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▼ 第2章 第1話

 第一歩目が華麗に決まり、さて次の第二歩目は――という所で、それは起こった。
 “それ”は部活とは違う方面で、いや、でも部活と関係がある事はあるんだけど……。
 て、説明しないとわかんないか。
 とにもかくにも、今朝のHRで出た話題。
 それが発端だった。


 * * *


 朝の日差しで空気がほどよく暖められてぽかぽかな窓際寄りの席は、朝ご飯の後という事もあって十二分に眠気を誘う状態だった。お隣さんの城崎君が居ないのでその分も暖かい気がする。
 見ると、窓際の列の人は大体そんな感じになっていた。……うん、まぁ、そうなるよね。

 ちなみに今は朝のHRの時間。
 城崎君、そして委員長な恵梨歌ちゃんが教卓付近でてきぱきと動いている。
 プリントを配ったり、その日の予定を確認したり、備品を調達したり――そんな諸々な事が終わった後、窓際でぼーっと絶賛仕事放棄中の百瀬先生に声をかけた。
「先生、一つ確認しておきたい事があるんですけどいいですか?」
「……」
「――百瀬先生?」
「……。 っ、お、おー! なんだなんだ?何でも聞いてくれ!」
 窓際のぽかぽか空気でうとうとしてたのか、返事がかなり遅れたぞ俊兄ちゃん。……や、私も人の事言えないけど。
 ちょっぴり汗をかきつつ、でも平静を装って百瀬先生は立ち上がった。
 恵梨歌ちゃんはそれを確認して小さく頷く。
「あの、職員室前に球技大会のプリントが貼ってあったんですけど、実行委員とかは決めてなくていいんですか?」
 職員室前には大きな掲示板があって、時々プリントが貼られたりしている。
 学校からのお知らせだったり、部活の事だったり、あぁ、そう、新聞部の新聞もここに貼られる事が多いみたい。
 今回の場合は学校からのお知らせに入るのかな。
 それにしても球技大会なんてモンがあるのか……知らなかったなぁ。
 “球技”なんてモンは大人数が居ないと成り立たないモノが多いから、人の少ない中学以前はあんまりやらなかっ――いや、この手の話題はやめよう。虚しくなるだけだから……。
 しかし実行委員とかめんどくさそーだし、決めるの大変そうだなぁ。
 それはさておき、先生は委員長の質問にはちゃんとした答えを返せなかったらしい。
「……あ゛」
 とだけ言って、固まってしまった。
 それを見た城崎君、ハァ……と大きくため息をついた。
「僕も見ましたが、今日中に決めないといけないですよ。放課後に実行委員会があるらしいので」
「そっ、そうだったか!いやー、悪い悪い。完全に忘れてた」
 参った参った、とあまり反省してなさそうな口調で百瀬先生は笑った。
「なんつーかアレ?五月病?みたいなので、すっぽーんと色々抜けるというか、なんというか」
 いつものようにニカッと笑ってはいるが、ほっぺたをつつつーっと冷や汗が落ちてる辺りがどうしようも無い。
「あぁ、なるほど。そういうのになりやすい時期だからこそ、それを払拭する為に体を動かす行事が開かれるわけですね。納得です」
「……そこはかとなく嫌味を感じるのは気のせいか、城崎」
「いえ、気のせいではありませんので大丈夫です」
 ――城崎君はなんか辛辣な事言ってるみたいだし。また嫌な事でもあったのかねぇ。
 でも実際にぼーっとしていたのだから反論も出来ず、うぐぐと呻いた後、百瀬先生はふるふると首を振った。
 そして、
「球技大会ってのは言わば体育の授業だからな!」
 ビシィッと後ろを指差し――
「体育委員のヤツが実行委員!これで決定!」
 ……へっ?!
 指差した先は背後の黒板。そこには委員会の一覧があって、その横にこのクラスのそれぞれの担当者が書いてある。
 体育委員会は男女1人ずつで――ああ、つまり、その。
「春日井と高科だな!」
「えええええ!!!ンな横暴なー!!」
 にこやかに向けられる先生とクラスメートの視線。ちっ、皆やっぱりやりたくなかったのか!?
「横暴って……いいじゃねーか、俺は構わないぜ?」
 さらりと言う櫻にギッと視線を寄こす。
 こういうしちめんどくさそうなのは大抵回避するくせに!
「櫻ッ!この裏切り者ー!」
「ヨーシ、じゃあ二人とも頑張れ!ファイトだ!」
 一仕事終わった!と笑う百瀬先生にもギリッと視線を送る。……こんな事しても、この決定は覆せないのはわかってるんだけど、送らずには居られなかったワケでありまして!
「じゃ、後は任せたー」
 なんて言って、また窓際でぬくぬくしようとしていた先生を城崎君が止めている。
 ……あー、ホントめんどくさそうでヤだなぁ……。

「櫻のせいだっ」
「なんでだよ。てか何がだよ?」
 授業の合間の休み時間に櫻と職員室前のプリントを見に行った。
 そこには確かに球技大会のお知らせと実行委員を決定してくださいの旨、そして委員会の日時が書いてあって。
「……こーいうのって普通同系統の委員会と被ったりするのはダメなんじゃないかと思うのにっ」
 プリントにはご丁寧に“体育委員会との掛け持ちも可能です”なんて書いてあった。
 ガクリと肩を落とす私に、櫻は眉を顰めながら言う。
「――何がそんなに嫌なんだ?」
「……決まってるじゃん、櫻と一緒だからだよ」
「っ?!」
「……てのは嘘だけど」
「おまっ!!!」
 ちょっとばかし嫌味を言ってやる。
「いや、ね、別に櫻が一緒なのはいいんだけどさぁ。なんちゃら委員会とかってすっごくめんどくさそうじゃん。てかそもそも体育委員会もなるつもりなかったし――でもどうしてもって言うからさー」
 委員会やらなんやらを決めたのは少し前の事。
 出来れば飼育係とか生物係とかそんなのが良かった。見たところこの教室には花も生き物も居ないから、かなり楽出来る!――と思ったんだけど、……そんな係りは無くて。ま、ああいうのは小学生までか。
 それでも、それに近い楽な係りや委員会が良い!って思って物色してた所に、櫻が言ってきたのだ。
 一緒に体育委員やろうぜ、と。
 ハァ?なんで同じ委員会にしなきゃならんワケ?とか、体育委員とかすごいめんどくさそうなんですけど。
 とか色々思ったし、反論もしたけど「どうしても!」って食い下がるモンだから結局二人で同じトコにして――
「で、この結果だよ!私は出来る限り楽したかったのに!」
「そういうのはあんまり大声で言うな恥ずかしい……」
 きょろきょろと辺りを見渡しつつ言う櫻。ええい、言った本人が気にしないんだからいいんだよ!
「とにかく、決まっちまったモンは仕方ねーだろ?この事に関しては恨む相手は俊兄ちゃんだけにしてくれ」
「勿論俊兄ちゃんも恨むけど、もとはと言えば櫻が悪いんだし」
「悪……いのか?俺」
 私の言葉に考え込む仕草を取る櫻。
 でもすぐにそれは終わり、再度「とにかく」と続けた。
「種目とかも決めなきゃいけねーみたいだし、……ま、頑張ろうぜ」
「……ん、わかった」
 そうだ。決まってしまったんなら仕方ない。
 ぐっと拳を握って視線を明後日の方向へ。
 ――こうなったら力いっぱい実行委員、やらせて頂きましょうかね!

 *

 そうして戻ってきた教室で、早速球技大会に関する事件が起こった。

「ちょっと高科さん!」
 教室に入るなり腕をぐいっと掴まれる。
 声と手の大きさから察するにこれは女の子で、……えっと、なんだっけこの子。
「話があるんだけど!」
「あー、うん、何」
 もうそろそろこのクラスになって1ヶ月。未だに名前を覚えていません、とは言い辛くそれを悟られないように必死で名札を見る。
 ……て、おい、名札つけんかいコラ。
 左胸の上に鎮座しているハズの名札はどこにも見当たらない。
 パッと見、見つけにくい影の薄いデザインだから見落としかと思っても――いや、それは無いか。
 そんなワケで名前のわからないクラスメートの女の子に引っ張られ、自分の席の方へと連れて行かれた。
 ああ、なんてこった。この子は私の名前ばかりか、席の位置まで知ってるのに私ときたら……。
 内心すごく罪悪感を覚えながら席に着くと、その子はコホンと咳払いをした。
「ズバリ言うけどね、春日井君とあんまりベタベタしないでくれる?!」
 ……は?
「え?ごめん、もっぺん」
「だーかーらー!春日井君とベタベタしないでって言ってんのよ!!」
 ……べ、べたべた……。
 道端にくっついて剥がれないガムが頭に浮かんでは消え、浮かんでは消え。
「や、別にしてなくない?」
「どこがよ!今も委員会一緒にやってるし、よく話したりしてるじゃないの!」
「えー……でもそれだけでベタベタって言うかなぁ?」
 正直“今まで”と大して変わってないので、この子の言ってる意味がよくわからない。委員会やらお話やらでベタベタになるのかね?
 首を傾げているとそれが癇に障ったのか、バシンッと机を叩かれた。
「っっ!!~~っ」
 ……あ、痛かったんだ。
 叩きつけた方の手をぷるぷると震わせている。
「も、もう一つあるわよ!――この間の部活休んだの、あなたのせいだって聞いたわよ!?」
「部活?」
「陸上部よ!そりゃあ休んでも問題無い日だったけど、それでも休む理由があなただって聞いてあたしは怒ったのよ!」
 ええええ。なんでこの子が怒るの?
 その疑問は同じく帰ってきて、そして隣に座っていた櫻が口に出した。
スチル表示 「さっきから聞いてたら――よくわからん事を抜けぬけと……てか、なんでお前が怒るんだ?」
 聞いてたんなら、もっと早く口を挟んで欲しかったよ櫻。
 というかこの子は本人の前でよくこんな事を言えるなぁ。普通この手の話って本人に聞かれないようにこっそりやるもんじゃなかったっけ?
「怒るに決まってるわよ!陸上部の期待の星の春日井君が、たかだか幼馴染ってだけの女の為に練習を休むなんて!それを承認した顧問も顧問だけれど!!」
 パシンと今度はやや軽く机を叩いて彼女は言った。
「あたしは陸上部のマネージャーとして、そんな事実は認められないのよ!!」
 ……あ、なるほど、そーいう事か。
 私はぽんと手を打って会話に加わろうとした。
 しかし櫻はともかく、この子に話しかけるとなると――名前は、必要だよなぁ。
「あの、ごめん……えっと……誰、だっけ?」
「はぁ?!この数分間の会話の相手がわからないわけ!?もう1ヶ月クラスメートやってんのよ?!頭悪いの?!悪いの?!!」
 途端捲くし立てられた。当たり前っちゃー当たり前なんだけど、返す言葉もございません。
 すると櫻が心底呆れたような顔で口を開いた。
「長野だよ。ちょうの」
「あぁ、ちょおのさん!テニス部の!」
「どこからどうやったらテニス部が出てくんのよ、陸上部のマネージャーだって言ってるでしょ!?」
 あれ?ホントになんでテニス部が出てきたんだか。
 と思ったけど――アレか、“ちょう”だから、例の夫人を想像したらしい。
「長いに野と書いて長野!頭悪いんだったら、どっかにメモしときなさいよ!」
 それもそうか。変わった読みの名前だから忘れそうだし――。
 メモ帳が見当たらなかったのでとりあえず次の授業用のノートにでも書いて、っと。
「って、本当にメモしなくていいわよ!!バカなの!?」
「……」
「……な、何よっ」
「いや、元気だなぁって思って」
 最初に腕をとられた時から今まで、ずっとハイテンションを保ってる彼女に素直に感心する。
「あ、で、何の話だっけ?」
「春日井君の事よ! とにかく――委員会は仕方ないから許してあげるけど、他の時はもうあんまり一緒に居ないで極力避けなさいよね!わかった?!」
 許して“あげる”とか。
 避け“なさい”とか。
 ……どーにも上から目線な命令口調が気になるけれど、言ってる事は概ね問題無い。
「うん、別にそれは構わないけど」
「構えって!!!」
 すかさず櫻のツッコミが入る。
 ガタンと椅子から立ち上がってすぐ傍までやってきた。隣の席だから座ってても十分近いんだけどなぁ。
「長野、お前いい加減にしろよな。なんでお前がそんな口出ししてくんだよ?俺の勝手だろ?」
「そ、それは……で、でもあたしは――」
 口ごもる長野さん。顔まで赤くなっちゃって、さっきまでの捲くし立てとは別人のようだ。
「美波も、――俺と一緒に居るの嫌なのかよ?!」
「いや、別に嫌じゃないけど、こう言ってる方がいらっしゃるワケだし」
 結構軽い気持ちで返答したもんだから、ここまで櫻が怒るとは思わなかった。
 だからハハと空笑いで返す。
 すると、ガシッと腕を掴まれた。
 そこはさっき長野さんに掴まれた場所で――でも、この手は男の手、で。
「美波、他のヤツの言ってる事なんかどうでもいいんだ。お前は本当は――どう思ってる?」

選択肢1

櫻 +1

 真剣な表情で言う櫻に、私も真剣に返さなければ――と、そう思った。
「だから、嫌じゃないって言ってる」
「……本当か?」
 そりゃくされ縁だし、いい加減ウザいと思う事もありますけども、でも本当に嫌ならこんな長期間一緒になんて居られない。
 そう言うと、櫻はホッとしたように破顔した。
「そ、だよな……嫌いなヤツはとことんケチョンケチョンにするもんな、お前……」
 貴様――それはこういう場面で言う事じゃ無いだろ……。

櫻 +2

 真剣な表情で言う櫻に、ちょっぴしどぎまぎしてしまった。だ、だって顔が近いし、……なんか、いつもの櫻じゃないみたいな気もして。
「櫻の事は、好きだよ? 一緒に居るのが嫌なら、とっくの前に離れてる」
 そりゃちょっぴしウザいと感じる事は……うーん、かなりあるけど、でもそれは一時の感情であって。
「嫌な相手に時間裂くほど暇じゃないから。だから、……ね、櫻」
 ぎゅっと服を握ってにこっと笑ってやる。
 それに安心したのか、櫻はホッとしたように破顔した。
「そ、だよな……嫌いなヤツはとことんケチョンケチョンにするもんな、お前……」
 貴様――それはこういう場面で言う事じゃ無いだろ……。

選択肢1 終わり

 ◇

 全く、人がちゃんと答えてやったというのにギャグでシメおって……。
 ま、確かに櫻の言ってる事は間違ってはないんだけど。――過去、色々あってすごい嫌いになったヤツと殴り合いにまで発展した事もあるし。
 でも基本的にそこまで嫌いになる相手ってほとんど居ないんだけどね。
「じゃあ、これからも一緒だよな?」
「あー、うん。そゆ事になるかなぁ」
 ホイホイ答えていると、バシッィィイイン!!っと三度机が叩かれた。
 今度は痛そう、なんてモンじゃなかったけど長野さんは痛みなど感じていないらしい。
「ちょっと!!!さっき言った事と違うじゃない!?すぐに発言を変えるなんて、信用無くすわよ!?」
「あー……」
 それもそうなんだけど、……でも、なぁ。
「ごめん長野さん。やっぱり無理かも。だって幼馴染だし、いきなり離れるってのはちょっと……」
 そう言うと、長野さん。再び腕を振り上げ――でも机には着地せずに、
「わかったわ!じゃあ勝負よ!!!」
 私の顔ギリギリにビシィッと指を差した。
 ちょっ、ここここ、怖いんですけど!??!
「しょ、勝負って?」
「丁度よく球技大会があるわ!その時にあたしが勝ったら、金輪際春日井君と関わらないで頂戴!!」
「ええっ?!」
 突然の宣言に驚きを隠せない。
 一体全体、何故そうなる?!
「さっきも言ったけど、春日井君は陸上部の期待の星なのよ!」
 うん、確かにさっきも聞いたけど――なんでそれが勝負に繋がるのか、意味がわからん。
 そう思って反論しようとしたけれど、それより前に言われた言葉で私の沸点は一気に下降した。
「大体、演劇部だかなんだか知らないけど弱小の部活の子を気にかけてるような暇は無いのよ!」
「……は、ぁ?」
 下降しまくった沸点は、ちょっとした事でもMAXになる。
 そして沸騰した私の怒りは、そのまま顔と声に出た。
「今、なんつったのかなぁ?」
 地の底から鳴り響いているような低い声で――まぁ、自己申告だから、本当はもうちっとマシな声だと思うけど――眉間にしわを寄せながら言い放つ。
「私の聞き違いならいいんだけど――“演劇部”の悪口、言った?」
「ヒッ」
 のけぞるように引く長野さん。
「弱小の部活ぅ?ただ大所帯なだけの陸上部ごときに言われたくないなぁ!ウチは人数少なくても、少数精鋭!そっちにバカにされる謂われは無い!!! そうだ――ふっ、ははは、いいね!その勝負、のった!!!」
「……えっ?」
「その代わり、こっちが勝ったらその“弱小の部活”に入って貰うからね!!!」
「えええっ!?」
 ビシィッと今度はこちらから指差してやる。
「男に二言は無いよね?!」
「あたしは女よ!」
「……お、女でも二言は無いハズ!」
 ちょっと失敗した感が否めないが、でももとはそっちからの提案なのだ。二言は絶対に無いハズ!
「い、いいわ……その条件でやりましょう。負けたらマネージャーをやめて演劇部とやらに入ってあげるわよ!
 だから、いい?!あたしが勝ったら、春日井君には関わらないでよね!?」
 長野さんは一瞬怯んだように見えたけど、すぐに切り替えてこう返してきた。
 私はそれに満足げに頷く。
「了解りょーかい。えへへ、長野さん滑舌いいし、声も大きいから演劇向きだと思うんだよね~。嬉しいな~」
「ちょっと、何もう結果出てるような言い方してんのよ!」
 長野さんが何か言ってたけど、あえて耳に入れない事にして、っと。
 俄然球技大会が楽しみになってきたぞっ。むふふ、6人目ゲットなるかー!

 なんてニヘニヘしてたのはいいものの、種目決めをする為の時間で、その幸せ気分は霧散する事になる。
「えっと、じゃー種目決めしまーす。一応部活やってる人はその種目に出れないのでそれは予めご了承くださーい」
 教卓の前に立ってパシパシとプリントを叩く。
 さっき百瀬先生が球技大会に関するプリントを持ってきたのだ。
 あぁ、ちなみに今は昼休み。本来なら皆それぞれに行動するんだろうけど、如何せんウチのクラスには時間が残されていない。
 昼休みの時間を使って種目決めをしてしまわなければいけないのだ。
「とりあえずは希望取るんで、決まってる人居たら手ぇあげてねー」
 そう言って、教室を見渡すと……おぉ、早速挙手がある。
「はい、桐原君!」
 窓際の後ろから2番目の席の挙手者を指す。彼は席が近いからちゃんと覚えている。確かテニス部の人だ。
「あの……種目の事じゃないんだけど」
 ? 立ち上がった桐原君は最初にそう言って、それから
「長野との勝負の事聞いたんだけど――それ、俺達も乗せてもらえるかなぁ?」
「はい?」
 桐原君はぐるりと体を回転させて、後ろの席の城崎君を見た。
「俺と勝負してくれ城崎。それで俺が勝ったら――テニス部に来てくれ!」
「……何言ってるんだ、桐原。寝言は寝て言うものだと知らないのか」
「寝言じゃないって!お前中学ん時テニス強かったじゃないか。だから部活続けるのかと思ったら――あんな弱小の演劇部なんかに」
 カッチーン!!!
 こ、こいつも演劇部をバカにした発言をしやがった!
 桐原ァ!!お前いい度胸だ!そこになおれえ!!
 ――と言う前に、城崎君が冷たく言い放った。
「……いいだろう。弱小という所は否定出来ないが、所属してる部活をバカにされては黙っていられないからな。
 そうだな――長野さんと同じように勝負するなら、僕が勝ったら桐原、お前演劇部に入ってくれるんだろうな?」
「そっ、それは……」
「へぇ?僕に勝つ自信が無いのかな?そのくせにこんな勝負をしかけてくるなんて――驚きだよ」
 バカにした表情で言う城崎君に桐原君も後に引けなくなったらしい。
「……わかった。もし、万が一、地球が滅亡するくらい可能性はないけど、俺が負けたら……弱小の演劇部に入ってやる」
 きっり、はらああああ!?!?!てめえええ!!どんだけバカにすりゃ気が済むんだ!!
 あまりの言い様に手がわなわなと震える。
 ツカツカと歩み寄ってその頭、どつき回してやろうかと思った時に城崎君が手を挙げた。
「そんなワケだ――高科さん。桐原と僕はテニスにしてくれないか」
「えっ……で、でも」
 確かに種目にテニスは入っているけど――本来、そういう決め方をするモンじゃないハズだ。そもそも桐原はテニス部だし。――君付けだったのが呼び捨てになってるのはヤツが演劇部をバカにしたからだ。ちくしょうめ!
 とにかくクラスの中で対決するのでは無く、クラス毎に対決……そういうものだと思っていたんだけど。
 と、いうような事を言うと、じゃあ長野さんとはどう勝負するつもりだったんだ、と返された。
 あ……そういやそうだ。どうするんだろ。
「バスケットとかにして、どれだけゴールを入れれるか?とか」
「いいえ!!そんなのダメよ!!」
 すかさず長野さんが立ち上がる。
 そしてやはりまた窓際でのほほんとしていた百瀬先生の方を向いて、
「先生、クラス対決っていうのはもう決定してるんですか?他の分け方の前例は?」
「え?……あー……いや、……うーん」
 突然振られた質問に答えられない教師が一人。
「前例ってのはよくわからんが――例えばどういう分け方をしたいんだ、長野は」
「そうですね―― 1つ思いついたんですが、言っても?」
「あぁ」
 先生の頷きを見た後、長野さんは言った。
「運動部VS文化部、というのはどうでしょう?」
 コホンと咳払いをして続ける。
「あたしと高科さんは陸上部と演劇部、桐原君と城崎君はテニス部と演劇部。ね、分かれてるじゃないですか」
「そんな!たった二組じゃん!てか運動部と文化部の対決とか格差ありすぎると思う!」
 慌てて割り込むと、また教室内で数人の手が挙がる。
 不思議に思ってとりあえず指名してみると、それぞれバレー部とバスケ部とサッカー部だった。
「体育の授業で見ていて思ったんだけど、秋ヶ谷さんってバレー上手いんだよね。ウチらもその勝負に乗れるんだったら、秋ヶ谷さん欲しいなぁ」
「オレは別のクラスだけど、城崎弟が欲しい。アイツもサッカー上手かったのに演劇部とか……無いわ……」
「わたしは、高科さんあなたが欲しいわ!運動神経良さそうだし、ジャンプ力も瞬発力もありそうだし、バスケ向いてると思うの!」
 口々に言ってくれる言ってくれる……。
「ちょ、ちょっと待ってよ皆!花いちもんめじゃないんだから、そんな欲しい欲しいって――」
 恵梨歌ちゃんが宥めようとしてくれているけれど、それは彼等には届かない。
 ――私にも、届かない。
「ふっふっふ……オーケーオーケー。君達の言いたい事は十分にわかった!
 つまり、皆演劇部に入ってくれるって事なんだね!?」
 明らかに演劇部だけが狙い打ちされてる状況がものすごく気に食わないが、逆に考えると部員を増やせるチャンスになるかも!
 という事で、マイナス面は考えないことにしてポジティブ思考を口に出す。
「先生、私も運動部VS文化部がいいです!はっはっは、皆まとめてケチョンケチョンにして演劇部に入れてやります、これで部員がぱーっと増えてすごい劇も出来てどががーんっと実績残して、またすごい部活に戻してみせますよ!!!!」
 どーんと胸を張って言ってやる。
「ただし、運動部ってくくりにすると明らかに不公平なんでその辺は調整して貰いたいですけどねっ」
 クラス内で見ても、学校全体で見ても、運動部と文化部の人数の差は歴然だ。そして予算の差も。……むかつくけど。
 そんな事を言うと、教卓前の席の子が声をあげた。
「私達は文化部側でもいいよー。あ、ちなみに剣道部ね」
 にこっと笑うその子は確か三鷹さん。
「多分ね、柔道とか弓道とかフェンシング辺りもいいと思う。そしたら同じ数は無理でも少しは近くなれるんじゃないかな?」
「えっ、い、いいのかな?」
「うん、きっとだけどね――私達も、運動部だけどああいう運動部とは違うから」
 指差すのは先ほどの挙手軍団だ。
 陸上・テニス・バスケ・バレー・サッカー、それに野球を足した辺りの部活は金食い虫とも言われ、他の運動部から嫌われているらしいが……その噂は本当だったのか。
 その三鷹さんだけでなく、他の文化部の人達も私達に賛同してくれるみたいだ。
 文化部って虐げられてるからなぁ……格差はあったとしても、対決したいと思ってくれたのかもしれない。
「んー、よくわからんが結構面白そうだな。ヨシ、わかった!他の先生方に聞いてみてやる!」
 百瀬先生も乗ってくれて、あれよあれよと話は進む。
 結局、種目決めのハズの時間は運動部と文化部の間に深い溝を築いたのだった……。

 *

 そして放課後の実行委員会にて。
「あるクラスから提案がありました、運動部対文化部ですが、先生達の了承が取れましたのでOKです。
 よって、今年のクラスは縦割り・部活対抗になります。
 ただそのままだと数に差がありすぎるので、運動部の中から剣道・柔道・弓道・フェンシング・卓球・体操・水泳は文化部側とします」
 委員会を仕切っているのは生徒会だった。
「1年生は所属部が決まっていますのでそちらで、2・3年の部活無しの人は基本的に元居た部活に所属してください。
 尚、生徒会は中立の立場を取りますので、今回は審判として参加します」
 などなど……つらつらと約束事なんかが読み上げられていく。
 この短時間でよくプリントまで作ったものだ、と感心した。
「実行委員はクラス毎に2名選ばれていると思いますが、出来たら運動部1名・文化部1名にしてください。どちらか一方になる場合は、それぞれの部との連絡をきちんと取れるようにしてください」
 ウチのクラスは大丈夫だね。櫻は運動部だし。
 最初の長野さんとの対決だけだったらこっちの味方――というか、長野さんの意見に反対――だった櫻も、運動部VS文化部になった途端向こうの人間になってしまった。
 そしてあろうことか、バスケ部の面々に
『運動部が勝ったら美波は陸上部が貰う!』
 と宣言しやがった。……コイツ、諦めたんじゃなかったのか……。

 とにかく、対決方法が変わったから種目決めとかもやり直しだ。もっともウチのクラスは全然決まってなかったけど。
 明日の放課後に時間を作って、それぞれに分かれて話し合いという事になり、それで今日の実行委員会は終わりだった。

 *

 委員会が終わって部室に行くと、何故か4人とも机に突っ伏していた。
「……あ、あれ?どうかしたの?」
「あ、美波ちゃん……」
 先輩がのっそりと起き上がる。なんだかすごく疲れて見える。
「球技大会の事なんだけど――あれって本当なのかな?」
「あれって?」
 なんて、すっとぼけてみるけれど……言いたい事はわかってる。
 ――部活対抗の事だろう。
「新聞部のヤツにものすっごく色々聞かれたよ。なんでも美波ちゃん達のクラスの提案らしいね」
 なんと情報の速いこと!流石は新聞部!
 私はへへ、まぁ、とだけ返した。
「別にね、部活対抗とかそういうのはいいんだ――でも……も、もし文化部側が負けちゃったら……僕以外、居なくなるって本当なの!?」
「うっ」
 その情報まできっちり伝わっていたのか……。
 確かに“負ければ”そういう事になるだろう。
 でも、それはあくまで敗北の話であって!
「先輩――確かに負けてしまえば城崎君はテニス部に、恵梨歌ちゃんはバレー部に、那月君はサッカー部に、私は大岡越前裁きバリにバスケ部と陸上部に半分ずつ持ってかれますが、でもそれは“負けたら”の話です!
 勝つんだから全く問題の無い話だし、そしたら部員をごっそりゲット出来るんですよ、先輩!……先輩?」
 しかし奏和先輩は再び机に突っ伏してしまった。
 更にしくしくという声が聞こえてくる。
「改めて聞かされるとダメージが大きいんだよ……」
 またマイナス思考が勝ってるのか……負けた時の事しか頭に残っていないらしい。
 ――しばらく放っておいたほうが良さそうだ。

 というワケで今度は他の3人に話しかける。
「えーりかちゃん」
「美波ちゃん……ごめんなさい、ちょっと疲れちゃって……寝かせて……」
 どうもあの後バレー部の面々に追い掛け回されたらしい。寝かせてあげよう。
「城崎君?」
「すまない、考え事をしてるんだ」
 にべも無く切られてしまう。まぁ、仕方ない。
 そして最後に話しかけた那月君は、ガタッと立ち上がって私の両肩を掴んできた。
「なっ、那月君!?」
「美波!!!オレ、心底傷ついたんだぜ!!!」
「……はい?」
 悲しそうな顔で語る那月君。
 どうやら同じくサッカー部に追い掛け回されたらしいのだが、その時に酷い事を言われたのだとか。
「ど、どんな事言われたの?」
「……冬輝が居るんだから、お前なんか演劇部に居なくたっていいだろって――どうせ何の役にも立たないんだろ?ならサッカーで体動かそうぜ!って……。
 そりゃオレは確かに役に立ってないかもしんねぇけど、何も知らないヤツにンな事言われたくねーよ。
 でも、言い返しても“たかが演劇部”みたいに全然相手にしやがらねぇしっ。……ちくしょう、すげぇ悔しい!!」
「那月君……」
 それ言ったヤツ等、闇討ちにでもしてやろうか?
 演劇部の事もそうだけど、那月君に対してなんて事を言うんだ!
 すると考え事中だった城崎君が顔を上げた。
「僕も似たような事を言われたよ。那月がいるんだから城崎はテニスに来てもいいじゃないかって。
 ……なんで“いるんだから”になるのか、甚だ疑問だけどね。……僕等は、同じ人間じゃないのに」
 その言い方には、今回の事だけじゃない何かが含まれている気がした。
 兄弟というだけでなく、双子だから余計に色々言われてきたんだろうか……。

選択肢2

 私は胸元に手を当てて、それを握り締めた。
「全く、その通りだよ!!二人は同じ人間じゃなくて、どっちも、二人とも、大切なのに!」
「高科さん……」
「美波……」
 しかし本当にむかつく事を言うヤツがいるものだ。
「城崎君!那月君!そんな事言うバカ共は滅多打ちにしてやろうね!!!」

那月 +1

冬輝 +1

 私は胸元に手を当てる。
「確かに……向こうの言いたいことはわかるけど」
「美波っ!?」
「いや、違うよ?二人がどうのこうの、っていうのじゃなくて――元々のスキルがあるのをわかってるのに、それをむざむざ演劇部で浪費してしまうのが、向こうから見たらすごい腹が立つんだと思う。
 だからなんとかこっちに引っ張ってこようと思って、わざとマイナス思考に陥らせて絶望感を味合わせて、それで自発的に演劇部から遠ざけようとしてるんだよ。自分はあそこに居ても意味無いんじゃないか――って。
 っ、なんて卑怯なヤツ等だ!スポーツマンの風上にもおけん!あぁ、なんか言ってたら腹立ってきた。いや、言う前から腹立ってたけどね!?
 てかそういう戦略だとしても言葉選べっての!自分を否定する事言われて、悲しくならない人間なんか居ないのに!」
 あぁ……なんか、腹が立つと同時に悲しくなってきた。
 じわっと来る涙をなんとか押し留める。
「城崎君、那月君!!……絶対に、運動部のバカ共に勝とうね!!」

選択肢2 終わり

 ◇

 私のテンションにびっくりしたのか、二人ともキョトンとしていたけれど――
「あぁ……そうだな」
「おう!ったりめぇだぜ!」
 すぐに深く頷いてくれた。
「うん、だね!」
「頑張ろう!」
 恵梨歌ちゃんと奏和先輩もいつの間に起き上がったのか、笑顔で応じてくれる。
 私は両手をぐっと握り締めた。
「目指すはぶっちぎりの勝利です!1番です!颯爽と勝利をゲットして、ついでに部員もゲットしちゃいましょう!」
 そして高く拳を振り上げる。
「文化部だからとタカを括ってるバカ共に一泡噴かせるんです!!」

 *

 1歩1歩の歩みを演劇部の事だけで例えるならばこれは寄り道になるだろう。
 でも部員ゲットのチャンスになるかもしれないここを見逃すわけにはいかない!
 という事で、これを1.5歩目だと仮定して、
 私達は踏み出したのだった!