「突然だが豆まきをする」
 守山先生はクーラーの温度設定を下げつつクラス全員に聞こえるように言った。



 今は蝉もそろそろ土に還る9月の初め。夏の間鳴き続けめでたく夫婦になったのか、それとも独身で生涯を閉じたのかわからないが蝉さんたちは次々とあの世へ旅立っていた。中には正当な寿命を向かえる前に、はしゃぎまくってクモの巣にひっかかる馬鹿もいたが大抵は今頃逝くのだろう。
 そう、どう考えても“豆まき”をするような季節ではない。
 豆まきとは普通2月、立春の頃の「節分」という行事でするものだ。『鬼はー外、福はー内』という可愛らしい差別の言葉で鬼は豆を投げられ、追い掛け回されるという日本伝統の行事である。
 それを何を思ったがこのクソ暑い9月の初めにやると言うのだ。

「先生!何で今頃豆まきなんですか?!」
 当然のように疑問の声があがる。そりゃそうだろう、ただでさえ暑くてヘバっているというのに、“豆まき”という余りにも不釣合いな事をやらされそうになっているのだ。
「いやー私も聞きたいのだがな……突然学長の鉦山先生が、『鬼が出た。豆まきだな』とか言い出してだなー。というかもう命令だろうなコレは」
 学長の鉦山誠吾は、前から何かと変な事を思いついては皆を困らせている。学長と言ってもまだ若くここの生徒とさほど年はかわらない。だが海外の飛び級制度で勉学に励んだというのだから頭の切れる男なのだろう。
 ちなみにこのR学園の場合、学長=運営者というワケではなく実際に学園を運営しているのは理事長である。所詮学長といっても雇われ店長みたいなものなのだ。

「まぁ兎に角クラス毎に3人づつ『鬼』を出してくれと言われたから決めるぞ」
 えぇーーーっ、という皆の非難の声が上がったが、もう仕方がないのだ。あの学長は一度決めたら絶対にやり通してしまう。逆らったらどんな目にあうか……。
「よし、まさかとは思う立候補はいるか?」
 もちろん居るはずがない。
 わざわざ自分から硬い豆をぶつけられる役になる者は居ないだろう。
「居ないよな……仕方ないそれじゃ、じゃんけんだ。皆立って!」
 ここで言うじゃんけんとは『守山先生対皆』でし、先生に勝ったものが座っていくという、まぁ、簡単なものだった。
「皆立ったな?じゃ行くぞ。 じゃーんけーん ほいっ!」
 先生はグー。よってパーを出した生徒は座った。これでだいたい半分は座ったのではないだろうか?
 何度かこの工程が繰り返され残ったのは4人になった。

 一人は天使。一人は妖精。一人はエルフ。一人は黒ずくめ。
 ま、最後の黒ずくめは別として他の3人は知名度が低い(!)のでここでちょっと紹介をしておこう。
 まず最初に天使。彼は双子で片割れは別のクラスにいる。名前はミスト。紫がかった黒色の髪で一枚しかない羽の色は黒。ちなみに片割れのキスターは碧の髪に白い羽……こちらも一枚だったが。
 次の妖精……こいつは少しは知名度があると思う。名前はココロ。オレンジの髪の毛に黄色い羽。標準より少し小さいが立派な炎妖精の末裔だ。
 最後にエルフ。名前はピスティアと言い同じクラスの山下君にお熱のうら若き乙女である。(”秘めごと”参照)本人は隠しているようだが気づいていないのは山下君本人と転校生のナナ。それに黒ずくめの馬鹿美沙君ぐらいだろう。
 説明するまでもないが黒ずくめは例のあの人こと守山美沙君である。

 この個性的かつ変人な4人が残った。ここで『先生対皆』の方式は取りやめられ個人戦となった。4人でじゃんけんをして、一人だけが勝つということになればそれで良いのだが、なかなか世の中上手くいかないものなので決戦は阿弥陀くじとなった。
 その4人に見えないように先生が阿弥陀くじを作った。4本の線を描きその下部分に適当に×と○を描いていく。……のだがここで守山先生は『×』と『○』の代わりに別の言葉を書き込んだようだった。
 4本の線の間に架け橋のように何本も線を引き、中には丁寧に“ワープゾーン”とやらまで作って……完成した。
「出来たぞ。4箇所あるから話し合ってそれぞれの場所を決めるんだ」
 ものすごく大仕事をしたあとのように出ても居ない汗を拭く仕草をした守山先生に手渡された阿弥陀くじを見ながら4人は話し合った。……結果右端はミスト。右から2番目は美沙君。左から2番目はココロ。左端がピスティア……というようになった。
「じゃ結果を見る!」
 守山先生が何故か赤色のペンを使って線をなぞっていった。一番はじめにミストから。
「チャンチャーチャラチャラチャンチャンチャラチャラ……」
 わけのわからない曲(?)を口ずさみながらペンを走らせる。
 そしてそっと折り曲げられているところをめくり結果を見る。

 結果は“死”。
 …………………………………………死?

「ミストがまず鬼に決定だ!頑張れよミスト」
「せせせせせ先生『死』ってなんですか、『死』って!!!!」
 ミストが怯えたように訊くと守山先生は笑っていった。
「死ぬ気でかかれって事だ」

 次々と結果が分かり……鬼が決まった。
 顔面蒼白になったミストに半泣き状態のピスティア、そしていつもとかわらぬ美沙君。
 この3人がめでたく“鬼”になった。
 助かったココロはというと、皆に戦争帰りの英雄扱いされ、本人もうれし泣きで皆と抱き合っていた。「助かった!!!」と言いながら。



『皆〜、今から豆まきはじめっから。鬼を殺す勢いで豆投げるよーに!』
 突如校内放送がかかり機械を通して学長鉦山誠吾の声が聞こえた。心から楽しんでます!みたいな声を出し、顔は見えないが恐らくにっこにこなのだろう。
 この放送に学園全体は静まり返った。鬼はもちろん他の生徒も緊張した顔つきで聞いている。が、一人だけ放送に耳も貸さず(聞こえてはいるが)本を読んでいるヤツが居た。……山下尚吾。例のハリセン野郎だ。
 山下君は自分には関係のないことだし……、と読書を続けていた。しかし、この読書の時間も再びかかった放送によってかき消されることになる。
『あ、言い忘れてた。守山先生のクラスの山下は学長命令で『鬼』だから』
 どうやら大人しく本を読むことは出来ないようである。
 山下君は本を閉じ、嫌でも湧き上がってくる怒りをなんとか静めた。……いつもの、ことなのだ。そう考えて気持ちを落ち着けた。
 学長はこの山下君を親の仇とでもいうように、いつも何かにつけて意地悪(?)をしている。原因は……アレだ。学長の片思いの相手にある。
 学長は先ほども記したが、生徒とさほど年もかわらずなおかつ世間一般から見ると“かっこいい”の分類に入っていた。当然のごとく言い寄る女は多い。が、彼には想い人がいた。名前は館山沙雪。そう、守山先生のクラスの山下君の幼馴染の沙雪さんだ。
 しかし沙雪さんは皆も知っての通り、山下君のことが好きで(”秘めごと”参照)学長もそのことを知っている。……だからガキの嫌がらせのように恋敵(一方的)をいじめているのだ。鈍感野郎の山下君は沙雪さんの思いなど露知らず、なぜ学長がここまでするのか?、と疑問に思いつつ、いつか殺してやると心に誓っていた。



 そしてはじまった。

 鬼と

 人間の

 壮絶バトルが――



「たぁぁぁっ!!!!!」
「おえぇぇっ!!!!」
 奇声を発しながら生徒が追いかけてくる。鬼になった生徒らは必死に逃げ惑う。
 そんな中沙雪さんは探していた。……・学長の部屋を。

「はぁっはぁっはぁっ……一体何だってんだあの人は僕に何か恨みでもあんのか?」
「はっはっはっは、学長もなかなかやるなぁ」
 山下君は何故か美沙君と一緒に逃げていた。山下君は怒りを露にしすごく怖い表情で、美沙君はいつもと変わらない高笑いをしながら。背後に豆を持った生徒を従えて。
「何で美沙君がこっちにくるんだ!どっか行けやこのゲス!」
「何だとこのハリセン野郎が!豆に埋もれて死ね!」
 少々言葉遣いが悪くなっているのは愛嬌と言うものだろう。二人ともこう見えても必死なのだ。なんせ豆は当たると痛い。その上学園の90%の人間がそれを持ってぶつけてくるのだから。

 バァァンッッッ
「学長!!」
「おぉっ、麗しの沙雪君!どうしたんだね私の元まで来てくれるとは!!」
 “学長のお部屋v”と描かれているふざけきったドアをぶち開け、沙雪さんが現れた。学長は思わぬ想い人の訪問に顔を上気させ、今にも抱きつかんばかりの勢いだ。
「学長!酷いです!私……私、山下さんと楽しく豆を投げれると思っていたのに!」
 少女漫画のヒロインよろしく、大きな瞳に涙をうかべながら沙雪さんが言った。
「なっ、沙雪君……そんなにまでアイツを?!!」
 驚愕の表情を浮かべた学長がよろけた。そして校内放送用のマイクを手に取った。
『山下をしとめたヤツには特別に褒美をとらす』

「鬼かぁぁぁ!!!!あの人こそ鬼だぁぁ!!!」
 山下君は泣きながら走っていた。背後の生徒はさっきの校内放送のおかげでいまや3,4倍に膨れ上がっていた。
 “我こそが!”と、目をギンギンに光らせた生徒が追ってくるのだ。怖い以外の何者でもない。その上横には黒ずくめの物体が……。
 ふと、山下君は思いついた。学長にも同じ思いを味わわせてやろう……と。
 そして、すばやく美沙君に耳打ちすると二人は進行方向を変え、学長室へと向かった。

「が……学長!なんてことするんですか! もうっ、もう学長なんてだいっきらい!!」
 少女漫画のヒロインよろしく(以下略)
「だだだだだだだいきらいぃぃぃぃっっっ?!?!!?!」
 再びよろけた学長は校内放送のマイクの音量を最大にして言い放った。
『山下をしとめたヤツは期末テスト免除してやるぞ!』
 バチィィンッッ
「なんでそんな事するんですか! 山下さんは何も悪くないのに……ひっく」
「ふっ、沙雪君。いいかい、あいつは存在自体が犯罪なんだよ? ハリセンは持ってるし、いつも近くに生きる犯罪な守山美沙がいるじゃないか!」
 沙雪さんに頬をビンタされたがすぐに立ち直り、学長はなだめかすようにして言った。
「沙雪君は騙されているんだよ。それにあいつは生きる犯罪守山美沙と付き合っているんじゃないか! 不毛じゃないか! 報われない恋をしてどうするんだい!! そんな事になるのなら僕と……」
「ちょおっと待ったあぁぁぁ!!!!!!」
 バァァンッッッ!!
「誰が誰の彼女だってぇぇ?!!!!」
「山下さん!!」
「山下!」
 学長室のふざけきったドアをぶち開け、山下君と美沙君が現れた。
「見ろ沙雪君!二人はいつも一緒だ!やっぱり付き合ってゲフッ」
 山下君が学長を殴った!学長は100のダメージ! 山下君はレベルが1上がった!
「くっ、まだまだぁ!!私は滅びん!!ガフッ!!」
 学長が完璧に悪役のセリフを吐いて立ち上がった。 が、そこに美沙君の蹴りが炸裂!
 学長は289のダメージ! 美沙君は魔法「ハリセン崩し」を覚えた!
「ま……まだまだぁ……ぐはっ!!」
 なかなかしぶとい学長だったがそこへ沙雪さんの往復ビンタが!! 学長は体に300のダメージ、心に1000のダメージを受けて死亡した。沙雪さんはレベルが2上がった! 魔法「往復ビンタ×2」を覚えた!



 こうして悪は滅んだ……。

 山下君は校内放送のマイクを手に取りこう告げた。
「学長死亡により校内突発豆まき大会は終了します」



R学園……ここは鬼が住まう地である。
すすすすみません!!!!!ワケわかんねぇです!!!
最後は展開に困ってRPG風に。(出来てねぇよ
ちなみに学長鉦山誠吾は迷探偵の署長です。本編より先にこっちで名前お披露目になるとは……くっ。(何
「ミスト」の名前は津月さまが考えてくれました!無断で使ってます!(爆

学長死んでませんから。たぶん気絶してるぐらいでしょう。たぶん。
なんつーか山下君も美沙君もボロくそ言われてますなー。はっはっはっは。

2003.8.17 - 執筆 / 2003.10.19 - 加筆修正