ワケわかんなくてすみません。自分でもわからんです、はい。
沙雪さんはともかくピスティアはどうしてん!って感じです。
さー今日も元気にいきまっしょい!!(ネタ切れ
2003.9.2 - 執筆 / 2005.3.20 - 加筆修正
Act.10 「ドクター」
「ふあぁ……」学園の前の平坦な道は通学途中の生徒達で溢れかえる。その中にはR学園名物クラス(?)のナナ=カルラも居た。
いつも通りのめざしの朝食に今日は梅干がついたとか何とかで気分が晴れ渡っていてもいいのだが、昨日は夜遅くまで本を読んでいたらしくとても眠そうだ。……というか寝ながら歩いている。
途中、何人かにぶつかったようだが「あぁ、あのクラスの人だ」と思い、謝りも要求せずそそくさと逃げていった。
今やナナはR学園での要注意変人になってしまったのだった。
そんなぶつかり、ぶつかられの通学をする生徒達の間を“何か”が走り抜けた。
……とてつもなく情けない悲鳴をあげながら。
「うわぁぁぁーーー!!!!!!ミーちゃんがぁぁーーー!!!!!」
その“何か”はナナの横もすり抜けていった。
突如吹き荒れた風のようなその“何か”のせいでナナは目が覚める。
目を擦りながら周囲を確認し――
「………………やましたぁ?」
“何か”も確認した。
* * *
「おっはよー」
ドアを開けた瞬間にいつものようにココロが挨拶をしてくる。ナナはその爽やかさに少し当てられながらも適当に返事を返し、自分の席へと向かった。ナナの席は窓際から2列目、前から3番目に位置していた。先生にも目を付けられやすいすごく不利な席だった。ちなみに隣はフレアで斜め前が山下君、その前が美沙君という濃いメンバーが揃っている。フレアと近くになりたかっただろうココロは生憎正反対の席だった。
「おはよう、どうしたんだ?もしかして夜更かしか?」
席に着くやいなや、突っ伏して寝る体勢をとったナナにフレアが話しかける。
「…………いやぁ、昨日本読んじゃってさ……」
ふあぁ、と欠伸をしながらナナが答えた。
「何を読んだんだ?」
「推理小説……先生の新刊……ふわぁぁ……」
すると少し前に来ていた美沙君がガタッと音を立てて席を立ち上がりナナのところへ来た。
――美沙君も今まで寝ていたようだ。
そして机に手をつくと、大声で捲くし立てた。
「推理小説?!? ナナは推理小説を読むのか?!」
その言葉に眠りの世界へ入りかけていたナナは容赦なく連れ戻される。
「……うん……」
眠りの世界から連れ戻されたものの、今にも睡魔にやられそうなナナは目を半開きにしながら答えた。両方のまぶたがものすごく仲が良く、今にもくっついてしまいそうだった――が。
「もももももしかして赤川先生か?!?!」
両方のまぶたは突如として仲が悪くなり、ナナは飛び起きた。
「うん!!!あ、もしかしてみっちゃんもファン?!」
「当たり前だ!!!」
そのまま二人は本の話題に華を咲かせようとした。
だが、それは悲鳴をあげながら入ってきたもう一人の推理小説愛読者によってぶち壊された。
ガラガラガラッ
「しょうちゃん、おは……よ……?」
元気な挨拶をしようと思ったココロだったが、異変に気づき自然と声が小さくなる。
「…………どうしたの?」
不安げに尋ねる。
そしてもう一つ。
「―――――…………猫?」
山下君はその腕に黒い何かを抱えていた。
――しかも、今にも泣き出しそうな顔をしながら。
いつも眉間に皺を寄せ不機嫌な顔をしているものだからクラス中は度肝を抜かれた。ほとんどの人は“これは外見だけ山下の格好をした偽者か?”とまで思ったほどだった。
「こ、ココローーーっっ!!!」
途端、山下君は黒い何かを持ちながらココロに抱きつくという芸当を見せた。いきなり抱きつかれたココロは驚きそしてはっ、となりフレアの方を見た。……勘違いされるとでも思ったのだろうか?
「ど、どうしたのしょうちゃん?それにその猫は……???」
抱きついてきた山下君を丁重にはがしながらココロは続けた。山下君の腕に抱かれる猫を見ながら。
「みっ、ミーちゃんが危ないんだ!獣医のとこ行こうと思ったけどわからなくて」
慌てている山下君を見るのは守山先生(ちなみに碧先生ではない)が化粧をするぐらい可笑しいものだったがどうも笑っている場合ではないと考えた一同はざっと山下君の周りにむらがった。
「まぁまぁ、落ち着けよ。ホラ、猫だって怯えている」
美沙君が心なしか優しげな表情で山下君を見る。だがそれは山下君を思っているのではなくその腕に抱かれる存在を思ってのことだった。……美沙君は大の猫好きなのだ。
「美沙君……」
見詰め合う二人はどこかしら純愛ラブストーリーを彷彿とさせる。だがいつも一番先に山下君の事を気にかけそうな沙雪さんやピスティアが居ない。つまりこの似非純愛ラブストーリーを止めるという大技が出来る者が居ないという事だった。
「猫……大丈夫なのか?私が見てやろうか?」
「あ、あぁ……頼む」
少しずつ元に戻ってきたかのような山下君は腕にいる小さな存在を美沙君に託した。黒い猫は黒い美沙君によくなついた。……同類か……?、皆は思った。しかし本当に猫は美沙君を怖がりもせず抱かれていた。少しばかり弱っているのを差し引いても猫は美沙君を気に入ったようだった。
「んで?今日の朝っぱらから叫んでたワケは?」
眠そうな顔をしながらナナが尋ねた。さきほど推理小説の話をしている時はこれでもか!と元気で煩かったのだがそれが終わるとすぐに眠りの世界への門が開いたようだった。
それを一部始終見ていたフレアは思わず汗をかいた。
「……朝起きたらミーちゃんが元気なくて……獣医の所に行こうと思ったんだがどこにあるか知らないし……エサも水も飲まないし……僕どうすればいいのか……」
弱気な口調で答えるものだから猫のみならず山下君が可哀想になってくる……はずなのだが普段の山下君を知っている皆は口元を押さえ今にもあふれ出しそうな笑いをこらえた。
だが最近ますます変人度を高めてきたナナや元々変なフレア達は大丈夫なようだった。
……ナナの場合は眠さにやられて体が思うように動かないだけかもしれないが。
「――わからないからとりあえず此処まで連れてきた……ってことか?」
フレアが尋ねる。それに山下君は頷くだけの返事を返した。
「獣医……ねぇ?あ、刳灯なら知ってるんじゃない?」
ココロがふいに刳灯の方を指差して言った。
「な、何で俺が獣医の場所知ってんだよ?」
「え?だって刳灯は医者じゃなくて獣医の方じゃないの?狐だし?」
にっこりと答えるココロに青筋を立てた刳灯はラリアットをかました。
――どうやらこの二人、夏休みの間にますます仲が悪くなったようなのだ。……というよりココロが刳灯をからかう回数が増えてきていた。
「俺はちゃんとした医者のトコだ!お前こそ獣医なんじゃないのか?!」
「はっ、僕は刳灯と違って由緒正しい炎妖精ですからねーっ、だ!」
「なっ何ぃ!俺だって由緒正しい妖狐だぞ!!!」
いらん事で言い争いをはじめようとする二人にフレアは容赦なく炎を浴びせかけた。
別に声をかけるだけで喧嘩は終わると思うのだがフレアは口より先に手が出るタイプなのだった。
「二人ともそんなくだらない事言い争うな、煩い」
炎を浴びせかけたあとでフレアはいけしゃあしゃあと言い放った。
黒こげになった二人は「はい」と素直に従った。
「獣医……なぁ……。ネットで調べるか?」
低めの声で言ったのはオルド。最近彼はインターネットにはまっているらしく始終パソコンを持ち歩いているようだ。
「そ、そんな事が出来るのか?」
山下君は美沙君から猫を抱き上げ、オルドの方を向いた。
「んー……検索で此処らへんを調べれば何とかなると思うが……」
「なっ、なら頼む!!ミーちゃんの為に!!!」
そんな力んで「ミーちゃん」とか言わないでくれ、吹き出しちまう。
……なんて事をオルドが思っていたのは秘密である。
* * *
バッターーーンッ
「ふっ、この天才的な私が治してしんぜようっっ!!!!!」
突然ドアを押し倒し諸悪の根源、鉦山学長が現れた。
「絶対イヤです。帰れ」
即答。調子が戻ってきたのだろうか?ものすごく嫌そうな顔をした山下君が言った。
「はっはっは!この私が獣医の資格を持っていることを知らんのか!?」
「知らんわ。帰れ」
余談だが、つい最近美沙君と学長が実は昔からの知り合いだったという事が判明した。よく考えるとその笑い方や高飛車な態度、人を見下すようなしゃべりは全くもって同じ物だ。
何故今まで気づかなかったのか?不思議なくらいだった。
「いいから見せてみろよ。誠吾が獣医の資格を持っているのは本当だ」
美沙君が横から口を挟む。
それを聞いた皆はものすごい目で学長を見た。
「な、何だ君たちは。そんなに見つめないでくれ!」
誰も見つめてねぇ、とツッコミを入れたかったが余りの衝撃にそれすら忘れていた。
「――……うそだろ?」
ぼそっとフレアが呟く。だが美沙君は力なく首を振った。
「いや、それが本当なんだ。思い立ったが吉日生活!とか言っていきなり取ってきやがった」
獣医の資格に限らず、色んな“資格”というのはそんな風に楽にとれるものではない。……それほどまでもすごい人物なのだろうか?この変態学長は。
「いや、私はそういう事を言ってるんじゃなくて……」
フレアが訂正する。
「こいつの場合、救う方じゃなくて殺す方じゃないのか?っていう驚きだ」
「ここここここここ殺すぅぅぅ?!?!?!」
ガタガタガタガタッ
そこらへんの机をなぎ倒しながら山下君は猫を抱え学長から離れた。
「やややややややや野蛮人は国へ帰れ!!!」
ガタガタと震えながら山下君が言った。
と、その時声がした。
「―――――………………………………またドアがないぞ?」
守山先生だった。
さきほど学長がぶち壊したドアを見ながら守山先生は項垂れた。先日壊れたばかりだと言うのにまた壊れたのだ。悲しくてしょうがない。
「学長、またですか?修理代ちゃんと出してくださいね?」
ふぅ、とため息をつき教卓へと向かっていく。その手にはいつものように大きすぎる三角定規とコンパス。一時間目の授業は数学だった。
「ふっ、修理代などいくらでも出してやろう!ところで今日は沙雪君は?」
「あー館山なら風邪で今日は休みですよ。熱が出たらしいです」
「なっ、なんてことだ?!こんなとこで油売ってる場合じゃない!!沙雪君っ、今行くぞーーー!!!」
今度は壊すドアがないので、大した音もなく学長は消えていった。
「さて、で?何してるんだ?」
守山先生が学長の後姿を見送りながら言った。
「そ……それが……」
一番近くにいたラーファンが口を開き、山下君の方を見る。
「ん?山下…………その黒いのは何だ?」
「せっ、せんせえ!!!近くに獣医さんあるとこ知りませんか?!ミーちゃんが大変なんです!!僕、どこにあるのか知らなくって先生達に聞こうと思って!」
涙浮かべながら先生の元へ歩み寄る山下君。……皆は笑いをこらえるのを必死に抑えていた。ラーファンなど思わず目を逸らして逃げてしまったほどだ。
「獣医……?それなら学園の中にあるだろう?」
なんで。なんでそんなモンがあるんですか、皆は真剣にそう思った。
「えっ?!学園の中に?!どっどこですかっ?!?!」
「……保健室の隣の小部屋があるだろ?あそこだが、あそ――」
「山下、行ってきます!!すいません授業はじめててください!!!」
守山先生が全部言う前に山下君は猫を抱えて飛び出していった。
一瞬気まずい雰囲気が流れる。
フレアが口を開く。
「先生……もしかしてそこの獣医、最初に『か』がつく人じゃありません?」
頬をかきながら苦笑いをしている。
「あぁ、知っていたのか?」
「あーってことは“か”の次は“ね”で“や”で最後が“ま”なんですか……」
獣医のいない学園を走る山下君。
当の獣医は知りもしない住所を探し迷子になりかけていた。
ちなみに猫は病気でも何でもなかったらしい。
あぁ、親ばか――