台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 35 ] 過程の無い結果論は嫌いなの。

「過程の無い結果論は嫌いなの」
 と誰かが言った。
 俺はそれに確かこう返した。いや、確か、とか思い出すまでも無い、こう返したのだ。
「バカやろう!!!結果良ければ全て良し!!過程なんざ関係無いんだよ!!!」

 ――今になって思うと何故あんな自信満々に返したのかがわからなかったりする。



 * * *



 そしてある日、俺はその言葉を違う人の(当然だが)違う口から聞く事になった。
 目の前のびん底眼鏡がキラリと光る。勿論イメージだが。
「そうですね……過程の無い、結果論だけは嫌いです」
 最新作の某先生の推理小説を片手に彼女は言った。


 俺はそれをこないだ読んだばかりで毎度の事ながらこの人は素晴らしい作品を創るモノだと感激したところだった。
 だから、つい、うっかり。――そう、うっかりだ、うっかり。
 彼女がそれを手に持っているのを見て犯人の名前を――言ってしまった。
「……ちょっと、人がまだ読んでるのにそれは無いでしょう雄介さん」
 俺も言った瞬間そう思った。
 だってそりゃそうだろう。
 ウッキウキワクワクわいてぃーびー……じゃないけど、ウキウキワクワク気分で読んでる最中、結末だけをヒョイと放り投げられたら誰だって堪らないハズだ。
 ましてや推理小説。
 今まさに!殺人事件が起こった……一体誰が?!どんなトリックを使って?!
 ――となってる所にポーンと犯人だけが飛んできた。

 とんでもない話だ。

「え、えええっと、その――大変申し訳ない!!!こないだ俺それ読んでさぁ、つい!!!」
 平謝りするが咲ちゃんは腕を組んで冷めた視線のままこちらを見ている。
 その視線に耐え切れず。
 俺はまた余計な事を言ってしまった。
「ホラ、某古畑とかウチのカミさんみたく、最初に犯人がわかってるのってあるじゃん?!そういうものだと思って読んで貰えればっ」
「でも“コレ”は違うんだから関係ないでしょう」
「そ、そうですよね……」
 そう、その場合は探偵がいかにして犯人を追い詰めていくか、それが楽しいのだ。
 しかし最後に解き明かすタイプでは当然犯人がわかっていないのだから犯人についての詳しい情報も無ければ犯人視点の場面も無い。――いや、勿論“誰”かわからない状態での描写はあるだろうが、やはり誰か“わかっている”状態に関しては無いはずだ。
「た、大変申し訳ない……」
 俺は深く項垂れて謝罪の言葉を口にした。
 咲ちゃんは大きく息を吐くと頭を手で押さえてブツブツ呟いて、
「――仕方ないですね、もう過ぎた事だし。本当に次は無しですからね」
「おう!――いえ、はい!」



 咲ちゃんは差し入れていたしおりを抜いて読書を再開する。
 と、思ったのだがくるりとこちらを向いた。
「ところで、何時までここに居るつもりなんですか?」
 椅子に座る咲ちゃんを床に座る俺は見上げて返す。
「勿論、夜まで居て添い寝OKだよ?」
「即行帰って頂けますか」
「……はは、じょ、冗談だって」
 そして「しばらくしたら帰るから」と付け加える。
 咲ちゃんはその答えに「そうですか」と返し、机に向かった。
 俺は何だか手持ち無沙汰でそれを見ていた。

 見ながら、少し考えていた。
 例えば俺が同じ状態になったとして、簡単に許せるかなぁ、と。
 色々すっ飛ばして結果だけポーンッ……推理小説じゃなくてもそれってヤじゃないか?
 そう考えていて、ふと思い出した。

 あれは高校の頃だったっけ……。

 思い出そうと思考をそっちにやっているといつの間にか咲ちゃんはまたこちらを向いていて、
「さっきから何をブツブツ言ってるんですか?過程だの結果だの……」
 不思議そうにそう言った。
「へっ? あっ、やば、声に出てた?」
「えぇ、無意識ですか。末恐ろしいですね」
「……」
 ええい、傷つくな俺!いつもの事だろ!
 ――そっちのが傷つくか……。
「いやぁ、なんつーか、その。昔の会話とかふと思い出しちゃって」
「? 何です?」
 興味を持ったようで咲ちゃんは話に乗ってきた。
 俺は何とか上手い事それを説明出来ないか、と数秒考えた後、
「過程の無い、結果論――がどうのこうの、って話。 ホラ、さっき俺が過程すっ飛ばして結果を言っちゃっただろ?だからかな、なんか思い出しちゃって」
 はは、と苦笑いをしながら言う。
 今はそれを言った人が誰だったかは思い出せないけどそれに俺はこう返したのだ、という事も後に続けた。
 咲ちゃんは黙って話を聞いていて、一通りしゃべり終えた俺を見て、
「そうですね私も過程の無い、結果論だけは嫌いです」
 こう言った。手には事の元凶――いえ、当然マジな元凶は俺なんですが――の推理小説を持って。
 なんとなくわかってはいたが妙にずしんときた。
「だってそうじゃないですか。今回の事も勿論、何でも過程があって結果があるんですから。過程無くして結果無し。――雄介さんも今反省してくれてるのだったらそう思っているんじゃないんですか?」
 はっ、と顔を上げる。
 そうだ。
 俺はさっきそう思っていたじゃないか。
「そ、うだよね……」
 うんうん、確かにそうだ。俺だってスポーンと過程を吹っ飛ばして結果言われんの嫌だからな!
 じゃあ、あの時は何でだ?
 そう思って再び思考を辿る。
 あれは――――


『100点!!見ろよこの神々しいまでの点数を!!』
『お前、ほんっと殺したくなるからちょっと黙っててくれよ』
『その意見、激しく同意するわ。――大体、何でこんなにも勉強してるあたしがへらへらしてるアンタに負けなきゃいけないのよ』
 黒ぶち眼鏡の女生徒が怒りをあらわにしている。
 その横、物騒な台詞を言っていたのは、俺の親友の高坂か。
『毎日学校の後に塾行って、帰ってからも勉強してんのよ?!それなのに……!浅倉、もしかして家でガリ勉してんの?』
 それに俺はこう答える。
『まっさかぁ。大体ガッコの勉強なんてさらーっと聞いてりゃ頭に入るじゃん。家での勉強なんてせいぜいテスト前日だけだって』
『うっわ、聞きましたか×××さん。ちょっとコンクリで固めて港に沈める?』
『その意見にも激しく同意するわ。あたしの努力が全否定されるような台詞、聞き捨てならないものね』
 ×××。
 あれ、名前なんだっけ?
『いやぁ、別に努力を否定してるわけじゃないって。でも勉強しようとしなかろうと結果が全てじゃん』
『でもあたし、もしアンタみたいに頭が良くたって勉強はきっとするわ。過程の無い、結果論は嫌いなの。勉強するっていう過程が無い人に良い結果が出てるのは許しがたいもの。――アンタみたいなのばっかりは神様を恨むけどね』
『その意見、ものすごく同意するぜ。やっぱり一回雄介は痛い目見た方がいいな』
 言いたい放題な友人達の言葉に若干傷ついた俺は。
『バカやろう!!!結果良ければ全て良し!!過程なんざ関係無いんだよ!!!』


「――テストに関してはまた別だと、そう思いますが……」
 その話をすると咲ちゃんが苦笑しながらそう言った。
「だよねぇ?!やんなくても出来るんならやんなくていいじゃんね?!」
「はぁ、まぁ、テストに関しては100点が上限ですからね。それでいいんじゃないですか……」
 咲ちゃんの温かい(?)言葉に慰められる。
 けどコレにはまだ続きがあって。


『ははーん、じゃあちょっと勝負すっか?お前と×××で。次のテストでどっちが勝つか。勿論×××は勉強するだろうし、雄介は今回みたくしないんだろ?あ、勿論負けるかも〜とか思うんだったらするべきだけどな。
 んで負けた方が勝った方と俺の言う事を聞く!』
『いや、ちょっと待て!俊彦は関係ないじゃん?!』
『そっ、そうよ高坂君勝負しないんでしょ?もし私負けたら何言われるか怖いじゃない!』
 慌ててそう言った俺達に高坂は人が悪そうな笑みを浮かべて、
『へー、二人とも負ける気満々なワケだ? いや〜結果が実に楽しみだねぇ?』
 挑発的に言った。
 当然それをさらっと流すことも出来ず、俺達は勝負をする事になり――

「で、負けたんですね」
「あああああああああああ!!!!何でそこ、疑問系ですら無いの咲ちゃん!?」
 辛辣な言葉に泣きそうだ。
「で、負けたんですよね」

 ……。
 コクン、と首を縦に振った。

「情けないですね……もしかして本当にその時勉強しなかったんですか?」
 再び首を縦に振る。
「自分の力を信じるのは良い事だと思いますけど、過信はいけないでしょうが……」
「ですよね……」
 今度を首を縦に振る――というより、上から下へ。そのまま深く沈みそうなくらい項垂れた。
「それにしても、その人の名前覚えてないとか本当に失礼な話ですよね。あ、賭けはどうなったんです?負けたんだから何か言われたんでしょう?」
「あぁ、それなら×××って方は保留にしとくとかで何も無かった。俊彦――あ、香坂俊彦っていう俺の親友には、その後しこたま奢らされた」
「なるほど」
 咲ちゃんはそう言ってしばらく考えてるように押し黙り――
「じゃあ」
「ん?」
「私も何か奢ってもらおうかな」
「えっ?!」
「――と思いましたが雄介さん別に苦痛に思わなさそうだからやっぱりいいです」
 ガクーン。
 確かに嬉しい!嬉しいけどっ、くそ、顔にウキウキを出しすぎたか……。
 いや、だってデートのお誘いかと思うじゃん?
 そんな俺の心情を知ってか知らずか、咲ちゃんは続けた。
「まぁ、何か欲しいモノとかがあったら奢って貰おうかな」
「えっ?! い、いいよ!勿論!!服でもデザートでも――」
 再びウキウキデートさんか?!
 そう思ったのも束の間、
「――通販限定で」
「ですよねー」
 涙で前が見えなくなりそうだ。



 “しばらく”が経って俺は家に帰った。
 出迎えてくれるのは猫一匹のみ。下の弟達は部活とか補習とか。
 両親は仕事中。今頃手術とかやって大変なのかもしれない。
 そういや俺も明日はいつもとは違う日程だったような、と思い出す。
「小児科の方に顔出さなきゃ――」
 そこまで考えてちょっと嫌な気分になる。
 小児科に行くとなると会わなきゃいけないだろう人が居る。俺はその人が苦手なのだ……。



 * * *



 長い黒髪をおだんごにして纏めてる後姿。
 アレか。
「はああ……」
 大きく息を吐いてからシャキッと身構える。
 そして一歩一歩近づいて行って、
「安藤先生、おはようございます」
「あら、浅倉先生おはようございます。どうされたんですか?こちらに来るなんて」
 にこやかに微笑む彼女は安藤……安藤――下の名前は思い出せない。まぁ、思い出せなくても支障は無いのでいいか。
「えぇ、実はここに入ってる患者さんから名指しで呼ばれちゃったみたいで。病室どこですかね……」

 呼ばれた、というより呼びつけられた。
 最初は「ハァ?!」と思ったがカルテの名前を見て気が変わった。
 知った名前だったからだ。

「えーっと……ちょっと待ってくださいね」
「はい」
 そう言ってナースステーションの方へ言った彼女を待つ。
 ……っふー、緊張するぅ。
 非の打ち所の無いような安藤先生を苦手な理由。それは(誰の事だか忘れたけど)昔の知り合いに似てるからだと思うんだが――それにしたって何でこんなに疲れるんだろう。
 ポケットからハンカチを取り出して出た汗を拭う。別に汗っかきじゃない。冷や汗だ、コレは。

 しばらく待っていたが帰ってこない。ふと俺はその患者の名前を告げていない事を思い出した。
 慌てて彼女が向かったステーションへと行った。
 そしておだんご頭で白衣の女性を呼び止めて――

「「あ」」

 ×××。

「ふじ……みや」
 ×××=藤宮。
 そして安藤先生に似てる苦手な昔の知り合い=藤宮。
 一度に二個の疑問が解けてなんだかお得な気分!
 ってそうじゃなくて。
「浅倉!アンタここの病院だったの?」
「あぁ、うん。……で、藤宮は……医者ンなってたの?」
 その言葉にあからさまに嫌そうな顔をして、眉間にしわを寄せたまま笑う。
「そりゃあストレートには行かなかったけどね。おかげさまで念願の小児科医よ!来週からここの病院に来るからよろしくね。ところでアンタは――」
「一応外科の方にいるよ。病棟違うから滅多に会ったりしそーにないけど、まぁ、よろしく」
 すちゃっ、と手を上げてその場を後にしようとして……本来の目的を思い出す。
「あ、そうだ。安藤先生ー?わかりましたかー?」
「えぇ。5階の一番東側の個室ですね。場所わかります?一緒に行った方がいいのかしら……?」
「いや、大丈夫です。いざとなったら辺りに居る看護士さんに訊きますんで」
 今度こそすちゃっ、と手を上げて行こうとして――
「何、どうかしたの?」
 藤宮に呼び止められる。
「いや、何でもナイデスヨ?」
 適当に誤魔化して逃げようとしたが運悪く藤宮の用事が終わってしまったらしく、ついてきた。
「そのあからさまな態度。すごく気になるわね……一体何を隠してるのかしらね?!」
「別に何も無いって。ちょっと知り合いの弟が入院してるからソコ行くだけだって」
 だーかーらー、ついて来るなって!と言って追い返そうとする。
「やっぱり何かあるわね……。ところで浅倉、“保留にした件”覚えてる?」
 うっ。忘れてた、けど、昨日思い出したばかりだ。
 顔に出てしまったのだろう、藤宮はニヤリと笑って言った。
「じゃあ今それを使うわ。今日の晩、呑みに行きましょう!その時に根掘り葉掘り聞かせて貰うという事で」
「へっ!?」
 驚く俺を他所に彼女は続ける。
「あ、当然アンタの奢りね。――異論は受け付けないから、じゃ!」
 すちゃっ、とさっき俺がしたかったやり方で彼女は去っていった。

「……今月結構厳しいんですが……」
 いつに無いくらい出費が多かったのだ。しかしそんな事彼女が構うはずも無い。
 俺は歩きながら安めで済む居酒屋を頭の中でピックアップする。
 そしていくつか候補上げ――

 そこで、例の部屋の前に着いた。
 コンコン、とノックして中からの返事を待つ。
「はい、どうぞ」
 声がしたので「失礼します」と言って中に入った。






 茶色い髪をした華奢な少年がベッドに居た。
「浅倉先生――ですか?」
 透き通るような声が響く。
 俺は深く頷いた。
「うん。 初めまして、優希君」
後半は「僕と空」の主人公と担当医の話に変わりましたが、前半は「014/025」の人達です。
学生の時分は結果結果結果ァァァッァ!!!みたいな感じだったのでこんな風になりました。
浅倉みたいな頭の持ち主になりたかったです。そんな自分は出来ないくせに勉強しない人でした!!

てか後半マジでぐだぐだですみません。
自己満足も程ほどにしろって話ですね。すみません、自重しませんが。

2008.7.18.