どう考えても理由になっていない、理由で現場に乗り込んできた自称天才。
 僕にはとてもそうは見えない。
 しかし、そんなことは言えるはずもなく――
- 第7話 「カリフラワーの上手な使い方」 -
 その日は結局、少し現場を調べてから帰ることにした。
 調べる――普通なら、1人なら、もっとはかどっただろうに……。

 自称天才の守山美沙君(以下美沙君)は、ことごとく僕の邪魔をしてくれた。

 例1、宝石の入っていた棚を調べようとしたら、いきなり棚の説明をはじめる。
「知っているかね君! この棚は中世ヨーロッパで大変価値のある――」
「へぇー、それじゃ美沙君。ここに“メイドインジャパン”と書いてあるのは、何かな?」
「――はっはっは。どうやらこれは、日本製らしいな。ふっ、そんな事わかりきっているじゃないかっ!!」
 とか言って、冷や汗かき始めるし。

 例2、扉の取っ手に何か変わったことはないかと調べようとしたら、先回りして邪魔する。
「はっはっは、ここは私が調べてあげよう。 君は他のところをやってくれ!」
 と言う。 しかし、2分もすると――
「うーむ、どうやらここは私が調べるほどではないようだ。 君、調べたまえ!」
 だ。
 ったく、いい加減にしてほしい。

 と、ここで僕の頭にあることが閃いた。
 美沙君はさっき僕が“警視に言う”と告げた時、ものすごく嫌な顔をしていた。
 ということは何かしら、ヤバイことがある!!イコール黙らせるネタに…………!!!
 そう考えるや否や、僕は美沙君に言った。

「あー、美沙君。僕は今から警視に電話してくる。 だから、調査の方頼むね」
 少し嫌みったらしくいってやる。
 そしたら美沙君、やたら慌てた様子で
「っな!父さんに電話するのかっ!……私はっ、何もやっていないからな!
 ちゃんとそう言っておいてくれたまえ!!」
「あぁ、わかったよ。それじゃ、ちゃんとやっといてくれよ」
 けっ、わかるかっつーの。
 それに、これがどういうことかを訊かなければいけないし。
 僕は携帯電話をとりだしバルコニーに出た。
 ――そうこの部屋は2階にあり、大きいバルコニーがついていたのだ!!



「県警……っと。 警視は警視警察手帳とられたままで来てるのかなぁ」
 プルルルルル   ガチャ
『あー、捜査一課だ』
 この声、微妙なダミ声。
 守山警視に間違いない。やはり……ちゃんと来ていたようだ。
「あ、警視、山下です。 あの、ちょっと訊きたい事が…………」
 全部言う前に、警視がしゃべりだした。
『山下か!!確か、今盗みの件で筋谷というやつの家に行ってるんだったな!
 ――……まさかとは思うが、そこに全身くろずくめのやつが居たりするか?』
「はい……、居ます。 警視、その事でちょっとお訊きしたい事……」
 またもや警視は、僕が全てをいう前に遮った。
『すまんな山下、あいつもそう悪いやつじゃないんだ。全く誰に似たんだか。変なやつだが、気を悪くしないでくれ。あれでも一生懸命やってるつもりらしいから。それにな、あー見えて頭はいいんだ。
 ――た、たぶん何かの役に立つと思うんだ。
 実はな、山下。今日起きたらいきなり包丁とハンマー持って問い詰められたから、つい言ってしまったんだ。
 ……山下なら出来る! あの子と仲良く事件を解決したまえ!!』
 ――……包丁とハンマーの話は本当だったのか。
 ったく、一体どんな家なんだ、守山家ってのは。
「で、警視。失礼ですがお嬢さんは何故事件に首つっこみたがる……というか何で現場に来たんでしょう?」
 僕は相手が見えないのは承知だが、ついつい拳をぎゅっと握ってしまった。……本当に、何で来たんだろう?少しだけガラス越しに中の美沙君を見た。――― 相変わらず、変だ。
 すると、警視の声が聞こえた。
『あー、あいつは昔から推理小説が好きでな。探偵に憧れとるのだよ。
 だから山下。すまんがしばらく相手をしてやってくれ。しばらく相手してやったら飽きると思うから』
「そんなぁー。でもそれじゃ事件解決できませんよ……」
『そうか……、なら仕方ない。山下、美沙に今日の夕飯はカリフラワーだけだと言っておいてくれ。
 それでたぶんあきらめると思うから』
「カリフラワー……ですか? しかもそれだけ」
『うむ、それじゃ頼んだぞ。 私も帰ってきたら、よく言っておく』
 ガチャッ
 ップーップーップーップーーー
「――きっ、切られた…………」

 しかし、何故カリフラワー?
 カリフラワー……というとブロッコリーの白いやつか。よくホワイトシチューとかに入ってる。
 あれ、嫌いな人が多いが僕は嫌いでも好きでもない。どっちだ?と言われれば若干好きかもしれないな。
 ――……でも、カリフラワーだけの夕飯って一体……・・?
 ちょっと恐ろしいイメージが頭に沸いたとき、美沙君がバルコニーに出てきた。

「で、父さんは何か言っていたのか?君はちゃんと私は何もやっていないといってくれたのだろうね!』
「んー……、あぁ、ちゃんと言っておいた。 ところで……」
 もちろん言ってない。というか、言う前に警視に電話を切られたし。
 僕は警視に言われたとおり、美沙君に夕飯の事を言おうとした。
 だが、先に
「はぁー……、良かった。 あの人の仕返しは色んな意味で怖いからな」
 ……なるほど。人の話を平気で中断するところ、いかにも親子っぽい。
 しかし、色んな意味で怖いとはどういうことなのだろう?
「あ、君何か言おうとしたんじゃないのかね!さぁ、遠慮無く言いたまえ!!」
 そう言うので、僕はそれを口にした。
「あぁ、警視が美沙君に『今日の夕飯はカリフラワーだけだ』と言っておいてくれと……」
 そして美沙君の反応を見る。――おぉ、笑顔のまま固まっている。
 けれど、その笑顔が崩れたかと思うと彼女は雄叫びを上げた。

……なななな、なっ、なっ、ぬなぁぁぁにぃぃぃぃーーーっっっ?!?!!!!

 うぬあっ、耳が痛い……!
 雄叫びというか、吼えたというか……絶叫に近い声を出した美沙君はそのまま部屋の中を行ったり来たりしはじめた。顔面が蒼白なのは言うまでもない。
「あっ、あの野郎。 あの野郎。 カッ、カッ、カリフラワーだけ? カリフラワー……だけっ?!?
 ……ふっふっふ、この私を殺す気か。そうかそうか。そっちがそのつもりなら、こっちだって考えがあるぞ。
 明日の朝飯、パンの中に大量の生にんにくいれてやる。バターの代わりに、にんにくをべたべた塗ってやる。もしご飯を食べるならにんにくを切り刻んで中に……、味噌汁の具は韮だけにしてやる。卵はオムレツにして中身はにんにくだけにしてやる。
 はぁーっはっはっはっはっはっは!!!
 私の夕飯をカリフラワーだけにしようとするからそういうことになるんだぞ!明日土下座して謝っても絶対にゆるさんっ!でも、もし謝らなかったらこれから1ヶ月朝飯はにんにく三昧だ!!!
 はーっはっはっはっはっはっは、ザマーミロだっっ!!」


 ――……一体何なんだ、こいつ等。
 まぁ……、あの親にしてこの子ありってか。奥さんは、まだまともな人なんだろうか?
 それとも……――

 恐ろしい考えが頭に浮かんだので、僕はそれを振り切るように、首を振った。
 うん、そうだ。あの父親にこの娘で母親まで変人だったら人間じゃないじゃないか……!


 あれから、美沙君はずっとぶつぶつ言っている。
 含み笑いしながら『にんにく』とか言っているのを見ると、どうやら警視への復讐プランをたてているようだ。
 しかし……警視にんにくが嫌いだったのか。で、美沙君はカリフラワー嫌い。何とも言えない親子だ……。

 そんなこんなでもう使い物にならないモノに成り果てた美沙君を置いて、僕は部屋の調査を続けた。
 当たり前というか、調査は美沙君がちゃんと(?)していた時よりはかどった。
 ――そして、今日の調査は終了した。
 僕はベルを鳴らして荒波さんを呼び、筋谷さんのいる居間へいった。
 まだぶつぶつ言っている美沙君を連れて。
 そして、筋谷さんに「明日は他の方にも話を伺いたいので10時頃にこちらに伺わせて頂きます」、そう言って僕(僕等)は館の外に出た。



「それじゃ美沙君、警視によろしく言っておいてくれ。君も復讐プランなんて考えずに、ちゃんとカリフラワーぐらい食べるんだよ。じゃ、白バイに追いかけられない速度で帰るように」
「白バイに捕まらないように……ふむ、頑張ってみるとしよう。
 だがね君、復讐プランだけは誰にもとめられないさ!! はっはっはっは、待ってろよ父さん!!!」
 美沙君の声が暗い空に響く。もう空はだいぶ暗くなっていた。
 そして美沙君は車に乗り込むとエンジンをかけ、絶対に白バイに捕まる速度で帰っていった。
「明日からは美沙君も居ないし、仕事もはかどるだろう。よし、頑張らないとな!!
 しかし……あの速度だったらまた会う日もそう遠くないかもしれないな……」
 僕は色んな意味でほっとし、車に乗って家に帰った。
 迷探偵のTOPへ