ラブラブのように見せかけて実はシリアス、とか。
2005.5.18.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 10 ] 諦めろ、恋人。
とんでもない人に恋をしてしまった。
それはよくわかっていたのだけれど――
「は、何お前。 俺の女に手ェ出そうとしてんじゃねぇよ」
まさか、その人は既に恋人が居て、しかも……それが僕等の学年で一番モテると言われているこの人だなんて!!
「いっ、いや!そそそそ、そそ、そんなまさか、いや!ホントに!!」
情けないかな、ごくごく一般人、普通も普通の僕は、
「お、お幸せにね!応援してるよ竹内君!!」
そう言って、走り去る事しか出来なかったんだ。
* * *
「……正吾?」
ガサッ、と音がして木の陰になっていた所からアイツが出てきた。
「ん、何もねーよ」
俺は首を振って答える。……いや、本当は“何か”あったんだが、それをわざわざ言う必要もないだろう。むしろ、絶対に言いたくない。
「そ、そうか?いや、ならいいんだが――いきなり別の方向に行くからビビったぞ」
少し顔をしかめて髪についた葉っぱを取り除く。俺はまだ残っていた葉っぱを取ると、そのまま腕の中に抱き込んだ。
「なっ、お、おまっ、何して……!!!??」
いい加減慣れて欲しいと思う。俺がコイツに告白して、そして実は両思いで……まぁ、まだ1週間しか経ってないんだけど。
「ったく、美沙お前ねぇ、こーいうの何回目だと思ってんの?」
俺は“両思い”だったという事が嬉しすぎてこうして何回も抱きしめたりしているのだ。
「なっ、何回目だと?! そんなの――数えているわけないだろう!!」
……。
…………。
いや、誰も本当に何回目だ?、と訊いてるわけじゃないんだけど。
「ま、いいよ。これから慣れればいーし」
更に腕に力を入れて、慌てふためく美沙を閉じ込めた。
* * *
「はぁ……」
僕が教室に戻ると興味津々(…)で送り出してくれた友達が駆け寄ってきた。
「どうだった?!」
「……って見りゃわかるか」
「まぁ、仕方ねぇよ。相手が守山じゃあなぁ」
「諦めろ、恋人。そう、恋人じゃなくて……まずは友達から始めなきゃ守山は落とせないって事だよ」
口々に慰め(?)の言葉をかけてくる友人達を僕は手で制した。
彼らは不思議そうに顔を見合わせた後、一人がポツリと呟いた。
「あれ、もしかして――予約済みだったとか?」
僕は唇を噛んだまま押し黙る。
するとさっき呟いたのとは違うヤツがボソリと言った。
「……それじゃ、噂は本当だったみたいだなぁ」
「へ?噂って何だよ?」
彼は困ったように頬をかくと、こう言った。
「俺のクラスに竹内ってヤツがいるんだけど――そいつが守山と付き合ってるって噂があってさ。ほら、アイツ告られてもずっと断ってるだろ?だから女子達がそう言っててさ」
「あ、オレも聞いたことあるぜ!それに確かアイツ等、幼馴染だっていうし」
「て事は何か?!最初っから勝ち目なかっ――」
そこまで言って彼らは気づいたのか、慌てて僕の方に向き直った。
「い、いや!でもまだ決まった事じゃないしさ!どうせお前も守山に断られただけなんだろ?」
ほら、これはオレ達の憶測ってヤツだし!と、一生懸命良い方向に持っていってくれようとしているのはわかる。わかるけれど……それは僕には届かない。
僕は力無く首を振った。
「ううん、違うんだ」
そしてやっぱり力無く笑って、
「僕、守山さんに告白するまでいけなかったんだ。彼女、いっつもお昼は中庭で食べてるって言ってたろ?だから待ち伏せして、そこで言おうと思ったんだけど……」
「だ、だけど?」
「守山さんに声かける前に、隣に居た竹内君に気づかれちゃって」
そういや初めて会ったんだけど、怖そうな人だったなぁ。
「『俺の女に手ェ出そうとしてんじゃねぇよ』って言われちゃった」
固まる友人達に「勝ち目なんか全然無かったんだよ」、と笑って付け足して。
「だから、もう、すっぱり諦めることにするよ」
本当は引きずりそうだ、とわかっていたけれど……そう言った。
* * *
「だああ!!ばっ、馬鹿やめろ!こ、ここ、ここは学校なんだぞ!!?」
腕の中の美沙が半ば叫ぶように言ってくる。
俺はその髪に口付けを落としてこう、囁いた。
「諦めろ、恋人。――もう、誰にも渡さないからな」
夢のような、すぐに、終わってしまう夢のような
世界が
「絶対に……離さないから」
消えてしまうまで。