色の話と見せかけた、ただのバカの話。
2008.12.22.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 45 ] もっと色付けて喋れよ。
どこか遠い星の世界で。
「今日の仕事やってらんねーよ」
「おおい、お前それ毎日言ってんじゃないの」
「だってさぁ、ホントやってらんねーんだもん」
仕事を終えた人達の愚痴が繰り広げられるのは制服から私服に着替えるロッカー室。
ガチャンと音を立てながら一人がハンガーからジャケットを取った。
「例えばさぁ、このジャケット見ろよ」
「ん?」
ぐい、と突き出された腕にはジャケットがかかっている。
色は紺。
「紺色じゃん?まぁ、もしくは濃い青とかまぁ、そういうさぁ」
「ん、そうだな」
それを羽織ながら、今度は履いているズボンを指し示した。
その先の色は赤。……少々派手であった。
「コイツぁ、赤だろ?」
「うん」
「ちなみに靴は黄色で靴下は黄緑、手袋は紫だし、眼鏡はその場その場で変わるカメレオンカラー!」
私服に着替えると、相当派手な出で立ちをしているその男はバンと胸を叩いた。
「俺はカラフルなのが大好きなの!もう全部の色使ってなきゃ気がすまないんだよ、わかる?!」
「あー、わかる、わかる。それも毎日言ってるもんお前」
「なのに、だぜ?!」
ガチャンとロッカーの扉を閉める。
無機質なその扉の色は若干の光沢があるグレイッシュ。
「今日の客は上から下まで無彩色のオンパレード!!!
俺ときちゃあ、この世界はとうとうモノクロ一色に設定されたのかと泣きそうになったぜ!」
「あぁ、こないだのアレな」
「そうそう、不況だからって、色から削るとかありえねぇっての!」
この星は大不況を迎えてるらしい。
そしてそれを少しでも回復させる為に、“世界から色を無くそうキャンペーン”とやっているのだと――そういうポスターが壁に貼ってある。
どうやら、この星では“色”にお金がかかっているようだ。
「大体本来なら誰だって見えてるハズの色情報を有料化しようって考えた昔の人間がバカだよな。俺たちゃ働いてるから会社がつけさしてくれるけど、普通の人が全色搭載しようと思ったらカルく100万カルンはかかるって話だぜ」
「100万カルン……カラフルパラソルキャンディ何個買えんだ、ソレ」
「何、あれ好きなの?信じらんねぇ!今の流行りはカラフルパラソルチョコレートだろ!キャンディは古いぜ!」
ホラ!と男はポケットを探って、パラソル型のチョコレートを取り出した。
包装紙は男がしている眼鏡同様、カメレオンカラーになっている。
「食べた事無いんだろ、最近販売元が変わってめちゃんこ美味しくなったんだ!」
「へぇ、そうなのか。いやー、昔キャンディと間違えて食べて1週間全く色どころか、濃淡も無い世界になったからさぁ」
「あ、それ知ってる。例のストライキの連中が賃金引上げの脅しに作ったっていう色無しチョコレート!でもあれって都市伝説なみの個数だったって聞いたぜ……まさかこんな身近にいるたぁなぁ」
ふぅ、と何故か汗をぬぐう男。
チョコレートを受け取った方の男は、ペリペリと包装紙を剥がしていた。
が、ふと思い出したように、
「あれ?なんか話ズレてね?最初何話してたっけ?」
「ん……何だっけ」
……。
……。
……。
!
「あ、そうだそうだ!今日の客の話だよ!」
「あ、そうそう、それ」
ガシガシッと頭を掻き毟りながら男は眉間に皺を寄せる。
ちなみに髪色はベースが茶色で数色のメッシュが入っている。
「さっきも言ったけどさぁ、頭から足の先っちょまで全くの無彩色でさ!俺の目はとうとうイカれちまったのかと思うくらいで! それに、フィルターごしに取引する時にさ、声が届かねーから、お互いの言葉が漫画みたいにふき出してくるじゃん?
その文字色も完璧に黒一色!強調するトコもBOLD指定だけだったんだぜ!!普通赤字とかにすんだろ!!」
「うわぁ、それキツ……」
「だろー?! ったく、もっと色付けて喋れよ。って感じだっての!」
ふぅー、と男は盛大にため息をついた。
そしてふっ、と宙を仰ぐ。
「……ま、さ。
――もしかしたら俺等みたいにフルカラーの世界じゃなくて、モノクロの世界で生きてきた人だったのかもしんねーんだけど」
「確かに、それだったら色なんて関係無いもんなぁ」
「でもよう!モノクロの世界の人間なら尚更、区別がつかねーんだからヒデェ配色になったりする、って聞いたりすんじゃん?なのに、今日の客は完璧なグレイッシュスタイルだぜ!アレは狙ってるとしか思えねーよ!」
「……それも確かに」
バムッ、と持っていた鞄を勢いをつけて叩く。
中身はさっきまで着ていた制服で、鞄の色は光り輝くゴールドラメ。
「何にせよ、あんな客はもうヤだぜー。実際にカラーが削られるとしてもギリギリまで俺はフルカラーの世界に居てぇ!」
「同意。昔のチョコレートの副作用みたいな世界は絶対嫌だしな。濃淡はあっても、フルカラーから単色にはもう戻れないよな」
ガチャリ
扉が開かれて、廊下の電灯で照らされた鞄がきらきら光る。
ゴールドラメの表面はまるで宝石のように輝いていた。
それを見て“同意”と言っていた男が呆れた顔をしながら、
「でも、お前、その鞄は無いわ……」
「えっ!何でだよ!最高じゃん、今のハマりだっての!!」
「いやいや、無い無い、それは無い……」
廊下に声を反響させながら二人は歩いていく。
無機質な色をした扉は音も立てずに閉じていった。
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「ったく、いつ見てもここの人間はバカかと思うよな」
「あぁ、思う思う」
「何であんなに毎日お祭りみたいなバカそうでアホそうな格好が出来るんだ?」
「だよな、色ってのは多ければ多いほど良い、ってモンでも無いのに」
「今日もオレの一張羅の黒スーツで関所をくぐったら、心底嫌そうな顔をされたっての」
「あー、アレじゃね?お前仕事以外じゃすぐにネクタイ外すから貧乏人のノンカラー人間だと思われたのかも。だって完璧白黒スタイルだったんだろ?」
「なるほど、それは一理ある」
「いや、一理ある、っていうかたぶんソレが真理だろ」
黒スーツの人間はスーツケースから一本の赤いネクタイを取り出して、慣れた手付きでそれを首に締めた。
黒トーンの中の赤いソレは一際目立ち、締まった印象を与えた。
「こんな風にポイントに入れるだけでも十分良くなるのに、アイツ等にはそれがわからないんだなぁ」
「でもこの星の政府は色廃止案を出してるらしいから、しばらくしたら嫌でもわかるようになるんじゃないのかねー?」
「……まぁ、何にせよもうオレ等には関係の無い話だな。 願わくば次の星の役人は色キチじゃありませんように」
「あぁ、それなら大丈夫。次の星には元々色が無いから」
「――そりゃまた極端な。 色に特に執着してない星から、色に執着しまくりの星に行って、次が色の無い星、か」
しかしまぁ、と黒スーツは言った。
「じゃ、赤ネクタイはいらないか」
「いや、そこはあえて派手なのをつけるべきだろ。ホラ、僕みたいに」
手提げ鞄から取り出されたのは光輝くラメ入りゴールド。
シュッと首に締め、「どうよ?」と笑った。
それを見て黒スーツが一言。
「いや、それは無いわ……」