スランプです。ってことでスランプを言い訳にします。 あー……そろそろヤバいのかねぇ……。
早いトコどっちかがフレアとくっついて欲しい気もするが……。
それやる時はどう思っても穴があれば入りたい程こっ恥ずかしいのになるよなぁ。
うー、恥ずかしいっ!(何なんだ
碧先生はお約束のように影の支配者です。 美沙君の夕飯はカリフラワーでした。
2003.9.5 - 執筆 / 2005.3.20 - 加筆修正
Act.11 「37.5」
「……37.5……?」テスト用紙を握り締めたまま固まった人物は頭の中でそれを反復した。
(…………37…………『.5』……???)
* * *
「この前やったテストを返すわね」
テスト期間が過ぎやっと一息つくのもつかのま、すぐに“返却”という恐ろしい行事が待っている。問題の解けた者、解けなかった者、全員が先生の持っている紙の束に集中した。
数学教師をやっている守山先生の奥さんの守山碧先生は社会の先生だった。外見だけで判断すると優しそうで、宿題とかを忘れても「じゃぁ明日ね?」と言って済ませてくれそうな……少し『甘い』雰囲気の先生である。
けれどお約束のようにこの外見とは正反対の人であった。
情け無用、容赦なし、忘れた者には其相応の罰を……がモットーの先生なのだ。しかも優しく酷い事を言うので、表面的にも精神的にも何かと辛い。
だからこそ、テスト返却という行事は生徒達にとって生きるか、死ぬかの戦いでもあった。――ちなみにこの行事ではいつも9割の人間は死ぬ事を此処に記しておく。
トントン
紙の束を揃える。恐らく出席番号順に並べてあるだろうその束を見つめ『ふぅ』とため息を付く。
「……それじゃあ、今から返します。名前呼んだら取りにきてね」
コクコク
声は出さないものの、皆は神妙に頷き、何人かは喉をゴクッ、と鳴らした。
「まず……守山さん」
「―――――………………は?」
黒ずくめのその人、守山美沙は疑問の声を上げた。
「……母さ……碧先生、私は出席番号は後ろの方だが?」
顎に手を当てて少し首をかしげる。他の生徒も何故なのかわからないため先生の出方を待った。
すると、碧先生は言った。
「あら、いやだ美沙ったら。名前呼んだら取りに来てって……言ったわよね?」
先生の後ろがふいに黒く……いや暗くなったのは気のせいだろう。
美沙君は体をガタガタ震わせながら
「ははははははははいぃい!」
と言って素直に従った。
精神的な物もあるがなんと言ったって碧先生は美沙君の生存……ご飯のメニューを握っているのだから。ここで逆らったら今日の夕飯がカリフラワーだけになる事は目に見えている。
「はい、よく頑張ったわね」
にっこりと手渡す碧先生に怯えながらも美沙君はテスト用紙を受け取る。……点数は100点。つまり満点だ。美沙君がほっとしたがそれは無残にもぶち壊された。
テスト用紙に書かれていた言葉によって――
『美沙、おめでとう。母さんが一生懸命作った問題全部解くなんてとっても偉いわ。お祝いに今日の夕飯は美沙の大好きなカリフラワーにしてあげるv』
美沙君がガバッ、と後ろを振り向くとそこには笑顔の碧先生。
……その笑顔は心からの物ではないのかもしれない……。
「か……母さん……」
「なぁに?」
「―――――………………いえ」
項垂れて席へ戻る美沙君を皆は不思議そうに見守る。点数が悪かったのだろうか?いやそんな事あるはずがない。だって美沙君は今まで満点以外取ったことがなかったのだから。
……だから、落ち込む美沙君を見て一同は不安になった。
「フレアさん」
「はい」
スッ、と席を立ち教卓へ向かうフレア。変人であっても頭はいいので点数の心配はしなくて良いだろう……だがフレアは悩んでいた。碧先生は今回、“何”を書いてくるんだろう?と。
「はい、あと少しだったけどよくやったわ」
用紙を受け取るとそこでは開かずに席へ戻る。そしてちらっと見る。点数は99点。……確かに惜しい。
そして一番下の『先生のコメント』という後から取り付けられた欄を見る。
『勉強もいいけど恋も頑張りなさいね? で、どっち選ぶの??』
「………………………………」
グシャ
「……フレア?」
隣の席のナナが不思議そうにフレアを見た。当のフレアは先ほど返されたテスト用紙を握り締めて下を向いていた。
「……侮れねぇ……」
ぼそっと呟いた声は自分にしか聞こえない範囲の物だったが……テスト用紙をひょいと覗いてきたナナには聴こえてしまった。
「え?碧先生ってば知ってたんだー、へぇ〜」
“にんまり”、そう表現するのが一番適切かと思われる笑みを浮かべたナナに、少し寒気を感じながらもフレアはテスト用紙を元に戻して間違った箇所をやり直した。
「山下君」
「はい」
「ココロちゃん」
「はーいっ」
「プリスタさん」
「はいっ」
次々とテストは返却されていく。その用紙を受け取り笑顔を浮かべた者も居ればまゆげをハの字に曲げた者もいる。そしてまた先ほどの美沙君やフレアの様な反応をした者も居た。
「カルラさん」
ナナの事である。
「はいっ!」
タタタッ、と教卓までの道のりを小走りに行きキュキュッと立ち止まる。
「前のテストよりだいぶ上がったわよ。頑張ったわね」
「ありがとうございますっ!」
ペコッ、と頭を下げると用紙を受け取る。そしてまた小走り気味に席へ戻る。
「どうだった?」
「ちょっと待って!まだ見てないんだって!!」
問いかけるフレアに手で対応しながら……用紙を開く。
「…………うっそぉ…………」
「……何点だったんだ?」
フレアが用紙を覗くとそこには赤色のペンで『90点』と書かれていた。
「おぉ……すごいな、前よりか50点近く上がってるじゃないか」
ナナは信じられないような顔で用紙を見た。そこにはどう見ても『90点』と書いてある。そしてにぱっ、と笑みを浮かべるとフレアの方へ向き直った。
「フレアとみっちゃんのおかげだよー。勉強会やってくれたから!」
半分夢見心地のような表情でニヘニヘ言ってる姿は十分に怖いモノだったがまぁ、喜んでいるという事なのでフレアはほっておくことにした。
その頃、また一人の名前が呼ばれた。
「刳灯君」
「はっ、はい!」
いつも点数の悪い刳灯は『今度こそ40点取りたい!』等と志しの低い事を考えながら教卓へ歩いていった。
「はいv 色々と……頑張ってね」
「…………はい」
“頑張ってね”、これが付いた時はいつも点数が悪かった。
……はぁ、刳灯はため息をつくと用紙を広げぬまま席へ戻った。
……開けたくないな……、そうは思うものの実の所は開けたくてしょうがないのだ。それが悪い結果であっても自分の成果が現れるモノだから見たいのは誰でも一緒だろう。
ガサッ
意を決した刳灯は用紙を開いた。
……渡される時は他の人に見えないよう二つ折りになって渡されるのだ。
そして――
「……37.5……?」
漏れた呟き、しかしそれは誰にも聴こえていないようだった。その方が良かっただろう、刳灯自身今何かを話しかけられても答える余裕はなかったのだから。
(…………37…………『.5』……???)
頭の中にクエスチョンマークがたくさん浮かぶ。
……テストの点数に果たして小数点を使っても良いものだっただろうか??
そんな事を思いながら、ふと先生のコメント欄を見た。
そして、また固まった。
『テストの方は置いといて……』
まず、此処でツッコミを。
『置いといていいんですか、先生』
まぁある意味嘆きでもあるのだが……。
『……どう?奪えそう?最近はどうも頑張ってるようだから先生くーちゃんの点数に0.5点追加してあげちゃう!
これからも頑張るのよー!!』
「え、……えー……っと…………?」
少し考えた後、瞬時に顔が紅くなり漫画で言えば……ボフッという音がして頭から煙が出ているような感じになった。
決して噴火したワケではない。
(……もももしかして先生……??!)
教卓の方を見ると相変わらずの笑顔でテスト用紙を返却する先生、そして窓際には愛しの(笑)フレア。その顔は心なしか不機嫌そうに見えた。
(……先生……知ってるのか……。ってことはココロの事も……)
はぁ、盛大なため息をつくと刳灯は机に突っ伏した。此処でフレアのようにすぐに立ち直って、やり直しをしないのがダメな所だ。
あー……先生ーー……、俺負けるかも……、と心の内で呟いたりするけれど、そんな事許せるハズも無く――結局刳灯はその時間ずっと机に突っ伏したままだった。
余談ではあるが、その頃、ココロもまた……碧先生のキツーイお言葉で項垂れていたようだった。