双子の話。奈央と猛。
猛(語ってる方)はたぶんちっちゃい頃に爬虫類でヤな事があったんでしょうね。
私は爬虫類好きです。ヘビ昔飼ってたなー。そこらへんの野良ヘビでしたけど。
2008.12.8.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 44 ] ああ、綺麗。
「ねぇ、見て!とても素敵だと思わない?……ああ、綺麗!」
なんて事を言いながらやたらとうっとりした顔をしたもんだから、俺は何事かとそちらを見たワケだ。
晩飯の買出しに出かけた帰り。
大型ショッピングモールには人が多く、両脇に立ち並ぶお店に出入りする人や、先を急ぐ人達の間をぶつからぬように進んでいた時の事だったから、きっとよっぽど可愛らしい服だとか、靴だとか、はたまたアクセサリーだとかを見て言ったんだ、と俺はそう思ったワケだ。
んで、向けた視線の先にはペットショップがあって、
(あぁ、子犬とか子猫とかかな?)
と、そう疑わなかったワケだ。
「ねね、ちょっと時間あるし、見てこ?」
ぐい、と腕を引っ張られてコケそうになりながらも踏ん張ってついていった。
ミニチュアダックス、チワワ、プードル、アメリカンショートヘア、アビシニアン、ロシアンブルー。
可愛らしいわんことにゃんこが俺をお出迎えしてくれ――――
ん?
わんことにゃんこの前に停車駅は無く、彼らを置いて、先頭車両は進んでいく。
腕を引っ張られている俺はついていくしかないワケで。
あぁーっ、わんこーー!!にゃんこおおー!!
そんな事を思いながらもぽてぽてとついていった先、は。
「ちょ、い、や、だあああああああ!!!!」
スルリと長い、切れ長瞳の美人がお出迎えしてくれ――てるんだけど、そこには胸も無ければくびれも無いワケで。
裂けそうな程の口元からは二又になったあかーくほそーい舌がちろちろと見え隠れしてるワケで!
「うふふふ、綺麗よねぇ、見てよこのシンプルで美しいライン!綺麗だけど可愛さも持ち合わせる瞳!触ったらすべすべしそうなお肌!
あぁっ、もし叶うのならば一生に一度でいい!!アナコンダを首に巻きつけてみたい〜〜!!!」
うっとりとしたような顔で言う台詞がソレかよ!とツッコミを入れたいのもヤマヤマではあったが、ツッコミを入れるとなると必然的にそちらを向いてしまう。……アレを視界に入れるのさえおぞましいのにっ。
――まぁ、要するに、ココはペットショップの一画、爬虫類コーナーなのだ。
「おおおいい、ちょおお、帰ろうぜ……っ」
「ええ〜、もうちょっと!もうちょっとだけだから!うふふ、トカゲも可愛いなぁ〜」
俺はなんとかそちらの方を見ずに、コーナーの前からピクリとも動かなくなってしまった奈央の腕を引っ張る。
「かーえーるーぞー!」
「……えー、もうちょっと見てたい」
「晩飯作るの遅くなるぞ!俺もう腹減ったよ!」
別にそんなに減ってないけど、早くこの場から立ち去れるのなら根性で減らしてやるっ!!
数回同じようなやりとりをした後、やっと気がすんだのか奈央は重い腰をあげた。
「仕方ないなぁ……じゃあ、今度来た時はちゃんと見るからね!」
「その時はどうぞお一人で!」
ぐいっ、と腕を引っ張ってここに入ってきた時とは反対の状態で店を後にした。
「あれー、雨上がってるね」
来た時にはザーザー降りだったので、自転車は諦めたのだが今はすっかり上がって、空は紅く、星が瞬き始めていた。
「良かった。また濡れるのヤだからな」
行きと違って、帰りは買った分だけ重くなってるワケだし、と付け足して。
来た時と同じ道を帰るのはつまらないので、河川敷の公園を突っ切って行くことにした。
「夕焼け綺麗ね〜。さっきまであんなに降ってたのが嘘みたい」
「だな。……まー、でも結構時間経ったんじゃね?ホラ、その、――ペット屋さんに居たし」
思わず最後の方の声が小さくなってしまうが、し、仕方ないんだっ。
けど、奈央はそれを不審には思わなかったらしく。
というか人の話をちゃんと聞いていなかったようで。
トタトタッ、と駆け出すと突然道端にしゃがみこんで、大きく手を振り「見てみてー!」と言ってきた。
……何だか嫌な予感がするけれど、一応行ってやらないと後で怒られそうだし……っ。
「な、何?」
恐る恐る近づいたらニコーっとそりゃあもう嬉しそうな笑顔を向けて、一点を指差した。
「今まさに切れたっぽい、トカゲのしっぽ!!」
ぎ、ぎゃあああああ!!
「しかもまだ動いてるの!これってちょっとすごくない?!」
き、も、ち悪いいいいい!!!!
一瞬、チラっとだけ視界に入ったトカゲのしっぽは確かに動いていて、
俺はその光景を振り払うように勢いよく体を反転させた。
振り向いた先には遠くに沈む紅い太陽。
川に映ってキラキラ輝いてる。
ああ、綺麗。
結局しっぽがピクリとも動かなくなるまで、俺はその場で沈み行く夕日を見続けたのだった……。