バカなヤツ等だ……;;
2005.11.15.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 17 ] ねぇ、どうしたら嫌ってくれる?
「ねぇ、どうしたら嫌ってくれる?
攻略法教えてくれよう〜、びすたぁー!」
とりあえず殴りたい。
瞬間的に頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
* * *
事の発端はとあるゲームから。
そのゲームは所謂“恋愛シミュレーション”で、プレイヤー操る主人公の恋を成就させる事が出来たらゲームクリア、というものだった。
どこにでもある、何の変哲もない恋愛シミュレーションゲームだ。……まぁ、強いて言えばキャラクターの名前変換が可能という事だろうか。
まぁ、兎に角そんなゲームがあったのだ。
「……で、お前は朝っぱらから何やってるんだ?」
おはようと挨拶をしたのにこちらに向きもせず「んー」とだけ返してきたヤツに問う。
ソファに膝を立てて座り、何かを抱え込むようなその姿の向こうからはピコピコという電子音が聞こえていた。
「げぇーむぅー」
だらーっとした声が返ってくる。覗き込んでみると最近発売された小型ゲーム機が見えた。
「いつの間にそんなモンを……」
小さく呟く。というかその前にコイツがゲームをやるようなヤツだとは思わなかったんだが。
「ん、なんかティカ――あ、俺の知り合いだけど。ソイツが依頼の報酬で貰ったとかで。こないだ押し付けられちゃってさぁ。んでソフトもあったからさ……やっぱやんなきゃ勿体無いじゃん?」
そう言いつつ手を動かす。それに伴ってピコピコという電子音が響いた。
「へぇ。それで何のゲームをやってるんだ?」
「恋愛シミュレーション。“愛してボクの天使様”」
……。
……どうなのそのタイトル。
「主人公の恋を見守るハズの天使を、当の主人公が見てしまってその上その天使に恋をしてしまう。人間と天使という種族の違いに悩まされながらも無事に天使様のハートをゲット出来るのか!!
――てのが大体のあらすじでさ」
くるり、とこっちを向いてファルはそう言った。
そしてすぐにまたくるり、とゲーム画面に向き直り
「んでキャラクターの名前とかを自分で設定しながらやるんだよ。まぁ、全部を変えられるってワケじゃないけど、主人公と相手天使、それに話に関わってくる主人公の友達数人と天使仲間数人は自分で決められるんだよね」
と付け加える。
名前……ねぇ。
「お前も名前変えてやってんのか?」
「おぅっ」
「どんな?」
ここで少しでも興味が沸いてしまったのがいけなかったのかもしれない。
今になってそう、とてもそう思う。
「そっりゃ勿論、主人公はファルギブ!!相手天使はアスレア!!その他数名はビスターにヴァルア!それに魔術師6人にあとは知り合いちらほら!」
ちなみに“アスレア”というのはファルの好きな人らしい。いつか会わせてやる、みたいな事を言われてはいるが……いつになる事やら。
いや、でも今はそれより!
「――ぼ、僕の名前も使ってるのか」
何となく嫌な予感がして思わず訊いてしまった。
ファルはその言葉にに〜んまり、と笑って
「うんっ、俺(主人公)に恋する女の子の ひ・と・りvvv なんちゃっ――」
次の瞬間、ゲーム機もろともファルは床と派手にキスをした。
* * *
そしてそんな出来事があってからしばらく経ったある日。
だだだだだっ、と階段を駆け上がる音が聞こえて、バァンッとドアが乱暴に開かれた。
その向こうには心なしか涙目のファルと……ゲーム……機?
――ついこないだアレもろとも床に投げつけてちゃんと壊れたハズなのに。
そんな事を思いつつも、訊いてみないとわからない事なのでとりあえずドアを開けたまま突っ立っているファルを促して椅子に座らせた。
……やっぱりその手には例のゲーム機があった。
「どうしたんだよ、何かあったのか?」
椅子に座ってからも何も話そうとしないファルにそう問いかける。すると間髪入れずにその瞳から涙が零れた。……はい?
「……何泣いてるかなお前は。てかそのゲーム機――」
何であるんだよ?、そう言おうとしたんだが
「びっ、びすたああぁぁぁ〜〜〜っっ」
という声に遮られてしまった。……ったく、なんて情けない声出すんだコイツは。
そしてファルはその情けない声のまま、まるで世界が終わったみたいな顔をしてこう言った。
「アスレアに嫌われちゃったのかも〜〜っっ」
――一瞬、理解出来なかった。
がその事を訊く前にどんどん喋り続けるので僕は先にそれを聞いてやる事にした。
「今さ俺天界にいんだけどね、そこで色々と尋問まがいの事されたりしちゃってるワケよ!んでその中に居たアスレアの友達ってのがさ……何でかしんないけどその子が俺の事好きになっちゃってさー!
それを知ったアスレアがその子の事応援しはじめんの!ねぇっ、自分の好きな子が他の子と自分をくっつけようとしてんだよ?!あ゛ああああっっううう、それって俺の事興味ないっていうか眼中にないっていうか、むしろ嫌われてたり……う、うわああーんっ。ヤだよー!アスレアー!!」
一息で全て言って、そして大声でわめき散らし始める。
……う、ウザ過ぎる。
でもまぁ、“嫌われる”云々の辺りはわかった。つまりこれはゲームの話なのだ。
それにしてもたかがゲームだけでこんなに熱くなれるとは。自分は到底無理だな、と小さく呟いた。
「兎に角どーでもいいけど落ち着けって。大体そんな事僕に言っても仕方ないって考えりゃわかる事だろ?」
そう、仕方ないのだ。むしろこっちとしては“聞きたくない”だ。
でもそんな僕の言葉にふるふると首を横に振って、ファルは言った。
「そんな事ないぞっ!ううん、これはきっとビスターにしかわからない事だから俺はこうして」
ゾクリ
何か言い知れぬ気配が体を這う。
……嫌な予感がする。まさか。
「まさか――お前、その“友達”の名前は……?」
恐る恐る訊いたその答えは。
「“ビスター”に決まってんじゃん」
頬を一筋の汗が滑り落ちると同時に、こめかみの血管が浮かび上がる。
そしてその様子に気づかずファルは続けた。
「ホント困ってんだよね〜。こないだ冗談で“俺に恋する〜”とか言ったのにマジになっちゃうし!その上俺とアスレアの仲を引き裂きかねん感じだしっ!」
心底困りましたっ、てな顔で縋り付いてくる。
「ねぇ、どうしたら嫌ってくれる?
攻略法教えてくれよう〜、びすたぁー!」
とりあえず殴りたい。
瞬間的に頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
とりあえず殴ろう。
瞬間的に頭で考える前に体はそう判断したらしかった。
ガスッッッ
再び、ゲーム機もろともファルは床と派手にキスをした。
* * *
さて、その後“ビスター”とはどうなったかと言うと――実は知らなかったりする。
というより知りたくない。てか関わりたくない。 2度目に殴った時にも確実に壊れたハズのゲーム機が翌日には直ってたりする事も知ってはいるがもう無視、だ。
さて、そしてその後“ゲームの終わり”はどうなったかと言うと。
「やっぱ俺達は結ばれる運命なんだよな♪」
朝の挨拶をしてやったのに返ってこないので近くまで寄ってみるとそんな声が聞こえた。
あんまりニヤけてゲーム画面を見つめているのでボソリと水をさしてやる。
「ゲームん中だけだろうけどな」
瞬間、固まったファルが見れたので今回はまぁヨシとするか。