台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 1 ]  いやはや、参った。

「いやはや、参ったな……」
 そう呟いたのは割とハンサムな26歳の男だった。街行く乙女が黄色い声をあげて倒れふすほどではないが、学生時代はお漫画的な光景――例えば靴箱の雪崩落ちるラブレターなど――を体験出来るような類のヤツである。

 まぁ、そんな事はさておき。

 彼はほとほと、困り果てていた。
 原因はただ一つ。
 彼の目の前、距離にして10歩ほど先を行く彼女だった。

 ちゃんと約束の時間にはやってきたし、プレゼントだって(まだ渡してないけど)ちゃんと持ってきたのに。何故か彼が来た途端、彼女は眉間に皺を寄せて先に行ってしまったのだった。
「何か怒らせるような事……、したかな?」
 全く思い当たらないが、それでもこの状態が続くのは聊かキツいものがある。
 彼は「仕方ない」とため息をついて、10歩先の彼女の所まで走って行って、距離を縮めた。
「ねぇ、美沙君」
 肩に手を置いて振り向かせる。
 やっぱりその表情は明らかに怒っていて、怖い事この上ない……のだが。
(……怒った顔も可愛い、って思ってしまうのは重症なんだろうか……)
「なんだっ?」
 その可愛い顔を見て惚けてしまっていた彼に彼女が怒り気味に問い返す。
「え、あ、いや、その――可愛いなぁ、って……」
 無意識に彼の口をついた言葉は、普段の彼ならなかなか言わない、彼曰く“歯の浮くような”類の台詞で。
「……えっ///」
 ついさっきまで怒り全開の顔をしていた彼女も、そんな彼の本音(?)に思わず顔を緩める。
 そして彼は、ポロリと零してしまった言葉に気づき――
「えっと、いや……ほ、ほら!あのコ、可愛くないかなぁ?!」
 照れ隠しにそう叫んで指差した向こうを行く人は。

 大変困ったことに、――本当に可愛かった。 

「……ほう、そうか。貴様はあーいうのが好みなんだな。
 なら、私など放って置いて他の女と遊びにいけばいいだろう!」

 しまった、そう思った時には時既に遅し。
 今度は10歩どころか、50歩近くも離れてしまった彼女の後姿を見やり、自分の失言に頭を抱えた。
「――参った……ホント参った」
 こうも簡単に彼女を怒らせてしまう事もだが、ここまで自分が彼女に参ってしまっているという事。

 それを確認させられた気がした。
迷探偵の2人組み、未来予想図風。

2004.12.5.