台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 7 ]  そんな事言うと……ふさぐよ?

 一週間前にわざわざ電話して約束を取り付けた。
 ――誕生日の日は2人だけで過ごしたいから、誕生日パーティは前日にしてください、と。
 電話越しなのに黒いオーラが滲み出てきて、かなりビクビクしながらだったけど、何とか約束して、君が気に入りそうなプレゼントも用意した。勿論、誕生日パーティと当日の分は別に買って。
 馬鹿みたいにソワソワして、電車に乗って来た。
 きっとインターホンを押したら君が満面の笑顔で迎えてくれる、そう思って。

 なのに。
 一体、何があったって言うんだろう?



 * * *



「ごめんなさいね、山下さん。美沙ったら、朝に目を赤くして降りてきたと思ったら『尚吾なんて大っ嫌いだ!』なんて言い出すのよ。 でも、ほら、誕生日パーティに用意したお食事とかあるでしょう?だからパーティはする、って言ったの。
 そしたらあの子、私に泣きついてきてこう言ったのよ。
 『尚吾は入れるな!』って。
 ……だから、ごめんなさい山下さん。 帰って?」
 インターホンを鳴らして、出てきた碧さんの第一声はこうだった。
 僕はわけもわからず立ち尽くしていた。
「――え、な、何でそんな……?」
 かろうじてそれだけ返す。背中を汗が一筋滑り落ちたのがわかった。
 すると碧さんはとても綺麗に微笑んで、
「あの子が泣いてるの。 ねぇ、その意味わかるわよね?」
 と、言ってきた。 僕はそれに何も言い返す事が出来なかった。
 約束していたのだ。

 絶対に泣かさない、と。

 ……今までにも涙を見せたことはあったけど、それは“悲しい”涙じゃなかった。今回のは碧さんから聞く限り、僕のせいで、“悲しい”気持ちで、泣いているらしい。
 でも、全く覚えがない。
「ま、待ってください! 美沙は……何で泣いてるんですか?僕には泣かすような覚えが全くないんです!」
 閉めようとしていたドアに手を挟んで、そう言い縋る。
 碧さんは冷たい目で僕を見た。
「あら?でも美沙は確かに貴方のせいだ、と言っていたのだけれど?」
 ――背筋がゾクッとするような視線で、思わず手が引っ込みそうになる。けどここで離したら、これから先ずっと会わせて貰えないような気がした。
 だから、何とかして美沙に会わなきゃいけない、と思った。
 僕はドアの隙間から、という不利な位置から、真剣な声で言う。
「……覚えはありませんが、何か、誤解をしている可能性もあります。美沙に会わせて下さい」
 碧さんはすぐに言い返そうとしてきたけれど……
「山下じゃないか。まぁ、上がれ」
 上司の守山警視――美沙のお父さんが出てきて、中に呼び入れてくれた。



 中に入ると既にパーティに参加する面々は揃っていたようだった。
 以前少し顔を合わせただけだが……確か、碧さん方の親戚の木下兄妹(双子)、それにおなじみの署長と沙雪君。それに守山警視と碧さんが加わって、計6人がかなり据わった目で見てくる。
 ――本当に、身に覚えがないのに……何かしたっけ?
 居心地の悪い視線の中でソファに座るように言われ、木下兄……猛君の隣に腰を下ろした。
「さて、と」
 うーん、と背伸びをしながら言ったのは署長だった。
「バカ下は思い当たる事が無いんだって?」
 ……バ、バ、バカ下ぁ?!
 思わず懐に手が伸びたけど、寸での所で押しとどまる。そんな場合じゃないのだ。
「本当に、心当たりないんですか?山下さん!」
「……」
 署長の隣に座っていた沙雪君も周りと同じような、かなりキツい視線をなげかけてくる。僕はただ黙っているだけだった。すると木下妹、もとい奈央さんが僕の鞄を指差し、気まずそうな顔をして、言った。
「尚吾……だっけ?アンタの名前。 ま、何でもいいんだけど。
 アンタさ、まさかとは思うけど……ソレ、どうやって買った?」
「え?な、何をですか?」
「プレゼントよ、美沙への。買ったんでしょ?」
 連携プレーなのだろうか、僕が答えを返す前に隣に座っていた猛君が鞄を取り上げて、美沙へのプレゼントを取り出してしまった。……あ、ああぁ、それはっ///
 綺麗に包装された小箱。
 その場に居た全員が沈黙した。

「……まさか」

 誰が呟いたのかはわからない。
 僕は次の瞬間、猛君に胸倉を掴まれていたから。
「お前っ!美沙を泣かすような事しといて……こんなの渡すんじゃないだろうなっ!!!」
 左頬を強く殴られた。ソファに強く倒れこみ、口元を手で拭う。……血が出てしまったらしい。
「同じ名前でもなぁ! アイツはっ、正吾は美沙を泣かすような事しなかったんだ!」
 腕を振り上げたから、また殴られる……そう思った。
 けど、奈央さんが突然立ち上がるとどこから出していたのか――よく夜店などで売っている、エアバットで猛君の顔面を打った。
「へぶっ?!」
 中身は空気だから衝撃はさほどないようだが、猛君はそれでも痛そうに顔を抑えていた。
「アンタってホントに馬鹿よね、猛。今ここでその名前を出すのも考えが全然足りてないし、それに――指輪買ってんのよ?意味わかってんでしょうが」
 そして僕の方へ向き直ると、鼻先へバットを突きつけてきた。
「こんなっ、いかにもニブそうなヤツが美沙以外の女と何かするとか有り得ないのよ!」
 ……ニ、ニブ……?
 さり気なく貶されたような気がしたけれど、それよりも後の言葉が気になった。
「あ、あの……“美沙以外の女”……って何の事ですか?」
 訝しげに尋ねる。
 すると奈央さんは大げさにため息をついて、話し出した。
「美沙ねぇ、何で泣いたりしたと思う?」
「……?」
 答える術を持たない僕は無言と疑問符だけを表情に出した。
「昨日、ちょっと用事があるって出かけてね。まぁ、用事っていうのは本屋に行って新刊を買うためだったらしいんだけど。……そこで見たらしいの。
 ――アンタが他の女と腕を組んで“楽しそうに”宝石店に入っていくのを」
 何が言いたいかわかるわよね?、と付け足した。
 僕はその言葉で瞬時に理解した。
 もしかして、否、もしかしなくとも。
「美沙は……僕がその女性と付き合っている、と思ってしまったんですね?」
 周りの6人が深く頷いた。
 そして僕は大きくため息をつく。

 そんな事。
 ……そんな事、あるはずないのに。

「確かに僕は昨日宝石店に女性と入りました」
「なっ、やっぱりそれじゃっ――」
 怒った声の猛君を遮ると、守山夫妻の方へ向き直った。
「でもあれは……一緒に入った女性は、僕の妹なんです」
 固まってしまった周りを他所に、僕は続ける。
「もうわかってしまってると思いますけど、宝石店で指輪を買ってきました。明日の美沙の誕生日に渡して、その、プロポーズしようと……。それで美沙の返事を貰えたら、その後でお二人にご挨拶に来ようと思ってました」
 顔に血が上ってくるのがよくわかる。それでも勇気を振り絞って、守山夫妻――というよりも、碧さんの方を向いて、続けようと……したけど。
「あら、でも納得いかないわね。何で“妹”さんと一緒に行ったりしたのかしら?
 もしかすると禁断の愛、なんて事があるかもしれないのに」
 あくまで優しく微笑む碧さんに言葉を失った。この人は……僕と、美菜が俗に言う“男女の仲”だと思っているんだろうか? 冗談じゃない。確かに昔からシスコンだのブラコンだの言われてたけど……!!
 僕は――っ!
「僕はっ! 今も、これから先も、美沙だけです!
 美菜は、妹は、美沙の事を知っているし美沙だって知っているはずです。だから一緒にプレゼントをあげたい、って言って……一緒に選びに行っただけなんです!」
 鞄の中を漁って、同じタイプの包装の細長い箱を取り出した。
「これが美菜からのプレゼントです」
 そう言って押し付けるように手渡す。箱にかかったリボンの間に、「Dear Misa.」、そして「by Mina」と書かれたカードが挟まっている。碧さんはそれを受け取ると、軽く一瞥した。
「……そう。まぁ、それでも、貴方が美沙を泣かした事実に変わりはないわよね」
 すっく、と立ち上がると僕を見上げてくる。美沙によく似た――というよりも、美沙が碧さんに似ているんだけど――綺麗な顔立ちで睨まれて、思わず一歩下がってしまった。
「あのね、山下さん。この際だから言っておくけど、私は貴方と美沙との仲には反対よ。あの子にはもう……これ以上辛い思いをして欲しくないから。だから最初に言ったの、“絶対に泣かさないで”って」
 突然の言葉に呆然とした。
 ずっと碧さんは好意的に接してくれていたのに……こんな風に思われているだなんて、知らなかった。
「貴方は約束を守れなかったし、その上それに気づかずにプロポーズしよう、なんて思ってここへ来た。はっきり言って、これが今の時代じゃなかったら、私この場で斬り捨ててるわよ?」
 逆らえないような雰囲気を出して、こっちへ近づいてくる碧さん。……僕は決意を固め、床に膝をついた。
 そんな行動を不審に思ったのか、碧さんは立ち止まる。
 僕は、大きく息を吸い込んだ。

「僕が……美沙を泣かしてしまったのは事実です。これから先、もしかしたら泣かせてしまうような事があるかもしれません。
 でも僕は、美沙を愛しています!これから先……一生、美沙以外の女性(ひと)と歩いていくつもりはないんです!!」

 平静の時の僕が聞いたら真っ青になるような言葉が口から出てきた。けど、今ここで言わなきゃ。今言ってしまわなきゃ、碧さんはわかってくれないような気がしていたから。
 ……一息ついて、深く頭を下げた。

「美沙と……お嬢さんと結婚させてください!!!」



 * * *



 長い沈黙の後、恐る恐る顔を上げると……何故か皆ニヤけていた。
 そう、目の前の碧さんまでもが。
「……え、えっとあの――」
 “どうしたんですか?”、そう訊こうとしたけれど、突然頭の上に手を乗せられて言葉を止めてしまった。
 僕の頭の上に手を乗せたのは碧さんで、それは満面の笑みで、こう言ったのだ。

「仕方ありません。そこまで言うのなら、もう一度、勇者にチャンスを与えましょう」

 ……。
 …………。

 ――勇者? いや、誰、それ。

 思わずツッコミかけたけど、何とか留まった。
 だって、確かに聞いた。
 “チャンスを与える”と。
「……と、言う事は……っ」
「だから、許してあげるつってんのよ。ホラ、早くソレ持って美沙んトコ行って来なさいって」
 奈央さんが指輪の入った小箱を指差して言った。僕は深く頷き、それを手に取った。
「美沙の部屋は一番奥だからな、せいぜい頑張るといい」
 守山警視がそう声をかけてくれる。
 部屋を出る前に深く頭を下げて、「ありがとうございます」と言って、心の中で付け加える。
 “お義父さん”、と。



 一番奥の部屋まで行って、ドアの前で深呼吸をする。
 大丈夫……きっと、大丈夫だ。
 自分にそう言い聞かせて――ノックした。

 コンコン

 ……が、返事が返ってこない。
 仕方ないのでもう一度してみたが、それでも応えは返ってこなかった。
 不思議に思った僕は小さく断りを入れて、ドアを開けた。
 もう外は真っ暗で、明かりを点けていない部屋の中もかなり暗かった。
 暗闇に目が慣れるのを待てず、手探り状態で進んでいく。時々テーブルや椅子のような物に足をぶつけたが、美沙の居場所はわからなかった。
 けれど、やっと、ドアから一番離れている場所にあったベッドの上で見つけた。
「……すー、すー……」
 布団も掛けずに寝てしまったようだ。確かに泣いた後というのは疲れて眠くなるけど……
「無防備過ぎるぞ、美沙」
 そりゃ、普通はこんな風に男が入ってくる事はないんだろうけど。
 それでもなぁ、と思いつつ、僕はそっとベッドに腰掛けた。体重がかかってベッドが軋む。思ったよりも軟らかい材質の物だったらしく、深く凹んでしまった。
 そして、それに気づいたのだろう。
 美沙が起きた。
「ん……母さん?」
 目を擦りながら起き上がった美沙に、僕はこう言ってやる。
「ハズレ。おはよう、美沙」
「おは……」
 条件反射なのか、やはり目を擦りながら“おはよう”と返そうとして、
「……」
「おはよう、美沙v」
 僕に気づいたのか、目をパチクリとさせた。

「――……な、な、な、何でお前がここにいるんだ!
 ていうか母さん!!母さん、何で……入れないでって頼んだはずだぞ!!!!」

 ベッドから飛び起きて逃げようとする美沙の腕を掴んで引き止める。
「チャンスを貰ったから、碧さんには何を言っても無駄だと思うよ」
「っっ!チャンスだと……そんな物私には関係ない!……お、お前なんか、もう大っ嫌いなんだ!出てけ!」
 掴んだ腕を振り解こうとして暴れる美沙を、今度はがっちりと腕の中に閉じ込めた。
「離せっ!離せってっ! お前なんか……お前なんかに触られたくないっ!!!」
 それでも尚逃げようともがいて、――そう言ってくる。
 僕はその言葉にふと美沙が誤解をしたままだ、という事を思い出した。
「美沙。勘違いしているようだから言うけど、昨日のは違うんだぞ?」
 すると美沙は動きを止め、見上げるような形で僕を見てきた。
「違う……? な、何が違うって言うんだ!み、見たんだからな、楽しそうに……お前が女と一緒に宝石店に入るの!どう思っても……恋人にしか見えなかったんだからなっ」
 なのに何が違うって言うんだ!、そう付け足して俯いてしまう。
 僕はその様子を見て大げさにため息をつくと、腕にこめていた力を緩めた。
「昨日……一緒に居たのは美菜だよ」
「なっ、そんなワケあるか! 美菜ちゃんなら、私にもわかるはずだ!」
 ガバッ、と美沙は顔をあげる。突然顔の距離が近づいて思わずキスしてしまいそうになるけどとてもそんな雰囲気の表情じゃなかった。
「――確かに“普通”ならわかったと思う」
「どういう意味だ」
 僕は再びため息をつくと、脳裏に浮かんだ妹を思い浮かべながら言った。
「一昨日、髪染めたんだアイツ。それに昨日は化粧もちょっと濃い目だったかもしれないな……」
 ポカンとした表情。けれどそれは次第に怖くなってきた。
「……なるほど、だからと言って何で美菜ちゃんと宝石店なんかに行ったんだ!?それにあんなに……楽しそうにっ、恋人同士みたいにっ」
 見上げてる瞳に涙が溜まってきていた。美沙はそれに気づいているのかいないのか、そのままの状態で続ける。
「もしかしたら……禁断の愛、なんて事があるかもしれないのに!!!」

 ――ちょっと待て。
 まだ碧さんが言うのならわかるけど……“恋人”の君が言う事か、それは?

 何だか心底悲しく……いや、虚しくなってきていた。
 僕は三度、大げさにため息をつくと、脇に置いていた小箱を取って美沙に無理やり持たせる。
 そしてそれをゆっくりと開きながら、言葉を紡いだ。

「昨日あの店に行ったのはこれを買うためだった」

 月明かりしかない薄暗い部屋で、かすかに光るプラチナリング。
 呆然としている美沙の左手をとって、その薬指にそっと差し込んだ。

「結婚しよう」



 * * *



「……ど、ドッキリか?」

 一世一代のプロポーズには、そんな言葉が返ってきた。

「あのね美沙。誰かこんな事をドッキリでやると思ってるんだい?」
 頭を抱えたくなるほどの鈍感頭。僕は常日頃から“本当に”頭を抱えていた。
「だっ、だって!お前そんな……け、け、けっこ……な、なんて……!!!」
 でも今回はまだマシだったらしい。
 顔を真っ赤にして(と思うけど暗くてよくわからなかった)かなりどもっていたから。
「本気なんだよ、美沙。ずっと前から考えてた――これから先一緒に居るのはお前しか居ない、って」
「しょ、尚吾……」
 もう一度、今度は既に指輪が入っている左手をとって、
「結婚しよう、美沙」
 そう、言った。

 シミュレーションとしては、この後に顔を真っ赤にしたままの美沙が軽くはにかんで首を縦に振る。
 そして「はい……」と言ってくれる。
 そうなっていたのだ。
 けれど現実はそう甘くなく。

「で、でも……8歳も離れてるしっ……」
「年なんて関係ないだろう」
「いっつも迷惑ばっかりかけてるし……」
「そんなのもう慣れてる」
「また……正吾と重ねちゃう時もあるかもしれないし……」
「――全部承知してるよ」
「それに……」
「……まだあるのかい?」
 言い訳のように出される言葉にちゃんと返していたが、まだ言い淀む美沙に思わずキツい口調で聞き返してしまった。 すると一瞬ビクッと肩を震わせて、とてもか細い声でこう言った。
「か、カリフラワー……嫌いだけど、いいのか?」
 今日はまだマシだと思っていたのだが、やはり僕は頭を抱えることになってしまった。
 ったく、それこそ今更だろう!
 大きく息を吸って、真正面から美沙を見据える。
「カリフラワーが嫌いでも、僕の事は好きだろう?」
 瞬間、美沙は少し下を向いていた顔を上げて、驚いたように僕を見た。
 そしてそのまま、
「……う、うん」
 と答えた。
「だったら何の問題もないだろう。僕も、他の何よりも美沙が好きなんだ。これから先、ずっと一緒に居たいと思ってる。だから……結婚しよう」
 今日で既に三度目のプロポーズ。一世一代だったはずなのになぁ、なんて頭の隅で思った。
 けどどうやらそれは間違いだったようだ。
「でも……」
 美沙がまたそんなフレーズを口にしたから。しかも、今までで一番悪い言葉を付け加えて。
「並んでても妹とか言われたこともあったし……私なんかじゃなくて、尚吾にはもっと良い人が居――」
 声が出るたびに上下する顎を掴んで無理やり上を向かせた。
「美沙、そんな事言うと…ふさぐよ?」
 ちょっと怒気をはらんだ声でそう呟いた。
 そして、それでも尚、目を逸らして続ける美沙に――何かがキレる音がする。
「で、でもっ……んっ?!」
 貪る様にして合わせた唇。
 少し抵抗されたけど、それすら気にならないくらい深く口付けた。



「……っはぁっはぁっ――いきなり何するっ」
 解放した後の言葉も聞かずにきつく抱きしめる。
「もう良い返事しか受け取らないからな」
 これできっと最後だろう。
 そう思ってその言葉を口にする。

「結婚するぞ、美沙」

 沈黙の後、抱きしめた腕の中で軽く上下した頭。
 そして、少しくぐもった声が聞こえてきた。

「……うん」



 * * *



結婚するぞ、美沙
……うん

 大画面スクリーンに映し出されたのはまさしく“あの時”の僕等で。
「なっ、なっ、なっ、何でこれが……!!!!」
 隣で叫ぶのは、ウエディングドレスに身を包んだ僕の奥さんだ。

『あら、嫌だわ美沙。邪魔しなかったんだから良いでしょうよ。ねぇ、皆さん、よく撮れていると思いません?』
 マイクに声を通したまま返す碧さんの顔はいつになく輝いているように見えるし、その横に並ぶ警視の頭もいつになく……まぁ、これは言わないほうがいいだろう。
「だ、だからってこういう場所で……こんなデカい画面で流すことないだろうっ!!」
『まぁ、大丈夫よ。美沙、きっちり家用のも編集して置いてあるから、抜かりはないわよ☆』
 やはりマイクで音を拡げたまま、碧さんは返す。
「そーいう問題じゃないっ!! ……ったく、尚吾も何とか言ったらどうなんだ!恥ずかしくないのかっ」
 そう言って腕を掴もうとするのをサラリとかわして、反対に腕をとって抱え込む。
 すると、会場が一気に声で埋め尽くされた。
 僕はそんな騒音にも似た空間で美沙を抱きしめて、

「愛してるよ、美沙」

 驚きと照れがまじったような表情をしていた彼女の唇に、口付けを落とした。
アンタ等、頼むから勘弁してください……!!!!(死にかけ
ということで、男山下プロポーズ編+結婚式編をお届けしました。
文章を書くときには一番最初のインスピレーションが大事だと思っているので、最初に浮かんだモノは
絶対に譲れません。えぇ、譲れませんとも!!!

――でも今回は流石に譲りそうになった、とかは秘密な感じでよろしゅう!
まぁ、兎に角アレだ。

ていうかアンタ等クサいんじゃあぁぁっ!! (ギップル2回目

※ 山下君の「カリフラワーが嫌いでも……」の辺りは風沙たんに提供して貰いました。
   ありがとう、風沙たん!愛してるわ……!!(迷惑

2005.1.24.