レトロとか全然関係ないとか言わないでください。悲しくなります。(なっとけ
なんていうか刳灯がえらい青春まっしぐらです。
うわうわー書いてて恥ずかしい。(棒読み
最近ナナがないがしろにされてますね、あぁ……主役なのに。
いっそのことフレアを主役にしてしまおうか! ……考えておこう。(えぇ
っていうかフレアはもうツッコミが定着してしまったなー。
ま、宿命ってことで。(何の
2003.8.25 - 執筆 / 2004.1.30 + 2004.6.9 - 加筆修正
Act.06 「レトロ」
――レトロ復古調。 懐古的。 ある時代の様式を真似た様。 また、それを好むこと。
「なぁ、お前『レトロ』の意味、履き違えてないか?」
「そんな事ないぞ? ホラ、古風でいいだろう」
「…………これはな、『レトロ』じゃねぇ。 ただの廃屋だ」
皆は、大木によって作られる影部分からその家を見て頷いた。
……今にも崩れ落ちそうな、その家を。
ところで、貴方は『突撃!隣の晩御飯!』という番組をご存知だろうか?でっかいしゃもじを持っていきなり人様の家に入り込み、なんとその日の晩御飯を横取りするという物だ。
見ているのは楽しいが――実際にやられたらどうなんだろうか?
何故、こんな話をするか……説明するには数日前に遡(さかのぼ)らなければならない。
あれは、いつもより暑い夏の日の午後の事だった。
「ねぇ、刳灯ってさどこに住んでんの?」
ココロの発した何気のない言葉。だがその場に居た人たちの興味を引くには十分だった。
……刳灯は何かと秘密の多いヤツだったのだ。
「どこって……家だぞ?」
「そうじゃなくって! 地域とか! 家の場所とかの話だよ〜」
「……んー……、異次元?」
「は?」
全員の頭の中に『?』マークが浮かんだ。
「異次元って……どういう事?」
「えーっとなぁ、華南兄ちゃんに聞いたんだけど俺達妖狐は……何だっけな? 確か環境の変化に弱くって、でもそれだったらどこでも暮らせないからーって言って……ま、兎に角空間を渡る何かを作ったらしいんだ」
刳灯はちょっと上を向き、思い出しながらしゃべった。皆の目はもうギンギンになっていて、未知の世界への探求心が疼いてたまらないようだ。
「異次元って事はさ、やっぱり科学的な感じなの?」
「いや、どっちかっていうとレトロな感じだな。 古風で奥ゆかしくて……」
古風で奥ゆかしい……、それは既に『レトロ』ではないような気がするが、それに気づいたのはフレア一人で、他の人たちは既に向こうの世界へ行っていた。――妄想(想像)の世界へと。
そんな皆を見て……なのかは知らないが刳灯が言った。
「……なんなら、家来る?」
「「「行く!!!」」」
皆は身を乗り出しながら答えた。その様子を見て刳灯は一歩後ずさった。
『それじゃぁ学校終わったら、すぐに公園に集合な。 公園ってのはどこかわかるよな?』
刳灯がそう言ったので学校が終わった後、皆は廊下を走って全速力で家に帰った。
そしてまたもや全速力で、公園へ走った。
夏の暑い日……汗だくになりながら。
「皆来た?」
刳灯が声をかける。その顔は……何故か引き攣っている。
「僕は準備万端だよ! 何があっても大丈夫!」
「あぁ、そうだろうな」
呆れ声で呟いたのはフレア。前の声の主はココロだ。……その姿はまるで秘境に探検をしにいく人の様だった。迷彩柄の服を着て背中にはリュック、頭には電灯付きの帽子――よく工事現場のおっちゃんが着けているような物である――斜めにかけた水筒も同じく迷彩柄で、手にはご丁寧に杖(?)まで持っている。
「……あれ? まだ美沙とプリスタが来てないな……」
見渡してみると確かに全身黒ずくめと紅い頭がいない。……他にも紅いのはいるのだが、それは耳が別物なのですぐにわかる。言わなくてもわかるかもしれないがラーファンだ。彼女はココロとは違い、普通の格好をしている。
「ごめん!!遅れちゃった!!!」
プリスタが走ってきた。その顔は汗だくになって――いない?
「遅いよープリスタってば。 走ってきて暑かったんじゃない?」
「そんな事ないよー。 この前フレアに教えてもらった弱冷の魔法があるからね」
プリスタは魔法が使える。……といっても能力的な物はほとんどなく最早趣味といった物だったが。出来るのはせいぜいちっちゃいファイヤーボールや、前述の弱冷魔法ぐらいだ。……後一つ、先天的なものかは知らないが、空を飛ぶことが出来た。
「えっ?!そんな便利な物があるの?フレア、何で教えてくれなかったのさ〜」
ココロが不満の声をあげる。
「教えたってココロには出来ないよ。お前魔法の素質ゼロだもん」
涼しげな顔をしてフレアが答える。
と、そこへ高笑いとともに美沙君が現れた。……何故かでっかいしゃもじを持って。
「はっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
「ファイヤーボール」
「ん? っはっはぅっ!!! ……何をするんだフレア!!!」
高笑いが気に障ったのか、問答無用でフレアが炎を放った。だが、美沙君はそれをとても人間とは思えない身のこなしでかわし、しゃもじを振り回しながら走ってきた。
「遅いよ、みっちゃん」
「んぬ……すまん。 ちょっとしゃもじを探してたら遅れてしまってな」
何でそんなモン探してんだよ、フレアはそう思ったが口には出せなかった。……出す前に他の人が話したからだ。
「あー、そうなのかー。 それなら仕方ないよね」
「うんうん、あたしも探そうと思ったよ」
ウンウンと頷いて同意する面々……。
そんな中拳を握り締めながら、フレアは思った。「来るんじゃなかった」と。
「じゃ、行くか」
「「「うんっ!!!」」」
刳灯が皆を公園の一角へと促した。そこは巨大な木が生える『憩いの場』と称される所だった。何の陽射し避けもないこの公園の中で唯一屋根付きの東屋もある。
ほどよい季節ならばそこはその名の通り『憩い』の場になるのだろうが今は……暑すぎる。 人は愚か、いつも居るはずの鳩達や猫達さえもいない。
「……ね、刳灯?ここ『憩いの場』だけど?」
「ま、見てなって」
そう言うと刳灯はポケットから石みたいな物を取り出し大木に向かって何かを呟いた。皆はその様子を見守る。
――一人だけ東屋で寛いでいるヤツがいるが。
(かったりー……、あーマジで来るんじゃなかった……)
フレアだった。
『解!』
刳灯が指を大木に突きつけ言った。
その瞬間フレアは飛び起きた。
(な、何だあの術は?! 聞いたことがないぞ?……それにすごい魔力だ)
そんなフレアを他所に、皆はわらわらと大木の周りに集まった。
「フレアー。 置いてくよー?」
「あ……あぁ、今行く!」
* * *
「なぁ、お前『レトロ』の意味履き違えてないか?」
「そんな事ないぞ?ホラ、古風でいいだろう」
「…………これはな、『レトロ』じゃねぇ。 ただの廃屋だ」
皆は、大木によって作られる影部分からその家を見て頷いた。
……今にも崩れ落ちそうな、その家を。
大木の間をすり抜けたらそこは既に公園ではなく、春の暖かい陽射しが差し込む異界の地だった。 そして目の前には今にも潰れそうな家(と呼んでいいのかわからないが)があった。
「ね……ねぇ、くーちゃん。 此処ってホントに住めるの?」
ラーファンが心配そうに問う。
「大丈夫なんだよ。見かけとは違うから」
自信満々に答える刳灯だが、皆の顔は心なしか暗い。
ギギギィ
刳灯が戸を開ける。
玄関は……見かけと一緒ですごく汚かった。
皆はもう帰りたいかも、等と思い始めていたが、どうやって帰るのかわからないので渋々中に入った。
「よし、皆入ったよな。 それじゃプリスタ、そこのスイッチ押して」
カチッ
ブ ウ ゥ ウ ゥ ゥ ー ー ー ー ー ン
「うわぁ……すごい」
「ど、どうなってんだコレは……?」
そこは先ほどまでの廃屋ではなく、近未来風の……そう、例えて言うならドラ●もんに出てくる22世紀の家のような造りをしていた。
刳灯が言った。
「ようこそ、我が家へ」
「じゃ、いざ突撃ーーー!!!!」
美沙君を先頭に、遠慮のカケラもない連中がしゃもじ片手に(いつ取り出したんだ?)廊下を走っていった。
刳灯は止める間もなく「え?えぇ?」というような顔をしている。そんな刳灯にフレアは言った。 「諦めろ」と。
「刳灯?帰ったのか?」
「あ、華南兄ちゃん! ただいま〜」
そこには刳灯とよく似た……髪の色と耳の所、それに身長が違うだけの青年が立っていた。
人の良さそうな笑みを浮かべている。割烹着を着て、手を拭きながらこっちへ歩いてくるその姿はまるで主婦のようで、フレアはちょっと引いた。
「おや? そちらの方は?……あっ、くーちゃんってばやるなぁ」
口元に手を当て少し人の悪い笑みを浮かべて言う。
「なっ、違う! こいつはフレアって言うんだ。 他にも何人か来てるし」
刳灯は顔を真っ赤にさせ反論した。
「こんにちは、お邪魔してます」
「こんにちは。 しかし……くーちゃんって何人もいるんだね……兄ちゃんにも分けてくれよ。一人身は悲しいよ……うっ」
「だぁら、違うって言ってんだろ!!!」
刳灯は手を振り上げ、華南を追い払った。
「ごめんなー、兄ちゃんこの前彼女に振られてさー。俺に当たってくるんだよ」
「いや、私は別にいいけどさ」
「えっ?」
何故か刳灯は目を輝かせた。 だがその様子にフレアは気づかずすぐに後を続ける。
「……私はいいんだけどな。あいつら、ほっといていいのか?」
「あ……」
「おぉっ!見て、めっちゃ美味しそう!」
「うわ〜、うわ〜v」
「ご飯もほっかほかだな!よし、おかずを探せ!」
その頃、しゃもじ軍団は台所を発見していた。
そして先ほどまで華南が作っていたと思われる料理の数々に手をつけようとしていた。……もう皿まで出してきて準備万端なようだ。 しかし、なんてヤツらなんだろう。
「らんらんらららん♪くーちゃんに〜春が来た〜♪」
刳灯が聞いたら絶対に怒りそうな歌を歌いながら華南が台所へ戻ってきた。
そして自分が今まで苦労して作った料理の数々を皿に取り分けている人達を発見した。
ポンッ、と手を叩き彼は言った。
「あぁ! 君達がくーちゃんの!」
それに気づいたのか美沙君がそっちを見た。
「ん?誰だアンタ」
いや、それはお前がいう言葉じゃないと思う。
けれどツッコミ役のフレアは此処に居ず一緒にいるのは天然馬鹿ばかりだった。
「うわー、侵入者?!」
「えぇー! 怖いっ!!」
口々に勝手な事を叫びながら、手は着々と食べる準備をしている。
「……もうくーちゃんってば、こんなに可愛い子ばっかりで……本当に、一人分けてくれないかなぁ。 あの黄色い羽の子とかすっごい可愛いし!!」
目をハートにさせながら華南が何か呟いている。 ココロは何故だかわからないが背筋がゾっとなった。
「兄ちゃん、あれは男だぜ?」
「えー、男なのー……がっかり。 んーそれじゃぁこの子で、ね?」
いつの間にか来ていた刳灯が間違いを指摘する。 しかしその間違いを知った華南がフレアの肩を抱き、そう言ったので言い直した。
「ごめん、兄ちゃん。やっぱあれ女だったわ」
「刳灯ーーーーっっ!!!」
「ん?……なんだよ、ココロ」
「なんだよ、じゃないでしょ! 僕は男だよ!それにフレアと何してたのさー!!?」
さっきまで皆と一緒に料理を取り分けていたというのに、一瞬で飛んできて刳灯に詰め寄った。 眉間に皺がより、手にはハリセンが握られている。……なんで山下君なんですか。
「別に何もしてない。お前らが先に行くからだろ。 ……それよりココロ、ソレは何だ」
フレアが答え、そして問う。
その目はハリセンへ向けられていた。
「あ、これ?尚ちゃんが僕用に作ってくれたんだv 何か嫌な事があったらこれで叩くといいよって。 いいでしょ〜♪ あっ、もしかしてフレアも欲しかったの?!」
「誰がいるか。……くそ山下め、ココロに変な事教えやがって」
フレアは俯き拳を固める。 ココロはフレアの傍に来て言った。
「フレア大丈夫だった? 刳灯に何か変な事されなかったよね?」
「何か、って何だ。何かって」
刳灯が言い返す。
「ふん、わかってるくせに。僕知ってるんだよ。 刳灯が恋敵(ライバル)だって事」
「ん? 何だお前ら何か競ってるのか?」
フレアが話に入りそうになったので、二人は「ま、まぁ」と言ってその話題をやめた。
「ところでさ、アレ。どうすんの?」
「え、あー……どうしよう。山下を連れてこれば良かったなぁ……」
アレとはどこからか箸を取り出し勝手にコップまで取り出し……、というか全て勝手にして華南の作った料理を食べようとしている美沙君だった。 もちろんプリスタもラーファンもその他(!)もいるのだがどうも影が薄い。いや、美沙君が濃すぎるのだろうが。
「仕方ない……おぃ、ココロそれ貸せよ」
フレアはココロの持っているハリセンを指差して言った。
ココロは少し躊躇したが早く渡さないとフレアは怖いので渡した。
受け取ったフレアはツカツカと美沙君の所へ歩いていき――ハリセンが炸裂した。
ベシィッッッ
「なななななんでハリセンが此処にあるんだ?!?!」
頭を抑えて立ち上がった美沙君が慌てたように言う。
「あのハリセン野郎が飛んできたのかと思ったじゃないか!!」
「美沙、お前なー。人様の家に上がりこんで勝手に飯食うなんて……あのちゃちなTV番組の真似でもしてんのか?」
呆れたように言うと、美沙君が少しだけ首を傾げて返してきた。
「何だフレア知らないのか?R学園の規則」
「ん?」
「ほら、学長が決めたヤツで、『人の家に行ったらまず台所を探して料理を貪るのだ!それがその家の人への礼儀だぞ!』っていうの」
「……知るかぁぁぁ!!!」
スパコーーンッ
「ん?いまいち音が冴えないな……」
バシッ
「……まだダメか……これじゃどうだ!!」
ズバシコンッ
「おぉっ、やっぱりハリセンはこうでなくっちゃv」
「フレア……てめぇ何しやがる!!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。 別にご飯食べてもいいから、と言うより用意してくれて助かったよ。 くーちゃんだけだと思ってたしね、楽しい夕飯になりそうで嬉しい」
華南が二人を制して言った。
やたらにっこりと笑みを浮かべているので、二人は黙った。
その後は、仲良く皆でご飯を食べた。
美沙君はココロと一緒に『突撃!隣の晩御飯』の真似をしてしゃもじをマイク代わりに、華南にインタビューのフリをしていたりした。 他愛もない話で盛り上がり、楽しい時間が過ごせた。
「それじゃ、今日はありがとな」
フレアが言った。
来たとき同様、他の人たちは先に行っている。 けど今度は華南も一緒なのでいいだろう。
フレアとしては華南に皆が迷惑をかけていないか心配だったのだが、刳灯が『兄ちゃんも似たようなモンだからな』と言ったので後からゆっくり行くことにしたのだった。
「あ、いや別にいいよ。 俺も久しぶりに楽しかったし」
「そうか、なら良かった。ところでさ来たときに使った魔法ってどういうものなんだ?」
魔法使い根性が出てきたフレアが問う。しかし刳灯は申し訳なさそうに言った。
「あー、あれは俺達一族しか使えないヤツなんだよ。 それに俺も覚えてる言葉を言ってるだけだし……原理とかはわからないんだ」
「ま、それならいいや」
自分で使えないものだと知ったらどうでもいいのだろうか? フレアはさらりとした口調で返す。
刳灯はそんなフレアを見ながら言った。
「……また来てくれよな」
「あぁ、喜んで。 色々と興味あるしな」
「いや、そうじゃなくってさぁ……」
刳灯は困ったように頬を指でかいた。
「ん?」
「ああぁ! もういいやっ、忘れてくれ」
華南と一緒に先に行っていた美沙君やココロ達は、もう玄関を過ぎ家の外へ出ていた。
外から見たらどう思っても『廃屋』なのにな……、とココロは思った。 そんなココロの心情を察知したのか知らないが、ラーファンが口を開いた。
「何かさっきまでのがこの家の中にあるとは思えないね」
「あぁ、全く持って謎だ」
「そういえば刳灯ってこの家『レトロ』だーとか言ってたけど夜見るとまるで『ホラー』だよね。ドラキュラとか居そう」
「あはは」
そんな話をしているとフレアと刳灯が出てきた。そしてあの大木の所へいくと魔法をかけた。
――今度は華南がやったのだが。
「それじゃ!また明日」
「バイバイ、くーちゃん」
手を振りながら一人ずつ大木の中へ消えていく。
最後はフレアだった。
「じゃ」
短く言うと、さっと中へ消えていった。
* * *
「なぁ、くーちゃん。……惚れてるだろ?」
「なっ!!またそういう事いいやがって!!」
「ふっふっふっふ、兄を侮るといけないよー? あのフレアちゃんの事好きなんだろ?」
「うっ……そ、そうだよ。悪いか!!」
「そんな事言ってないさ。お兄ちゃん応援しちゃう。フレフレッ、くーちゃん♪ ココロ君に負けるなー♪」
「っ?!何で兄ちゃんがココロのまで知ってるんだよ?!
「だーかーらー、兄を侮るな……って言っただろ?」
ギギギィ
「ほら、早く入るよ。風邪引きたくないだろ?」
「わかってるよ!今行く!」
バタン
……
月明かりに照らされた屋敷。
それはやはり『レトロ』とはかけ離れた物だった。