ある日、ある公園で、ある変な集団が集まっていました。
「なぁ、彼岸花って知ってるか?」
「当たり前だろ!あの紅いヤツだ」
 フェンス越しに見える田んぼの畦を指差して言っています。
「ふーん、それじゃ、これは知ってるか? 彼岸花って毒があるんだぞ」 「ウソだ!! 毒なんてあるはずがないっ!!」
 まだ暑い夏なのに、真っ黒の服を着て、見るからに暑苦しい人が声をあげた。
「? いや、ウソなんてついてないんだけど」
 対するは茶色系の髪の毛をポニーテールにした、まだ涼しそうな格好をした人が驚いた顔で声を出す。その周りにはオレンジ頭や、狐耳もいる。
「そうだよ、みっちゃん。僕もそう、聞いたよ」
 オレンジ頭の一人が黒いのを、落ち着かせるように言った。
「それに、家に持って入ると火事になるとか、縁起が悪いとか」
 狐耳も同じように、黒いのに向かって言った。
「だ、だが……それなら、おかしいぞ?」
「ん? 何でだ」

「小さいころにこっそり料理に入れたことがある」

 ……………………………………。
『何してんねんな』
 思わずその場に居た全員が突っ込む。
「料理……ってお前なぁ。 美沙はソレ、食べたのか?」
 ポニーテールにしている人……フレアが呆れたように訊いた。この黒い人物、守山美沙と言うのだが、少しばかり人間をやめている。しかし、ここまで人間じゃなかったとは思っていなかったようだ。
「ふっ、私がそんな得たいの知れないものを食べると? そんな事、あるはずがない!!! はーーっはっはっはっは!」
「うわぁ、みっちゃん。サイテーやね〜」
 にっこりと笑うのはオレンジ頭のもう一人。横のもう一人のオレンジ頭の背中をバンバン叩きながら笑っているところを見ると本当に可笑しいらしい。
 けれど、次の言葉で場は一瞬固まった。
「私にソレ、やったら殺すよ?」
 にっこにっこにっこにっこ……。
 流石の美沙君も日に日に怖くなっていく友人を見ながら汗を流した。転入してきた時にはこんな性格じゃなかったはずなのだが……。
「ねぇ、みっちゃん。ところでその時、碧先生や守山先生も食べたの?」
 先ほどまでバンバン叩かれていたココロが訊く。
「いや、母さんは食べなかった。笑いながら『シゲちゃんにあげるv』とか言ってたな。かなりエグかったぞ〜」
 (やっぱ、碧先生(あの人)、強いなぁ……)
 はっはっはっは、と笑い続ける美沙君を他所にフレアは思った。
「彼岸花……。どんな症状の出る毒だっけ?」
 狐耳の刳灯が誰にともなく訊いた。
「……確か、嘔吐や下痢とか……だったかな」
 フレアが顎のところに手を当てながら答えた。
「嘔吐ってことは吐いたりするんだよね。 でもそれだけかー、んー惜しいっ」
 何が、どう、惜しいのかはわからないがにこにこと笑い続けながらナナが言った。可愛い口調なのだが言っていることがどんどん酷くなってきている。

「嘔吐……? 下痢……???」
 突然、高笑いをやめた美沙君が呟いた。
「どうかしたのか?」
 すかさずフレアが尋ねる。
「う、うむ……あの時父さんがそんなんだったような……」
 空を見上げながら言った美沙君の言葉にフレアはご冥福を祈った。でも、お祈りをするのは既に遅い。
「それでさ、すっごいウケたんだよ。 うん、そうだ。思い出した!」
 ふっふっふ、とまたもや笑い始めようとする美沙君を止めてココロが訊いた。
「ウケる?……何にウケたの?」
「いや、それがだな。 彼岸花が入っていたとは言え、元は母さんが作った料理じゃないか。そして二人はソレが入っていたのを知らない。
 それで母さんがすっごい怒ってなぁ〜。『私の料理を吐いたりするなんて!! シゲちゃんなんてこれから1年にんにくよーーーっっ!!』とか言って、駆け出したんだよな。まぁ、当然父さんはそれを追いかける……とか思ったんだけど父さん動かねぇの。ブツブツ言ってるから何かな〜とか思ったら、『にんにく、にんにく、にんにく、にんにく……に、にんにん!!』とか言ってやがんの。
 終いには忍者みたいに手を組んでどっかに消えていったよ。それで私は閃いたんだ!“にんにくが弱点か……!”ってな。はあぁぁーーっはっはっはっはっはっは!!」
 再び高笑いを始める。周りの人間は何も言えない。
 と、そこでフレアはあることに気が付いた。


 *


「ホラ、昼飯だ! 私が作ってやったんだから心して食え!!」
「うわー、すごいなぁ〜。みっちゃんって料理、出来たんだっ」
「ふっ、当たり前だろう。私に出来ない事などない!!」
 ・
 ・
 ・
「う……お腹痛いかも……」
「ん? クーラーの効き過ぎか?」
「……ごめん、ちょっとトイレ借りる……」
「何だ、何だ、皆して。 んなっ?! クーラーの設定温度が12度?!?!
 だ、誰がこんなに寒く設定したんだっ!?」
「みっちゃんでしょ……」
 ・
 ・
 ・
「それじゃ、また」
「今日はありがとうね〜〜。じゃ、また休み明けに」
「おぅっ。家に帰ったらすぐに寝るんだぞ! 皆、体調が悪いみたいだからな」
「うん、わかった。 バイバイッ」


 *


「み、美沙……お前もしかしてこの前の夏休み……ちょっと来い!!」
 フレアはその可能性に気が付くと瞬時に美沙君をひっぱって行った。
「ななな何だ! 何をする! ……あ、いえ、何でもないです」
 突然首根っこを掴まれて引きずられる美沙君。抗議の声をあげたものの、チラリと見えたフレアの顔が恐ろしく怖かったのですぐに黙った。
「YESかNOだ。この二つで答えろ。
 この前、お前ん家行ったときに昼飯作ったよな?その時の材料の中に茎状のものがあったか?緑のヤツだ。 どうだっ?」
「くくく、茎状……??? イ、イェェース……」
「それじゃ、その食材。切ったときに白い液体みたいなのが出なかったか?」
「…………・ど、どうだったかな」
「みぃ〜〜さぁ〜〜〜???」
「イイイイイイエェェェス!!!!!」
「……ソレ、料理に使ったんだな?」
「う……イエェス……」
 ドサッ
 そこまで訊くと、フレアは唐突に首根っこから手を離して、美沙君を地面に叩きつけた。そして、にっこり笑うとナナ達を呼ぶ。
「ナ〜〜ナ〜〜♪」
「何?どうしたの。 フレアが“♪”マーク付けるなんて……」
 とは言いつつもにっこにっこと笑いながら駆けてくるナナ。“うふふふ〜〜〜、あはははは〜〜〜”なんていう3流ドラマの一場面のようだ。
「殺(や)っていいよ♥」

「――……んにょあぁぁっあぁぁっっ?!?!?!」
 自分の意思を無視して繰り広げられる取引に美沙君は抗議しようとするが、両者が余りにも嬉しそうに笑っていて、そして怖いのでとても口を挟むことが出来ない。
「わぁ〜〜い。 ……って何で?」
 ものすごく嬉しそうな歓声を上げたが、一瞬冷静になったようで、ナナは疑問符を撒き散らしながら訊いた。
「ん〜。 この前美沙ん家行ったときに一服盛られてたみたいだから♥」
「なぁ〜〜んだ〜〜。 そういうことなら……って、えぇぇ?!?!」
 事の重大さ(?)に今頃気づいたのかナナが驚きの声をあげる。
 そして、美沙君の方を向いた。
「ほほぅ……なるほどな……。
 昼飯を作ってやったと見せかけて一服盛るという悪事!このナナ=カルラがしかと、見届けた!! えぇぇいっ、ひっとらえぇい!!」
『なんでいきなり時代劇やねん』
 後からのんびり追いついたココロと刳灯は話の内容はわからないものの、すかさず突っ込んだ。しかしフレアに横から理由(ワケ)を聞くと一瞬で仲間入りした。
「たぁぁぁっ!!!」
「ひぃぃっ」
「すちゅわぁぁっっ!!!」
「ひょえぇぇーー」
 あっ、という間に時代劇の役になり切った3人に美沙君はひっとらえられた。その様子を確認するとココロは懐(!)からブツを取り出した。
 ――ちなみにフレアは既に他人のフリをしている……。
「えぇぇい!静まれぃっ!! この紋所が目に入らぬか!!」
 …………。
「えー……っと……学園の生徒手帳??」
「……ん?」
 当然“紋所”なんてモンが懐に常備されているはずもなく、出てきたのはR学園の生徒手帳。ココロは一瞬、固まったがすぐに懐から違うものを取り出した。
「こ、こっちがホンモノだもんね!!」
 慌てたのか、時代劇口調(?)が抜けている。
 今度、取り出したのは確かに“紋所”。……なんであるんだ。
 美沙君はその紋所を見ると青ざめてその場にひれ伏した。
「そっ、その紋所は……!!! ははーーーっ!!」
 すっかり時代劇モードに入った美沙君達。徳川の葵紋のレプリカでなにやら説教くさい事をしている……。



 フレアはというと……公園を抜け、一人道路を歩いていた。
「ふっふっふっふ……美沙、仕返しは100倍返しだからな……」
 悪魔の笑いだった。
あとがきっつーか、覚え書きみたいな感じで。
日記で唐突に書き始めたR学園の番外編でした。
まぁ、なんつーか……オチなし!!!(うえぇっ?!/ある意味これがオチ

2003.10.22 - 執筆