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▼ 第2章 第7話

Aパート

一剛君

 衣装を取りに帰らなくちゃ!
 そう思って外に出た私は、レンタサイクルを見つけた。そういえば受付辺りに“レンタル自転車あります”的な事が書いてあったっけ。
 走ってたら時間ギリギリだっただろうけど、これなら大丈夫そうだ!
 という事で、受付に戻ろうと踵を返した時、声が聞こえたのだ。
「一緒に行く!!」
 そう言って駆けて来たのは何故か一剛君で。……はて、本当に何故そうなる?
「い、一剛君?……いきなり何を――」
 だってさっきのあの場に一剛君は居なかったワケで。
 それなのに“一緒に行く”ですとな?
 私の疑問いっぱいの表情に気づいたのか、
「丁度皆の所に行く途中で……そしたら美波さんが血相変えて飛び出していくから、奏和君に聞いたんだ。
 衣装が――足りなかったんだよね。ごめん、俺のせいだ……俺がもっとちゃんと見ていれば!!」
「そっ、そんな事無いよ!ていうか私の衣装だから私が見てなくちゃいけなかったのに!」
「いやっ、違うんだ。俺が、衣装最後にチェックしたんだ……!!」
 強く言い放つ一剛君。
「だから……俺も、一緒に取りに行く」
「う、うん……わかった。じゃあ、行こう!」
 受付に言って自転車を借りる。
 1日乗り放題で100円。市内であれば、いくつか規定の場所で乗り捨て可能なんだそうだ。……まぁ、ここに戻ってくるからそれは関係無いんだけど。
 早速2台借りようとすると、受付のお姉さんは困った顔をした。
「申し訳ないんだけど、今貸せるのは1台しか無いのよ」
「えええ!!あんなに並んでるのに、なんでですか!?」
「それが――」
 どうにも困った話で、あそこに並んでいるのはほとんどが既に借り手があるものらしい。
 ……駅から少しあるからかな、自転車使って来る人が結構居るんだとか。この辺りは平坦な道が多いから自転車使いやすいんだよねぇ。
 それが裏目に出るとは――なんてこったい。
「美波さん、1台でも十分です。行きましょう」
「う、うんっ。 じゃあ、1台貸してください!」
「えぇ。――はい、鍵と……あぁ、お金はいいわ。このコンクールに参加してる学生さんでしょう?このホールの行事に参加してくれた人には無料で貸し出し出来るようになってるのよ」
 なんと!
「あ、ありがとうございます!行こう一剛君!」
「はい!」
 受付のお姉さんから鍵を受け取り、その鍵番号と同じ札を下げた自転車を探す。
 程なくして見つけたそれに足をかける。
「えっ、美波さんが前ですか?」
「えっ、違うの?」
「いや、俺これでも男だし――漕ぎますよ」
 颯爽と運転するつもりだった私を制して一剛君が前に乗る。
「さっ、掴まっててください!飛ばします!」
 後ろの荷台に乗って一剛君の肩を掴んだ。

 *

 学園に着くと、すぐに荷台から飛び降りて空き教室へ向かう。
 ――前に、職員室か。
 慌てて進路を変えて職員室へ向かう。
 ノックをして中に入り、近くに居た先生に空き教室の鍵を借ります、と伝えて鍵をゲット。
 今度こそ空き教室へと走った。
「美波さん!」
 既に自転車を置いた一剛君が教室近くにやってきていた。
「今開ける!」
 ドアをガチャガチャっとやって、鍵を開ける。
 慌てて飛び込んだ先には――
「よし、あった!」
 完全に演劇部のモノと化している空き教室は、使ったものが乱雑に散らばっていて、その隅の方で衣装は隠れていた。
「絶妙な位置ですね……押し込められてるわけでもないのに、どこからも見えにくい」
「うん、全くだよ……これは気づきにくい」
 って言っても、自分の衣装、気づかないほうがおかしいんだけど。
 ……これは演劇部員として――ていうか、人としてちょっとヤバイような気もする。
「じゃあ、ちゃっちゃと戻ろう!今度はどうする?私が前に行こうか?」
「いえ、大丈夫です。俺が前に」
 そう言うので、帰りも一剛君に任せることにした。
 よーっし、行っけぇ!!

 *

 でも今日の私は最高に運が悪いらしい。
 あろうことか――途中で自転車のチェーンが外れたのだ。
「っ! い、一剛君!」
「すみません、美波さん。直すのに時間がかかりそうなんで――先に行って貰えますか!?」
「わ、わかった!」
 チェーンをかけ直す一剛君を置いて私は走り出した。ええい、本当に運が無い……っ!
 しかも途中で信号には引っかかりまくるし、ああ、もうこんなんじゃ間に合わなくなっちゃうよ!
 最悪のパターンを考えて泣きそうになった時、道の向こうから暴走自転車がやってきた。
「大丈夫か!?」
「ふっ、副会長!?」
 それは自転車に乗った副会長で。しかもその自転車、レンタサイクルのママチャリ系じゃなくて、マウンテンバイクだった。
「丁度知り合いが観に来ていたからかっぱらってきたんだ」
 かっぱらうって辺りはちょっぴし気になるけど、でも知り合いさんグッジョブ!
「さぁ、乗ってくれ。飛ばすぞ!」
「は、はい!」
 マウンテンだけど荷台もカゴもついていたので、衣装をカゴに載せた後、後ろに座った。
「それじゃあ、よろしくお願いします!」
「あぁ、任せてくれ!」
 そして走り出すマウンテンバイク。
 漕いでる人の力量も関係するだろうが、やはり速いぞマウンテン。
 チェーンが外れた時はどうなるかと思ったけど、どうにか間に合った!!
「ありがとうございます、副会長!」
「間に合って良かった。さぁ、着替えてくるといい」
「はいっ!」
 私は深く頭を下げ、衣装を持って駆け出したのだった。

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那月

 衣装を取りに帰らなくちゃ!
 そう思って外に出た私は、レンタサイクルを見つけた。そういえば受付辺りに“レンタル自転車あります”的な事が書いてあったっけ。
 走ってたら時間ギリギリだっただろうけど、これなら大丈夫そうだ!
 という事で、受付に戻ろうと踵を返した時、声が聞こえたのだ。
「一緒に行く!!」
 そう言って駆けて来たのは那月君だった。
「那月君!」
「オレも一緒に行くぜ!一人より二人のがいいだろ!?」
 うーん、それが今回に適用されるのかどうかはちと疑問なワケですが。
「う、うん!」
 そんな事を冷静に考えてる時間も惜しい!
 て事で、大きく頷いた私は那月君と二人、受付のお姉さんの下へと駆けた。
 受付横にあるちゃっちいポスターを見るに、ここのレンタサイクルは1日乗り放題で100円らしい。他借りたこと無いけど、安いんだなー。
 更に市内であれば、いくつか規定の場所で乗り捨て可能なんだそうだ。……まぁ、ここに戻ってくるからそれは関係無いんだけど。
 早速2台借りようとすると、受付のお姉さんは困った顔をした。
「申し訳ないんだけど、今貸せるのは1台しか無いのよ」
「えええ!!あんなに並んでるのに、なんでですか!?」
「それが――」
 どうにも困った話で、あそこに並んでいるのはほとんどが既に借り手があるものらしい。
 ……駅から少しあるからかな、自転車使って来る人が結構居るんだとか。この辺りは平坦な道が多いから自転車使いやすいんだよねぇ。
 それが裏目に出るとは――なんてこったい。
「美波、1台でも十分だろ。それで行こうぜ」
「う、うん、そだね。 じゃあ、1台貸してください!」
「えぇ。――はい、鍵と……あぁ、お金はいいわ。このコンクールに参加してる学生さんでしょう?このホールの行事に参加してくれた人には無料で貸し出し出来るようになってるのよ」
 なんと!
「あ、ありがとうございます!行こう那月君!」
「おう!」
 受付のお姉さんから鍵を受け取り、その鍵番号と同じ札を下げた自転車を探す。
 程なくして見つけたそれに足をかける。
「へ、はぁ?! お前が前かよ!」
「へっ、ダメ?」
「いや、ダメってこたねーけど……ここはオレの方が普通だろ――ホラ、代われって」
 颯爽と運転するつもりだった私を制して那月君が前に乗る。
「さっ、掴まっとけよ!飛ばすぞー!」
 後ろの荷台に乗って那月君の肩を掴む。
 すると、
「……肩だと危ないかもしれねーから」
 と腰辺りを示される。……ちょ、そこですか。
「ホラ、早く!」
「う、うん……」
 ちょっぴし恥ずかしいけど、下手に遠慮してコケるよりいいよね。
 てことで腰に抱きついて頷く。
「じゃ、お願いします那月君!」
「おう、任せとけ!」

 *

 学園に着くと、すぐに荷台から飛び降りて空き教室へ向かう。
 ――前に、職員室か。
 慌てて進路を変えて職員室へ向かう。
 ノックをして中に入り、近くに居た先生に空き教室の鍵を借ります、と伝えて鍵をゲット。
 今度こそ空き教室へと走った。
「美波!」
 既に自転車を置いた那月君が教室近くにやってきていた。
「今開ける!」
 ドアをガチャガチャっとやって、鍵を開ける。
 慌てて飛び込んだ先には――
「よし、あった!」
 完全に演劇部のモノと化している空き教室は、使ったものが乱雑に散らばっていて、その隅の方で衣装は隠れていた。
「うっわ……絶妙な位置にあるなー。押し込められてるわけでもねーのに、どっからも見えん」
「うん、全くだよ……これは気づきにくい」
 って言っても、自分の衣装、気づかないほうがおかしいんだけど。
 ……これは演劇部員として――ていうか、人としてちょっとヤバイような気もする。
「じゃあ、ちゃっちゃと戻ろう!今度はどうする?私が前に行こうか?」
「いや、またオレが!だから美波は後ろでぎゅーっと抱きついとけよ!」
 ちょっ、最後んトコは別に無くても良かっただろうが!
 と顔を赤くしつつも、一応頷く。……き、危険だし!コケるよりかは(以下略。
 そういうワケで、帰りも那月君に任せることにした。
 よーっし、行っけぇ!!

 *

 自転車のおかげでなんとか間に合った!
 ホントに出る前にレンタサイクルの存在に気づいて良かったよ……途中で信号に引っかかってたりしたし、これじゃあ足だったら絶対に間に合わない所だった。

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冬輝


 衣装を取りに帰らなくちゃ!
 そう思って外に出た私は、レンタサイクルを見つけた。そういえば受付辺りに“レンタル自転車あります”的な事が書いてあったっけ。
 走ってたら時間ギリギリだっただろうけど、これなら大丈夫そうだ!
 という事で、受付に戻ろうと踵を返した時、声が聞こえたのだ。
「一緒に行く!!」
 そう言って駆けて来たのは城崎君で。
「城崎君!」
「僕も一緒に行くよ」
「う、うん!」
 一緒に行って意味あるのかな?とか思ったけど、まぁ、一人よりも二人の方が良いかもしんないし!
 て事で、大きく頷いた私は城崎君と二人、受付のお姉さんの下へと駆けた。
 受付横にあるちゃっちいポスターを見るに、ここのレンタサイクルは1日乗り放題で100円らしい。他借りたこと無いけど、安いんだなー。
 更に市内であれば、いくつか規定の場所で乗り捨て可能なんだそうだ。……まぁ、ここに戻ってくるからそれは関係無いんだけど。
 早速2台借りようとすると、受付のお姉さんは困った顔をした。
「申し訳ないんだけど、今貸せるのは1台しか無いのよ」
「えええ!!あんなに並んでるのに、なんでですか!?」
「それが――」
 どうにも困った話で、あそこに並んでいるのはほとんどが既に借り手があるものらしい。
 ……駅から少しあるからかな、自転車使って来る人が結構居るんだとか。この辺りは平坦な道が多いから自転車使いやすいんだよねぇ。
 それが裏目に出るとは――なんてこったい。
「高科さん、1台でも十分だと思うから――それを借りよう」
「う、うん、そだね。 じゃあ、1台貸してください!」
「えぇ。――はい、鍵と……あぁ、お金はいいわ。このコンクールに参加してる学生さんでしょう?このホールの行事に参加してくれた人には無料で貸し出し出来るようになってるのよ」
 なんと!
「あ、ありがとうございます!行こう城崎君!」
「あぁ!」
 受付のお姉さんから鍵を受け取り、その鍵番号と同じ札を下げた自転車を探す。
 程なくして見つけたそれに足をかける。
「えっ……ちょ、ちょっと待ってくれないか。何で高科さんが前に乗ろうとするんだい」
「えっ、ダメ?」
「いや、ダメとかそういう話じゃないんだけど……ここは僕が前に乗るのが普通じゃないかな、と」
 颯爽と運転するつもりだった私を制して城崎君は前に乗った。
「さぁ、掴まって。飛ばして行こう」
 促されて後ろの荷台に乗る。それから城崎君の肩を掴んだ。
 すると、
「出来れば肩じゃなくて……もっとちゃんと掴んだほうが安定するんだけど」
 と腰辺りを示される。……えっ、そ、そこなの?
「途中でグラついたりしたら危険だから」
スチル表示 「う、うん……」
 ちょっぴし恥ずかしいけど、下手に遠慮してコケるよりいいよね。
 てことで腰に抱きついて頷く。
「じゃ、お願いします城崎君!」
「あぁ、行くよ!」

 *

 学園に着くと、すぐに荷台から飛び降りて空き教室へ向かう。
 ――前に、職員室か。
 慌てて進路を変えて職員室へ向かう。
 ノックをして中に入り、近くに居た先生に空き教室の鍵を借ります、と伝えて鍵をゲット。
 今度こそ空き教室へと走った。
「高科さん!」
 既に自転車を置いた城崎君が教室近くにやってきていた。
「今開ける!」
 ドアをガチャガチャっとやって、鍵を開ける。
 慌てて飛び込んだ先には――
「よし、あった!」
 完全に演劇部のモノと化している空き教室は、使ったものが乱雑に散らばっていて、その隅の方で衣装は隠れていた。
「なんとも言えない位置にあったんだね……押し込められてるわけでもないのに、見つかりにくい」
「うん、全くだよ……これは気づきにくい」
 って言っても、自分の衣装、気づかないほうがおかしいんだけど。
 ……これは演劇部員として――ていうか、人としてちょっとヤバイような気もする。
「じゃあ、ちゃっちゃと戻ろう!今度はどうする?私が前に行こうか?」
「いや、僕が漕ぐよ。高科さんは後ろからぎゅっと掴んでいてくれ」
 ぎゅっと……ってちょっと、顔赤くするくらいならそーいう事言わないでくださいよ!見てる私も顔が熱くなってきたわ!
 で、でも、まぁ、……危険だし!コケるよりかは(以下略。
 そういうワケで、帰りも城崎君に任せることにした。
 よーっし、行っけぇ!!

 *

 自転車のおかげでなんとか間に合った!
 ホントに出る前にレンタサイクルの存在に気づいて良かったよ……途中で信号に引っかかってたりしたし、これじゃあ足だったら絶対に間に合わない所だった。

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奏和


 衣装を取りに帰らなくちゃ!
 そう思って外に出た私は、レンタサイクルを見つけた。そういえば受付辺りに“レンタル自転車あります”的な事が書いてあったっけ。
 走ってたら時間ギリギリだっただろうけど、これなら大丈夫そうだ!
 という事で、受付に戻ろうと踵を返した時、声が聞こえたのだ。
「一緒に行く!!」
 そう言って駆けて来たのは奏和先輩だった。
「先輩!」
「僕も一緒に行くよ!」
「は、はいっ!」
 一緒に行って意味あるのかな?とか思ったけど、まぁ、一人よりも二人の方が良いかもしんないし!
 て事で、大きく頷いた私は先輩と二人、受付のお姉さんの下へと駆けた。
 受付横にあるちゃっちいポスターを見るに、ここのレンタサイクルは1日乗り放題で100円らしい。他借りたこと無いけど、安いんだなー。
 更に市内であれば、いくつか規定の場所で乗り捨て可能なんだそうだ。……まぁ、ここに戻ってくるからそれは関係無いんだけど。
 早速2台借りようとすると、受付のお姉さんは困った顔をした。
「申し訳ないんだけど、今貸せるのは1台しか無いのよ」
「えええ!!あんなに並んでるのに、なんでですか!?」
「それが――」
 どうにも困った話で、あそこに並んでいるのはほとんどが既に借り手があるものらしい。
 ……駅から少しあるからかな、自転車使って来る人が結構居るんだとか。この辺りは平坦な道が多いから自転車使いやすいんだよねぇ。
 それが裏目に出るとは――なんてこったい。
「美波ちゃん、この際1台でも構わないよ!それを借りて行こう!」
「そっ、そうですね! じゃあ、1台貸してください!」
「えぇ。――はい、鍵と……あぁ、お金はいいわ。このコンクールに参加してる学生さんでしょう?このホールの行事に参加してくれた人には無料で貸し出し出来るようになってるのよ」
 なんと!
「あ、ありがとうございます!さ、行きましょう先輩!」
「うん!」
 受付のお姉さんから鍵を受け取り、その鍵番号と同じ札を下げた自転車を探す。
 程なくして見つけたそれに足をかける。
「……えっ」
 途端声をあげる先輩。
 ん? なんか変な事したっけ、私。
「ちょ、っと待って美波ちゃん。それはおかしいでしょう、何で前に乗ろうとしてるの」
「えっ、何か問題でもありました?」
「いや、問題とかじゃないんだけど――そこは普通男の僕が前に乗るんじゃないかなと思うんだよ」
 颯爽と運転するつもりだった私を制して先輩は前に乗った。
「ね。 ホラ、乗って」
 促されて後ろの荷台に乗る。それから先輩の肩を掴んだ。
 すると、
「うーん、肩じゃ心もとないから……この辺にぎゅっと抱きついてくれると助かるなぁ」
 と腰辺りを示される。
 ぎゅ、ぎゅっと抱きつくとか!!そーいう事今言わないでくださいよ!!
「あれ?顔赤いよ美波ちゃん」
「そりゃ赤くもなりますよ!だ、だ、だだ、抱きつくとか!そーいう、ね!!!」
「でもホラ、途中でグラついたりしたら危ないし……それに僕としては後ろからより前からの方が……」
 ……何言い出してんですか、先輩。
 あー、もーっ。
 かなり恥ずかしいけど、下手に遠慮してコケるよりいいよね。
 てことで開き直って腰に抱きついた。
「それじゃあ、行きましょう先輩っ!」
「うん!」

 *

 学園に着くと、すぐに荷台から飛び降りて空き教室へ向かう。
 ――前に、職員室か。
 慌てて進路を変えて職員室へ向かう。
 ノックをして中に入り、近くに居た先生に空き教室の鍵を借ります、と伝えて鍵をゲット。
 今度こそ空き教室へと走った。
「美波ちゃん!」
 既に自転車を置いた奏和先輩が教室近くにやってきていた。
「今開けます!」
 ドアをガチャガチャっとやって、鍵を開ける。
 慌てて飛び込んだ先には――
「よし、あった!」
 完全に演劇部のモノと化している空き教室は、使ったものが乱雑に散らばっていて、その隅の方で衣装は隠れていた。
「……こ、これはまた絶妙な位置にあったんだね……これなら気づかなかったのも無理は無いよ」
「ま、まぁ……確かにかなり見えにくい位置にありますけども……」
 そうは言っても、自分の衣装、気づかないほうがおかしいんだけど。
 ……これは演劇部員として――ていうか、人としてちょっとヤバイような気もする。
「よし、じゃあちゃっちゃと戻りましょう! 今度は私が前に行きましょうか?!」
「いや、僕が漕ぐから。美波ちゃんはまたぎゅーっと後ろから抱きついててね」
 ……まった、イラン事を付けたしてるし……顔が熱くなるのは条件反射なので仕方ないのデス。
 で、でも、まぁ、……危険だし!コケるよりかは(以下略。
 そんなワケで、帰りも先輩に任せることにした。
 よーっし、行っくぞぉ!!

 *

 自転車のおかげでなんとか間に合った!
 ホントに出る前にレンタサイクルの存在に気づいて良かったよ……途中で信号に引っかかってたりしたし、これじゃあ足だったら絶対に間に合わない所だった。

共通 Bパートへ ≫


 衣装を取りに帰らなくちゃ!
 そう思って外に出た私は、レンタサイクルを見つけた。そういえば受付辺りに“レンタル自転車あります”的な事が書いてあったっけ。
 走ってたら時間ギリギリだっただろうけど、これなら大丈夫そうだ!
 という事で、受付に戻ろうと踵を返した時、声が聞こえたのだ。
「一緒に行く!!」
 そう言って駆けて来たのは櫻だった。
「櫻?!」
「他のヤツ等は色々と用があるだろうけど、俺は関係ないからな。一緒に行くぜ!」
「う、うー……ん」
 一緒に行く意味はあるのかな?とか思って首を傾げるけれど、
「別にいいだろ!ホラ、行くぞ!」
 そう言って駆け出そうとする櫻を制する。
「ちょ、ちょっと待って!走りじゃ間に合わないかもしんないから、自転車借りるよ!」
「そうなのか? じゃあ、借りるぞ!」
 て事で、私は櫻と二人、受付のお姉さんの下へと駆けた。
 受付横にあるちゃっちいポスターを見るに、ここのレンタサイクルは1日乗り放題で100円らしい。他借りたこと無いけど、安いんだなー。
 更に市内であれば、いくつか規定の場所で乗り捨て可能なんだそうだ。……まぁ、ここに戻ってくるからそれは関係無いんだけど。
 早速2台借りようとすると、受付のお姉さんは困った顔をした。
「申し訳ないんだけど、今貸せるのは1台しか無いのよ」
「えええ!!あんなに並んでるのに、なんでですか!?」
「それが――」
 どうにも困った話で、あそこに並んでいるのはほとんどが既に借り手があるものらしい。
 ……駅から少しあるからかな、自転車使って来る人が結構居るんだとか。この辺りは平坦な道が多いから自転車使いやすいんだよねぇ。
 それが裏目に出るとは――なんてこったい。
「美波、1台でも大丈夫だろ。それ借りよう」
「ん、そだね。 じゃあ、1台貸してください!」
「えぇ。――はい、鍵と……あぁ、お金はいいわ。このコンクールに参加してる学生さんでしょう?このホールの行事に参加してくれた人には無料で貸し出し出来るようになってるのよ」
 なんと!
「あ、ありがとうございます!行くよ櫻!」
「おう!」
 受付のお姉さんから鍵を受け取り、その鍵番号と同じ札を下げた自転車を探す。
 程なくして見つけたそれに足をかける。
「ちょっと待て!何でさも当たり前のように前に乗ろうとするんだ!」
「えっ、ダメだった?」
「ダメとかそういう問題じゃなくて……だな。男な俺が居るのに、何でお前が漕ごうとするのかって話で」
 ぶつぶつ言い始める櫻の頭にチョップをかます。
「ごたごたうるさい!問題無いなら私が漕ぐからね!」
「だー!!だから待てっつってんだろ!! ったく、俺が漕ぐの!お前は後ろ!!」
 ほとんど乗りかけた私を制して櫻が前に乗った。
「ホラ、掴まれ。かっ飛ばすぞ!」
 促されて渋々後ろの荷台に乗り、それから櫻の肩を掴んだ。
 すると、
「お前……そこは肩じゃなくて腰に決まってんだろ」
 と腰辺りを示される。
 決まってんのかよ。誰がいつ決めたんだよ。
 ……とかはまぁ、言わない事にして。
「途中でグラついたりしたら危険だろ?」
「ん……」
 やや腑に落ちないところもあるけども、仕方ない。確かに肩だけでは危険かもしれないしなぁ。
 てことで腰に抱きついて頷く。
「じゃあ、かっ飛ばせ櫻!」
「おう、行くぜ!」

 *

 学園に着くと、すぐに荷台から飛び降りて空き教室へ向かう。
 ――前に、職員室か。
 慌てて進路を変えて職員室へ向かう。
 ノックをして中に入り、近くに居た先生に空き教室の鍵を借ります、と伝えて鍵をゲット。
 今度こそ空き教室へと走った。
「美波!」
 既に自転車を置いた櫻が教室近くにやってきていた。
「今開ける!」
 ドアをガチャガチャっとやって、鍵を開ける。
 慌てて飛び込んだ先には――
「よし、あった!」
 完全に演劇部のモノと化している空き教室は、使ったものが乱雑に散らばっていて、その隅の方で衣装は隠れていた。
「お前等……一人も掃除好きなヤツがいねーのか。酷い有様じゃねーか……」
「そういう事は今言わないでくれるかなぁ!? ……で、でもちょっとは片付けるべきだったか……」
 とは言え、いくら汚い部屋だったとしても、自分の衣装が無いのに気づかないほうがおかしいんだけど。
 ……これは演劇部員として――ていうか、人としてちょっとヤバイような気もする。
「じゃあ、ちゃっちゃと戻るよ!今度も櫻が漕ぐの? 私でもいーよ?」
「いや、俺が漕ぐから。お前は後ろからぎゅっと抱きついとけ」
 へーへー、了解っすよーっと。
 ぎゅっと……押しつぶすくらいに抱きついてやるぜいっ。
 なんてマイナス思考がちょっぴしはこびりかけた時、櫻がぽつりと言った。
「抱きつく……ってのは、まぁ、……前からの方が、いいけどな」
 ……はぁ?
 自転車の二人乗りで前から抱きつくとか、それどんなホラー。
 瞬間的にそんな事を思ったけど、櫻の言わんとする事を理解して顔がぼふっと熱くなった。
「だ、抱きつくってそーいう意味じゃないじゃん!何言ってんのバカ櫻!」
「……反論、出来ないな……」
 顔を赤くして困るなー!!
 くっ……でも、まぁ、……確かに抱きつかなきゃ危険だし!コケるよりかは(以下略。
 そういうワケで、帰りも櫻に任せることになった。
 漕ぎまくれ櫻ー!!

 *

 自転車のおかげでなんとか間に合った!
 ホントに出る前にレンタサイクルの存在に気づいて良かったよ……途中で信号に引っかかってたりしたし、これじゃあ足だったら絶対に間に合わない所だった。

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Cパート

恵梨歌ちゃん


 恵梨歌ちゃんのトコに行こうっと!
 キョロキョロと探すと――あ、居たいた。
 一剛君と一緒にお菓子ブースに立っている。
「恵梨歌ちゃーん」
「美波ちゃん、どうかしたの?」
「ん、いやどうもしないんだけどさ」
 お菓子一通り食べ終わったので、と言おうと思ったけど、
 目の前にあったお菓子がこれまた美味しそうなのでついつい摘んでしまう。
 ……まぁ、これ、最初に食べたんだけど。
「無事に劇終わって良かったよね!一時はどうなる事かと思ったけど……」
「そうだね……衣装無かった時とか本当に焦ったよね」
「うっ……ですよね」
 なんとか事なきを得たけど、下手したら間に合わなかったしなぁ。
「衣装に関しては、一剛君。ありがとうね!」
「え、俺? いや、でも俺は何も――」
「最初に漕いでくれたじゃん!そのおかげで私はノーダメージで学校まで行けたワケだし!」
「けど途中でリタイアしたよ俺」
「そ、それはまぁ、……私の運が悪かったって事で。それにあの後、副会長が来てくれたし!
 問題無し、だよ!」
 今となっては笑い話しで済むけど本当に副会長が来てくれて助かったよ……。
「姉さんには十分お礼言っとく」
「うん、頼みます!」
 一応直接言ってはいるんだけどね、もう一度くらいはちゃんと言っておきたい所だ。
「それはともかく! ねね、香さんのお菓子全部食べた?」
「大体食べたと思うよ~。ホールケーキすごく美味しかったね」
「だよねー!!」
「でさぁ、私一通り回ったんだけど、向こうにすっごく美味しいベイクドチーズケーキがあるんだよ!」
 ビシュッと指し示す先には人だかり。ハッ、もしやアレはチーズケーキに群がってるのか?!
「こ、こうしちゃられないよ!ささ、二人とも食べに行くべし!」
「え、俺は別に――」
「一剛君、そう言わずに一緒に食べに行こ?」
「え、恵梨歌がそう言うなら……」
 恵梨歌ちゃんに手を取られて照れてる一剛君。うーん、純情ボーイかぁ?
 さて、私ももう一切れ、頂きに参りますか!

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那月


 よっし、那月君のトコに行こうっと!
 窓際で佇みながらオレンジジュースを煽っていた那月君のもとにたたたっと駆け寄った。
「なーにしてんの?」
「っ! 美波か……ビビらせんなって」
「いや、私からすると何故そんなにビビった、って感じなんだけど」
 その驚きようと言ったら、持っていたコップからオレンジジュースが飛び出るくらいだった。
 慌ててハンカチを取り出して拭いてあげる。
「もー、とりあえず拭き取ったけど、寮に戻ったらちゃんと洗ってね」
「お、おぅ……冬輝にやってもらう」
 ……。
「那月君」
「ん?」
「自分の制服なんだからそれくらい自分でやりなよ。ちょっと水で塗らした布とかでトントンやるだけじゃん!」
「え、そんな事でいいのか?オレはてっきりもっと何か特別な技法が必要なのかと――」
 ぽりぽりと頬をかく那月君。
 ははーん、さてはコイツ。自分で全然家事とかした事無いタイプだな?
「つかぬ事を聞きますけども、普段服とかはどうしてんの?寮内のコインランドリー使ってるでしょ?」
「多分……」
「ほほう、それすらも知らない、と。……ったく、城崎君に任せっきりなのも困りモンだと思うよ」
「でもそうは言ってもよう!」
 情けない顔で反論するけれど、どんな言葉を返されても事実は覆らない。
「冬輝が――全部やってくれるし。なんでも出来るから、任せちまうだろ……」
「那月君……それは単なる甘えです。逃げです」
「なっ!」
 ふーやれやれと肩を竦める。
「これからは自分でもやってみたら?色々変わってくるかもよ?」
 自分の心構えとか。
 と続けようと思ったんだけど――それを遮られて。
「変わってくるってホントか!? じゃ、じゃあ、もし今度何かあったら――オレ、美波の相手役になれるかな!?」
 ……。
 は、ぁ!?
「なな、なな、なんでそういう話になるの?!」
「いや……だって、今“変わる”って言われたらそれしか思い浮かべられなくて」
 だからそれが何でなんだっつーんに。
 すると那月君、ほっぺたを赤くさせながらこう仰いました。
「奏和君が言ってただろ? このコンクールが終わったら、冬輝と交代して相手役になれるかも、とか」
「ああ……言ってたね、そういえば」
 でもそれは“代わる”であって“変わる”じゃないでしょうに。ああ、日本語ってムズカシイー。
「だからさ、その事考えてて。美波はどう思う? やらせてくれると思うか!?」
「う、うーん……」
 どうだろうなぁ。紅葉さんがその気ならそれも十分有り得るんだけど。
 ……那月君の騎士、か。そうだな、折角コンクール終わったことだし、そういうのも見てみたいかもしんない。
「出来るんじゃないかな」
「そっ、そう思うか!! じゃあまた紅葉さんがどっちがいい?とか聞いてきたら、そう言ってくれるよな!」
「うん、了解」
 ニコッと笑ってそう返した。
 そしてその笑みをすぐにニヤリに変える。
「ほっほっほ、しかしまぁ、なんですなぁ」
「……なんだよソレ」
「那月君はソレほどまでに私とラブシーンがしたい、と!」
 ビシィッと指を突きつけてやる。
「なーんちゃっ」
「悪いか?」
 ……へ。
 なんちゃって、と繋げるつもりだったのに突きつけた指を手ごと握られる。
「だって、冬輝ばっかりズルい!オレだって……お前の相手役やりたかったんだ!!」
「な、那月君……」
 こうまで直球に言われてしまうと赤面せざるを得ないワケでありまして。
 ふへへっ、とちょっとおかしい笑い声を出してしまった。
「美波?」
「嬉しいなぁ……そうまでして思ってくれてるなんて。演技者冥利に尽きるじゃないですかぁ!」
 そして握られていた手の位置を変えてこっちからも握り返す。
スチル表示 「本当にやる時が来たら、その時はよろしくね那月君!」
「お、おぅ!任せとけ!カッコイイ騎士様になってやるぜ……!」
 と、頼もしい言葉を返す那月君。
 うん、ホントにちょっとやってみたくなるな~コレ!

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冬輝


 そうだな、城崎君の所にしようっと。
 教室の後ろの方でなにやら佇んでいる城崎君のもとへと向かう。
「城崎君~」
「あぁ、高科さんか。どうかしたかな」
「ううん、どうもしないけどさ。……って、城崎君何持ってるの?」
 今居るところからはよく見えない所に何かを持っていたので、首を傾げつつ訊いてみた。
「あぁ、コレ」
 見せてくれたのは、薔薇だった。
 ――と言っても本物じゃない。前に授業中の内職やなんかで作っていた紙の花だ。
「劇が終わってしまったんだな、ってこれ見ながら思っていた」
 小道具としても背景としても多数登場したその薔薇は、確かに劇を思い出させるきっかけには十分で。
 まぁ、タイトルからして“薔薇姫と騎士”だもんなぁ。
「僕は、ちゃんと騎士に成れていただろうか」
 どことなく寂しげに言うので、私は咄嗟に腕を伸ばしていた。
「勿論だよ!騎士、すっごくかっこよかった!素敵だったよ……!」
 はしっと服の裾を掴んで言う。
「王女が惚れるのもわかるよ――ていうか劇の中じゃ完全に惚れてたし。いや現実でも惚れそうになったくらいで!」
 ウンウンと力説すると、次第に城崎君の顔が赤くなっていくのに気づいた。
 そして私も気づいた。
 ……これって、素面で言うような事じゃ無かったかもしれん。
「いやっ、あの!これは、その!!!」
 自分の言った事に気づいて完全にテンパっていると、服裾を掴んでいた手にそっと城崎君の手が重なった。
「ありがとう、高科さん。僕も――王女が好きだった。愛していたよ」
 ……あ。
『例えこの命が尽きても構わない。貴女を愛しているんだ!!貴女を守って死ねるなら、それでもう……!』
 最後の方の騎士の台詞が唐突に頭を過ぎった。
 ハッピーエンドが決定した後も“愛してる”っていう言葉は出てくるのに、これが浮かんだのは――そう、城崎君の言い方が過去形だったからだろうか。
 過去形で語られて、なんだか悲しくなって。……だから悲しいシーンが思い浮かぶ。
「訂正を……」
「え?」
「訂正を要求します!!」
 重ねられていた手を両手でぎゅっと握った。
「愛していた、じゃなくて。愛している、にしてよ!過去形なんて嫌だよ!」
「高科さん!?」
「芝居の中の話だってわかってる……でも、さっきまで騎士だった城崎君に、過去形で話されるのは辛いんだもん……」
 自分でもよくわからないこの感情は、まだ中に王女な自分が居るからなんだろうか。
 視線を落として考えていると、クスッと笑う声が聞こえた。
「わかった。言い直すよ」
 顔を上げると、ふんわりと城崎君は笑っていて。
「僕も王女が好きだ。愛している」
 私もそれに笑顔で返す。
「うん――ありがと。私も、騎士の事大好きだよ。愛してる!」
 実際にこんな事言うとなると赤面通り越して軽く死にたくなりそうだけど、でも芝居の話だと思うとすんなりと出てくる。
 なんて事を考えてにへらっと笑っていると、城崎君とんでもない事を口走りました。
「高科さん」
「ん?」
「君の事も大好きだよ」
「……は?!」
 邪気の無い顔でそりゃあもう爆弾を投下!
「だからこれからも一緒に演劇部頑張っていこうね」
「……あ、あ、……そ、そっちか。……うん!頑張ろうね!!」
 ――投下かと思いきや、別にそーいう意味じゃなかったようで。……そりゃそうだよな、もしマジ話だったらこんな風にスルーっぽくしないだろうし。……まぁ、驚き損ってか。
 両手を城崎君から離してガックリ肩を落とす。
 いやいや、イカンぞ美波。凹んでどうする!
 ふー、と大きくため息をついてからパンッと頬を叩く。気持ちを入れ替えてっとぉ!
「そういやあっちに美味しいのあったんだけど、城崎君食べた?」
「いや、多分まだかな。ほとんど食べてないし」
「そりゃダメだよー!ささっ、行こ!」
 ぐいぐいっと背中を押してそちらへ向かわせる。
 焦ったけど、でもその後の言葉は肯定しなければならないだろう。
 そうだね、一緒に頑張ろう!

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奏和


 奏和先輩の所にしようっと!
 さて、先輩はどこに居るのかな~?
 と、教室内を見渡すと――あ、居たいた。
「奏和先輩!副会長!」
 先輩は丁度副会長と話をしていた所だった。
「美波ちゃん」
 でも駆け寄っていくと同時に副会長はどこかへ行ってしまった。
 てっきり教室内の誰かの所へ行くのかと思ったんだけど、部屋から出ちゃったんだよね。
「あ、あの……すみません、お邪魔しちゃいましたか?」
「ん? あぁ、壱奈の事? いや、丁度話が終わった所だったから、気にしないで」
 そうは言ってもあの絶妙なタイミング。邪魔してしまった可能性がかなり高いんですけども。
「こーら、気にしないでって言ってるんだから気にしないの。壱奈もね、色々あるんだよ」
「は、はい……」
 色々って――なんだろう。
 ていうか、それ以前にちょっぴし気になる事があった。
「あの、先輩。こんな事訊いて変に思われるかもしれないんですけど」
「何かな?」
 すぅっと息を吸った。
 若干鼓動が早くなってきている気がする。
 ついでに頬も熱くなっているような……し、仕方ないよ。これから言う事、かなり乙女染みてんだもん!
「副会長とは――やっぱり何かあるんですか?」
「? どういう事?」
「そっ、その! つ、つ……」
「つ?」
「つ、付き合ってたとか! いや、もしかして現在進行形とか!!」
「ええええ!?」
 全部言い終わる頃にはほっぺたは完全に煮えきっていた。熱いのなんのって、本物の熱でも出そうだよ!
「いや、前に言ったよね? 壱奈はご近所さんで、元演劇部員だって……」
「それは聞きましたけど!でも、やっぱり……それだけにしては仲が良いっていうか……」
 前にこの話をした時に先輩は気にしてもらえて嬉しい~なんて言ってたけど、今回はそれどころじゃない。
 だって――私の考えが正しかったらって思った時、すごく胸が痛くなるんだもん……。
「も、もしやそれは……ジェラシーですか、美波ちゃん!!」
「……否定はしません」
「!!」
 ぷいっとそっぽを向いてそう答えてみる。
 そう、確実にそれだと思う。これが恋愛感情由縁なのか、それともただの子供染みた独占欲由縁なのかはわからないけれど。
 すると奏和先輩は悲しそうな顔で言った。
「美波ちゃん……僕は、喜んでいいのかな。悲しむべきなのかな?」
「え……?」
「美波ちゃんが僕の事気にしててくれて嬉しい。でもだからこそ、美波ちゃんに誤解されて悲しいよ」
「先輩……?」
 それってどういう意味――と訊く前に、ぎゅっと手を握られた。
「壱奈とは何でもないんだよ。前にも言った通り、ただのご近所さんで、ただの元部員で、ただの同級生で、ただのクラスメートだ。
 だから誤解しないで美波ちゃん。……ね?」
「は、はい……」
 エラく“ただの”が続いたな、と思いつつコクリと頷いた。
 途端、ぐいっと握られた手を引かれた。
スチル表示  ?!?!
「良かった!! でも嬉しいな~。ふふ、嫉妬したって事は美波ちゃん僕の事好いてくれてるんだね!幸せだよ!」
「ぎゃああああああ!!!なななな、何してんですかああああ!!!」
「えっ、何って抱きしめだよ?」
「だあああああ!!!言わんでよろしい!!離してくださいぃぃぃ!!!!」
 こんな事突然されたら赤面どころの話じゃないっつの!!!恥ずかし過ぎる!!
 でも先輩はすぐには離してくれなくて。
「ダーメ、誤解されたの悲しいもん。その分の慰謝料としてもうちょっとこうしている事!」
「っ!」
 更に抱きしめをキツくして先輩は言った。
 くっ、振りほどこうにもやはり男の力か……敵わないなぁ……。
 一通り抵抗した後、私は早諦めの境地に達してしまった。
「……ちょっとだけですからね!」
「うん、ちょっとだけ」
 抵抗をやめ、なすがままに身を任せる。
 あー……恥ずかしいけど、でも――嬉しくもあり、か。
 先輩と副会長、何でもなくて良かったぁ。

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 うっし、櫻んトコにしよーっと!
 直接協力してもらったワケじゃないけど、櫻もちゃんと呼んでおいたんだ。
 なんたって一番重要なトコ――衣装取りに行く事件でお世話になったもんなぁ。
「櫻! なーにしてんの?」
「あぁ、美波か。 いや、別になにってモンでも無いんだけど……」
 どうやら携帯を弄っていたらしい。
 メールでもしてたのかな?
 なんとなしに気になってヒョイッと覗いてみる。ま、どうせ横覗き防止シートとか貼ってるだろうし、見えるワケないんだけど。
 でも、チラッと覗くマネをした途端、櫻が思いがけない反応をした。
「っ?!?!」
 ものすごくビビッて携帯を隠したのだ。
「……櫻さん。今、何してたんですか」
 つい敬語になってしまうくらいには不可思議なリアクションで。
 コイツ――さては見てはいけないサイトでも見てたな!?ははーん、やっぱり櫻もお年頃ですなぁ。
 ニヒヒッと笑って今度は本気で携帯を見てやろうと手を伸ばす。
「ちょっ!!お前、何すんだ!?」
「いや、なんか異様な隠し方するから気になって。ホラホラ、見せてみんかい~」
 うりうりぃっと肘でつつきつつ、携帯を奪おうとする。
「だあああ!!やめろ!!見ても仕方のねぇもんしか見てねぇよ!!」
「そんなそんなご謙遜を。だったら隠すはず無いじゃん」
 謙遜辺りの使い方が間違ってるのはわかってるけど、人間ノリが大切なのである。……って何回も言ってる気がするけど。
 とにかく櫻との携帯争奪戦を繰り広げる。
 次第にどちらも消耗してきて、それと共にこの行動がアホらしくなってきた。
「っはー!っはー!……ったく、あ、諦めたらどう?櫻!!」
「っ、お、まえが諦めろ!ていうか最初っから見ようとすんな!」
「いやっ、でも、櫻がアハンウフンなサイト見てるかと思うと、気になって!」
 そう言った途端、櫻は固まった。
「おい、待て。ちょっと待て」
「ん?待つけど」
 額に手を当てて何か悩んでいる櫻。
「お前は――俺がそういうサイト見てると思って携帯を奪おうとしてたのか!?」
 キョトンとしてしまった。
 あれ、それ以外に何かあるっけ?わざわざ見たいと思うものって。
「ウン、そだけど」
「……っはー……そうかよ、ハイハイ。そうですね」
 ガクッと肩を落として櫻は言った。え、私肩落とさせるような事言ったっけ?
 首を傾げていると、更に大きくため息をつかれた。
「あー……そんな事ならさっさと見せれば良かった。ったく、なんだよその発想はアホか。アホだ」
「何で最後、断定になんのよ」
 言い切られてしまったのでそれに反論しようとすると、ズイッと携帯を差し出された。
「……? 見ていいの?」
「ああ――よく考えればコレは俺は見られても全然恥ずかしく無いし」
 謎な事を言いつつも押し付けてくる携帯を受け取る。
「むしろ」
 カパッと開くとすぐに待ち受け画面が見えて。
「お前のが恥ずかしいんじゃね?」
「!!!!!!!!」
 ぎゃあああああああ!!!!ちょっ、えっ、ぎゃああああああ!!!!
 待ち受け画面様には赤いドレスの人が――“私”がおりましたとさ。
 視線はこちらに向いてないから隠し撮り?!隠し撮りなのか?!
 ギッと櫻を睨む。
「この変態!!!」
「はああああ?!?! ちょっと待て、聞き捨てならねーなぁ!!」
「だって隠し撮りじゃん、コレ!どこで撮ったのよ変態!」
「その変態ってのヤメロ!てか俺が撮ったんじゃねーっつの!!」
「じゃあ誰が!?何の目的で櫻に渡したの?!」
 ガクガクと胸元を掴んで揺さぶる。
「ちょ、は、離せ!って!!」
 揺さぶっていた両手を反対に掴まれて至近距離から睨まれた。
「っ、!ったく……、暴走すんなよな――ていうか、こういう事するヤツくらい、わかんだろ?」
 そう言われて、頭の中には最初にハテナマークが浮かんだ。
 でもそのハテナは次第に形を変えて、最終的にエクスクラメーションマークになった。
 ……!!
「ま、まさか……」
「あぁ、そのまさかだ」
 答え合わせをする前に櫻は深く頷いた。
「――恵梨歌ちゃんか……」
「せーいかい」
 よくよく見ると背景は控え室のようだった。
 衣装もメイクも髪型も完璧にして、舞台に行くまでの短い間に撮ったのか。……あの人の携帯のカメラは音が鳴らないんですかね?それとも私が鈍感なだけなんですかね?
 ――後者なんだろうけど。
「恵梨歌ちゃん……隠し撮りするならするって言ってよ……」
「お前混乱してんだろ。それ意味わかんないぞ」
 確かに混乱してるかもしれない。
 だって、そもそも隠し撮りする所からわかんないけど、それを櫻に渡して、更に櫻が待ち受けにしてんのも意味わかんない。
「即刻削除を願います」
 そう言いながらぽちぽちと操作を始める。
 大抵の携帯は同じ作りだろうから、えっと……フォルダの中の――。
 とやっていると、バッと取り上げられた。
「なっ、何しようとしてんだ!!」
「消そうとしてんのよ!!」
 えーい寄こせ!とさっきとは違う意味でまた携帯争奪戦が勃発しそうになっていた。
「それはダメだ、ぜってぇダメだ!」
「何でよ!櫻が私の写真なんて持っててもしょうがないでしょ!しかもそんな隠し撮りで!」
「いや、ある!むしろ俺には権利がある!!」
「はぁ?!何寝ぼけた事言ってんのかなぁ!?」
 本当に寝言レベルだったので、心底不思議に思ってそう返した。
 すると、櫻は神妙に頷いてこう言った。
「演劇部の連中はずっとお前のこの姿を見てたけど俺は見てない。一応ホールには入ったけど、良い席が無くて遠目にしか見てない。俺は美波を見に行ったのに、だぜ?
 だから至近距離から撮ったソレを俺は貰う権利がある!!」
 ……こ、これは――かなりの俺様理屈じゃないっすか……。わけわからん。
「とにかく、これは俺が秋ヶ谷に貰ったモンなの!わかったら諦めろ!!」
「くっ……じゃ、じゃあ取引と行こう!」
 苦し紛れに一つ提案を出した。
 ここまでする事もないかもしれないけど――でも櫻の携帯ン中にあの写真があるってだけで恥ずかしいんだもん!
「取引?」
「そ。私が何か――櫻の得になるような事してあげるから。即刻画像削除すること。恵梨歌ちゃんから再度データ貰うのも無し!」
「得、ねぇ……」
 お、乗ってくるか?
 ふむ、と顎に手を当てて考え始める櫻さん。え、えーい!学食の高いモンでも何でも来いってんだ!!
 ぎゅっと目を瞑って待っていると、ぽむっと肩を叩かれた。
 その衝撃を受けて目を開けると――
スチル表示 「?!?!」
 エラく至近距離に櫻の顔があった。
 そしてその顔は笑う。
「じゃ、キスしてよ」
「……は?」
「最後のラブシーンみたいに。……な、城崎に出来て俺に出来ないってこたねーだろ?」
「……はああ?」
 ズザッと下がろうとするも肩を腕を掴まれていて、それは叶わなかった。
「な?」
 いやいやいやいや!!!
 ナイナイナイナイ!!!
 フルフルと首を横に振る――事すらもままならない状況で、私の頭の中は完全にテンパっていた。
 だ、大体芝居の事が何で今の櫻の行動に繋がるのよ!?全く関係ないじゃない!
「美波ー?」
 ちちちちち、近い近い!!!
 目を見開いてほとんど石と化していたけれど、櫻はお構いなしに続ける。
「昔はよくしたろ? ちっちゃい頃さ、ちゅーってさぁ」
 ……。
 ……あ、そっか。
 そう言われて石化が解けた。
 “キス=口に”というのに囚われかけていたけど、そうじゃないんだよね。そもそもアレは違ったし。
「わかった。じゃあやってしんぜよう」
「え、……マジで?」
「うん。騎士様のと同じのでいいんでしょ。……ホラ、ここじゃ恥ずかしいからちょっと」
 ぐいっと身を離した後、教室の後ろの方の窓際へと行ってカーテンの向こうに身を隠す。
「美波……い、いいのか?」
「アンタがやって欲しいって言ったんじゃない。……これじゃ届かないからしゃがんでよ」
「お、おぅ……」
 真っ赤になった櫻の顔。
 きゅっと閉じられた口元――
 の、横のほっぺた目掛けて突撃をかます。

 ちゅっ

「!」
「……どーだ!これで満足かー!!!」
 すぐに離して声高々に言ってやった!
「え……? これ、ホントに同じ、なのか?」
「そうだよ!最も客席からは本当にしてるように見えたかもしんないけどね~。 ふふふ、実は違うのであった!」
 ニヘッと笑って宣言をする。ま、実際はもちっと口に近かった気がせんでもないけど。
 何を勘違いしてたのか知らないけど、ザマーミロだ!
 と、自分でもよくわからない勝ち誇り方をしていたら、櫻はへなへなとその場にへたり込んだ。
「さ、櫻?!」
「そっか……へへ、そうか……」
「ど、どったの?!」
「いや――嬉しいな、って思って」
 ……? どっか頭でもぶつけたかな?
「ん、こっちの話……」
 笑って櫻は言う。
 私は、んっ、と指差した。
「約束だから、画像消してよね」
「あぁ――わかってる」
 ぽちぽちっと操作して、ややあって削除完了の画面を見せられた。……ん?ヤケに素直だな。
「ホントに消したんだよね?」
「消した消した。俺の元には折角のデータは無しだよ」
「それならいいけど……再度送って貰ったりしたらダメだかんね?」
「あぁ、それもわかってる。送って貰ったりしないよ――データはな」
 その言葉が理解出来なくて、でも何か変な事を言っているぞという事は理解して眉間にしわが寄る。
「データは……って、他何かあんの?」
「後でプリントしてくれる、って」
「・ ・ ・」
 眉間のしわは更に濃く刻まれることになった。
「はあああああああ?!?!??!」
「大丈夫だろ、データじゃないし」
「ンな話じゃねーでしょーが!!ちょっ、それを貰うのも無し無し!!」
「それは取引の中には入ってないから無理だなぁ~」
「ぎゃあああ、やめろおおお!!!」
 ヒラリとカーテンから飛び出して櫻は恵梨歌ちゃんの方へと行ってしまった。早速催促でもするんですかいな?!
 追いかけてってメッタメタにしてやろうかと思ったけど、やーめたやめた。
「……ったく!!!」
 もー、あんなヤツ知らん!

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