くるくる回るメリーゴーラウンド。白馬に乗った山下君は考えた。
 ――あぁ……なんで僕はこんな事をしているんだろう……、と。



 事の発端は学長の一言によるものだった。あのワケのわからないアホ学長がまたもや変なことを考えたのだ。

「諸君!今日は何の日だ?!」
 朝の職員会議の席で、学長が机をバン!と叩き言った。周りの先生方は何の日だなんて知る由もない。皆で顔を見合わせ「何の日ですか?」と目で疑問解決に勤しんでいた。
「知らないのか!今日は僕たちの作者『れんた』の誕生日なのだよ!」
 作者?何を言っているんだこの人は。自分たちが作られたモノだとでも言うのだろうか?先生方は口々に言い合い、とうとう学長も精神病院行きか、と話し合っていた。
「そこで!だ。れんたを喜ばせるために生徒を一人生贄にしようと思う!」
「「「ちょっと待たんかいっっ!!!!」」」
 流石関西圏。先生方全員のツッコミが綺麗にハモる。
「何だね?何か文句でも?」
 少し顔をゆがめた学長が訊いてくる。 ……文句も何も、生贄とは……。
「学長、流石に黒魔術を信仰しているワケでもないのですし、生贄はないでしょう。生贄は。
 それにその『れんた』とやらも喜ばないと思いますよ?」
 勇敢な守山先生が声をあげた。
「いや、れんたは血に飢えている。絶対に喜ぶと思うぞ」
 自信満々に学長が返す。そこへ碧先生が疑問を投げかけた。
「え?それじゃその『れんた』っていうのは怪物(バケモノ)なんですか?」
「いや、ただの人間だよ。年は今日で16歳。 至って普通の人だよ」
「それじゃぁなんで生贄なんか!!!」
「ふっ、そんなの決まっているだろう? 僕のシュミさ!」
 (あぁぁーーーもう早く精神病院入ってくれーーー!!!)
 先生方全員がこう思ったかは定かではないが少なくとも半分は思っただろう。



 ガラガラガラ
「先生おはよー!」
 ココロが今日も元気に挨拶をしてくる。フレアは教卓のところにたち朝学活をはじめているところだ。……フレアはこのクラスの委員長なのだ。
「お……、おはよう」
 いつになく顔が優れない……じゃなかった表情が優れない先生を心配してか皆が声をかける。
「先生……どうしたんですか? いつも変な顔がますます変に見えますよ?」
「フレア……お前な……」
「本当に先生どうしたんですかっ!! はっ、もしかして碧先生と何かあった?!」
「はっはっは、母さんならいつもと一緒だったぞ!」
「と……ところで、山下はいるか?」
「はい。 何ですか?」
「……」
 守山先生は遠くを見た。そして言った。
「生贄になったから」
「はい?」

『ぐっもーにんぐ!!さぁ今日は皆何の日か知ってるかぃ?!』
 校内放送から、学長の爽やか(?)な声が聞こえてきた。
『ふっ、知らないだろう。ならば教えてやろう!!今日は僕らの作者『れんた』の誕生日なのだ! そこで頭の良い僕はもっと僕らのことを書いて貰えるようにぎふとを贈ることにした!』
 ざわざわざわ
 生徒らが周囲の人たちと話し合う。その様子は朝の職員会議と同じものだ。
『実は今日R学園の理事長運営の遊園地、“あるぷらんど”のメリーゴラウンドを貸しきったから、そこでれんたにぎふとを贈りたいと思う!』
『ぎふとの内容は……えっとちょっと待てよ……っと。
 えーそのあるぷらんどに今日れんたが来るという情報をキャッチしたので急遽一画を貸しきってイベントを開こうかと思ったのだが、理事長から止められたのでメリーゴーラウンドを貸してもらうことにした。そこに僕が選んだ生徒が白馬にまたがりショーをするのだ! もちろんその生徒は僕が決める!』
 あーー……僕ですか……、山下君は思った。
『守山先生のクラスの山下だ!』
「……という事だ。山下、頑張ってきてくれ」
 守山先生が申し訳なさそうに言った。



 あるぷらんど。これはR学園の理事長が運営する大規模娯楽施設の名前である。一体「あるぷらんど」とは何なのか。……まぁ、早い話が遊園地だ。ジェットコースターや観覧車、ゴーカートなど子供の喜びそうなモノがたくさんあり、他にもお化け屋敷やボートなど大人向け(?)なモノもある。

 その中でも有名なモノがある。それはメリーゴーラウンド。普通の遊園地にあるものよりも遥かに大きく、乗り物の数が多い。馬に限らずパンダにキリンに……ゴリラまでいたりする。まぁそれが目玉なワケではないが。
 目玉なのは『白馬』。御伽噺の王子様が乗っているアレである。これは一見普通の馬なのだが……実は普通である。馬が特別なワケではないのだ。この白馬、乗り手が仮装できるというオマケがついているのだ。

 そう、学長の考えた“ぎふと”とは山下君に王子様の格好をさせ白馬に乗らせる事だと言うのだ。
 果たしてこれでれんたは喜ぶのだろうか……?



「本気でやめてください」
「いやだ」
「何でこんなことしなきゃいけないんですか」
「それはれんたを喜ばせるためさ! お前だってもっと出番が欲しいだろう?」
「入りません」
「ははは、嘘ばっかりぃ〜」
「――……死ね、このゲス」
「さて、馬鹿山下は早速あるぷらんどへ行って貰おうか」
 朝学活の後、学長室へと行かされた山下君が学長と言いあっていた。
 横には守山先生と碧先生が冷や汗かきながら立っている。
「先生も何か言ってくださいよ! 僕、嫌ですよそんな仮装!」
 必死で訴えかける山下君。けれど守山先生夫婦はひたすら冷や汗を拭いながら言った。
「あーー、山下……運命と思って諦めろ」
「山下君、頑張ってね」
「そんなぁ……」
 山下君の訴えも虚しく、後ろではちゃくちゃくと準備が進められていた。
「山下、いいかヘマやったら退学だからな」
「僕が退学するなら、アンタはクビだ」
「まだ言うかこの野郎!!」


 (しばらくお待ちくださいませ)


「はぁっ、はぁっ、はぁ……ナス、カス!!」
「なんだと七三! ハリセン兵器!」
「あのー二人とも……そろそろやめてくださいよ」
 不毛な争い……てか、子供(ガキ)の言い争いにウンザリしたのか、守山先生が間に入って止める。。
「ふんっ、せいぜい自分の存在を呪うんだな山下!」
「へっ、存在してる事自体が間違ってるアンタに言われたくないね!」
 まーだ、やるのかこひつ等は……、そう思ったのか守山先生は山下君の腕を引っ張った。
「さ、山下あるぷらんどへ行こう。クラスの皆も来てくれると言っているからな」
「……わかりましたよ。 クラスのヤツは絶対来させないでください」
 渋々了解した山下君は、守山先生と碧先生と一緒に学長室を後にした。



 ――あるぷらんど内

「なぁなぁ、ジェットコースター乗ろうや!!」
「ちょっと待てって。 そんなに急がなくったって、ジェットコースターは逃げないだろ」
「でも〜〜〜」
 あるぷらんどの入り口付近、髪の毛を肩辺りまで伸ばした子と、よく似た顔で髪の毛を茶色に染めた少し年上っぽい子がパンフレットを握り締め歩いていた。……前述の子は今にも走り出しそうだが。
 この二人、言わずもがなれんたとその一味……じゃなくて家族である。肩辺りまで髪を伸ばした子がれんた。ま、それはネット世界だけで現実では「れみ」と言う名前なのだが。
 そして年上っぽい子はれんたの姉のだ。名前は「まみ」……勝手に出して良いものかと思ったがバレなきゃいいので出してしまおう。このほかにも母親と祖母が一緒に来ているのだが若い衆(!)とは別行動のようだ。

「なな、まずさジェットコースター乗るやろ?それからウォータースプラッシュ乗ってー、次はアレ!ブランコが宙に浮くやつ!そんでその後ゴーカートに行こっ!」
 どうやらメリーゴーラウンドは今のところ予定に含まれていないらしい。というか“めりぃごうらんど”なる単語が出てくる気配など微塵もないのだが。
「待てっつーの。 ま、まずジェットコースターだな」
 まみがれんたの頭を叩きながら言った。
 ――その顔は獲物を狙うライオンに酷似していたが……、それに気づいた者はいないだろう。
 二人はジェットコースターのある絶叫エリアへと歩みを進めた。



 ――あるぷらんど メリーゴーラウンド控え室

「だ……誰もいないよな……よし」
 キョロキョロとあたりを見渡し窓から逃げようとしている人物がいた。言わなくてもわかるだろうが……山下君だ。
 部屋の中には中世の騎士が着るような服が所狭しと並べられている。先ほど先生たちに連れられてこの部屋に来て「この中から一着選んで着るように」と言われたところなのだ。
(ふざけるなよー。 誰がそんな仮装するかっ!!)
 山下君は2階に位置するこの部屋から窓伝いに逃げようとしていた。
 が、そんなことを学長が許すはずがない。
 窓を開けた瞬間、顔が――あった。

「…………うあわぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!????」
 窓を開けたところに学長が居た。
 どうやら屋上からロープで垂れ下がっているらしい。
「なななななんですかアンタはっ!!!!」
「ふっ、“何”かと? 何だと思うのだね!!」
 それがわかっとったら訊いてないわっ!、と山下君は心の中で叫んだ。
「山下ー、お前逃げようとか考えただろ? ふっ、そんなの許すはずがないだろう?!」
「でっ、でも何で僕なんですか! もっと似合うヤツもいるでしょう!」
「それは……だな。れんたの書いてる作品の代表作とも言える『迷探偵』の主人公がお前だからだよ!
 どうだわかったか!!」
「わ……、わかるはずないでしょう! それに『迷探偵』ってなんですか!なんで『名』じゃないんですか!」
「そんなの僕が知るはずがない」
 屋上からプラーンプラーン揺れている学長は精一杯凄んで言い返した。
 時々強い風が吹くたびに顔がどんどん引きつっていくのが、ちょっと面白い。



 ――あるぷらんど 絶叫エリア

「ひゃっほぅっ!!!!」
「へいへい〜〜〜っっ!!!!」
 ジェットコースターから喜びの歓声が聞こえる。……れんた達だ。
「っふー、やっぱ面白いよな〜。もう1回乗らへん?!」
「あーんー、……もうそろそろ昼飯だから広場に行かんと。 待ってるかもしれんしな」
「くっそー。じゃ、昼食べ終わったらまた来るぞ!」
 絶叫エリア……其処は入り口付近から近い場所に位置し、あるぷらんどでは一番人気のエリアだ。
 他に食べ物エリアとほのぼのエリア、ロマンチックエリアがある。二人が今から向かおうとしているのは食べ物エリア。恐らく親達と合流して食べるのであろう。
 ――が!! ここに思わぬ罠がしかけてあったのだ!!!
 今いる絶叫エリアから食べ物エリアへ行くには、ほのぼのエリアを通らなければならない。それぞれのエリアは島みたいになっており、間をとてもジャンプで飛び越えれない川が流れていて、島は大きい橋で繋がれている。
 ……そして、ほのぼのエリアから食べ物エリアへの橋の隣に、メリーゴーラウンドは位置していた。



 ――あるぷらんど メリーゴラウンド前

「ねぇ、お母さんアレなぁに?」
「あー、アレはね。アホで目立ちたい人たちが、わざわざ仮装して自分の愚かさを開けすイベントなのよ」
「へぇー。 ホントアホみたいだね!!」
「ケンちゃんはマネしちゃダメよ〜?」
「うんっ!だって僕アホじゃないもん!」
 メリーゴーラウンドの前で少し立ち止まった親子は、仮装した山下君を見てこういう会話をしていた。もちろん山下君には丸聴こえである。――あーぁ、口から泡吹いてるよ山下君ってば。

 山下君は先ほど逃亡を図ったところ、学長に妨げられ結局仮装させられてしまっていた。
 ……というかもう諦めたのだろう。自分で服を着替え、仕上げに部屋に置いてあった断ち切りバサミで学長の命綱を切ってきた。悲しいかな、そのくらいの抵抗しか出来なかったのだろう。

 お、れんたと姉が来たみたいだ。

「メリーゴーラウンドだって〜。 そういえばこの遊園地ってこれが有名なんだっけ?」
「そうなのか? あぁ、ゴリラとかがいるからか?」
 違います。
「ちゃうって!パンフにも書いてあるやろー? ホラ、仮装が出来るんやって。
 あ、誰かやってるみたいやで〜。うっわぁ、めっちゃアホやなぁ〜」
「ホントになー。しかし、あいつ恥ずかしくないのかねぇ」
「ははは、アホだから何も考えてないんじゃねぇの?」
 そんな会話をしながら二人がメリーゴーラウンドの前を通り過ぎようとした、その時!!
『皆さ〜ん! 今日の仮装者はR学園の山下尚吾さんです! 何でもれんたさんの誕生日お祝いだそうですよ〜。れんたさーん、見てますか〜?』
 アナウンスのお姉さんがソレ特有の声で言った。

 ぶぇほっっ

 れんたは飲んでいたジュースを噴き出した。
「っげほっげほっ、……山下だとぉーーっっ?!?!」
「何? お前、知り合いなのか?」
「いや、ホラ前話したろ?小説書いてるって。 それの主人公だよ!」
「……は?」
『山下さんが白馬に乗って現れます!!皆さんご注目を!!』

 ジャッジャッジャッーーン!!!!

 変な効果音が流れてメリーゴーラウンドが回り始めた。
 そこには王子様ルックに身を包んだ山下君が瞳に涙を浮かべながら座っていた。
「うっわー、何あれ。私の書いてる山下君ってあんなに女々しいのか?」
「お前……どんな小説書いてんだ」
「うっ……」
「とっ、とにかく!!早く行こう! 気分悪ぅなるわ!」
 れんたは姉の手を引き、ほのぼのエリアから姿を消した。
 その後も、役割はもう果たしたというのに無常にもメリーゴーラウンドは回り続ける。

 くるくる回るメリーゴーラウンド。白馬に乗った山下君は考えた。
 ――あぁ……なんで僕はこんな事をしているんだろう……、と。



「ただいま帰りましたー」
「おぉっ!! 山下、ご苦労だった! 学長が待ってるぞ!」
 あの後学校へ戻るように言われていた山下君は、トボトボと帰って来ていた。
「はい……」
 もう反論する気力もないのだろう。

 コンコン
「誰だ?」
「山下ですが」
「入れ」
 学長机にふんぞり返った学長がくるりとこちらを向いた。
「山下。退学だ」
 しばしの間、沈黙が訪れる。
 山下君が、大きく息を吸い……そして吐いた。
「――……っざけんなーーーーーっっっ!!!!!!!」



 山下君の絶叫が学長室のみならず学園全体に響き渡った。
 その後カラスが鳴いたとか鳴かないとか。

 アホー アホー
れんた特別出演。関西弁です。日常はこんな感じ。
さて、あと5分で19日終わります。ヤバイです。かなり焦りました。

山下君は本当に退学になってしまうのか?! どうなる!? 待て次回!!!
……嘘です。退学じゃないですよー。

2003.8.19 - 執筆 / 2004.1.24 - 加筆修正