「最初は出会いから」
やっぱり最初は出会いから始めましょうか。 あ、こんにちは。僕、黒子って言います。
本名はワケあって伏せているので、僕の事を呼ぶときは「黒子」とか「ブラックな野郎」とか、好きなように呼んでくれると嬉しいです。
さて、自己紹介はここらにしておいて……今日は凄い事があったんです!
実は僕のご主人様が“弟子”をとったんですよ!
つい数年前までは自分が“弟子”だったくせに、ねぇ?全く、思い上がりも程ほどにしとけ、って忠告してやりたいくらいです。――まぁ、実際にしたんですけどね。
ご主人様(これ以降はティカさん)が連れてきたその子はまだ小さい、本当に小さい子だったんです。
赤ちゃんの年齢を正確に言うのは得意じゃないのでわからないですが、少なくともまだ自分の足では立てないような幼い子でした。金髪の髪の毛がお情け程度に生えていて、歯も1,2本しかありません。
僕は一瞬ティカさんの隠し子、とか思ったんですけどそれは色んな事情であり得ないですからねぇ。
考えてもわからなかったもんですから、僕は尋ねたんです。
「ティカさん、誘拐ですか?」
って。
いやぁ、瞬間どデカイ魔法をぶち込まれそうになってしまいました。はっはっは。
結局誘拐じゃなかったみたいで。ティカさんは何処から持ってきたのか、その子のおむつを替えてベビーベッド(これはたぶん魔法ですけど)にその子を寝かしつけるとやっと話し始めました。
「実はな、森の入り口に置いてあったんだ」
コーヒーを噴出しましたよ。
「あ、あの、ティカさん。 そういうのはあんまり持って帰っちゃいけないんですよ?」
噴出してしまったコーヒーを布巾で素早くふき取りながら、僕は至極最もな意見を言ったんです。
でもティカさんときたら大声で笑いました。
「あっはっはっは!!!」
そして突然笑うのをやめると今度は今にも泣き出しそうなくらい辛そうな顔をしました。
「――アレ、見つけたときにな。……ミライザが一緒だったんだ……」
「え、あ……、じゃぁ、もしかしてミライザさんに命令されたんですか?」
頭の隅にちっちゃな電球が点る。なるほど、逆らえなかったんだな、と直感的に思いましたね。
ちなみに“ミライザ”さんと言うのは、ティカさんのお師匠様の事。ティカさんがまだ弟子だった頃に僕達と一緒に住んでいたからよく知っていますけど……確かにあの人には逆らえませんねぇ。
「いや、命令っつーか……視線が痛いっつーか」
やっぱり泣きそうな顔で話していたティカさんが不意に真面目な顔になって、
「それに」
――アレはどうやら俺達と同じらしいから。
呟くように言った言葉の意味は、まだ僕の胸の中だけで留めておこうと思います。
* * *
拾ってきたその子は検討した結果、“メイリン”と名付けることにしました。名付ける、とは言っても彼女(そう女の子だったんですよ)には既に名前があって。その名前が“メイ=リンドネス”だったから、略して“メイリン”。
色んな事情である程度に年齢になるまでフルネームは伏せておこう、とティカさんと話して、僕達はその子を育てることに決めたのです。
メイリンはすくすくと育ちました。
とは言っても、その“すくすく”の間に僕達は本当に大変だったんですけどね。
流石に育児経験の無い僕達だけで育てるのは無理なので、応援もたくさん来てくれました。
今回と同じようにティカさんを小さいときに拾って育てたミライザさん、それに実際に子供がいるザクス夫妻(夫妻、なんていうと年上のように思えますが実際は若いんですよ)、近所の奥様方にも手助けして頂きました。
そのおかげでメイリンは本当に元気で良い……子、とは言えないかもしれませんが、とても元気な子に育ったんです。……病気や怪我が無い、なんて事はなかったですけどね。
怪我の類は薬や魔法ですぐに治せましたが、6歳の時にかかった病気は本当に不安でした。
高熱が出て、意識も朦朧としてるし、何より年齢が若いので荒療治に耐えれるかがわからなかったんです。何とか麓の村のイウラ先生の薬で治ったので安心しましたが……怖かったです。
メイリン本人はその事を全然覚えていないらしくて、一週間後に目を覚ました時は軽い記憶喪失になっていたようです。
ティカさんやミライザさんは「覚えてなくて良かった」と呟いていましたが、どういう事だったんでしょう。
メイリンへの修行は7歳の時から始まりました。
拾ってきたのは“弟子”にするからだ、と言っていたのはティカさんでしたが、実際にはほとんどミライザさんやフレアさんが師匠のようなものでしたね。
ミライザさんは自分の弟子(ティカさん)の教え方が下手なのを見て、メイリンに指導するようになり。フレアさんは実際には教えていないんですが、あの人は“僕達”の中でも一番すごい人だったから、やっぱりメイリンは気になったんでしょうね。
よくフレアさんと遊ぶメイリンを見ながら皆で笑いあったものです。
「ラミィが焼餅やくぜ、アレ」
そんな事を言って笑ったジャックさんが懐かしいですね。
* * * ――― * * *
「さて……と、今日はこの辺で終わりにしておきましょうか」
彼はそう呟くとパタン、と日記を閉じた。
そしてまだ開けていたカーテンを閉めに行き、外にいる光る目を見て肩を竦める。
「明日は一体、どんな事が待ち受けているんでしょうかねぇ」
嬉しそうな声でそう言って、彼は電気を消した。