何故なのかわからないが、大人しくなったガマガエルは椅子に座りなおし何処か遠くを見るような目をした後、僕の想像もつかないことを話しはじめた。
 先ほどまでとはうってかわったガマガエルを見てこれはただ事ではないと思いはじめた。
 そして、僕もまた一言一句聞き逃さぬよう、椅子に座りなおした。
- 第4話 「嫌な予感の的中率は?」 -
 ガマガエルは大人しくなったと思ったがそれは僕の思い違いだったようだ。 ただ単に怖くなっただけ。自分が疑われてるんじゃないかと思った為だった。
 でもしばらくは大人しくしていると思われたので僕は早速ガマガエルに質問をした。

「ではこちらも改めて……“あいつ”とは誰のことですか?」
 とりあえず今、1番気になっていることを訊いた。 資料にもそれらしいことは書いてなかったし、本当に全然わからなかったからだ。
 僕が質問するとやけに紳士ぶった口調でガマガエルは答えた。
「“あいつ”とは……私の弟のことですよ、刑事さん」
「弟さん……ですか?」
「弟……といっても義理なんですけどね。私には妹がいてあいつは妹の夫だったんですよ。妹が22歳の時に結婚したんです。
 結婚した当初はとても仲の良い夫婦で私も周りの皆も安心していました。しかし妹は25歳になったときに心臓を悪くしたのです。原因は不明。
 それからは病院通いの生活。はじめのうちはあいつも妹に毎日つきっきりで看病していました。いくら病院にいって治療を受けても、薬を飲んでも……妹の病状は良くなりませんでした。
 私は心配で時々こっそりと妹の主治医の所へ行き妹の病状を訊いていました。
 ある日主治医はこう言っていました。
『妹さんの病気はお気の毒ですが治る見込みはありません。 いつまでもつか。今は妹さんにそんな思いをさせないようにお兄さんやご家族の方に気を使っていただきたい……』
 私はそう聞かされとてもショックでした 。
 それでもあとわずかな命しかない妹のために少しでも楽しませてやろうと思ったのです。
 そこで、私はあいつにもこのことを打ち明けました。 やはり妹の夫であるあいつには知る権利があると思ったからです」



 ここまで聞いていてこのガマガエルも結構“ヒト”なんだな、と思った。
 とりあえず“あいつ”というのはこのガマガエル……筋谷さんの義弟らしいことがわかった。
 しかし、何故筋谷さんは義弟の“あいつ” ―― そういえばまだ名前を訊いてなかったな ―― を犯人だと思うのだろうか。まぁ、まだ話は終わってないのでわからないが、これから妹さんを裏切りそして筋谷さんを裏切るような行為をしたのだろう。話を全部聞かない事にはわからないこともあるので兎に角話を聞くとしようかな。

「大丈夫ですか?筋谷さん。少しお水を飲まれては?」
 そう聞いたが筋谷は、
「いぇ、大丈夫です。まだたくさん話すことがありますからね」
 と、言って僕を制した。
「それでは続きを話して頂けますか?」
「はい。弟に話をした所でしたね。
 私は主治医に聞かされた通りのことをあいつにも話しました。当然、あいつも私同様ショックを受けると思ったのでじっくり話しました。……やはり、あいつはショックを受けたようでした。
 でも私が『これからはもっと妹を楽しませてやろう。安心させてやろうな』 と言うと、あいつは頷いて『そうだな、華恵のためにもそうしてやらなくちゃいけない……。兄さん、ありがとう』と言いました。
 それを聞いて私は言ってよかった、と思い明日から頑張るぞと胸に誓いその日は眠りにつきました。
 それからしばらくは妹のために色々と……ガーデンパーティやドライブ ―― 負担になるような事は避けましたけどね ―― やりました。
 そして、丁度今頃の季節でした。妹の誕生日が近い、という事もあったので盛大なパーティを開く事にしたのです。パーティの日取りも決まり招待客にも全員 O.Kをもらい準備万端でした。
 あとは自分からのプレゼントを買うだけでした。私は妹の気に入りそうなオルゴールをプレゼントすることにしていました。そして、前々からチェックしていた店に行き無事オルゴールを買いました。
 帰りは迎えの車が来ていたのですがその日は天気もよく星が綺麗だったので、私は歩いて帰ることにしました。その帰り道……あいつをみたのです。あいつ……隆次を……」



 なるほど『あいつ』は隆次という名前だったのか。あと妹さんは華恵さん。隆次はたぶん婿に入ったんだろうな。しかしなんだ、隆次というのは一体何をしたんだろうか?
 主治医の話を聞かせた時点ではかなり良い人……というか悪いやつとは思えないが。 これからが一番大事なところなんだな。それにしても疲れた……、ってンなこといってる場合じゃなくて。

「オルゴールを買ったあと貴方は隆次さんを見た。そのあとに何かがあったんですね?
 もし話すのに疲れるようでしたら休憩を入れましょうか?」
「いぇ。あと少しで終わりますので話します。私はオルゴールを買った帰り道隆次と思われる後姿を見ました。あの時彼の髪型はとても特徴的だったので一目でわかりました」
 特徴的な髪型……?
「……あの失礼ですが特徴的……というのはどのようなものだったのですか?」
 筋谷さんの言い方にちょっと興味を覚えた僕は、話の腰を折ってしまうのには気が引けたが訊いてみた。
「ははは。今なら別になんてことはない髪形ですよ。ほら。あのなんといったかな。有名なサッカー選手がいるでしょう。外人の」
 サッカー選手?有名?……外人? 僕はスポーツはやるが見ないので全く思い浮かばなかった。 誰だろう?中田?いやいや中田は日本人だ。外人じゃない。えっとそれじゃジダンかなぁ? でもジダンだったら禿げ……というか坊主っぽい感じになりそうだしなぁ……。
 色々と考えていると筋谷さんが声をあげた。
「おぉっ。思い出しましたぞ。確かベッカムといったかな。あの選手がしていたような髪型をしていたんですよ。あのころ……もう何十年も前のことですからな。その時には珍しかったのですよ。 最近じゃ『ベッカムヘアー』といって真似する若者が多いですがね」
 ……ベッカム……ベッカムね。確かに有名な外人選手だな。しかしその年代であの髪型とは。隆二さんとやらはかなり潔い人だったんだろうな……。

「なるほど。ベッカムのような髪型をしていたと。確かにそれは見つけやすそうですね。話を中断させてしまって申し訳ありません。どうぞ先をお続けください。」
「ではそうさせて頂きます。私は隆次のあとを追い『一緒に帰らないか』と声をかけるつもりでした。しかし……私は声をかけることができませんでした。隆次は女と待ち合わせをしていたのです。
 2人はかなり親しい仲のようでした。私は悪い予感がし良心が痛みはしましたが後を尾けることにしました。その後、2人は食事をするためにファミリーレストランに入りました。これは私にとって都合の良いことでした。ファミレスは結構五月蝿くて他の人のことなど気にもとめませんからね。
 私は2人の後ろに席をとりウェイターにコーヒーを注文すると、顔を見えないようにして2人を見ていました。しばらくしてコーヒーがきました。2人もなにかしら注文したようですでに食べ始めていました。
 ずっと他愛もないことをぺちゃくちゃとしゃべっていました。かれこれ30分ほどしゃべっていたでしょうか。私はその様子を見ながらちびちびとコーヒーを飲んでいたのですが、それもそろそろヤバくなってきてまた、何か注文しようと思ったときです。
 相手の女の声が耳にまとわりつくように入ってきました。
『ねぇ隆次?あんた、奥さんほっといていいの〜〜?奥さん病気だったんじゃないの〜?』
 すごく馬鹿そうな声でしたね。というかあれは心底馬鹿でしょう。私は隆次がどう返すかが気になりもう1度席につき、耳をすませました。
『奥さん? あぁ華恵のことか?あいつはもう死んじまうからいいんだよ。金さえ残せばあとは用無し、ってな』
 そのとたん目の前が真っ暗になったようでした。華恵の主治医から病態を聞かされたときよりショックを受けました。あの隆次が一緒に頑張ろうと言った隆次が……華恵と愛し合って結婚したはずの隆次がそんなことを言ったのです。
 しばらく信じられませんでした。2人が出て行ったのも気がつかずただぼーっとしていました。
しかしずっと立ち尽くしているわけにもいかないので私は電話で迎えを呼び急いで家に帰ったのです……」



 なんてやつだ……。奥さんが亡くなってしまうのに女と遊んで……金さえ残せばいい?主治医の話を聞いたときのやつとはまるで別人じゃないか。 それなら筋谷さんが疑ったのもわかるかもしれない。しかし一個人の意見に振り回されてはいけないしな。

 とりあえず現場を見に行かせてもらわないと……・。
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