現場で僕はある人間に会う。その人間は全身黒でとてつもなく変な……見た限りでは、変だった。
 僕は、筋谷さんにその人間が何者なのか? と訊いた。
 その答えは――
- 第6話 「ついに現る謎の影」 -
「県警の方ではないのかね?」

 それが、答えだった。

「…………え?」
 その答えに僕が返せた言葉は一つ。唯一音、疑問を表す言葉のみ。
 もちろんこの人物は県警の者ではない。というか県警の者だったら訊くまでもない。
 僕のその疑問音に、筋谷さんたちはますます不信感を募らせたようででその人物を見つめていた。それでもその人物は……何から来るのか知らないが、余裕の表情だった。

 静寂が訪れる――

 このまま静寂が続くかと思われたのだが、ふいにその人物が口を開いた。
「はじめまして、山下刑事。私は守山美沙(もりやまみさ)だ」
 ……少し男っぽいしゃべりをするやつだ。 しかし、何故僕の名前を知っているんだろう?
 そんな僕の表情に気づいたのか、口元を手で覆いながら彼女は言った。
「ふっふっふ、「何故名前を知っている?」とでも思っているようだね。
 そうだな……、君には守山滋の娘といったらわかるだろう」
「――へぇ……、守山滋さんの娘さ……んんんっっっ?!?!?!」
 守山滋……それは僕の上司の名前だった。彼女が警視の娘さん……??? いや、っていうかあの人娘さんいるのか?その前に結婚していたのか?
 はっきり言って、僕の名前を知っていたことよりそっちの方が衝撃的だった。
 あの顔でねぇ……、うーん世の中色んな人がいるもんだ。それにこの娘さん……、全然似てない。似てないというよりも、あの親からこの娘が生まれてくるということが信じられない。よほど奥さんが綺麗な人なんだろう。……って、その前に本当かどうかわからないじゃないかっ!!
 僕は頭の中で色々と考えながらも冷静を装いながら彼女に尋ねた。……頬を汗が一筋滑り落ちたのは仕方ないことだろう。
「守山美沙さん? えっと、それじゃ身元を証明出来る物はありますか?」
 偽者だったら困るので一応身元だけ訊いておくことにする。
 でも本当にそうだったら、ちょっと精神的にキツイなぁ……。
「ふむ、証明? ……っと、これでいいかな?」
 そう言うと守山さんは何かを取り出した。
 運転免許証だった。
「では、ちょっと拝見させて頂きますね。守山美沙さん…………・」
 確かにこの人物は守山警視のお嬢さんのようだ。
 僕はさっと見て、返し…………ん? その時僕は、年齢の欄を見ていた。
「18歳……ですか。しかも誕生日は1月の初め。18歳になってすぐに免許をとったんですね」
 そう言いながら免許証を守山さんに返す。
 しかし、今は二月の下旬。ということは、かなり早いペースでとったことになる。
 ちなみに僕は3ヶ月かかった。――なんか悔しい気がするな。
「で? その守山警視のお嬢さんが、何故こちらに?」
 そうなのだ。
 父親が警視だから……そんなことはここにいる理由にならない。まさか、こんな変な(感じの)人でもそんなことを理由にしてくることはないだろう。 内心そんなことを考えながら訊いた。
 しかし、すぐに僕の考えが甘かったのがわかった。
 この人物、見かけも十分おかしいが内面も十分すぎるほど変だったのだ。

 彼女はよくキザなやつがするように髪をぶわぁさ、とかきあげながら言った。

「何故?ふっ、それはだね、山下君。
 今朝起きると、父さんが何やらぶつぶつ言っているではないか。 私は何かあるなっ?と思って父さんを問い詰めた。なに、問い詰めるといっても普通のことだよ。安心したまえ。
 ただ右手に包丁をもって左手にハンマーもって壁際に追い詰めただけだからねっ!
 少々時間がかかってしまったがやっと父さんは吐いたよ。
 そしたら何でも盗みがあったっていうじゃないか。私としては殺人とかの事件のほうが良かったのだが……、まぁ、事件はあんまり選べないから仕方なくここまで車で来たということだよ!!
 ついでに怪しまれないように父さんの警察手帳を拝借してきた。おかげで普通道路で120キロを出して白バイに追いかけられても捕まらなかったよ。
 はっーはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」


 アホかぁぁぁぁぁっぁぁーーーーーーーっっっっっっっっっ!!!!!!

 バシコンッ!!


 そう叫んで、ハリセン出してしばき倒したかった。
 こいつ――話してる内容は明らかにおかしいのに何故こんなに爽やかに言えるんだ?というかこんなに爽やかに話すのはいいけれど ――いや、実際問題、よくないが――答えになっていない。
 どうやら外見からくる感じは、内面も一緒だったようだ。
 ったく、こいつは一体どういう頭の構造をしてるんだ?
 と思い、その人物を見た。


 何故か……、何故か、守山さんは床に倒れていた。


「なっ! どうしたんですか一体?! 何かあったのですかっ?!」
 僕が考え事している間に何かが起きたらしい。
 ――何だ? 一体、何が?!
 短い時間しか考えてないと思ったのだが……そんなに時間がたっていたのか?
「彼女はどうしたんですっ!? 筋谷さんっ!!」
 そう訊いたら、筋谷さんはこう言った。
 ……少し怯えた感じで。
「――………………………………ア、アンタがやったんだろう?」
 ふと見ると、僕の右手にはハリセンが握られていた。
 ……………………えーっと……………………。


 ポンッ

「あははv」


 どうやらさっきのツッコミハリセン。
 自分では思っただけだと思っていたのだが……実際にはやっていたらしい。たぶん、余りにも変な人なので、頭の考えと体が一緒にならなかったんだろう。
 いやぁ、自分で思ってたより精神的ダメージがあったってことかなっ♪
 ………………。
 ま、まぁ、とりあえず守山さんを起こしてっと。

「大丈夫ですか? ……で、結局君は何故ここに来たんだい?」
 守山さんを起こしながら、訊く。
「だからっ!! 父さんから聞いてぶっ飛んできたんだ!
 この私の天才的頭脳を使って事件を解決してやろうと思ってなっ!!」
 ――天才的頭脳? …………無理だろう?
 そう思ったけど、口に出すのはやめといた。
「ですがお嬢さん、君ね。 これは警察の仕事なんだ。 一般人はダメだ」
「はっはっは。さては山下君、君はこの私に事件を解決されるのが嫌だと?
 ふっ、いや、いいんだよ。君が私の頭脳に嫉妬するのはわかるよ。 しかしね、君には無理だ。
 私でなくては無理だよっっ!!」
 ……はぁ。 もう何なんだろう、この人。でも、こんなこと言われるとすごく腹立つぞ。
 まぁ……、ここにいても僕には関係ないからいいか。
「君にかなわない、かなう、は置いといて。
 いいかい?ここにいてもいいけど、僕の邪魔はしないでくれ。あと、お父さんにも電話しておくからね」
「何いっ?! と、父さんに電話するのかっっ?!?………………ま……ぁ……、いいか」



「それで? 結局どうなったのかねっ?」
 あ、そうえいば筋谷さん達のこと忘れてた。
「あー、えっとですね。もう少しここを見てから話を聞かせて頂く事にします。何かわかりましたら、随時お知らせさせて貰いますので。あと……ここの館では、何人、人を雇っているのですか?」
「召使か? 確か…………」
 筋谷さんが顎に手を当てて、到底様にならない格好で考え始める。しかし、その答えは隣から出た。
「25人でございます。住み込み召使が10人で、通い召使が8人。それに執事も住み込みです。あとは庭師の方が5人。通いで来て頂いております。それに、他に噴水管理に1人来て頂いております」
 そう言ったのは召使頭の荒波さん。 それにしても25人とは……金持ちだなぁ。
「そうですか。ありがとうございます。ではもう少しここを見させて頂いたら、今日は帰ります。
 明日も色々とやらせて頂きますので、ご協力お願いします」
 そう伝えた後、筋谷さんはもう1人の召使さんと出て行った。荒波さんは「ここにベルがありますのでお帰りになる時に押してください」と言って、出て行った。
 そして、僕と守山さんが残った。

「君は帰らないの?」
「ふっ、帰るはずないだろう? 現場を見ていないのに!!」
 現場を見ていない? 何でだろう? 彼女、僕より早く来ていたいたはずなのに……。
「君、僕より早く来ていただろう? なのに何で現場を見てないんだい?」
 すると守山さんは探偵よろしく顎に手を当てて、こう言い放った。
「ふっ、愚問だな。 そんなの決まっているじゃないか!!
 あの筋谷……っていったかな、あのおっさんの話が長くて疲れちゃったから、休憩していたのさっ!!!」
「…………へぇ、そぉ」
 何かホント変だなこの人。あー、もう、関わりたくないなぁ。
 僕がそんな事を思っていると、守山さんはこっちに指を突きつけて言ってきた。
「ところでっ!! 【君】っていうのやめてくれないかなぁ。何かこう、恥ずかしいじゃないか。 だから、美沙でいいよ。【守山】は父さんの名前だからあれだけどな」
 いきなり何を言い出すのだこの人は。……だいたい、【美沙】の方が恥ずかしくないか?初対面だし。
 それに、だ。 君? そっちも呼んでるじゃないか? う、うーむ……。
 僕は考えた末、結局【美沙君】と呼ぶことにした。
「それじゃあ、美沙君。……それなら、そっちこそ【君】はやめて欲しいね。
 僕は君より年上なんだから。 そうだな、【山下さん】とでも呼んでもらおうか」
「山下……さん? はっはっはっは!! 君は【君】でいいよ。 それに山下っていったら、近くにある駅の名前だから嫌だし」
 ……なんかすっごいムカつくぞ。……それに嫌だけど、これ以上言っても無駄なんだろうな。
 そう思ったから、僕はとりあえず部屋を調査を続けることにした。
 後ろでまだ何か言っているような気がしたけれど……、無視して作業に取り掛かる。



 それにしてもこの人、やたら疲れる……。

 ――はやく警視のとこに電話して、どういうことなのか聞かないとな……。
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