書き方がわかんなかった……ギャグにしようと思ってたのになぁ。
木村君はこれっきりのキャラ。一応迷探偵属性のキャラのつもり。まだ未定だけども。
2005.9.5 - 執筆
Act.20 「モノクロ」
コンコンこの学園の生徒とは到底思えないような控えめなノック。
勿論、普通の学校などでは当たり前の事なのだが、ここR学園ではとても、とても珍しい物であった。どれほど珍しいかと言うと、ヤモリが突然イモリになってダンスを踊りだしてしまうくらいだ。とどのつまり、“有り得ない”。
「……き、聞いたか?」
「あぁ、この耳に、はっきりと」
だからその控えめなノックの後にこういう、普通では有り得ないような会話が成り立つのも仕方なかった。
「あのドアにノック……普通ならノックどころか、ちゃんと開けてさえ貰えないドアが、ノック……」
「ううーむ、この学園にまだ天然記念物が居たとはな……」
つーかアンタら、そういう事話す前に早くドア開けたれよ、とかは禁句である。
コンコン
再びノック。
ドアの一番近くに居たココロが恐る恐るドアを開けた。
そして思わず目を点にする。
そこに居たのは、先ほどの控えめなノックが尽く似合わない、とても大柄な男だったからだ。人間サイズのココロであったとしても、その身長差は20Cmは確実にあるだろう。
その巨体をドアを開けた瞬間に視界いっぱいに捉えてしまったココロは思わず後ずさりをした。
「あ、あの……」
太くてよく響く声、その巨体に実に合っている声だ。
しかしその声が紡ぐ言葉と行動は聊か……いや、とても似合わないものだっただろう。
「あ、あの……も、守山美沙さん、居ますか?」
勘の良い人ならもうこの後の展開は見えていると思う。
彼は顔をトマトと張り合えるぐらいに紅くし、手をもじもじとさせているのだ。……なるべく想像しない事をお勧めする。
「へ?……あ、私だが」
先ほどからノック云々の事でフレアと話していた美沙君が突然指名され、少し驚いたように立ち上がった。
美沙君が名乗りを上げた瞬間、彼の顔は今度はトマトだってすぐに白旗を振るくらいに、もっと紅くなった。
「あ、あ、……ちょ、っとお話があるんですが……いいですか?」
消え入りそうな声でぼそぼそと呟く。
皆は思わず口元に手を当てた。
――頼むから、そんな素でウケるような事しないでくれ……!
と思ったのかどうかは定かではないが。
「ん?別にいいが……もう授業始まるぞ?」
ほら、と言って黒板の上に据え付けられた時計を指差す。確かに時計の針はあと1分ほどで授業の始まる時間を指している。
「いっ、いえ!あの今じゃなくて……その、放課後に、屋上……来て貰えますか?」
「……ん、んむ。それならいいが……」
やはり皆と同じように口元に手を当てながら、そう答える。
彼は顔を輝かせて、にっこりと笑った。
そして、
「ありがとう!それじゃ、放課後に……!」
と言って、その巨体を巨体とは思わせない軽やかな足取りで去っていった。
「……な、何だったんだ、アレ?」
スキップにも見えなくない巨体を見送りながら、美沙君が呟いた。
「えー、やだ、みっちゃんってばわかってるくせにぃ〜」
うりうりぃっ、とわき腹を突付くのは勿論、ナナ。辺りを見渡すと、皆もナナと同じような顔をしている。――呆れ顔のフレアと、何かを考え込んでいる山下君以外は。
「は?何の事だ?」
このニブちん、ボケなすがぁ!と思わずラリアットをかまして窓から突き落としたくなってしまうほど鈍い美沙君。それくらい、あれだけ露骨な態度を取られてわからないのはおかしいのである。
「……た、タンマ!みっちゃん、マジでわかんないの?」
某鬼ごっこで使うように、両手をピースマークにし、クロスに交差させて胸にびしっと当てる。……“タンマ”のポーズなのだろう。
「だから、何の事なんだ?」
「だから、はこっちの台詞だってば!……ホントーにわかんないの?」
いくら人間やめてるナナだって、このくらいはわかるのだ(なんて言ったら怒られそうだが)。なのに美沙君はわからない。まぁ、人間云々言う前に信じられないほどのニブちんなのだが。
「……あー、もう、ダメ。フレア、パス!」
近くまで来ていたフレアの肩をぽん、と叩くとナナは机に突っ伏した。色んな意味でダメージが激しかったのかもしれない。
「む、な、なんだ?」
「美沙、お前ねぇ。あのくらいわかってやらないと、いくらなんでも可哀想だろう?」
ぽん、と先ほどナナがフレアにやったように、美沙君の肩を叩く。
自分が馬鹿にされている、という事はわかったのだろう。少しむっ、とした顔になってその手を払う。
「だーかーらっ!さっきから一体何なんだ!」
フレアを含むギャラリーは一斉にため息をついた。
「美沙、お前だって知らないわけじゃないだろう?あの顔、あの態度、それに“放課後に屋上”だぞ?……経験した事、確か一回だけあったはずだしな。んで……にも、言って貰ったよな?」
――告白た〜いむ、と耳元で囁くように告げる。
ニブちんだが、それ以上に照れ屋な美沙君は、瞬間、沸騰したヤカンになった。
* * *
山下君は悩んでいた。……今日の晩御飯の焼き魚に大根オロシをつけるか、つけないかを!(ズモモモモモ
――と、まぁ、冗談はさておき。
山下君は悩んでいたのだ。晩御飯の事も多少は考えていたが、やはりその頭の大半を占めている悩み事は、今日の休み時間にあった事だった。
(あの……美沙君に、告白?)
黒ずくめで高笑いをしている様子がぽわわ〜ん、と浮かんでくる。
いつも腹の立つ事しか言わなくて、無意味に自信満々で……気に入らない、と思っているのに。
それでも。
(……何かムカつくな)
と、思ってしまう。
何故そんな風に考えてしまうのかもわからなくて、でも、やっぱり思うのだった。
(ムカつく……)
と。
そして放課後。
「おぃ、美沙。放課後だぞ」
時間というものは決して待ってくれないもので。美沙君がいくら“時間よ止まれ”と願っても、その時は刻一刻と迫ってきていた。
「わ、わわわわ、わ、わか・・っている!!」
ドックンバックンベキベキバックン、と何か別の音も色々混じったような心音。美沙君は火照った頬を隠すように両手で包むが、耳まで真っ赤では全く意味がなかった。
「……有り得ないほどのリアクションだよね、ソレ。なんてーかもう、全速力で逃げ出したい感じだし」
いつものように、にこやかな毒舌ではなく、心底参ってるような表情でナナ。
確かに普段の美沙君を知っている人なら十人中十人――つまり全員だ――が同じような事を思うだろう。
なんたって、いつも自信満々な百害あって一利無し、どころか二百も三百も害があるような人物がこんなリアクションをしているのだ。これが他の人なら「初々しいなぁ、こんちくしょう☆」で済むはずなのに、どうにも済ませられない感がひしひしと伝わってきてしまう。
「確かにこれは逃げ出したいかもね。 でも結構意外かも、みっちゃんって本当にこういうの疎いんだね」
ナナと同じように鳥肌のたった両腕を擦っていたココロもすかさず同意する。 その横にフレアもいるのだが、特にリアクションはなし。――というよりも、自分にも当てはまるような事なので下手に口出しをするのはやめているだけなのかもしれないが。
それでもその性格故か、きっちりと追い詰めることは忘れないらしい。
「放課後に屋上ね……、そろそろ行ったほうがいいんじゃないのか?美沙」
もう終学活だって終わったしさ、と口の端だけを上げて軽く笑う。
「う゛……で、でもこういうのはちょっぴり遅れたっていいんじゃないのか?というかだな、実際にそういうのがどうかもわからないし、あの巨人野郎が私を間に入れて誰かに伝えたいことがあるのかもしれないだろう! ……そうだ、そうだぞ!きっとそうだ! うん、大体こんな風なのは今までなかったワケだし。アイツの時はなんかこう、別次元な感じだったし――」
焦っているのかなんなのか。
やたら煩く捲し立てた美沙君に愛(?)のツッコミが入った。
「嫌だわぁ〜、みっちゃん。あの彼の顔見てそんな事言っちゃダメよ〜。 ほら、それにもう行ってあげなきゃv」
「そうだぞう、みっちゃん。好きな子にそんな事言われて落ち込まないヤツはいねぇんだから!」
ちなみに最初のが天下無敵の裏の支配者こと、沙雪さんだ。そして次のが同じく“ある意味”天下無敵の馬鹿ゾンビこと、ファルちゃん。 両者とも、こういう場面には強すぎるらしい。
「兎に角、あの野郎が呼び出した内容が何にせよ約束したんだったら行ったほうが良いと思うぞ、美沙」
真っ赤になった顔で先ほどの無敵コンビに何か言い返そうと口をパクパクしていた美沙君にフレアが冷静に言った。その通り、内容が何であれ、約束してしまったのだから行かなければいけないのだ。
「わかった……けど、お前ら!絶対に付いてくるじゃないぞ!覗いてるの見つけたら真面目に殺害方法考えるからな」
「はいはーっい、わかってるってば。 ま、精々楽しんできてくださいな♪ってね」
ナナが手を挙げていかにも“そう思ってません”な態度で返す。
「……。 ……来るなよ?」
もう一度、どすの利いた声で言った後、美沙君は屋上へ向かっていった――
* * *
さてその頃。
放課後もずっと開けていて、レストランとしても活用出来る食堂に彼らは居た。
「俺、フライドポテトのM。尚吾はどうすんだ?」
「……じゃ、ホットコーヒーのSで」
何故か某ドナルドがいそうなファーストフードメニューを頼む二人。だが、出てきたものはとても“M”とは思えない程の量だったし、コーヒーに至ってはサイフォン式だったし、ちゃんと陶器のコップに入った物だった。
「ま、とりあえずどっか座るか」
大盛りのポテトを受け取った刳灯が言った。
そして大げさにため息をつく。
「――ちゃんと聞こえてるか?尚吾」
心ここに在らず、とはよく言ったもんだぜ、と刳灯は密かに思った。今の山下君はまさしくその状態で、先ほどからぼけーっとしっぱなしなのである。
「え?……あ、あぁ」
話しかけると焦点のあってない目を焦点のあったものに戻し、反応はするものの……すぐにどこかへ飛んでいってしまう。
「……ま、聞いてるならいいんだけど。兎に角座ろうぜ」
はぁ、とまた大げさにため息をついて、下校途中の生徒がよく見える窓際の席に陣取った。
刳灯は隣に座った山下君を横目にポテトを頬張る。
――そして、座ったはいいけれど、全く手をつけようとしない山下君に声をかけた。
「なぁ、尚吾」
瞬間、思い切り肩をビクッと震わせる山下君。
「な、ななな、何だ?!」
「いや、そんな風に驚かれると結構困るんだけど……」
苦笑しながらそう返す。
そう、正直困っていたのだ――“たったアレだけの理由”でこんな風になってしまう彼を見て。
刳灯は三度、大げさにため息をついた。
「あのさぁ、尚吾。……っんなに気になるんだったらフレア達と一緒に屋上行けば良かったろうが?」
ブハッッッ
……まぁ、記さなくてもわかるかもしれないが、これは山下君がコーヒーを噴いた音だ。
「な、なななななな!!!!!???」
口からコーヒーを垂れ流しながら叫ぶ。……何を言いたいのかわからないのが難点だ。
そんな山下君に「汚ぇなー」と備え付けの紙ナプキンを手渡しながら刳灯は返した。
「ほうら、そんなに動揺すんだからさ。気になってんじゃねーか」
ニヤニヤ、と笑うのを忘れずに。
すると山下君は今にも倒れそうな勢いで顔を真っ赤に染めて――
「き、気になるなんて!まっ、まさか僕が美沙君の事気にするハズないじゃないか!!!!」
――と、叫んだ。
「べっ、別にあの巨体がそ……そ、そういう目的で呼び出したかどうかもわからないのに。だっいたい、何で僕が美沙君の事なんて気にしなきゃいけないんだよ!あんな馬鹿の事を!!!」
美沙君本人が聞いていたら間違いなく沈められているだろう、言葉の嵐だ。
そして刳灯はというと。
呆気にとられながらも内心は大爆笑していた。
そりゃあそうだろう、ここまで忠実に反応してくれる人というのも珍しい。こんなリアクションをすれば“気にしてます”と言っているのと同じだというのに。
「……っと、兎に角!僕は気にしてなんかないんだ!」
バンッ、と机を叩いてから周りの事に気づいたのか小さく「すいません」と言ってコーヒーを口に含む。
刳灯はそれを見ながら、なるほど、と呟く。
「なら尚吾はさ、本当にあの巨体が“そういう”目的の為にアイツを呼び出してて、そんでもってソレをOKしちゃったりしたらどーするんだ?」
ニヤニヤ笑いを止めて、真剣に訊く。……無論、内心はやはり爆笑の渦なのだが。
「なっ……そ、そんなの――僕の知った事じゃないっっ」
その問いにそう答えた山下君。
そしてすぐに残っていたコーヒーを一気飲みすると、そこに刳灯を残して行ってしまった。
「……ははーん、やっぱりこれはそうなんだなぁ」
フライドポテトを食べながら、刳灯は笑っていた。
* * *
所変わって、こちら屋上。
……そう、“例の屋上”である。
カチャリ……
フレア達に急かされて着いた屋上。美沙君はそ〜っと扉を開くと、キョロキョロ見渡して誰か居ないかを確かめていた。その結果は。
「あ、来てくれたんだね!」
巨体が一人。
美沙君は内心、居なければ良かったのにと愚痴ると念入りに扉を閉めて、そちらへ向かった。手足が一緒に出たりなんかしていて、緊張しているのが丸分かりだ。
「あ、あぁ……そ、それで話とは?」
手すりの傍に居た巨体君の隣(実際には隣と呼べる程近くはなかったが)に立つと、すぐにそれを訊く。
とは言え、アレだけ教室で色々言われたのだ。用件は聞かずとも知っている。
自然と赤くなってしまう頬を隠したい衝動に駆られるが、そんな事をしたら“その気”があるとでも思われてしまうかもしれない。と、そう思った美沙君は、頬を隠すこともせず、でも赤くなったままで巨体君を見据えた。
そんな視線を受け止めて相手も赤くなる。まぁ、恋するをとめであれば極々自然な事だろう。なんたって、想い人が顔を赤くして自分を!自分を、真っ直ぐに見つめているのだ!!
逸る気持ちを抑えて、巨体君は口を開いた。
「えと……あ、僕は木村と言います。ええ、ええっとあ、あのそれで!!」
巨体君こと、木村君は大層どもりがちな人らしい。
けれどそのどもりも何とか克服して、彼は続けた。
「あ、貴女を知ったのはつい最近だったんですが、その、一目見た瞬間に世界がモノクロからカラーに変わったというか!よ、ようするに――一目惚れしてしまったようでっ///
守山さん!貴女の事が好きですっ……僕と付き合ってくれませんかっ!?」
顔を真っ赤にしてそう言った彼に、少しの間を置いて同じようにして真っ赤になった美沙君はにっこり微笑った。
そして彼の手を握ると、
「ありがとう」
と。
「でも、ごめんな」
と、――言った。
* * *
僕はこんな所で一体何をしてるんだろう、と山下君は考えていた。
人気の無い教室。もう空も赤く染まり始めている中で、何故自分はこんな所に居るんだろう、と。
……理由はわかっている。窓際の一番前の席に、カバンが残っているからだ。
「はぁ……」
全く、自分がわからなくなるね、そう思いながら机に突っ伏す。
“話があるので屋上に……”と、名も知らぬ巨体野郎が告げてからずっとこうだ。胸にもやもやっとしたモノが出来て、その巨体に呼ばれて、その内容を知って赤くなった美沙君を見たらイラついた。
気にしてない、なんて嘘だ。気になってしょうがない。彼が彼女になんて言ったのか、それに彼女がどう返したのか、知りたくてしょうがない。それでいて、知るのが怖い。
こんな事を考えるって事は――
「好き……なのかなぁ」
ぽつりと呟いた。
「誰をだ?」
しばしの沈黙。
机に突っ伏したままの山下君は状況を理解出来ていないようだった。
「……おーい?」
もう一度、美沙君は呼びかけた。
それでやっと気づいたのだろう、ガバッと身体を起こした。
「み、美沙君?! な、んでココに?!」
「何で、って……そりゃお前、カバンを取りに来たに決まっているだろう」
動揺する山下君を他所に自分の席へ行ってカバンを取る美沙君。帰る準備はもうしていたようだ。
「それよりお前こそ何でこんな所に居るんだ?帰らないのか?」
もう皆帰ったのに、と美沙君。勿論、山下君はそれに答えなかった。いや、答えられないだろう。――君を待ってた、なんてこのへたれ山下に言えるはずがない。
「い、いや別に……」
ふい、と視線を逸らした山下君に美沙君はただ、
「そうか」
と返した。そしてドアの方へ歩いていって、……立ち止まる。
「お前さ、好きなヤツでも居るのか?」
「……え?」
突然の問いに固まる山下君。けれどそれに気づかず、美沙君は続けた。
「いや、ほら、さっき私が入ってきた時に何か言っていただろう?だから好きなヤツでも居るのかと思ってな」
そこで言葉を切って、振り返る。
「やっぱり――その好きなヤツに振られたりしたら、キツいよな?」
気まずそうに頬を掻いた。
「……好きだって言われて、それを断ったんだ。そういう気持ちにはなれないから、って。でもやっぱり、辛いよな」
赤く染まり始めた教室の中で、君を待っていたのはそんな話をする為じゃないのにな。
そうは思うものの、それを言う事が出来ない山下君は半ば嘲笑めいた声で言う。
「そんな事を思うんならOKしてやれば良かったんじゃないのかい?」
……僕としては嫌だけど、と心の中で付け足して。
「なっ?!そんな事っ、出来るはずがないだろう?!私には応えられない……!」
「それならそういう事思わない方が良い。向こうだって気を使われたりするの嫌だと思うよ」
「そ……うか」
カタン
椅子から立ち上がってカバンを持つ。美沙君を待っていたのだから、もうココに居る必要もないのだ。
「帰るのか?」
「あぁ、うん。用事も済んだしね」
君こそそんなトコに突っ立ってないで、帰らないのかい?とからかうように言う。
「か、帰るに決まっているだろう!!」
少し乱暴にドアを開けて、走るように抜けていく。
そのドアを閉めて鍵をかけると、静かに歩いて山下君も立ち去っていった。
* * *
「正直な話!今回のアレはつまらんかった!!」
屋上にて、ファルが腕組をしながらそう言った。
「うん、確かに。なーんかみっちゃんも意外と普通の反応だったし。もっとうろたえまくると思って楽しみにしてたのになぁ……」
拍子抜けだよ、とナナ。その横でフレアが呆れたように笑っていた。
「だってさ、教室じゃあんなに赤くなって動揺してたっていうのに、いざ本番となれば“ありがとう、ごめん”だよ?!ンもう慣れてます!ってな感じじゃん!面白くなーい!」
「面白いとかそういう問題じゃないだろ。まぁ、アレは私にも少し意外だったけどな」
そう言ってふと思う。
――あんなにも早くに答えを出すなんて。
「……正吾クンのおかげかねぇ」
小さく呟いて――やっぱりまだ引きずっているのだろうか、と彼女は思った。