どこまでも続く道。
 決して終わりはなく永遠に在り続ける。
 それを途中で降りることは出来ない。
 出来るとしたら、それは“死”。

 永遠の螺旋階段を上り終えた後、貴方は大切なモノを残し一人旅立つ。
 残されたモノは貴方を求めながら同じ螺旋を昇り続ける。

 永遠に同じ道を歩むことは出来ないというのに。



 * * *



「ほへぇ〜〜〜、さすがフレアの家……」
 その日は学園が臨時休校となったのでフレアは何人かを家に招いた。別に招くつもりなど無かったのだが「暇だし!」と言うナナ達に説き伏せられ首を縦に振ることになった。
「そうか?」
 ガチャ
   キィ……
 フレアは大きな門の鍵を開け、皆を中に入れた。そしてまた門をしめると大きな屋敷へと向かった。
 その家はまさしく“屋敷”と呼ぶもので大きく、そして迫力があった。
「ねぇ、フレア。 誰か一緒に暮らしてるの?」
 ナナが訊く。
「あぁ。一人……いや二人か……一応家族かな」
 今度は屋敷の入り口までくるとインターホンを鳴らす……のではなく何か呪文のようなモノを呟いた。すると大きな扉が音を立てて開いた。
「どうぞ」
 フレアは扉の横に立ち、皆を招きいれた。



 入るとすぐに2階へ続く階段があった。といってもそのフロアは吹き抜けでバルコニーのようにのびているものだったから全然窮屈ではなく、開放感があるものだ。皆はしばらくの間、周りを見てほけーっとしていた。あまりの広さに圧倒されていたのかもしれない。
「おぃ、何ぼけーっとしてるんだよ。行くぞ?」
 フレアは少し呆れたような顔をして言った。階段を指差すと「私の部屋、上だから」と言って歩き出した。
 と、その時真ん中に位置している扉が開き誰かが出てきた。
「あ……お、お邪魔してます!」
 ナナが真っ先に気づき挨拶をする。その男性はにっこりと笑い「いらっしゃい」と言った。
「グリッセル。お客さんだから……後で何か持ってきてくれないか?」
「はいはい、先ほどケーキを焼いたところでしたので持っていきますよ。……レイサーに持っていってもらいますね。彼女、あなたが帰るの待ちわびていたようですし」
 くすっ、と笑うと男性はお辞儀をしてまた扉の向こうへ消えていった。一瞬だけ紅色の残像が残り、すぐに消えた。
「……兄さんとかなのか?」
 美沙君がその残像の残っていた箇所を見つめながら訊いた。
「いや、兄さんとかそんなんじゃないよ」
 手をひらひらと振りながらフレアは笑った。その様子を見ていた刳灯は隣のココロの方へ顔を向けた。
「なぁ、ココロ。あいつは誰なんだ?」
 ココロが知っているとは限らないのだが刳灯は兎に角誰かに聞きたかった。年もさほど離れていない男女が一緒に暮らしているのだ。恋する乙女化している彼としては気にならないハズがない。
 だが、ココロは彼の問いに答えなかった。
「それは教えられない」
「……何で?っていうかお前知ってるのか?」
 “教えられない”、そのことも十分に気を引くものだったが刳灯は何故ココロが知っているような言い方をするのか……の方が気になった。
「……ちょっとね。きっとフレアに『あれ、誰?』とか訊いたとしても答えてくれないよ。『きっと』じゃないか、『絶対』だな」
 どこか淋しそうに呟いたココロ。刳灯はその言葉を横で神妙に聞いていた。
「ホラ、お前ら置いていくぞ!」
 階段を半ばまで上ったフレアがまだ下にいた二人に声をかけた。刳灯は慌てて駆け上がったが、ココロは少し下を向いたあとフレアに言った。
「僕、ちょっとグリッセルのとこ行ってていいかな?」
 フレアは少し驚いたようだったがすぐに笑って言い返した。
「あぁ、あいつもお前と話したがってたから。場所は……わかるよな?」
「うん」
 ココロは笑うと扉を開けて違う部屋へと移っていった。
「さ、行こうか」
 下の方まで降りてきて最後尾の刳灯を促す。刳灯はココロが行った方をチラリと見た後、フレアを見た。その顔はどこか淋しそうで、今にも泣きそうだった。
「……フレア?」
「え?あ、な、なんだ?」
「いや、何でもないけど……」
 フルフルと首を振る。それは訊いた事を忘れようとしているのか、それとも見てしまったモノを忘れようとしているのか……それは誰にもわからなかった。



「久しぶり」
「おや、どうしたんです?フレアはどうしました」
「あ、えっと……グリッセルと話がしたい……って言って先に行ってもらっちゃった」
 いたずらをした後の子供ような表情をしてココロが笑った。
「そうですか。丁度いい、私もココロ君と話がしたかったんですよ」
「うん、さっきフレアが言ってた」
 グリッセルは手招きをすると手近な椅子を引き、「どうぞ」と言った。ココロはその椅子に座ると彼の方へ向き直った。
「……あのことだね?」
「えぇ」
 ふぅ、とため息をついたあとココロは言った。
「僕が言えるようなことじゃないけど、時々沈んだような顔をしてる。
 もしかしたらまだ……考えているのかもしれないんだ」
「家でも時々そんな感じになっていますよ。なんていうか空回りというか」
「ねぇ、グリッセルは……どう思う?」
「私ですか?私は……私だけの欲を考えると今の選択が正しかったと思っています」
 いったん息をつき、窓の外を見て続けた。
「でも、フレアには残酷な選択だったかもしれません」
「そう……」
 ココロもまた、窓の外を見ながら言った。
「僕は……」

 バッターーンッッ

「あぁぁーー!!!ココちゃんだーー!えっ、どうしたの?いつ来たの?
 ……あれ?ココちゃんが居るってことは……マスター帰ってるの?!」
 突然扉が開き、ピンク色のおめでたい頭をした女性が飛び込んできた。
「……レイサー、あなたは……もうちょっとおとなしくしてられないのですか」
 手で眉間の部分を押さえ諦めたような口調でグリッセルが言った。
「えーっ、これでも十分におとなしいもん!!
 それにくーちゃんがあたしに教えてくれないのがいけないんですよーーだっ!!」
 いーっ、と口の端を両手で広げ舌を出す。その仕草がもう似合わないような外見なのにやけに似合ってしまい可愛く見える。
 その様子を見てココロは笑った。
「相変わらずだねー、レイ。久しぶり元気にしてた?」
「あったりまえよぉ!!でもマスターが最近素っ気なくってぇ」
 どんっ、と胸を叩き答えたがすぐに声は小さくなっていった。
「……そ、それじゃ僕そろそろ行かなきゃ。またね」
 ココロは少し焦ったように言うと椅子から立ち扉へ向かった。
 そこへ、グリッセルが声をかける。
「あ、フレアのところへケーキ持っていかないとダメなんで……レイサー。ホラ、持っていってくれよ。ココロ君悪いけど一緒に行ってやって」
 いつの間に用意したのやら……グリッセルは持ってきたお盆に紅茶やケーキを乗せレイサーに渡した。おいしそうなフルーツケーキだった。
「じゃ、またゆっくり話せる時に」
 意味ありげにウィンクをするとグリッセルは机の上を片付け始めた。ココロはそれを少し見たあとレイサーを伴って扉から出た。
「またね、紅」
 去り際に言葉を残して。



 * * *



「もう一人の家族……ってのは?今は居ないのか?」
 フレアの部屋についた後各々適当な場所に座り雑談をしていた。そんな時、美沙君がふと思い出したように言った。
「さっきの人が一人目だろ?……確か家族は二人って言ってたな?」
「あぁ、もう一人いるよ。……たぶんもうすぐ来る」
 フレアが少しうんざりしたような口調で答えた瞬間扉が開いた。
「マッスッタァ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 ピンク色の髪の毛の女性……レイサーがフレアに飛びつく。おぼんはというと、しっかりココロに持たせていた。
「やめろって!暑苦しい、離れろっ!!」
 フレアはドタバタしながら張り付いてきたレイサーをはがしにかかった。けれどそれは必要のないことで、レイサーはすぐに離れココロのところへいくとお盆を受け取った。そしてそれを机の上に置くとにっこり笑った。
「いらっしゃい!マスターの部屋ちらかってるけど楽しんでね〜v」
 にこにこと笑いながらそれぞれへケーキと紅茶を渡す。フレアはそれを見ながら皆に紹介した。
「もう一人の家族、レイサーって言うんだ。頭の色は変だし、頭の中身も変だけどまぁ一応生き物だから安心して」
 それは安心してもいいのだろうか?人型のモノ指差して『生き物だから』と言われて安心という言葉が浮かんでくるのはなかなか難しい。
「そっかー、レイサー……レイちゃん?」
 ナナがフルーツケーキを受け取りながら言った。
「うんっ、レイちゃんですとも!別にレイとかでもいいけどね〜♪……っと、はい!」
 レイサーはナナに答えながら今度は刳灯のところへと持っていった。刳灯はココロが居なくて男一人だということで緊張しているのかどうだがわからないが先ほどから会話には参加せず、一人で本を読んでいた。
「はい、どーぞー。くーちゃんのケーキおいしいからね〜v」
「あ、どうも」
 刳灯は読んでいた本を置き、レイサーから受け取る。受け取った瞬間おいしそうな匂いがして刳灯は一瞬違う世界へ行ってしまった。だからその時、レイサーがちらっと置かれた本を見たことを彼は知らない。



「それじゃ、どうぞ。あいつのはおいしいはずだから。紅茶が冷めぬうちにな」
 そう言いながらフレア自身が紅茶のカップを持ち、口をつける。するとレイサーが扉のところで「マスター!」といいながら手招きをしていたのが目に入った。
 フレアはカップを適当な場所に置き、部屋の外へと向かった。

「なんだ?」
 部屋の外に出て、しばらく歩いたあとフレアがレイサーに尋ねた。
「レイサー、……どうした?」
「あの子。本読んでたよ、知ってた?」
 先ほどまでの口調とはうって変わり少し冷酷とまでなりそうなほどの低いトーンでレイサーは答える。
 その答えにフレアは笑った。
「当然だろ。……どうせいつかは知られるんだから」
「でも!!」
 また元のトーンに戻ったレイサーは先を続けた。
「ココちゃんにバレたのもヤバかったのに……だ、大丈夫なの?!」
「大丈夫だよ。それに他に何人か知ってるヤツがいる」
 ため息をつく。
「別に知られても大丈夫だよ。そこまで私は弱くないつもりだ」
 はっきりと言い切るフレアにレイサーは何もいう事はせず「そっか、ならいっか」といって下へ降りていった。
「大丈夫……だと思うんだけどな……」
 ははは、と少し自嘲気味に笑ったあとフレアは部屋には戻らず少し離れたところにあった部屋に入った。



 キィ……
 扉を開けると本の匂いがした。……書斎だった。
 フレアは椅子に腰掛けると一冊の本を手に取った。そしてその本を開くと懐かしいように眺めた。
「全く……あいつも困ったもんだよな……」
 ふっ、と笑うと本を置き机に突っ伏した。
「まぁ、これで居なくなるのなら別にいいんだけど……」
 少し黙った後、先を続けた。
「どう……思う?」
 一人しかいない空間に問いかけるように言うフレア。返事は当然返ってこないものだと思われたが……声が響いた。

『さぁ?恋愛沙汰はなかなかわからない動きをするもんでね』

 低めの声、けれどなんだか温かみのある声だった。
 フレアはその声を確認すると頬を緩め、呆れたような声を作り、言った。
「恋愛沙汰……ねぇ。お前、私が浮気してもいいのか?」
『浮気?まさか、フレアがそんなことするはずない』
 声は笑って言い返した。
『お前はそんなことしないさ。長い間そうだったんだから』
「……あの時はそうだった。けど今回はわかんねーぞ?」
 同じように笑って言うフレア。実際にはそう思っていないのがよくわかる。
『ははは、嘘吐きさんは嫌いだよ〜?』
「うっさいよ」
 二人して笑っている。けれど現実のモノとして聴こえるのはフレアの声だけ。
 ガタッ
「それじゃ、もう行くから。皆待ってたら悪いしな」
 フレアは椅子から立ち上がり常人には見えない何かに手を振り扉の方へ歩いていった。
 そしてドアノブの手をかけた時――

 ちゅっ

『じゃ、また』



「―――――…………あンの馬鹿野郎…………」
 フレアは口元を押さえ、真っ赤になりながら呟いた。





 どこまでも続く道。
 決して終わりはなく 永遠に在り続ける。

 永遠の螺旋階段を昇り終えた後 貴方は大切なモノを残り一人旅立つ。
 残されたモノは貴方を求めながら同じ螺旋を昇り続ける。

 永遠に同じ道を歩むことは出来ないが……貴方が少し立ち止まり、後ろを振り返るだけで
 貴方は大切なモノと一緒の道を行けるかもしれない。

 それは神に逆らうことであるけども。
ニジカケ全開なお話。別名ニジカケ番外編<フレアんのドッキドキ>(滅。
ニジカケを読んでいない人には一切わからん(ハズ)という果てしなく最低な設定(爆。
読んでる人にはだいたいの予想がついたんじゃないかと……。

ってこっちでネタバレしてどうする!!
深くつっこまないでください。もういい加減疲れてきたみたいです。

2003.9.13 - 執筆 / 2005.3.20 - 加筆修正