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▼ 第3章 第4話

 週明け、登校してみると珍しく城崎君がまだ来ていなかった。
「……あれ?どうしたんだろ?」
「うーん、プリントでも見に行ったのかな?」
 そうは言ったものの、どちらにしろ確認に行かなくちゃ、という恵梨歌ちゃんと一緒に職員室の方へと向かう。
 その道中で、紅葉さんに会った。
「すまん!!」
 会った途端、謝られた。
「まだ出来て無いんだ!どうしても気に入らない箇所があって――すまん、本当にすまん!」
「いや、私達に謝られても……でも期間かなり短いですけど大丈夫ですかね?」
「う……それはお前達次第ってトコだな。指導は俺の出来る限りをやるつもりだが。その分練習は厳しくなるぞ?」
 眉を八の字にして言う紅葉さん。
「なーんだそんな事なら大丈夫ですよ。ね、恵梨歌ちゃん!」
「えぇ、幸い寮ですから遅くまでやれますし。文化祭準備もあるから、いつもより部活も長く出来ると思いますよ」
 そう、いよいよ近くなってきたので、特別に準備用時間として長く学校に居られるようになっているらしいのだ。
「そうか。ならなんとかなりそうだな……。まぁ、大筋の部分は放課後にでも話すから」
「了解です!」
 紅葉さんと別れ、廊下を進む。
「……あれ、プリントはまだあるね。こっちに来てたわけじゃ無いみたいよ」
「そっかぁ」
 プリントを持って教室に戻る。文化祭関連だろうか?量が多かったので私も半分持っていた。
 ――そういえば。
 まだ那月君の事知らなかった頃に、こうしてプリント持っててぶつかられたんだよなぁ。
 なんて思ってたら、

 ドンッ

「うがっ?!」
「わ、悪い!!!」
 誰かが派手にぶつかって来て廊下に倒れこむ。プリントはハラハラと舞い散った。
「ごめん、前見てなかった!――って、あれ、美波?」
「え? ……な、那月君」
 そういえば、って思い出してたら再び、ですかい!
 全く同じシチュエーションだなんて、反省の色が見られないって事じゃん!廊下・階段は走らないの!!
「那月そんなに急いだら人にぶつかるって言ったばかりじゃないか――って、あれ、高科さん?」
「城崎君……言うだけじゃなくて、ちゃんと押しとどめて欲しかったよ……」
 しくしく泣きマネをしつつ立ち上がり、舞ったプリントを集めながら言った。
「それはすまなかった……ホラ、那月謝ったのか?」
「ご、ごめんなさい」
「いや、まぁ、いいんだけどさ」
 ションボリとされてしまってはこちらとしてもバツが悪い。
 とりあえずプリントを全部拾い集めて、それから疑問に思った事を訊いた。
「今日は何でこんな時間なの?いつもより遅いよね?」
 いつもなら城崎君はもっと早い時間に来ているのだ。恐らく、一緒に来ているだろう那月君も。
 しかし今日はわりとギリギリで。
「あぁ――昨日は午後に部活が無かっただろう?だから、家に帰って。今日は自宅から来たんだ」
「へー、そうなんだ」
「……それで、那月が寝坊して」
「起こしてくれって言ったのに起こさない冬輝が悪い!」
「何回も起こしたのに起きないお前が悪いに決まってんだろ!!」
 ……なるほどねぇ。
 ま、時間も間に合ったんだし、いいんじゃないですかねー……。

 なんやかんやと騒ぎながら教室へ到着。
 丁度な時間だったので、すぐにHRが始まった。
「文化祭のクラスの出し物とかも考えなきゃいけないし、その前に実行委員を決めたいんだけど――」
「あぁ、そうだな。立候補はあるか?無いなら球技大会ン時みたく、先生が勝手に決めるぞ~」
 なんだか嬉しそうに百瀬先生が言う。
 するとスッと二つ、手があがった。
「お、立候補が居るのか!素晴らしい!えっと――桐原と、長野か。うん、丁度二人、男女だし決まりだな!」
 いやぁ、今回は早かった!とそれで話を終わらせようとしてるけど――
「あの、先生。別に立候補ってワケじゃないんですけど」
 桐原が気まずそうに言う。
「ん?そうなのか?」
「実行委員ってどういう仕事があるのか訊こうと思って……」
 長野さんも同じような事を言った。……つまりは立候補なんかじゃないのだ、と。
「実行委員はなー、まぁ、クラスの出し物の総合管理とかだよな。あと実行委員会に顔出し、教室以外でやる場合はスペース確保とかもして貰わなきゃなんないし、結構大変だぞー」
「え……じゃ、じゃあ俺はちょっと……」
「あたしも……」
 百瀬先生の言葉に下がる二人。ええい、なんて情けない!
 ……まぁ、そんな事言っても、私も出来ないんだけどさ。
 しかし二人の言葉を百瀬先生は受け取りたくなかったらしい。
 秘技・聞こえないフリ!!!
「ってな感じで、ハードな役だから立候補が出てくれて助かったな~」
「えぇ、全くです。それではこれからよろしく頼むよ桐原、長野さん」
「頑張ってね二人とも!」
 委員長・副委員長もすかさずそれに賛同したみたいだし。
 ――ついでに、桐原・長野さんを除いたクラス全員の意見も恐らく一致している事だろう。
 わーっと歓声と共に拍手が沸き起こる。
「なっ、なっ!?」
「だ、だから立候補じゃないって言ってるじゃないのよ!?」
 聞く耳持ちませーん。
 てことで、半ば――ほぼ完全か――強制的に文化祭の実行委員が決定した。

 そして早速実行委員のお仕事です。
 時間もあまり無いので、昼休みにお話をば。
 て事で、お昼が終わった後に遊びに出ずにすぐに教室に戻ってきていた。
「じゃあ、ちゃっちゃと決めるわよ!クラスごとになんかやらなきゃいけないらしいから、めんどくさいなら適当に展示でもしとく?」
 うわー、投げやり感がビシッバシッですな。
「いや、待てよ長野!折角の祭りなのに展示とか怒鳴られるぞ!」
「はぁ?怒鳴られる?誰によ?」
「俺に、とか!」
「はぁああ!? ぶち倒すわよ、アンタ!!!」
 ……。この二人が実行委員とか、大丈夫なんですか。
 周りの人の表情見てたら、思ったのは私だけでは無さそうだ。
「と、とにかく――俺はなんかちゃんとやった方が良いと思う!せんせっ、飲食系はいけるんですか?」
「あー、うん。事前に許可出さなきゃダメだし、色々細かい規定はあるけどな。一応いけるぞー」
 ひらひらと手を振って百瀬先生が言う。相変わらずヤル気無いなーこの人。
「じゃあ、折角高校になったんだし、食べ物系がいいと思うんだよな。王道ではまぁ、カフェだよな」
 顎に指を当てながら桐原は言う。
「で、カフェならウェイトレスだし、どうせならウェイトレスは可愛い服がいいし、可愛い服って言ったらメイド」
 ……おいおい、なんか方向性が怪しいんですけど。
「って事で、俺はメイド喫茶を提案する!!」
「バカなのアンタ?!?!」
 スパーンッと叩かれた桐原。長野さんツッコミ速いなぁ。
「な、何でだよ?真っ当な意見だぞ!」
「頭沸いてんじゃないの!? なんで高校の文化祭ごときでメイド喫茶やんなきゃいけないのよ!メイドに飢えてんなら、その手のトコにでも行っときなさいよ!!」
 と、長野さんはお怒りだけども。
「……私は結構良いと思うんだけどなぁ、桐原の意見にしては。城崎君はどう思うよ?」
「え、僕に訊くのかい?――そうだね、まぁ、いいとは思うよ。着る人が嫌がらなければね。メイド服見たさに来る人も大勢居るだろうし」
 うん、それそれ。
 やっぱりユニフォームっていうのは大事でさ、それが珍しいモノだったらそれだけでも十分客を釣れる気がする。
 それに――メイド服って可愛いもんなぁ。
 自分は是非裏方に回って、ウェイトレスなメイドさんをニヘニヘ見守りたいです。
「そっ、そんなに言うんなら試しに多数決でも取ってみようか?! メイド喫茶が良いと思う人、手ぇあげて!」
 桐原の言葉に私はサッと手をあげる。
 もしかしたら晒しプレイになるかと思ったけど――おぉ、意外とあがる、あがる。
「ホラ、見ろ!もう過半数じゃないか!」
「くっ!!!」
 そんなワケで早々に我がクラスはメイド喫茶に決定してしまった。
「まぁ、他にも喫茶系をやる所があったら、はじかれるかもしれないけどな。あまりに競合すると困るから。その時はまたその時で改めて考えろって事で」
 百瀬先生のヤル気を削ぐ様な言葉は右から左へ持っていって、っと。
「そういう事だから、とりあえず今日はこれで。無事にメイド喫茶に決まったら明日役割とか決めてくぞ!」
 そう言った後すぐにチャイムが鳴る。
 周囲は授業が始まるまでの間、がやがやと話をしていた。
 かく言うここらもそれにあたり。
「メイドさんか~。いいよねぇ、フリフリ」
「美波、その顔すげーヤベェからヤメロ」
「えー、でもさぁ、ついついニヤけちゃうよねぇ、フリフリ……スカート丈は短いのも長いのもどっちもいいよねぇ」
 ウチのクラスは可愛い子多いから見栄えするよなぁ~、とも考えて。
「まぁ、まだ決定したわけじゃないから妄想は早過ぎると思うよ美波ちゃん」
「そうかな~」
 なんてやりとり。
 でも案外簡単に通りそうだし、妄想はタダだし!減るモンは無し!……まぁ、妄想してる間にその分、時間は減るけども。
「何にせよ楽しみだ、って事だよ!クラスも、そして部活もね!」

 *

 楽しみな部活さん。
 朝紅葉さんが言ってた通り、確かに大筋は作られているようだった。……ていうか私から見ると、もうかなり出来てる気もするんですけどね?
「どん底に居た主人公が幸せになる何かを拾う。
 それで一時的に生活はよくなるけれど、再び悪化する。>その後に何かきっかけがあり、心を入れ替える。
 主人公の拾ったモノによって幸せになる人が続出して、噂を聞きつけたお偉いさんがやってきて――、と」
 まぁ、読んでみたら“何か”とか“きっかけ”とか、決まってない部分が多すぎるか。しかも重要な部分で。
「何を幸せの象徴にするか――それが問題なんだよなぁ。幸せなんて人によるだろ?
 目に見える形で表すには何か小道具が必要だと思うんだが……何がいいだろう?」
「そう、ですねぇ……」
 と聞かれても、いまいち良い案も出てきそうに無い。
 ウーンと唸っていると、奏和先輩がポンッと手を叩いた。
「ちょっと話変わりますけど、身近な幸せと言えば。――こうして皆と部活やってられるのも幸せですよねぇ」
「先輩……」
 確かにそれもそうだ。
 入部当初は廃部寸前で、その後も危機がちょこちょこあったワケで。
 しかしそれを乗り越えて、こうしてまだ皆で部活をやってられるという事――これは幸せに違いない。
 ウンウンと感慨にふけっていると、奏和先輩こっちを向いてニコッと笑った。
「それに、こないだのお出かけの時みたいに、美波ちゃんとお話してた時も幸せだったなぁ」
「?!」

選択肢1

奏和 +1

 突然言い出した事に驚きを隠せず、口をポカンと開けてしまった。
「な、なな、何を……言ってるんですか先輩っ!」
 やっとの事で声に出した言葉と共に、カーッと体温が上がっていくのがわかった。
「何って――思った事そのまま言っただけだよ。美波ちゃんはそうじゃなかった?」
「そ、そりゃあ……まぁ」
 尾行してる時はともかくとして、バレた後に皆で居たりしたのは楽しかったもんなぁ。
 でも先輩が言うのは私と話してた時、でしょ? 超悲壮感漂ってたじゃないですか。
「項垂れてた僕を励ましてくれたじゃない。そういう思いやりの心がね、幸せに繋がっていくんだよ」
「先輩……」
 にっこりと言われて、なんだか感動してしまった。
 そもそもちゃんと励ましたかが怪しいけれど、でも、だ!
 思いやりの心とか、幸せとか――現実に言葉に出されてしまうと胡散臭いんだけど、先輩が言う分には素直に受け取れるんだよなぁ。

奏和 +2


 突然言い出した事にかなり驚いてしまった。
「先輩……!そ、そういう事をですね、いきなり言わないでください!」
「え? じゃあ事前に申し入れをしておけば良かったのかな?」
「そういう問題でも無いんですけど!」
 事前に“今から君の事褒めてあげるね”なんて言われて、平静で居られる人間はそうそう居ないだろう。あたふたするのか、気味悪がるのか、は置いといて。
「……でも、幸せ――感じてくれてたんですか?」
「うん、そりゃあもう。 情けなく項垂れてた僕をさ、美波ちゃん励ましてくれたでしょう?
 あんな風な思いやりの心を感じて――あぁ、僕はこんな素敵な子が身近に居てくれる、幸せ者なんだなぁって思ったんだよ」
「先輩……っ」
 私、いつ励ましましたっけ? とは言わずに、とりあえず感動しておく事にする。
 いや、でも実際、私の言動が先輩の幸せに少しでも貢献出来たのならこんなに嬉しい事は無いわけで!
「へへ、先輩。今、私幸せかもです」
「そっか。僕もだよ」
 なーんて、ね!

選択肢1 終わり

 ◇

 嬉しくなってニヘニヘ笑いつつも、ちょっぴし真剣に考えてみることにする。

 幸せ――しあわせ。
 最近その単語を考えたのは何回かある。
 コンクールで素敵な劇を見た時。面白い・感動するモノを見た後の充実感かな?
 晴矢君の生い立ちを知った時。例え複雑な家庭環境だとしても素敵な家族に囲まれてるんだな、って。
 そしてさっきの奏和先輩の恵梨歌ちゃん離れの時だ。
 先輩が言ってたのとは違うかもしれないけれど、私としては、もし恵梨歌ちゃんの恋が事実なら、祝福するのが良いよねっていう話になる。
 それぞれに全く違うけれど、やっぱりそこには必ず“幸せ”を考えるきっかけがあった事は確かで。

「うー……難しいです、紅葉さん。そこんトコもうちょっと何か、無いですかね?」
「何も無いからこうしてお前等に言ってまで悩んでるんだけどなぁ……」
「それもそうですけど」
 はぁーと皆でため息をついた時だった。
 ヴヴヴヴヴッ ヴヴヴヴヴッ
「? 誰か携帯鳴ってない?」
「え、あ、オレだ――――幼稚園から……? はい!」
 どうやらかえで幼稚園からのようだ。
 電話に出た那月君の表情が徐々に険しくなっていく。
「……はい。 はい。冬輝も居ます。 ――わかりました。すぐに行きます!」
 そしてそれを終えた後、血相を変えて那月君は鞄を取った。
「那月、どうしたんだ」
「なんか晴矢がどっか行っちゃったって――!!だ、だから早く探しに行かないと!!!」
「!?」
 城崎君も同じように鞄を手に取り、
「すみません、ちょっと行きます!」
「あ、ああ。わかった!気をつけろよ?!」
 二人は部室から出て行ってしまった。
「……晴矢ってのは確かアイツ等の弟だったな? 一体どういう事なんだ?」
「わかりませんけど――先輩!私達も行きましょう!もし行方不明なら、少しでも探し手が多いほうがいいと思うんです!」
「そ、そうだね! 紅葉さん、いいですか?」
 紅葉さんは大きく頷いた。
「川北先生には言っておいてください。何かあったら携帯に連絡しますので!」
「了解した!」
 ちなみに川北先生は用があるとかでちょっと遅れていたのだ。
 私と先輩と恵梨歌ちゃんは、先の二人のように鞄を引っつかんですぐに部室を後にした。
 向かうはかえで幼稚園!
 それにしても晴矢君が居なくなったって――どういう事なの?!

 *

 着いた先では保母さん達がオロオロしていて、その中に城崎兄弟も居た。
「ごめんなさい、わたし達が目を離さなければ……」
「いいえ、こちらこそすみません。どういう意図であれ、晴矢が自分で出て行ったんですから」
 親御さんのお迎えを待っている少しの間に、晴矢君が消えてしまっていたらしい。
「ねぇ、晴矢どこぉ……どこ行ったの……」
 ぐすぐすと泣く小夏ちゃんを那月君が抱える。
「大丈夫だ、すぐに帰ってくるから。お前だってそうだったろ?」
「で、でも小夏の時は、ちゃんと目的あったもん!ママのためだったもん!……けど、晴矢は何で?」
 私との出会いでもあった小夏ちゃんの行方不明事件は、怪我をしたお母さんのために、四葉のクローバーを探しに出た事が原因だった。
 けれど、小夏ちゃんの言う通り、今はそういった怪我人も病人も身内には居ないらしい。
 だとしたらその線は薄くなるだろうし――何より晴矢君がそういう事をするとも考えにくい。
 本格的に泣き出してしまった小夏ちゃんをあやすべく那月君が場を離れたのを横目に見ながら私は考えていた。
 一体何故――と。
 そうは思いつつも、とりあえず幼稚園内を探さなきゃ、と声をあげかけた時だった。
「もしかして……」
 保母さんの一人が蒼白な顔で切り出した。
「あ、あたし達――廊下で、子供達には聞こえない位置で話をしていたの」
「何の話を、です?」
「その……晴矢君は血が繋がってないのよね、って」
「!!!」
「ごめんなさいごめんなさい!あたし最近知ったものだから、ついっ」
 まさか自分が養子だと知ってしまった衝撃で!?
 ……。
 ……と思ったけど、そりゃ違うか。
 だって、
「あの、それは問題無いと思います。晴矢、自分の事わかってますから」
 ――そう。晴矢君、自分が城崎家の人間とは血が繋がってないって事、十分に理解してるらしいんだもん。
 那月君曰く、自分から状況証拠突きつけて問い詰めたらしいし。
 そんな子が保母さんの会話聞いたくらいでどうにかなるハズが無い。
「そ、そうなの……?」
「はい。それについては全くと言ってもいいくらい関係無いです」
 淡々と言う城崎君がなんだかおかしかったりする。
 しかしそうなってくると、居なくなる原因がまたわからなくなってくるって事で。
 ……ゆ、誘拐とか?!神隠し?!
「よっ、幼稚園の中には居なかったんですか?! 絶対?!」
「えぇ……くまなく探したけれど……」
「じゃあきっと外に行ったんですね、私探してきます!」
 流石にこの辺りの地理にも慣れてきたハズだし!
 そう言って駆け出し、門付近まで来た時だった。
「あれ、美波お姉さん。また来てくれたんですか?」
「……っ?!?!?」
 トテトテと向こうから歩いてくるのは、晴矢君じゃないですか?!
「はっ、晴矢君!?」
「はい。丁度良かったです、今日会いたかったんですよ」
 にっこり笑って言われるけど――そういう状況じゃ、無いでしょうに!
「晴矢!!!!!」
「晴矢ああああッッッ!!!」
 城崎兄弟が叫びながら走ってくる。
「あれ、お兄ちゃん達も。……って、小夏――何で泣いてるの!? 誰かが泣かしたの!?」
「お前がっ、泣かしたんだよ!!」
「えっ?」
 事態を理解していない晴矢君は本当に驚いたようだった。
 そしてそれからやっと、城崎君や那月君だけじゃない、私達や保母さんも集まって深刻そうな顔をしている事に気づいたらしい。
「す、すみません……もしかしてボク――騒ぎを起こしちゃったのかな」
「その通りだ!お前、前に小夏にアレだけ言っておいて、今度は自分が勝手に出て行くなんてどういうつもりだ!」
「本当だよ晴矢。お前ならそういう事はきちんとわかっていると思ったのに」
 口々にお兄さんズからお叱りの言葉が降る。
 晴矢君はそれを受け止めていたのか、しばらく沈黙していたけれど――ややあって、顔を上げた。
 そして、手を差し出した。
「……コレ、探してました」
「?」
 覗きこんだその手には、四つの片が集まった緑の葉っぱ。……て回りくどい言い方しなくてもいいか。
 要はコレは、
「四葉のクローバー?」
「はい。……その、昨日、お兄ちゃん達が帰ってきて話してたのを聞いちゃったんです」
 晴矢君の話によると、昨日実家に帰った城崎兄弟は文化祭の劇の話をしていたらしい。
 曰く、同年代の恋愛モノで幸せストーリーって事を。
「ボク、恋愛とかそういうのはわからないしお兄ちゃん達の同年代なんてますますわかりません。
 でも、幸せっていうのなら思い当たる事があって――」
「もしかして……それで、探しに行ってくれてたの?」
「はい……」
 幸せ、と聞くとさっきの私達みたいに咄嗟には抽象的な何かしか考えられない人もいるけど、そうか。こういうのに結びつく人もいるんだ。
「四葉のクローバーって言えば、幸せの代名詞みたいなモンだもんねぇ」
 しみじみ呟いていると、晴矢君が動いた。
「ボク、よくわからないけど――幸せは、こういう所から始まるのもあると思う。
 だから、何か参考になればって……思って」
 そう言って、手に乗ったソレをそっと城崎兄弟に渡したのだ。
「はい、幸せのおすそ分けです」
「晴矢……」
「……っ!」
 ガバッと那月君が晴矢君を抱きしめる。ついでにその腕の中には小夏ちゃんも入ってて。
「このバカヤロウ!なんて良い子なんだお前は……!!!」
「本当に――バカだけど優しいね、晴矢。ありがとう」
 城崎君もその周りから更に3人まとめて抱きしめるように腕を伸ばす。
 はたからみるとスクラムのようで何がなんだかよくわからないけど――いや、これも一種の幸せの形、だ。
 ……そう、だよ!
「参考になるよ晴矢君!うん、なるなる!」
 紅葉さんが言ってた、“幸せの象徴”ってこういう事を言うんじゃないの!?
「あ、なるほど……」
 城崎君も私の言いたいことがわかったらしい。
「じゃあ、小道具としてはそういうのでいいんじゃないかな! 勿論、もうちょっとシナリオとしては詰めなきゃいけないだろうけど」
 そしてあれよあれよと話は進み、忘れないうちに、と紅葉さんに携帯で連絡する。
『なるほど、了解した。それも踏まえて考えてみる!』
 との事だ。ようしっ、いよいよ固まってきたじゃあないですか!

 そして幼稚園の方はと言うと。
「ごめんなさい晴矢君――先生達、あなたに酷い事言ってしまったかと思って……」
「先生……それは家の事ですよね?」
「そ、そう……だけど」
 どうも聞こえていたらしい。
 でも、それはやっぱり晴矢君が出て行くような原因にはなり得ないモノであって。
 ニコッと晴矢君は笑った。
「先生大丈夫です。ボクは本当の両親の事知らなくても十分幸せですから。こんな良いお兄ちゃんが二人と、それに大好きな小夏が居て」
「小夏もっ!小夏も晴矢の事好きぃー!!」

 ぶっちゅうううううう

 晴矢君の言葉を聞いてた小夏ちゃん、ぶっちゅうとほっぺたにぶちかましました。
「こ、小夏……」
「えへへー」
 晴矢君も照れてるけど、見てるこっちのが照れるわ!周囲見ると、私達は当然保母さん達も顔赤くしてらっしゃるし。
 うおおおお幼稚園児恐ろしいしいいいいい!!!!!

 その後、かなりの本数を見つけてくれてたらしく、城崎兄弟に1本ずつ、小夏ちゃんに1本、保母さんに1本、そして演劇部を代表として私にも1本、それぞれにくれたのだ。……こんなにも見つけるの大変だったろうに。
 ていうかそれ以前にこんなにもあるんだ?っていう感じだ。
「えへへ、晴矢君ありがとう~」
「いえ。あ、でもごめんなさいもっと見つければ良かったです……」
「ううん、もう十分だよ!へへ、幸せのおすそ分け、だね!」
 手に持ったそれを見ながら笑った。うん、実に幸せな気分だ。
 本当に良い子だよなぁ……っと、そうだ!
 こういうのを小道具として劇中に使うのもいいけど、それを最後に見てくれた人に渡せたら――そうしたら、“幸せ”を少しでも渡せるんじゃないかなぁ!?
 まぁ、独りよがりな部分もあるかもしれないけど――でも何か、そういうのが入れれたら。
 て事で再度連絡。それも追加して考えてくれる、との事だ。
 よし、晴矢君も見つかったしお話もどうにかなりそうだし――なかなか良いんじゃないんですかぁ!



 * * *



 そして翌日。
 放課後の部活を楽しみにしつつも、それより先にクラスの方だ。
 昨日言ってたメイド喫茶は問題なく通ったらしい。飲食系はそこそこあるけど、喫茶形式はそんなに多くないそうで。
「てことでメイド服な!そこは絶対に譲れない!」
「気持ち悪いわね桐原!」
 燃える桐原に長野さんが冷たく言うけど――いや、わかる、わかるぞお桐原ああ!!
「コスチュームから、形から入るのはヒトとして何ら間違ってないよ!!」
「高科っ!お前、話がわかるな……!!!」
 ガシィッと手を握り合う。
 こんな所で桐原と結託する日が来ようとは……っ。
 ま、そんなワケでメイド服は譲れなくなりました。それはおいおい考えるとして。
「何を出すか、だよなぁ……。市販のモノ買ってきて、とかはアホみたいだしな」
「確かにそうよね。お金もかかるし――やっぱりここは手作りでしょう。そういう機材も借りれるようだし」
 一応実行委員らしく、仕事はしてきたらしい。
 てきぱきと話を進めて行く二人を見ながら、私はちょっぴし恐怖を抱えていた。
 だって……手作り、って奥さん。……奥さん!
「役割分担は必要だけど、メインのモノは全員で協力して作らなくてはいけないわね。という事でお菓子は女子全員ね」
「ええええええ!!!!こっ、困る!!!」
 思わず声をあげてしまった。
「どうして高科さんが困るの?」
「えっ、だ、だ……って……」
 料理が致命的に下手だからです!とここで声を張り上げて言いたくはなくて、口ごもってしまった。
 すると何故か察しの良い桐原。
「ははーん、なるほど。お前――料理下手なんだろ?」
「!!!」
 み、見破られてしまったっ。
 そりゃあこの状況で反対するっちゃー、そういう可能性が高いのはわかるんだろうけどさっ!
「その驚きよう、図星かー。へー、へー、高科は料理が下手かー、なるほどねー。フーン」
 くっ、くそ……完全にコレ、からかいのネタとして提供してしまった気がするぞ!
 そして追い討ちをかけるように、桐原は言った。
「料理が出来ないヤツって貰い手が無いんじゃね? 高科はお嫁さんに行けないな~」
「!!!!!」
 い、いや、別に今の年齢から嫁がどーのこーのに傷つくワケじゃないけどさ!桐原に言われるのがものすんごくムカつくわけで!ち、ちくしょう!
 でも料理下手なのは事実なので言い返せないでいると、
「高科さん」
 ぽんと肩を叩いて、城崎君が言った。
スチル表示 「大丈夫。その時は僕が貰ってあげるから」
「っっっ?!?!?!?!?!」
 え、ちょ……は、はあああああ?!?!?

選択肢2

冬輝 +1

「い、いきなり何をっ!」
「いや、貰い手が無いなら僕がって話」
「だから、な、何でそーなるの!?」
 桐原のバカの戯言を真に受けたとしても、この状況で、こんな人がたくさん居る中で言う事じゃないじゃん!?
 すると城崎君は言った。
「だって――あんな風に桐原にバカにされたままじゃあ、嫌だろう?」
 あ、なるほど。そーいう事か。
「それは確かに……うん、じゃあ、もしその時が来たらヨロシク!」
 スチャッと手をあげて敬礼のポーズ。

冬輝 +2

 カカカカカーッと体が熱くなっていくのがわかる。
「う、あ、は、はぁ……」
 視線をさ迷わせて、ただそれだけを返した。
 すると城崎君、そんな私を見て笑いました。
「はは、高科さん可愛いなぁ。――そんなに深く取らなくてもいいんだよ」
「え?」
「ホラ――桐原にバカにされたままだと嫌だろうと思って……ね?」
 あ、なるほど……そういう事でしたか。
「う、でも……こういうのは恥ずかしいよ」
「うん、まぁ、それも確かなんだけど……でも、いいじゃないか」
「……う、うん」
 コクンと頷いて、気合を入れて顔を上げた。
「ありがと城崎君!もしその時が来たらヨロシクね!」

選択肢2 終わり

 ◇

 それから桐原の方を向いて、
「どうだ、ザマーミロ桐原!!貰い手居ましたー!残念っ!」
「くっ、くそ……なんて事だ!!」
 唸る桐原。――フッ、これは勝ったな。
 そう思った時だった。
「アホかお前等っ!」
 突然櫻が叫んだ。
 ……それもかなり怒った顔で。
「さっきからくだらねぇ事ぐだぐだしゃべってんじゃねーよ!時間あんまりねぇんだろ、ンな関係ねぇ話題とっとと下げろ!」
「さ、櫻……?どったの?」
「どったの、じゃねぇよ、!バカ美波!!」
 な、何だとー!!!!
 フンガー!!と怒りをあらわにするも……それ以上に櫻の怒りようは凄まじかった。
 ので、
「ご、ごめん……」
 すごすごと退散する事にする。……くっ、こっちは敗北か……!

 そんなアホなやりとりが終わった頃、ついと手をあげた人が居た。
「ん? 勝木、どうかしたのか」
「お菓子の事なんだけどさぁ。ウチも作る事は作るけど、そこまで慣れてるワケじゃないから量生産するってのはキツい。
 だから苦手な人でも作れるようになる為に――本番前にプロに教えて貰うってのはどうかな?」
「どういう意味だ?」
「まぁ、完全なプロってワケじゃないんだけどさ。寮の食堂のお姉さん、かなりお菓子作りも上手いんだ。
 だからなんとか頼んで、教えて貰える様にしてみようかと思うんだ」
 おお!そっか香さんに教えてもらえるのなら、それはかなり心強い!
 という事で、お菓子の事はとりあえずかっちゃんに任す事になった。
 もし香さんがダメだったら、またその時考えるって事で。
 うんうん、こっちも進んできたじゃないのー!

 *

 そして部活。
 どうにもまだ詳細は出来てなかったらしい。
 でも一部台詞が出来てるトコもあるらしいので、ソレを使って練習開始。
 明日には絶対出来るって話だし、へへ、明日楽しみだなー!