台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 19 ]  帰れ。 ※ 没ばーじょん

「ナッナ、ちゅわ〜ん!!ぱぱですよ〜!!」
 開けたドアの向こう、どんなモノよりも性質の悪いストーカーが現れた。
 颯爽と開けたハズのナナは少し固まった後、物凄い勢いでドアを閉める。
「あれ、ナナちゃん入らないのかい〜?パパが来たんだよ〜?」
 向こうから聞こえるのは誰の声か、聞かずとも答えは出ている。
 そしてナナはバッ、とドアを開けると、廊下を指差して言い放った。
「帰れ。今すぐ帰れ」
 とても恐ろしい形相で、言い放った。



 * * *



 その日、学園では大規模な会議があるらしく生徒は午前中で帰宅となっていた。そしてその事を知ったR学園の面々は午後から遊ぼう!とお楽しみムードになっていたようだった。
 そしてここにも一人。

「ねっ、フレアん家行きた〜い!」
 オレンジ髪をしっぽのように纏めているナナがそう言って縋り付く。茶髪をポニーテールにしたフレアは黒板消しをパタパタと叩きながら、
「今日は無理。絶対無理」
 とだけ返した。――ちなみに今は掃除時間である。
「えぇー、なんでー!なんでなんでー?」
 箒片手に堂々とサボっているナナは尚も縋り付いた。どうやら今週は清掃監視当番ではなく、普通に掃除当番らしい。(詳しくは「[ 002 ]スキ・キライ・スキ、…スキ。」を参照の事)
 ……全く掃除しろよな、とフレアが小さく呟いた。
「今日はグリッセルの知り合いが来るから無理なの。わかったら早く掃除しろって」
 その答えにナナはぶぅ〜と頬を膨らませて押し黙る。
 しかししばらくすると頭の横に電球を灯らせて、にこやかな顔で声を上げる。
「あっ、そんじゃーさ!みっちゃん家はどうかな?」
 キラキラと目を輝かせて言うナナに後ろから黒い物体が近づいて――
「今日は無理。絶対無理」
 と言った。ナナが振り返ると美沙君も教室掃除だったらしく、箒片手に立っていた。
「えぇー、なんでー!なんでなんでー?」
 先ほどフレアに言った台詞と同じモノを吐く。
 すると美沙君は今にも泣き出しそうな顔で壁に手を突くと震える声でこう言った。
「か……母さんの友達が来るんだ――しかも泊まるんだ……い、嫌だ。今日は帰りたくない……」
「「……」」
 ナナとフレアは顔を見合わせるとポンポン、と美沙君の背中を叩く。
「「ファイト……」」
 3人の周りだけが暗く見えたのは気のせいではないだろう。

 でもその暗さも一瞬だった。すぐさまナナが立ち直り、窓の外へと叫んだからだ。

「くぅうーーちゃぁーーーーん!!!!」

 教室の下にある花壇、そこに目当ての人が居たようで。
 灰色の髪からピョコンと突き出す狐耳。妖狐族の末裔、“くーちゃん”こと刳灯だ。
「なっ、なんだよ?! ちゃん付けで叫ぶなこのバカ!!」
 花壇の脇から怒ったような声が返ってくる。
 けれどナナはそんな事はお構いなし、と再び“ちゃん”付けで叫んだ。
「くーーちゃーん!! 今日家遊びに行ってもいいーー!?!」
「はぁっ?!」
 スコップ片手に立ち上がった刳灯は眉を歪ませた。そしてしばらく悩んだように顎に手を当てていたが、首を振って答えた。
「今日は無理。絶対無理ーっ」
 口元に手を当ててそう叫んだ刳灯にナナは三度同じ台詞を口に出す。
「えぇー、なんでー!なんでなんでー?」
 てか掃除しろ、と背後でフレアがまた呟いた。
「今日は遊びに来るとかそれ以前に俺も家に帰れないから!異空間移動装置の点検の日なんだよーっ!」

 知らない人も居ると思うので説明をしておこう。
 刳灯を始めとする妖狐族は環境の変化に弱く、移住する事が大変困難なのである。けれど色々な場所で生活をしたい――そういう意見があったらしく、昔の人が“空間移動”を考えたらしい。
 そのおかげで今は妖狐族に快適な環境に住みながら、他の場所に魔法で移動して、そこで暮らせるようになったのだ。つまり、毎日が日帰り旅行みたいな事をしているという事だ。
 ……て、こんな説明でわかるのだろうか。はっきり言って書いてる作者はわからない!(オィ
 兎に角、そんなワケで妖狐族は学園があるこの場所とは違う、遠い世界で暮らしているのだ。そして今日はそこに帰る為の異空間移動装置の点検日……と、まぁこういう事になる。

「ちえっ、また華南さんの手料理食べたかったのになぁ〜」
 ナナがぼやく。ちなみに華南さんというのは刳灯のお兄さんでそれはそれは料理が上手な人なのだ!
 箒片手に前に食べたときの事を思い出しているのだろうか、ニヤニヤしているナナに声がかけられた。
「ナナ……少しでもいいから掃除をしてるフリくらいしてくれ」
 紙とシャーペンを持った山下君だった。
「あっ、尚ちゃん!」
 どうやら今週は山下君が清掃監視当番だったらしい。“教室の箒”の枠に×を付けるか付けないか悩んでいるような顔だ。
 ナナは流石にマズイと思――うハズも無く、箒片手に山下君の下へと走りよった。
 そして
「今日さー、尚ちゃん家遊びに行ってもい……」

「はーっはっはっはっは!! それは無理だな!!!」

 全てを尋ねる前に、何故か黒ずくめが答えた。

「……っな、んで君が答えるんだい……?」
 返ってくるだろう答えを分かりながらも努めて冷静に訊く山下君。こめかみがピクついている。
「ふっ、愚問だな!貴様の!家の!どおーーっこに客を招く余裕などがあるのだね!あの小さなトコに!」
 箒を持ったまま腰に手を当てて高笑い。山下君の口元はとても微妙な形に歪んでいた。
「……た、確かに僕の家は君の家やフレアの家と比べたら小さいかもしれないけどね……何でそれを君に言われなくちゃいけないんだ!大体っ、その小さいトコによく来るのは誰なんだい!!」
 あぁ、山下君。怒りとは我を忘れさせるモノ也。

「――……山下さんの家に……誰がよく来る、のですか?」

 背後からぬぼーっと沙雪さんが現れてそう言った。教室掃除ではなく廊下掃除なようで、ちょっぴし汚い雑巾片手に物凄い勢いでこちらへ向かってきていた。
 怖ぇー、とフレアが呟く。
「え、あ、へ?あ、あの、え、えと……っっ。いや、だから、その美沙君が」
 余りの怖さに正直に口が動いてしまったらしい、山下君はまたも爆弾を落とした。
「みっちゃんが……山下さんの家に、い、行って――私なんか場所さえも知らないのに!!」
 そう叫んで床にへたり込む。
 知らない人もいるかと思うのだが、この沙雪さん何がどう間違ったのか山下君に惚れていたりする。だからやはり他の女(この場合は美沙君の事)が自分の想い人の家によく行く、という事実に耐えられなかったのだろう。
「あっちゃー、さゆちゃん死んじゃったよ」
 おーいだいじょうぶー?、とナナはへたり込んだ沙雪さんを突付いた。そして心痛な面持ちで山下君を見上げ、
「ご臨終です……」
 ――て、おい。

 結局放心状態の沙雪さんは山下君と共に保健室へ直行する事となった。
「しっかし……山下もホントに苦労人だよな」
 掃除の終わりの音楽の中、手洗い場で手を洗っていたフレアが呟いた。
「確かにねー。んでもさ、みっちゃんが尚ちゃんトコによく行ってるってのはおっどろいたなぁ」
 隣からナナが返す。こちらはもう洗い終わったようでタオルハンカチで手を拭いていた。
「ん……まぁ、あの二人はなんだかんだ言って仲良いからな。別に驚きはしなかったが」
「……そーいうもんかねぇ」
「そういうものさ」
 小さく笑ってフレアはそう言った。



「あああううう……結局誰のトコもOK出なかったよぅ……」
 掃除も終わり、終学活も終わり、お帰りの時間。
 大きく膨らむハズがとても薄っぺらいカバンを抱えてナナは机に突っ伏した。――どうやら所謂置き勉というモノをしているらしい。最も、この学園の連中がちゃんと持って帰ってるとは到底思えないのでそれが普通なのだろうが。
「誰も、って何人くらい聞いたんだ?」
 同じく薄っぺらいカバンを持ったフレアが訊く。
 するとナナは指折り数えて、「11人」と言った。
「……よくまぁ、そんだけ訊いたなお前」
「だってぇー、折角午後いっぱい遊べるんだもん。誰かの家に行きたいじゃん!」
 ガバッと起き上がって叫ぶ。
 フレアはそれに驚きながら
「そういうものかねぇ」
 と言った。
「そーいうもんなの!ああー……遊びたいぃぃー」
 再び机に突っ伏して呻くような声を上げる。フレアはしばらくそれを見ていたが、思いついたようにポンと手を叩いた。
「遊びたいんなら、私達がお前の家に行けばいいじゃないか。丁度私や美沙や刳灯は家に帰れないしさ」
 するとどこから沸いてきたのか、わらわらと美沙君やら刳灯やらココロやらがやってきた。
「そうだなっ!ナナの家はまだ行ったことがないからな!」
「うん、僕も行ってみたいなー♪」
「俺も結構興味あるかも……」
 しかしその言葉にナナは――

「え゛?!」

 固まっていた。
「いやいや、“え゛”じゃなくてだな」
 固まるナナの顔の前で手を振るフレア。それに気づいたのか、ナナがはっと身構える。
「……なんで身構えてるのさ?ナナ」
「ヤ、えと……そのっ」
 あからさまに不審がるココロにナナはどこか怯えたような表情で返した。
「んと……ん、いや、アレが今日また来るとは限らないんだけど、でもやっぱあんな変なのが身内だってバレたら恥ずかしいっていうか、その私自身会いたくないって言うか――」
「何か予定でもあんのか?」
 頭を抱えてブツブツ言っているナナに刳灯が訊く。
「予定ってワケじゃないんだけど……」
「なら別にいーじゃねーか」
「う、うーん……」
 何だか渋っているようだが、結局ナナはOKを出した。



 * * *



 そしてやってきましたナナさん宅。
 ナナは現在家出中で、マンションに1人暮らしをしている。……しかしこのマンションがまたふざけているとしか言いようがないモノで。
「……僕の所とは大違いだな」
 少し青ざめた顔で山下君が呟いた。
 外観はまるでホテルですか、と言いたくなるくらい豪華な構え。無論ちゃんとした方のホテルである。中に入る前に番号と声の認証が有り、中に入れば専用ロビーにて「お帰りなさいませ」の声。まるで老舗宿屋のお出迎えのようだ。
「なんかすごいトコだね……」
 エレベーターに乗り込みながらココロがそう呟いた。
 着いた階は7階、最上階ではないがかなり良い眺めである。
「へぇ……なかなか良い所じゃないか」
 高い場所が苦手な人は居ないらしく、皆手すりの方に寄っては外を見ていた。
「でしょ?はっきり言って家にいるよかず〜〜っと快適だしね!ささ、どうぞー」
 ここに来るまでそわそわと周りと気にしていたようだが、ソレは解決したらしい。ナナはにこやかにそう言って、ドアを開けた。
 そして間髪入れず、飛び込んできた声――

「ナッナ、ちゅわ〜ん!!ぱぱですよ〜!!」

 開けたドアの向こう、(ナナ曰く)どんなモノよりも性質の悪いストーカーが現れた。
 颯爽と開けたハズのナナは少し固まった後、物凄い勢いでドアを閉める。
「あれ、ナナちゃん入らないのかい〜?パパが来たんだよ〜?」
 向こうから聞こえるのは誰の声か、聞かずとも答えは出ている。
 そしてナナはバッ、とドアを開けると、廊下を指差して言い放った。
「帰れ。今すぐ帰れ」
 とても恐ろしい形相で、言い放った。



「えぇ〜、でも折角来たのになぁ……あ、ナナのお友達かい?」
 “ぱぱ”こと、ナナの父親――リーゲン=カルラ氏は甘えた子供のような声でそう言った。
 はっきり言おう、気 持 ち 悪 い 。
 まぁ、まだ整った顔立ちのおかげでマシになってはいるのだが。
「いらん事言わんでいいから!さっさと消える!ほら、早く行かんと突き落とすぞ!」


 ここまでー。
 この後のはそれとなく完成版の「19」に続くのでス。
19、没バージョン。設定とかシチュエーションとか同じなので未練がましくアップしてみる。

2006.9.4.