「はじめまして、今日この学校に転校してきたナナ=カルラといいます」

 夏のある日、少女が公園で木に向かってしゃべっていた。先ほどから同じ言葉ばかり言っているところを見ると、どうやら転校初日の事を思い浮かべて練習をしているようだ。
 しかし此処は公園。通り行く人も多い。人々に変な目で見られているのに気がついているのかいないのか少女は未だに木に向かってしゃべっていた。
 無論、側から見るととてつもなく怖い。
「はじめまして、今日この学校に転校してきたナナ=カルラといいます!!」
「んー、なんじゃぁ?」
「えっ? あ、あぁぁ!!! いぇっ、何でもありません!!!」
「そうかぁ。ふぉっふぉっふぉっふぉ……」
 余りに周りを見ないものだから自分に声をかけられたと思ったじじぃ……もとい、お爺さんに尋ねられてしまったようだ。まぁ、すぐに誤解はとけたのだが。
 少女はその後、思い出したように周りを見て少し考え……顔を真っ赤にして公園を後にした。



「えーっと、明日は朝6:30に起きて。朝食を食べてすぐに出る。 学校についたらまず職員室に行って担任……誰だっけ……うーん……。 ま、誰でもいいや。兎に角担任の先生を探してそれから……それから教室で紹介……」
 少女は始終ブツブツ言いながら道端を歩いていた。あ、前から同じようにブツブツ言いながら少年、否青年が歩いてきている。このままだとぶつかるけど……ほっといてもいいか。
 あと5メートル……3メートル……1メートル……ドスン!!
「きゃっ」
「わっ」
 案の定二人はぶつかった。少女は尻餅をつき、青年は踏鞴を踏んだ。
「痛ぇ……と、ごめん大丈夫か?」
「あ、えぇ」
 青年は手を差し伸べ少女を立たせた。少女の手より一回り大きいその手を持って少女は立った。
「すっすみません! 私、前見てなくて……」
「いいんだよ。僕もちょっと余所見してたから……」
「でっでも、すみませんでした!!!」
「あー謝ったりしなくてもいいから。僕ちょっと用事があるのでこのへんで失礼するよ。 今度からはちゃんと前見て歩けよお嬢さん」
 青年は少女の頭をなでて優しく微笑むと今度は道を走って行った。
「かっこいい……//////」
 少女が青年の駆けて行った方を見て呟いた。その顔を紅く火照り、目の中の黒の部分はいまやハートマークに変化していた。……つまり少女は青年に一目惚れしてしまったワケだ。
「……あれ?」
 先ほど二人がぶつかった所に小さい何かが落ちている。少女はそれを手に取った。
「これ……どっかで見たことあるなぁ……。どこだっけ?」
 手のひらで輝くピンバッヂのようなもの。実はある学園の校章である。
 その学校とは通称“R”学園。ちなみに「ある学園」とかけたシャレではない。“R”、これは創立者の名前の頭文字だという説が強い。時たま「革命=revolution」の“R”ではないのか?という者もいるが結局真意は定かではない。誰も本当の名前を知らないのだから。
 これを読んでいる読者の皆様はわかるのではないだろうか? この“R”の意味が。



 Pi Pi Pi ……

 朝だ。そう、今日は少女の転校初日。昨日の努力は報われるのか?昨日の予定通り今は6:30。少女はどうやら一人暮らしらしく、てきぱきと朝ごはんの準備をはじめた。……今日は玉子焼きと味噌汁にめざしが1匹、それに漬物とご飯。50年ほど前にタイムスリップしたかと思ってしまうぐらい「日本」的な朝ごはんだった。
 ていうか今時「めざし」とかどこで買ってくるんだろうか……?
「いただきます」
 少女は新聞をチェックしながら ―― といっても三面記事すら見ないで朝の4コマ漫画だけだったが ―― 朝ごはんを食べていた。そして食べ終わった。準備の時と同じように、てきぱきと片付けをしたあと学校へ行く準備をして家を出る。もちろん身だしなみのチェックは欠かさずに。
 ガチャガチャ
「よし!!それじゃぁ頑張っていきますか!」
 ドアに鍵をかけるとご近所様の迷惑も顧みず大声で気合を入れる。
 とことん世間知らずな感じのする少女である。



 んで着いた。(早いなおぃ
 通称“R”学園。もちろん私立なので外側はもちろん内側もこざっぱりしててなかなかおしゃれな学園だ。普通の学校ならば6年制の小学校に3年制の中学校が義務となっているがこのへんは全然気にせず(コラ)このR学園は7年制の ―― 12歳から19歳までの人が通う ―― 所だった。ちなみに少女は14歳。編入してきたのだった。
「こ……ここがR学園…………大きいな……」
 少女はまずはじめにその大きさに吃驚したようだった。確かに大きい。7年制のため教室の数も半端ではない。その上施設がやたらと充実している。……まぁ、つまり大きいのだ。
 少女は門の前で立ち尽くしていたがしばし考えて園内へと足を踏み入れた。



 “職員室”
 そう書かれた看板(?)がドアの横に立てかけてある。職員室に来たのだ。
 まだ生徒の登校する時間まで少しあるため廊下には人がいない。時たま部活動などで朝早く来ている人とすれ違うぐらいだった。
「えっと……担任の先生……誰だっけな。あ、そういえばなんか書いてあったような」
 少女は手持ちのプリントに目を這わせ担任の名前を確認した。
「よし、守山先生。……どんな人だろ」
 コンコン
「失礼します」
 ガラガラガラ
 一斉に職員室の中の人の視線が少女に集まる。その光景に圧倒されながら、え?なんか悪いことした?、と少女は考えた。しかし皆の顔はそういう事を言っているようではなかった。
「ちょちょちょっと、聞きました?さっきの!!」
「えぇ、もう何年ぶりになるかしら……」
「全くもってけしからんですよな。うちの連中は」

「あ……あの……」
 何やら先生方がしゃべりだしたので、一人おいてけぼりをくった少女がおずおずと声をかけた。すると一番近いところに居た綺麗な女の先生が振り向いた。
「はい、何かしら?」
「えっと……私ナナ=カルラって言うんですが……守山先生はどちらでしょうか?」
「守山?守山は私……あ、そうか。あなた転入生ね」
「はい!そうです!」
「あ、ちょっと待って。誰かシゲちゃん呼んできて」

 シ……シゲちゃん……???、少女の頭の中には何故か暑苦しい青春漫画の主人公のような図が浮かんだ。
 ―― 周囲より黒い肌にランニングシャツ。首にはスポーツタオルをかけ土手を太陽に向かって走っていく ――
 つくづく発想のおかしい少女である。
 けれどその予想(?)は見事にはずれ、来たのは40代前半の変な親父だった。余り長くは見つめていたくない風貌でまあぶっちゃけていうと不細工だった。さっきの女先生の横の椅子に座るとますます不細工に見えた。
「あ、あの……」
「どうもはじめまして。君のクラスの担任を受け持っている守山滋だ」
「わっ、私はナナ=カルラといいます!」
「…………くっくっくっく」
 挨拶をした。なんだか三流のホームドラマみたいなノリだ。
 が、最後に笑い声が入ったのでそれはなくなった。……なんとあの女先生が笑っていた。
「どっどうしたのですか?!」
「え……?あ、いや貴女みたいに敬語とか使う若者が珍しくってね」
「碧。お前本当は私の事笑ってんだろうが」
「えへ」
「あ、カルラさん。こっちは一応私の妻だ。副担任をしている」
「よろしくねナナちゃん。私は守山碧」
 クラッ
 少女は室内だというのに日射病にかかった。……目の前が真っ白になり頭が何も考えようとしないのだ。
 つまり拒絶していた。事実を。
「け、結婚なさってるんですか?!?」
 “その顔で”、という言葉をやっとのことで飲み込みそう言った。
「そっそんなに驚くことか?先生ちょっとかなひぃ」
 えぇ年の大人が泣きまねなんてすんなや、とは思ったものの碧先生が微笑んでいるのでどうでもいいことにした。
「えとあの先生。紙に書いてあった通り職員室に来たんですけどこれから何かするんでしょうか?」
「ん?何かするのかい?」
 ……いやいや、早く来いって電話で言われたんですけども。少女は内心そんなことを思ったが笑顔を無理やり貼り付けてこらえた。
「ま、時間になるまで先生方と話でもしといたらどうだ。」
「はぁ」



結局少女は規定の時間が来るまで職員室でだべって話していた。



「カルラ君と言ったな。あー君の入るクラスは極めておかしいとか、そういうんじゃないんだ。なんというか変な輩が時たまいたりもするんだが……まぁ気にせずに学校生活をエンジョイしてくれよな」
「はい、大丈夫です!」
 教室へ向かう途中担任の守山先生が心配そうな顔をして話した。……そう今から少女の入るクラスはR学園の中でも飛びぬけて変なクラスだった。どれほど変かはおいおいわかっていくだろうが。
 ガラガラガラ
「先生おはよう!その子が転校生さん?」
 扉を開いた瞬間、羽の生えた何かが寄ってきた。どうやら妖精らしい。
 少女は注目されているということに加え極度の緊張のため顔が真っ赤になり手足はロボットのように動いていた。
 だだだだだめだ、緊張しちゃだめ!!、そう言って必死で自分に言い聞かせる。

「あー皆昨日いったから知ってると思うけど今日からこの学校に転校してきたナナ=カルラさんだ!仲良くしろよー。さ、簡単な紹介よろしく」
 バックンバックン
 きき昨日のを思い出せー。さ、いくぞナナ!、心の中でガッツを入れる。そして口を開けた。



「はじめまして、今日この学校に転校してきたナナ=カルラといいます!!」
ってことで「はじめまして」です。ナナさんどもり系だから沙雪さんと仲良くなれるかもねー。
ついでに言うとぶつかった青年は次の話でわかります。さー誰でしょー。(アホ

2003.8.5 - 執筆 / 2003.10.18 - 加筆修正