台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 16 ]  イイ男、イイ女。

「ふっ、愚問だな」
 と彼女はそう言うと、腰に手を当てて
「イイ男、イイ女。……男は知らんが、女とはズバリ!!
 この私のような女性の事を言う……というか、私の事だ!!」
 ――声高々にのたまった。



 * * *



 最初にそれを口にしたのは誰だったのか。
 今ではわからないけれど、とりあえずナナとかナナとかナナ辺りだろう。
 まぁ、俺にはぶっちゃけ関係ねーとか思ってたから、右から左へ聞き流していたのだ。
 けれどしばらくするとその話の輪の中にいつの間にか入ってたりして。
「ねね、くーちゃんはどう思う?」
 そんな風に聞かれてたりして。
 あれ、おかしいな。俺はこの話はさら〜っと聞き流してるつもりだったのに、何でこんな事訊かれてんだ?そんな事を思いつつも
「……さぁ?」
 と、軽く受け流した。
 質問したナナはと言うと、口を尖らせて
「さぁ、って。もう、くーちゃんはダメダメっ子だねぇ!全く、そんなだからチミはいけないのだよ!」
 チッチッチと指を振りながら言ってくる。
 その次に来るのは確実にフレアの事だろうから、俺はすかさず話をすりかえる。
「いいじゃねぇか、別に。それよりも他のヤツにも訊くんだろ?ホラ、美沙とかヒマそーにしてるからいいんじゃね? な、あの窓際ンとこ」
 チョイチョイと指差したのは窓際で黄昏てる美沙。相変わらず真っ黒くろすけな服装だから見てて暑苦しい。ま、それを口にしてわざわざ寿命を縮める必要もないから言わないけど。
「おぉ!カモだね、カモ!ねぎしょってる感じ!!」
 にゃっはは〜〜ん、と目を輝かせてナナは飛んでいった。……コイツも色んな意味いつも暑苦しくて疲れるんだよなぁ、ホント。俺はふぅ、とため息をつくと辺りを見渡した。
 今は昼休みだったから割と人は少なくて、だから探していたヤツはすぐに見つかった。

「尚吾ーっ」
 机に座って本を読んでいた尚吾。ていうかコイツ休み時間はいっつもこんなんだよなぁ。……友達いねぇのか?とかちょっと思ったりしてみたり。まぁ、そこらへんはサクシャノツゴウとかいうのがあるらしいから別にどうでもいーんだけど。
「ん?あ、刳灯。どうかした?」
 本から顔を上げて応える尚吾に俺はニヤ〜と笑って肩を叩いた。
 この笑いに深い意味は……あるのだが。だってコイツってばモテるくせに自分の気持ちをわかってないっつーか、見てて面白すぎてどうしようっつーか……まぁ、兎に角そーいう系の話題をふっかける時は思わずニヤけてしまう。
「……なんかその笑い嫌な感じがするな」
 おぉ、察しの良い事で!
 でもそれは口に出さずに、他の言葉を口にする。
「いや、実はさぁ、さっきナナから質問されてな?俺がちゃんと答えなかったからさ、今度は美沙に聞きに行ってんだよ。なんか“イイ男、イイ女”の基準がなんたらーとか言ってさ」
 ホラ、アレ、と窓際の二人を指差す。
 すぐに顔を戻して尚吾の方を見て――ぷっ。
「はぁ?何だい、ソレ」
 心底嫌そうな顔をして尚吾はそう言った。
 あぁ、もう面白くて仕方ない!コイツ、女子つーか異性にはすげー人当たり良くってそのせいで色々勘違いされたりする事が多いのに、美沙が絡んだ時だけこうなるんだよ!もうお前わかりやす過ぎv
「はっ、そんな事訊いたらあのバカが何と答えるか……目に浮かぶようだね」
 心の中で大爆笑の俺を他所に尚吾は肩をすくめて嘲笑する。
 そして腰に手を当てると、こう言った。
「“イイ男?ふっ、そんなモノは知らんがイイ女なら知ってるぞ!イイ女とはこの私のような女性の事を言う……いや、むしろこの私の事だな!はっはっは!!”
 ――とでも言うんだろうよ」

 ……しばし固まる。
 いや、なんつーか、その。

「お前そんな、声までマネんでも……」
 そう、何を考えてるのかコイツ、ポーズだけではなく声までマネて言ったのだ。しかも何故か、すごく似てる。
「いや……つい、ね。でもバカさ加減がよく似てただろう?」
 隣に“けっ”とかそういう効果音が付きそうな顔。愛となんちゃらは紙一重って言うけどホントなんだなぁ。つーかこれは“嫌よ嫌よも好きの内”とか“好きな子にはいぢわるを☆”とかいう方が近いような気もするけど。
「は、はは……そうだな。んとそれじゃ俺“答え”聞きに行ってくるな」
 ひきつった笑いを返しながらその場を後にする。あれ以上なんか言うとちょっとアブなそうだったからな。――アイツも早くちゃんと自覚したらもうちょっとからかい甲斐があると思うんだけど。……いつもからかわれている側の俺としては反対の位置に立ってみたいモンなんだよ!
 まぁ、それはさておき。

「でさでさっ、こないだ夜のニュース聞いてたらね。お天気おにーさんがさ、『残暑が厳しくなるざんしょ』とか言ってさぁ!もう思わずテレビ殴りつけちゃったよぉ♪」
 ――いや、ていうか何の話してんだお前。
 美沙の“答え”が気になってやってきた窓際。とっくに質問して答えを言ってる頃だと思ったのに……何だか意味のわからないオヤジギャグの話をしてやがる。
「はっはっは!そのような輩は即刻クビにするべきだな!くっ……残暑が厳しくなるざんしょ……っ、誰がその原稿作ったのだろうな!アホらしくて涙が出てくるな!!あっはっはっは!!!」
 うわー、バカウケしてるし。俺はものすごくサムくて鳥肌立つけどな。
「でしょでしょ?!しかもその後の番組がまたオヤジギャグ連発でねっ、もうその日は笑いすぎて死ぬトコだった!」
 むしろ死んどけお前は、そんな風に思ったがナナは死んでも化けて出てきそうで怖いからな……。そう考えて少し痛くなった頭を抑えながら、俺はナナの肩を叩いた。
「あれ、くーちゃん。どったの?あ、さっきの質問の答え?」
「ちげーよ。つかお前、美沙に訊くんじゃなかったのか?」
 ボソボソと美沙には聞こえないくらいの音量でしゃべる。ナナは「おおぅ!」と手を叩いた。
「そうそう、そーいやみっちゃんに質問があるんだったよ!」
「質問?ふっ、どんな質問だ?言ってみたまえ!」
 やたらと偉そうな態度。いつもの事だから大して気にはしないが初対面の時はかなりムカついたよなぁ。全く尚吾も何でこんなのがいいんだか、さっぱりわかんねーな。
 そんな事を思っている内にナナはさくっと質問したようだった。
「これね、くーちゃんにも訊いたし、ココロとかフレアとかにも訊いたのにちゃんとした答えくれなくってさぁ。ね、みっちゃんならどう思う?」
 そう訊いたナナに
「ふっ、愚問だな」
 と美沙は言って、腰に手を当てた。……お決まりのポーズってヤツか。
 そして無駄に偉そうな口調で
「イイ男、イイ女。……男は知らんが、女とはズバリ!!
 この私のような女性の事を言う……というか、私の事だ!!」
 ――と、声高々にのたまった。
「なるほどぉ!」
 ぽむっ、と手を叩くとナナはにこやかに笑う。
「みっちゃんにこーいう質問するのは間違いだって事忘れてたや♪」
「んなっ?!ナナ、お前それはどーいう意」
「じゃ、そゆ事で!次は誰に聞こっかな〜〜♪」
 たったかたったか、と小走りで駆けていってしまった。そして俺もナナに軽くあしらわれた美沙の怒りがこちらに向く前にその場を退散する。



 * * *



 ……。
 …………ていうか。

「尚吾と美沙の言葉、ほとんど一緒じゃねぇか……」

 愛の力ってスゴイっ☆
 ……と、でも言っておくべきなのかどうなのか。

 心底悩む、昼の出来事。
よく考えてみれば刳灯の一人称って何気に初めてかも。
……ちなみに残暑云々は半分くらいは実話です。いや、お天気おにーさんは言ってないけどね。

2005.9.16.