“アカ”と云われると何を創造するだろう?
炎? 夕日? 薔薇?
――たくさんあるだろうが、このカケラは恐らくそのどれにも、当てはまらない。
純粋の上に純粋で、この上なく純粋ではない
それが、アカノカケラ。

第1節 アカノカケラ  “ 紅い少女と少女を愛した少年 ”

 ある世界に少年がいた。その少年は病弱だった。少年は花が好きだった。
 ――花は病弱が故友達が出来なかった少年の唯一の友達だった。

 少年はそれまで花以外に興味をもたなかった。
 自分はもう治らない……と思うと何もしなくなっていく。次第に興味を持つことを忘れる。
 しかし、花は何も云わないけれど少年の心を癒してくれた。

 そんな少年のそばに少女があらわれた。

 その少女は、少年と同じ位の年で、真っ赤な髪の色をしていた。
 深紅――とても綺麗な色の髪だった。
 少年は少女を見たとたん、何か今まで忘れていたものを思い出した。
 興味を覚えた。
 少年は少女の事を知りたいと思った。

 少年と少女はごく自然に友達になった。

 病弱な少年のために少女は毎日花をもってお見舞いにきた。
 花はきまって少女の髪の色と一緒のバラだった。少年はその花を見たことがなかった。
 ――なんという種類なのか?
 いつも少女は答えをはぐらかしていた。
 少年は気になったがいつか話してくれるだろうと思い、それ以上は訊かなかった。

 少年は、少女と出会い、病気が治りはじめた。

 はじめは気がつかなかったが、だんだん少年は健康な体になっていった。
 反対に、少女はだんだん病気がちになっていった。

 ある日少女は両手に溢れるほどのバラの花を持って少年のもとに現れた。
 ――ありがとう。 さようなら。
 それが、少年と少女の交わした最期の言葉だった。

 少年は訳がわからず立ち尽くした。冗談だと思った。
 しかし、次の日から少女は少年のところへ来なくなった。
 少年は訳がわかり立ち尽くした。冗談ではなかったのだ。
 そうわかった今、あの時何もせずに只少女の後姿を見送った自分に腹が立った。
 その時、ふと、少女が最期にくれたバラが目に入った。

 もらった時には気がつかなかったがそれにはカードが添えてあった。

 ――今までありがとう。私は貴方と一度でいいから話をしたかった。
 ずっと願っていたから……神様にお願いをしたのです。神様はその願いをかなえてくれた。
 しかし、それには条件があったの……。

 神様は、私が人間になってから2週間で元に戻る、と言いました。
 私は、それでもいい、と言った。
 そんな私を見て、神様は2週間たったら魔法を一つ教えよう、と言ってくれました。
 それは――2週間経った時、私が元に戻る魔法――

 時間が立つのは早く、あっという間に2週間が過ぎようとしてた。
 私は毎日バラを持っていくことで貴方に気づいてもらいたかった。
 でも貴方は気づいてくれなかった――ううん、気づけなかった。
 私が貴方に会って2週間が経った。
 神様は魔法を使って元に戻りなさい。と言いました。
 でも私は元に戻る事より貴方に気づいてもらいたかった。もうバラはなかった。
 でも貴方に、最期だから両手いっぱいのバラをあげたかった。
 ――笑うかもしれない。怒るかもしれない。けど、私は貴方に気づいてもらうために魔法を使った。
 両手いっぱいのバラを――私を――貴方に渡すために」

 少年は自分を嘲った。自分が気づいていたらまた少女に会う事も出来たかもしれない。
 あの純粋な深紅の髪の色を持つ少女に。いつもその髪の色と同じ色を持つバラを少年に持ってきてくれた少女に。
 ――少年が心から愛していた少女に。





 少年は青年になった。病弱な体は何処かへ消え、健康な体になっていた。
 あれから青年は少女からもらったバラを育てていた。
 もらったときは少女の髪の色と同じ純粋な深紅だったのに今は何ともいえない色になっていた。
 表面上は純粋な深紅。しかし何かが混ざって純粋じゃなくなった。
 花は育てている人の内面を映し出すという。
 純粋じゃない花の色は青年の心と少女の心の交差色だった。

 ある日青年がいつものようにバラの世話をしていると何かが光った。それは石だった。
 そのバラの色と一緒の色の石だった。
アカノカケラ
それは純粋の上に純粋で
――この上なく純粋ではない
ある世界の少年と少女によって生み出されたキセキノカケラ
それが、アカノカケラ