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▼ 第3章 第7話

Bパート

那月君

 教室を出た私はお隣さんのクラスへと向かった。……つまりは那月君のトコロだ。
 行ってみると――おぉ、こちらも随分盛況なようで。
 メイドカフェな我がクラスと違って、随分とおどろおどろしい飾り付けになっている。……お化け屋敷だから当たり前だけど。
 うーん、それにしても……来たはいいものの、那月君まだお化けやってるのかなぁ?
 チラッと覗こうにも、お化け屋敷という特性上覗き見は出来ない。
 さて、どうしたものか。と思っていると、

 ぽんっ

 突然肩を叩かれた。
「!!!」
 慌てて振り返ると、そこには那月君が居て。
「美波、どーしたんだ?」
「なっ、那月君かぁ……びっくりした……」
 お化け屋敷の前、っていうのがよろしくなかったんだろう。ただ肩を叩かれただけだというのに過剰反応してしまった。
「ん、そりゃ悪い。ところで、そっちの当番はもう終わったのか?」
「うん、さっきね。で、さ……那月君、これから予定とかはある?」
「オレ?あるっちゃーあるなぁ……」
 ……あ、そうなんだ。
 予定が無いなら一緒に回ろうかと思って誘いに来たんだけど……仕方ない、かなぁ。
 そんな風にションボリしていると、那月君はぷっと噴き出した。
「落ち込み方すげぇな美波!」
「だって、那月君と回ろうと思ってたんだもん……予定があるって聞いたら落ち込みもするよー」
 ガックリと肩を落として去ろうとすると、その肩を掴まれた。
「やー、わりぃ!言い方がマズった。……予定ってのは、その、つまり――美波を誘おうかと思ってさ」
 ……へ?
「そ、それなら普通に言ってくれればいいじゃんかー!」
「だから悪かったって。……こういう言い方してさ、美波がどういう反応するのかちっと興味があって」
 なんですとな?!
 ……や、やっぱりなんだかんだ言っても、城崎君と兄弟なだけあるなっ。
 ボカッと腕に一発くれてやる。
「那月君のバカ!」
「ハハ、怒るなって。そういう反応してくれるとどんどん喜んじゃうからよー」
「だー!アホっ!」
 にへらっと笑う那月君をもう一度はたいて、くるりと踵を返した。
「あー、待てって美波!お詫びに何か奢るから!」
「……奢る?」
「おう、奢っちゃる! へへっ、実は美味しいたこ焼き出してるトコがあるって聞いたんだよな~」
 た、たこ焼きか……。じゅるりと思わずヨダレが出そうになる。
 奢るの一言に釣られて立ち止まっていた私の横に並んで、那月君は言った。
「美波がこっちに来てくんなかったらさ、オレから迎えに行くつもりだったんだぜ。でも美波は来てくれた。――だからちょっと浮かれちまって……さっきみたいな事言っちゃったんだよ」
「那月君……」
「ま、そんなワケだから!さっきのは忘れて、 祭りを楽しもうぜ!」
 そしてぐいっと腕を取られた。
「わっ!?」
「人気のトコみたいだから、早く行かねーと!な!」
 どうやらその店は外に出しているらしく、小走りでそこに向かう。
 走っている内に腕を掴んでいた手は次第に下がり、手へと到達していた。――つまり、手繋ぎ状態だ。
 し、しかもコレって、世に聞く“恋人繋ぎ”ってヤツなんじゃあ!?
 一瞬で顔が熱くなる。つい反射的に振りほどきそうになったけど――押し留めて、逆にぎゅっと握ってやった。
「っ! 美波?」
 それに気づいたのか、那月君が振り返った。
「那月君、お祭り、楽しもうね!」
「お、おぅ!」
 二人で笑いあって、そして屋台巡りへと出発したのだった。

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城崎君

 ……と、タカに見送られたものの、私はまだ教室付近に居た。
「あれ? どこ行ったんだろ」
 キョロキョロと周囲を見渡す。
 確か……城崎君、この辺で呼び込みしてたんだけどなぁ。
 教室付近の廊下で客案内とかもやってたハズ――だけど、おかしいなぁ。
 一人でキョロキョロしてるのも時間の無駄か、と今の当番の人に聞こうと思った時、
「高科さん?」
「!!」
 呼びかけられると同時に肩を叩かれた。
「じょっ、城崎君!あー、ビビったぁ!いつの間に背後に……?!」
「いや、いつの間に、も何も随分前から君の事見てたんだけど」
「?!」
 しれっと言われた言葉にさっき以上に驚いた。
 え、だって私“周囲を見渡していた”ハズなんですよ!?
 すると言いたい事がわかったのか、城崎君は小さく笑った。
「丁度ここからじゃ死角になるのかもね。教室の入り口からこっそり見ていたんだ」
 な……何してるんですか。
 ったく、覗きじゃないですかい!……と、それは言わないけれど。
「ところで誰か探してたようだけど?」
 つい、と廊下を見ながら城崎君は言った。
 よくわかりましたね、と思ったけど――ま、さっきのキョロキョロを見られてたんなら当然か。
「誰か、っていうか……城崎君を探してたんだ」
「僕?」
 私の答えに驚いたようだった。
 そういう反応をされるとなんだか言い出しにくくなるんだけど――ええい、人間勢いだよ!
「城崎君が良ければ、なんだけど――その、一緒に回りたいなって思って……!」
 最後の辺りから既に顔が熱くなってきていた。だ、だってこういうのってなんか照れるっていうか!
 恥ずかしいので視線を逸らしていると、クスッと笑う声が聞こえた。
「うん――勿論、僕で良ければ。実を言うとね、僕も誘おうかなって思って見てた所なんだ」
「そ、そうなの?」
「高科さんが誰かを探しているんなら割り込んじゃマズいかなって――でも、探してたのが僕で良かった」
 っ!
 にっこりと微笑まれて、ただでさえ熱くなっていた頬がもう爆発状態だよ!
「さぁ、じゃあ行こうか。僕は展示系を見ようと思ってたんだけど――高科さんはどこか行きたい所あった?」
「う、ううん!私もそれでいいよ!お供します!」

 という事で、二人で展示巡りに行く事にした。
 美術部はもとより、写真部や華道部、新聞部なんかも展示をしているらしい。
 ……ここら辺の部って今年の入部者居たんだろうか。演劇部も悲惨なモノだったけど、この辺も集客は見込みにくい部活だよなぁ。
 なんて事を思ってたんだけど、着いて見ると結構な部員数だった。
 展示数もだけど、丁度当番として働いていた人達だけでも演劇部より多い。……なんてこったい。
 そんな事を思っていたのがわかったのだろうか、城崎君がそっと耳元に口を近づけてきた。
 い、いや、でも、ちち、近すぎるよ!?
「この辺りの部活はね、運動部を嫌になった人達がよく逃れてくるんだよ。推薦で入った人以外は結構すんなり部活変えさせてくれるからね」
「えっ、そういうモンなの!?」
 じゃあ演劇部にも来てくれたって良さそうなのに!
 するとその思考もわかったのか、城崎君は困ったように笑った。
「演劇部、吹奏楽部、コーラス部辺りは文化部でもほとんど体育会系なノリだからね……運動部が嫌でやめた人達は早々来ないんだよ」
「なるほど……」
 言われてみれば、上げた3つの分は肺活量命ってトコがあって筋トレとか凄まじいもんなぁ。演劇部も毎日相当なモンですよ。
「その点、ここらはそういう運動は無いからね。――もっとも、それが無いからこそ才能とかの話になってきちゃうのかもしれないけど」
 展示物を見ながらぼそりと呟く。
 才能……か。でも言ってしまえばたかだか学校の部活、そこまで才能は必要になるんだろうか。
 そう言うと、城崎君はこう答えた。
「技術としての才能もそうだけどね、一番大事なのは“好きになれるか”の才能だと思うよ。
 筋トレとかあーいう体育会系の義務のようなモノがないと、ついついサボりがちになるらしいんだ。
 でも」
 ズラッと並んだ展示の数々。
「こうしてここまで作品があるって事は――部活を好きになれた人が多いんだろうね」
「ん……そだね」
 入った動機があまりよろしくないモノだとしても、今、好きなら問題も無い――か。
「あ、私演劇部好きだからね!」
「何を突然。どうしたの高科さん」
「い、いや……なんとなく、言っておきたくなったっていうか」
「変な高科さん。 まぁ、僕も――好きだけどね」
 確かに変だったかも……。
 まぁ、ともかくもそんな風に部活への愛を再認識しつつ、二人で色々と回ったのだった。

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奏和先輩

 さて、と。どうするかなー。
 教室を出てとりあえずブラブラ歩く。
 ウチのカフェもそうだけど、他のクラスもなかなか気合の入った出し物が多そうだ。
 そういうのを覗くのもいいけど―― 一人じゃあ、なぁ。
 そう思っていた時だった。

 ヴヴヴヴッ

 携帯のバイブレーションが震える。
 見てみると、奏和先輩からのメールだった。
『こっちの当番は終わったんだけど、美波ちゃんはどうかな?』
 すぐに“丁度終わりました”と返す。
 すると間を空けずにまたメールが来た。
『そっか……』
 な、なんかコレだけ返されても困るような、気がするんですけども。
 何か返事を出すべきか悩んでいると、今度は電話がかかってきた。
「は、はい」
『あ、美波ちゃん。僕だけど』
 これが普通の電話だったら詐欺状態ですよ、先輩……。
『今からそっち行くからちょっと待っててくれるかな?』
「はい、了解です」
 ピッと、それだけで電話は終えて、言われた通りに廊下で待っていた。

 しばらくして、先輩はやって来た。
「ごめんね、待ってて貰っちゃって」
「いいえ……でも、何か用事とかあったんですか?」
「うん? いや、別に無いんだけど――メイド服見れないんだったら、せめてカフェだけでも覗いて行こうかなって思って。
 だけど一人で入るのはちょっと恥ずかしいじゃない。出来たら美波ちゃんも一緒にお客さんになってくれると嬉しいんだけど」
「そんな事だったら全然問題無いですけども」
 やけにメイド服にこだわってたんだなぁ先輩。……まぁ、気持ちはわかりますけども!メイド服はいい!見る分にはね!

 そんなワケで二人、お客さんとして教室へと入った。
「あれ、高科ちゃん。さっき出て行ったトコなのに」
 応対してくれたのはタカで、彼女もまたメイド服に身を包んでいる。
 他の子よりも着慣れてる感じがするのは、このメイド服を調達したのが彼女の身内だからだろうか。……いや、普段から着てるとか思ってるワケじゃないけど、なんとなく先入観的なのがあるっていうか。
「あー、今はお客さんとしてだよ。先輩とご一緒しました」
 そう言うと先輩はぺこっと頭を下げる。
「三鷹さん、だったよね。コンクールの時はお世話になりました」
 タカ、というか剣道部にはコンクールの時に劇に出てくるチャンバラごっこの指導してもらったからね。先輩、ちゃんと覚えてたらしい。
「秋ヶ谷先輩でしたよね!いえいえ、こちらこそ。いつもあき――いや、妹さんにはお世話になってます!高科ちゃんにも!
 ささっ、お席こちらですんで、どうぞ~」
 いっつも“秋ヶ谷ちゃん”って呼んでるんだけど、先輩の前でそれは言いにくかったのか。タカってば言い直してるし。
 営業モードに入ったタカの後をついていき、席についた。
「えっと……それじゃあ、ミルクティーとパウンドケーキで」
「私は、オレンジジュースと蒸しケーキで!」
 それぞれに注文する。それをタカは繰り返して確認に、それから私の肩をぽんっと叩いた。
「ちょっと高科ちゃん借りてもいいですか?」
「え? あ、うん、僕は構わないと思うけど……」
 私の事なのに何故か先輩にお伺いを立て、先輩の答えを貰った途端ぐいっと腕を引っ張られた。
「た、タカ?!」
「高科ちゃん、ちょいと用があるから来てきて~」
 そしてさっきまで居た奥のスペースまで連れてこられた。
 そこで先に注文内容を伝え、それから私には――さっきまで着ていたメイド服を渡した。
「タカ……コレ、何?」
「何、って!もう鈍いなぁ、高科ちゃんは!今、ここで着ないといつ着るっていうの!」
 ええええ。さっき着たじゃん。
 と、返すと、チッチッチと人差し指を振られた。
「わかってないなぁ。秋ヶ谷先輩はきっと高科ちゃんのメイド服が見たくて来たんだよ!そうじゃないと、なかなか後輩のトコになんか来ないよ!」
「そ、そうかなぁ……」
「うん、少なくともウチの先輩方は来ないね!タダ券くれたら考えてやらなくも無い、って感じだったもん。
 ……って、まぁ、それはいいとして。 秋ヶ谷先輩、見たいとかそういう事言ってなかったの?」
「い、言ってたけど……」
「じゃあ、決まり!ほら!さっさと着替える!」
 そう言われて、あれよあれよと再び私はメイドさんになっていた。

 メイド服になったけど、そのまま出れば恐らくは店員だと勘違いされるだろう。
 という事で制服の上を羽織って出て行く。
「あ、美波ちゃんおかえり――って、え? ……え?!」
 驚く先輩。っく、なんか恥ずかしすぎるんですけどっ。
「ど、ど、どうしたの、ソレ!?」
「えっと……その、コレは……」
 もじもじしつつも、うまい誤魔化し方が思いつかなかったので――もう、そのまま言ってしまう事にした。
「先輩が、見たい――って言ってくれてたんで、と、特別に、ですね……!」
 そのまま過ぎたか……と思うも他に思いつかなかったんだから仕方ない!
 私も顔は恐らく真っ赤だ。そう――先輩のように。
「美波ちゃん……僕の為に着てくれたって事だよね?」
「そ、そうなりますね……」
「どうしよう、僕――すごく嬉しい。色々、周囲の状況とか考えた方がいいんだろうけど――ごめんね」
 え? と思う間も無く、
「?!」
 私は先輩の腕の中に居た。
「美波ちゃん、本当に可愛い。可愛すぎる」
 ぎゅーっと抱きしめられてるもんだから、先輩の顔さえ見えない。ていうか何も見えない。
「わはー!ラブラブ現場だ!皆見てみてー!」
 タカの声。……って、何言ってんだー!?
 周囲の声から察するに注目を浴びまくってる気がするんですけど!!
「せ、先輩……苦し……」
「あ、ごめんっ」
 肉体的にも、そして周囲の視線的にも苦しくなったので、そう言うと先輩は手を緩めてくれた。
「ごめんね、美波ちゃん。あまりにも可愛いもんだから、つい……」
 つい、でここまでやられると困るんですけども!!
 そうは思いつつも言い返す事はなんだか出来なかった。……可愛いと連呼されて嬉しい自分も居たからだ。
「い、いいですけど……。あ、ホラ、ケーキ来ますから!食べましょっ!」
 ペイペイッと周囲の視線を振り払って椅子に座りなおす。
 その後も何度も可愛いと言ってはニコニコする先輩に、恥ずかしさで死にそうになりながらなんとかケーキを頂いたのだった……。

「あれ?着替えちゃったの?」
「そりゃ……私物じゃないですし」
 食べ終えて、食器達と共に奥に引っ込んでついでに着替えた。
 メイド服はスカートも短いし、目立つしで肩が凝るからなぁ……あぁ、制服って楽。
「そっかぁ、残念だなぁ。でも心の目に焼き付けたから大丈夫だよ!」
「は、はぁ……」
 何が大丈夫なんだ、と問いたい所だけどやめておく。
「えっと……まだ時間の余裕ありますけど、この後どうします?」
「そうだねぇ。色んな出し物あるし、ちょこちょこ回ろっか。あ、そうそう、外にクレープ屋さんあったよ」
「おぉ~、クレープ! じゃあ、そこ行きましょう!」
 甘いモノ食べたばっかだけど、女の子はそういうのが好きなんです!
 という事で、その後は先輩と二人、クレープ屋さんや他の出し物を見て回ったのだった。

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 さて、と。
 とりあえず教室を出てウーンと伸びをする。これからどうしようっかなぁ~。
 自由行動時間だから、文字通り自由に行動出来るんだけど……いかんせん、一人で回るっていうのは悲しいモノで。
 誰かお供が欲しい、そんな時。
 ……てっとり早く呼び出す相手は、決まってた。
 ぽちぽちぽちと携帯でメールを打つ。送り先は櫻だ。
『どこに居るの?一緒にお祭り堪能しないかい?(¬_,¬)b』
 っとぉ。

 ヴヴヴヴッ

 しばらくして返事が来た。
 ……あれ、メールかと思ったら電話だ。
「もしもーし」
『もしもーし、じゃねぇよアホ! あんな誘い文句で誰が乗るんだよ!』
「え、ダメ?」
『どっちかっつーと、アレは男側の台詞だろ。もうちょっと女らしく誘ってみせろよなー』
「えー……」
 相変わらず櫻は変な所で細かいんだから。
 女らしく――ねぇ。
 コホン、と一つ咳払い。えー、っと。
「櫻クーン、一緒にお祭り、行 き た い わぁん♪」
『お前マジ最悪』
「何でよ!精一杯女らしく誘ってんじゃん!」
『どこかだっての! お前は少し女らしいって事を勉強したほうがいいぞ?!』
 ……ホント小言マンだよなぁ、櫻。
 女らしくを勉強、とかワケのわからん事を言いおって。
「もーいいよ。誰か他の人誘うから。じゃね」
『だー!!!待て待て待て!!!そんな事で諦めるのもよく』
「ない、ぞ!!」
 背後から突然生の声が聞こえた。
 振り返ると――櫻が居た。
「あれ、櫻いつの間に。っていうかすごい汗じゃん」
「っそ、そりゃ、お前が!」
「私が?」
「他のヤツ誘う、みたいな事言うからだろ!すげー走ったっての!」
 ……そうは言われましてもねぇ。
 まぁ、走ったわりには息が上がってない辺り、流石陸上部ってトコか。
「一緒に回るぞ!」
「あ……うん」
 ぐいっと手を取られた。
 ま、こっちから誘ったんだし、回るのには異論は無いけど――けど。
「さ、櫻……手、繋ぐ必要あんの?」
「迷子になったら困るだろ」
「流石に校内じゃ迷わないって!」
「……と、とにかく、困るんだよ!」
 そう言いながら、さらにぎゅっと握ってくる。
 くそー……迷子云々はともかくとして、恥ずかしいんですけどもっ。

 ま、でも人間ってのは慣れるモノで。
 手繋ぎもすぐに慣れてしまった。元々櫻との手繋ぎにはあんまり抵抗無いしなぁ。
 というワケで慣れきった私はそのままの状態で櫻と話していた。
「そういや櫻と話すの今日は初めてだね。朝もさっきも教室に居なかったし」
「あぁ……部の方で用事があってな……」
 部?陸上部が文化祭で何かあるのかな?
 その疑問がわかったのか、櫻は説明してくれた。
 何でも運動部でも部活として出し物をしているトコロはあるらしい。陸上部もその中の一つで。
「俺達は外で出店してるんだ。からあげ串ってヤツ」
「へー。お肉調達とか大変だったんじゃないの?」
「ん、毎年やってるらしくて。近くの肉屋さんとは話はついてたらしい」
 そうなんだ……。しかし肉屋さんがバックアップしてるとなると、かなり美味しそうだ!
「で、朝っぱらから準備に借り出されたってワケ。……ったく、人使い荒いぜ」
 ハーとため息をつきながら櫻は言った。
 ……そっか、だったら――今回は私達の劇、見てもらえなかったのかなぁ。
 幼稚園での時も、コンクールの時も、見に来てくれてたから、今回も見てくれるものだと信じきっていたらしい。
 でもそんなの私だけの幻想に過ぎなくて。
 ……。
「美波?」
 つい、足が止まってしまった。
「どうかしたのか?」
「いや……そ、そんなに忙しかったんなら、演劇部の劇、見れなかったよね、って……思って」
 なんかおかしいな、私。
 全校生徒の数パーセントしか見てないのわかりきってるのに。その中に櫻が居てもいなくても、変わりなんてあるはず無いのに。
 でも、……悲しい。淋しいよ。
 ぎゅっと繋いでない方の手を握り締めた。
 そんな風に変な気持ちに囚われた私に櫻は一言――
「見たぞ?」
 ――――――は?
「え、み、見たの!?」
「当たり前だろー。美波の晴れ舞台、俺が見なくて誰が見るっていうんだ」
 ぽむぽむっと頭を叩かれる。
「ラッパ吹き、熱演だったじゃねーか。なかなか面白かったぞ」
「そ、そうかな! へへ、嬉しいなぁ~」
 櫻に見てもらえてたって事と、その感想についつい顔がにニヤけてきてしまう。
「あぁ――何で男役だったのかはよくわかんなかったけど」
「……それは紅葉さんに聞いてちょうだい」
 私にもよくわかんなかったし。ま、男っていうより中性的な感じだったけどね。
 えへへ、それにしてもさっきまでのどんより気分はどこへ行ったのやら!一気にウキウキ気分だ。
「ねね、それよりさ。どこに向かってるの?」
「3年のトコだ。先輩にイイの教えて貰ったからな、絶対美波と一緒に行きたいって思ってたんだ」
 笑顔で言われてなんだか胸の辺りがキュンとしてしまった。一緒に、って……!
「そ、そうなんだっ。楽しみだな~、何やってる所なの?」
「お化け屋敷だ」
 ……。……。……。
 ――――――オイ。
「ちょっ!??!? なな、ななな何を言ってるんですか櫻さん!?」
「だからお化け屋敷だって言ったの。すんげー怖いらしいぜ~。怖い物好きな先輩のお墨付きだv」
「はあああ?!?! ンな事聞いて行くハズ無いし!! 帰る、私どっか一人で別のトコ行く!!」
 そう言って踵を返そうとして――も、ガッチリと手を繋がれているせいで離れる事すら出来ない。し、しまった……コレを見越しての手繋ぎだったのか!?
「逃がさないぞ、美波♪」
「その語尾についてるだろう音符マークがこれほど腹立った事は無いね!
 ていうか怖いのダメだって知ってるじゃん?!なのになんでこういう事になんの!?櫻の鬼!!」
「そうは言われても――なぁ。ホラ、美波の泣き顔とかたまに見たいじゃん?」
「コロス」
 逃げ出そうとしていた足をそのまま櫻の方へと向けて蹴り上げてやる。……かわされたけど。
「だいじょーぶだって、怖かったら俺に抱きつけばいいじゃん? な、守ってやるから」
「守ってもらうとかそういう話じゃなくて、そもそも近づきたくないの!」
「まぁまぁ、いいからいいから」
「嫌だって言ってるのにい!!!」
「行ってくれたら後で好きなだけ奢ってやるから」
 ……す、好きなだけ――か。
 相変わらず食べ物には弱いんだけど、……うう、これはかなり究極の選択に近い気がするぞ!
「な? 頼むよ、美波。一緒に行こ?」
 まるで縋るように言われて、
「――こ、今回だけだからね!」
 ついに私は折れてしまった。け、決して食べ物に釣られたんじゃないからね!櫻の事考えて、なんだからね!

 という事で、3年生作のお化け屋敷へ向かい――結果は……無かった事にしたい、ていう感じで。お察し下さい。
「もーヤだああああ!!!」
「はははっ、美波かーわいー」
「櫻あとでぶちのめすっ」
「そんな事行ってもその泣き顔じゃあ説得力無いな~。ほらほら、涙ボロボロ♪」
 ……まぁ、こんな感じです。
 散々な状態だったけど――しこたま奢ってもらったから、まぁ、いいとするか。

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恵梨歌ちゃん

 さて、と!自由時間になったけど――
 チラリと教室内を覗く。……うーん。
 やっぱり忙しそうだし、すぐに遊びに行くのはちょっと気が引けるんだよなぁ。
 でもまたメイド服着るのは嫌だし。
 あ、そうだ!
「恵梨歌ちゃんトコ行こうっと!」

 って事で、決まれば善は急げ!だ。
 すぐさま恵梨歌ちゃんのもとへと向かう。
 午前中は家庭科室を借りてたらしいんだけど、今はどっかの空き教室なんだっけ?コンロは使わないから、家電モノだけ運び入れてやってるんだとか。
 流石の私も校内ではもう迷うこと無く、すぐに目的地に辿りついた。
「やほっ、どーですかー?」
 中に入ると恵梨歌ちゃんの他、クラスの女子の皆さんが奮闘していらっしゃる。
「あ、美波ちゃん。そっちの当番はもう終わったの?」
「うん、無事に終了ー!あのミニスカメイドともお別れだよー!」
 ニヒッと笑って言うと……あれ?
「そう……残念だわ……わたしもメイド服着たくないからと言っても、美波ちゃんの傍を離れるべきじゃなかったかもしれない」
「え、恵梨歌ちゃん?」
「こんなチャンス――みすみす逃がすなんて、カメラマンの風下にも置けないわ」
 ……おい、コラ。
「恵梨歌ちゃん……また盗撮しようとしてたんスか」
「盗撮だなんて人聞きの悪い! 美波ちゃんの思い出アルバムを作ろうと思ってたのよ」
「頼んでないのに勝手に作らないでくださいよ!!」
 強く言い放ったら、恵梨歌ちゃん気にも留めない様子であっけらかんと笑った。
「大丈夫よ美波ちゃん。――春日井君からちゃんと“頼まれた”から」
「櫻あああああ!!!」
 ったく、この二人はマジで何をやってるんだ!!裏取引とか、マジでお金動いてそうで怖いよ!!
「まぁ……結局無理になったんだけどね。仕方ないわね、お菓子作る役になったんだもの」
 最初はメイド服から逃げたー!と思ってたけど――今思えば、逃げてくれて正解だった、って事ですね。……はああ。
「それはともかく、当番終わったんなら自由時間じゃないの? 遊びに行ってきたら良かったのに」
「うん……そうなんだけどさぁ」
 なんとなしにすぐに遊びに行ける気分では無かったのだ、と話すとそれなら手伝って、と言われてしまった。
「焼きあがって冷めたのから小分けしていってくれるかな?……うん、それ」
 言われた仕事を着々と進める。
 ……てっきり手伝いだから、お菓子作る方に回されるのかと思ったよ。そっちじゃなくて良かったぁ。

「さて、こんなモノかな!」
 一通りやり終えて一息ついた。
 どうやら恵梨歌ちゃんの当番としての仕事はコレで大体終わりのようだ。
「後はこれを男子が持って行くのを確認……ね。あ、来たみたい」
「女子ー、どうだー?」
 取りに来たのは桐原だった。そういやコイツ、私がメイドしてる時も現れては消え、現れてた消え、って感じだったっけ。
「ちゃんと出来てるよ。はい、お願い」
「あぁ、了解。この当番はこれで仕事終わりだな。お疲れさん」
 桐原にしてはまともな労い言葉をかけて出て行った。
「さ、じゃあ美波ちゃん。他の所、回りに行こっか」
「うん!」

 私達と同じくカフェ系をやってる所、外で食べ物を出してる所、展示をしている所――などなど。
 二人で楽しく回ったのだった。

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