう答えは一つ。

『アーシアルが、もしかしたら関係しているかもしれない』
 皆が一斉にこちらを向いた。アルスラが小さく頷いていたので同じような考えを持っていたんだろう。
 私の言葉を継ぐように仮定を話し始めた。

『あの子はとても魔法を覚えるのが早かったわ。頭も良かった。あの年にしては珍しい程に考える力も持っていた。
 だからあの時のまま、私達への憎しみだけで動いているのなら――“あの国”の側についていたとしても不思議は無いわ。
 そこで魔法の研究をして、私達の位置を特定する“何か”を生み出してるとしても……それも不思議は無いわね』

 そう、そのくらいにあの子は良く出来た子だった。
 それに私達を特定出来る要素はいくらでもあった。

 一番可能性が高いのは――私の魔力。

 私の魔力を基に何かをしているのだという気がした。

『……私もアルスラと同意見なんだ。だからとりあえずもう一度アーシアルを探してみようと思う。
 アイツは私の魔力を基に動いてる。きっと私が一番探しやすいはずだ』
 そう言って部屋を後にしようとした。
 でも遮られる。
『じゃあ俺も一緒に行くから』
『……一人の方が探しやすそうなんだけど?』
 遮ったファルギブに嫌そうな顔を全面に押し出しつつそう返した。
 けどそんなのでは引き下がらなかった。
『バカ言え。お前一人で行ったらすぐにぐだぐだになって気分が地面にめり込んだまま動けなくなるぜ? それに――これから先、狙われるとしたらきっとお前だろーからな』
 図星だった。 既に気分は下降を始めていたし、狙われる可能性が高そうなのは私。
『――――。 ……じゃあ、一緒に来てもいいよ』
 渋々同行を承諾して、また旅が始まった。
 今度はファルギブとの二人旅。

 最初こそ嫌々だったけれど、やっぱり最後には一緒に来てくれて良かったと心底思った。

 思った通り、私達が行く先々に警備隊が居て確実にバレているようだった。
 試しにファルギブと別行動をしてみたら案の定私の方だけに来る。――いよいよ決定だ、という時にリーテスから連絡があった。

 ――ある場所がマジュが使っていた呪いのように人目から巧妙に隠されているらしい。

 何かが“在る”気配はするのだが何も見えない。大きさは一つの村くらいだという話で。
 地図で場所を確認して私は眩暈がした。

 かつて私が生まれ、育ち、両親を殺され、村人全員を殺した――――あの村、だったからだ」