また新しい人登場させてしまった……。 こうさかとしひこ と読みます。以後お見知りおきを!
……てかまた書くかどうかはわかんないけどね。山下君と署内の人気を取り合ってたらいいよ!!
明樹と三樹の子供設定は随分前からあるモノだったりします。双子っていいよね〜。
2006.9.8.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 22 ] 惚れるより慣れってね。
「しょーっご!」
ぴょこん、とドアから飛び出したのは少し前に髪を切ってショートヘアになった美沙だった。
「……どうしたんだい、美沙」
僕はソファから立ち上がってそちらへ向かう。
ちなみにここは家ではなく、警察署内だ。僕は丁度資料を読んでいたところで、ソファに隣接されたテーブルの上には何枚もの紙が置かれている。
「どうした、じゃないだろう尚吾!お前忘れてるのか!?」
ドアの所に着くとすぐにそう言われた。
僕はきょとんとしてしまう。
何を……忘れる、だって?
「あーっ、その顔は忘れてるなお前!やっぱりそうだと思ったんだ!家で三樹(みつき)が言ってたのが当たったぞ!」
そう言いながら美沙はぷんすかと腰に手を当てて怒っている。
三樹というのは僕達の娘で、つい先月7歳になった子だ。
「……三樹が何を当てたんだい」
僕は必死で頭を働かせて“それ”を思い出そうとするけれど、てんで見当がつかない。
「ほっ、本当に忘れているというのか!」
ショックを受けたような顔をして急スピードで後ずさる。
ってあぁ、そんな速さで後ろに行ったら……
ドン
「うわっ?!」
「ひゃっ?!」
そう広くはない廊下なので、後ろを歩いていた人にぶつかってしまった。
僕は慌てて部屋を出てその人へと謝りに行く。
「す、すみません。ほら、美沙も謝って」
「う、す、すみません……」
まだコケた状態で謝った美沙を助け起こしながら僕はぶつかった相手を見て。
「……香坂かよ……」
思わずそう呟いてしまった。
色素の薄いやや長めの髪を揺らしながら立ち上がる彼は香坂俊彦といって、僕とは同期で入ったヤツだ。
「ってて、ったく……いつもながらお前んトコの奥さんは激しいね」
外見は何だか儚そうで女性警官にも人気があるというのに、無駄に口が悪いヤツで。
「“いつも”とか香坂に語られたくないんだけど」
友達としては良いなのだが、いかんせんコイツはどうも美沙を気に入ってるらしいので僕は少しムッとする。
でもそんな僕に一ミリも気づかない美沙は
「すっ、すまない!しかし香坂だったとはな。あ、そういえばこないだは助かったぞ!」
そう言って香坂の腕をパンパンと叩く。
「あぁ、アレね。いや、別にいーよ」
僕のわからない会話が繰り広げられる。……こないだ、って何だよ。
そう思ったのがわかったのか、香坂が嫌な笑いをしながら言ってくる。
「こないだお前んトコの奥さん、街中で迷子になっててね。俺が案内してあげて、一緒におしゃべりしたりしたの。 ね〜?」
「おう!ホントに助かったぞ!」
ね〜?じゃないだろ!おう!でもないけど……っ!!
僕は2人のやりとりにイラ立って、美沙の腕を掴むと兎に角その場を離れることにした。
「ちょっ、尚吾?!」
「いつまでもここで話は出来ないからね」
本当は香坂から早く離したかっただけなのかも……しれないけど。
* * *
美沙を引っ張っていった先は自動販売機の置いてある小さな待合室のような所。
僕は美沙に紅茶を買って渡した。
「ところで、さっき言ってた忘れたとかなんとか……あれは結局何だったんだい?」
自分用のコーヒーのお金を入れながら尋ねる。
美沙は紅茶を飲みながら小さく答えた。
「――今日って、結婚記念日じゃないか」
ぼそり、と顔を紅くしながら、そう言って。
僕は固まった。
……。
……いや、あの。
「――明日、だよね?」
結婚記念日、とやや青ざめながら返した。
その言葉に美沙は一瞬の間を置いて、
「なっ、何言ってるんだ今日だろう!!??」
こちらは紅くなりながら……これは怒りの赤さかもしれないけど、そう反論した。
「いや、明日だけど。だって今日は2日だよ?結婚記念日は3日じゃないか」
赤くなってた顔がどんどん青ざめていくのを見ながら、僕はあぁ、と思った。
「……三樹にまたからかわれたね?」
全くあの子は、と思う。
まぁ、そこまで性質の悪いいたずらじゃないからいいけど。――美沙にとっては悪いかもだけど。
「みっ、三樹が今日は3日だって言ってたんだぞ!明樹(あつき)だって……はっ、そういやあの子日捲りカレンダー無駄に破ってたような……!」
わなわなと震える美沙。紅茶が零れそうになったのでさっと取り上げて救出する。
しかし訂正しなければいけないな。
全く、あの子 “達” は。
明樹というのは三樹の双子の兄弟だ。一応明樹の方が上でお兄ちゃんのはずなんだけど今回はどうやら三樹にパシリにでもされたかねぇ。……ホントに“全く”。
「美沙、別に過ぎてたわけじゃないんだからいいじゃないか。それに間違って覚えてたわけじゃないんだし」
……日付を確かめなかったのはちょっとダメかもしれないけどね。
しかし美沙はフルフルと首を振ると、拳を握って気合を入れた。
「いいや!ダメだ!あああ、あの子達を叱ってやらねばならん!!!!!」
そして。
「という事で私はもう帰るぞ!尚吾邪魔したな!!!」
バタバタバタッ、と走り去って行ってしまったのだった。
「――うっわー、やっぱりお前んトコの奥さん激しいねぇ?」
走り去った後、呆然と立ち尽くす僕の横に香坂が現れた。その手に財布を持っているところを見ると何か買いに来たのだろうか。
僕はまだコーヒーのボタンを押していなかった事を思い出して、ピッと押した。
カップ式のコーヒーが出来上がるまでの間、やっぱり僕は彼女の走り去った先を見ていて。
「……お前さぁ、あの子と居て疲れたりしねぇ?なんかいっつもあの子がここまで来た後、死んだような面してんだけどさ」
香坂の気遣い(?)の悪口に呆然としながら返す。
「いや、もう何ていうか……惚れるより慣れってね。――慣れたよ」
確かに死んだような顔してるのかもしれない、と思ったりもする。
来てくれるのは確かに嬉しいけど、その分こちらに悩みの種を残していったり、よくわからないまま自己解決して帰ってしまったりするからだ。……それに、美沙が来ると十中八九他のヤツにからかわれるし、上司までもが話題に乗ってくるので気持ち疲れしてしまうのだ。
「……うん、慣れた、よ」
出てきたコーヒーに口をつけながら、小さくそう呟いた。
「ふぅん?ま、俺はいいけどね。もしお前が疲れたら俺がいつでも後引き継いでやるから心配すんなよ」
「な゛っ?!?!」
さらりとそんな事を言って、買ったコーラを飲もうとする香坂に僕は思わず声を上げてしまった。
こっ、こいつ……!!
しばき倒してやろうか、そんな事を考え付いたけど、
「な〜んちゃって。ま、頑張れよ旦那さん?」
ニヤニヤと笑ってそう付け加えられて――ガクリと肩を落とす。
「あれ、本気にした?した?」
尚もからかいを続ける香坂を無視して、椅子に座り込んだ。
死んだような面してるって?
――こういう事が原因なんだって、お前わかってんのか?!
そう言い返すことすらも億劫で、僕はただ、深いため息をついたのだった。