「貴方は罪を犯しましたね?」
「はっはっはっは!!私が何の罪を犯したと?なら、原稿用紙1枚分で完結に説明してみせよ!それで私が納得したら罪を認めてやろう!!」
「……『認める』という事は犯したという事です」
「うっ、なかなかやるなっ」
 どう思っても原稿用紙1枚分には満たない上に、全然説明になっていない言葉だったのに少し怯んだ美沙君。それに追い討ちをかける様に彼は続けた。
「貴方は自分で罪を犯したのを自覚していると言うのに言い逃れをしようとした。それだけでこの罪は重くなる……。覚悟は出来ているんでしょうね?」
「なっ、何を言う!私はやっていないぞ!あ、あれは……」
 少し口ごもりながら下を向き拳を握り締める。その体には明らかに寒さの為ではない震えが生じていた。
「あ、あれは……正当防衛だぁぁっっ!!!!」
「ほう……何方かが貴方に先にやったと?」
 彼は面白そうに顎に手を当てて笑った。
「そうだ!!私は悪くない!全てアレが悪いんだ!!」
「しかし貴方にも責任はある」
「……それは認める……。だが、私は罪その物は認めないぞ!」
 そこで一息つくと美沙君はまた言った。

「あの駅弁にカリフラワーが入っていたのがいけないんだ!!!!」



 一体何がいけなかったんだろう?たまたま計画した旅行?
 それともメンバー?駅弁の選び方も悪かったかもしれない。
 ……しかし一番の問題点は美沙君の好き嫌いにあった……。



 * * *



「ねぇねぇ、今度の土日空いてる?」
 突然話しかけてきたのはナナ。それにフレアが後ろでめんどくさそうに立っていた。
「ん?何かあるのか?」
「いやぁ、ちょっと爺臭いかもしんないけどさ紅葉狩り行かないかな〜って思って」
「紅葉狩り……?」
「そう!!刳灯がね、紅葉のすごい綺麗な所を知ってるんだって!毎年華南さんと行ってるらしいんだけど、よければ皆も一緒にどう?ってさ」
 紅葉狩りか……、美沙君は頭の中で思い浮かべた。
(紅葉を狩って……焚き火でもするのか……?)
 美沙君は紅葉狩りがどんなモノなのか知らなかった。
「ふむ、土日は空いている。私も行こう。芋も持っていかなくてはな」
 とりあえず返事を返した美沙君だが頭の中ではは既に落ち葉で焼いた焼き芋の事を思い浮かべていた。レンジやコンロでは絶対に出来ないあのホクホク感、落ち葉の中から見つけ出す楽しさ……くくくく。
 ――怪しい事この上ない。
「オッケ!それじゃ、みっちゃんも参加〜〜v」
 ガッツポーズを取るナナを他所にフレアは美沙君の方を見て思った。
(……ありゃ焚き火するとか思ってやがるな……)
 その後ナナはクラス全員に声をかけ(!)結局半分程の人数が行くことになった。
「くーちゃん!はいっ、こんだけの人が行くから。華南さんに言っといてね」
 ナナは差し出す紙には名前が書かれていた。刳灯はそれを見てフレアが参加する事を知り顔を綻ばせた。が、同時にココロも参加する事を知り眉をひそめた。
「わかった。兄ちゃんに言っておくよ。そうだなぁ……集合は……」
 その後ナナと刳灯は少し話し結局集合は学園の最寄の駅という事になった。
「時間は10時、昼ごはんは持ってきても良いし駅弁買うのでもいいな」
「ん、それじゃ終学活でフレアに言って貰うね!」
「……おぃ、私が言うのか?」
「え?だってフレア委員長じゃん」

 結局フレアは自分も参加するという事もあり集合場所と時間を皆に告げる役になった。勿論そこには先生もいるのでフレアとしては少しばかり嫌な感じがしたのだが、珍しく何も言わずに終わったのでほっと胸をなでおろした。
「それじゃ!また明日ね!」
「まった明日〜」
 口々にいつもとは違う別れの挨拶をし帰路に着く生徒達。当然だが参加しない生徒はいつもと変わらぬ挨拶をして帰っていった。
「さってっと!」
 ナナがウーン、と背伸びをして鞄を背負う。
「それじゃっ、また明日ね〜。バイッ!!」
 ちゃっ、と手を挙げて教室に残っている人たちに別れを告げる。
 そのまま廊下を走りぬけ、一気に家へと帰っていった。



 ――翌朝

 チュンチュンチュンチュン……
「おー……朝かぁ……」
 いつもどおりに鳥の声で目を覚ますナナ。
 “鳥”の声が『コケコッコー』でなかったのが唯一の救いだった。なぜなら『いつも』どおりにめざしの朝食だったからだ。この上に鶏の声で目を覚ますなど日々の生活の在り方が間違ってるとしか思えなくなる……。
 しかし今日は少しだけ献立が違った。昨日の帰りにスーパーに寄った際、卵が安売りしていたので今日は玉子焼きがついているようだった。……貧乏なのか金持ちなのか……際どいところだ。
「いっただっきまぁ〜〜すv」
 パチンッ、と手を合わせて箸を取る。他に人は居なくTVの音だけが空虚な空間に響く。その中で一人ご飯を食べるというのはどのような気持ちなのだろうか?
「ふふふ、昨日は卵が安かったからな〜vお買い得だったよね!だってお一人様1パック限りだけど55円だったんだもん!あれは奮発するしかないっての!」
 ……あー、……独り言である。言うなれば、自分で自分に話しかけているような物だ。ひたすら怪しいが本人はそうは思っていない……というか独り言を口にしている自覚がないので問題はない……のだが。
 問題がないのは一人で居るときだけだ。
「あーあー……いい加減めざしも飽きてくるよなぁ……。でも朝はこれ食べないと変な感じがするし……食べ物は大切だもんなー……」
 ふぅ、とため息をつくとまためざしをつつき始める。目ン玉をくりぬいて「DHA!!」と言いつつ食べる姿はあまり人様に見せれたもんじゃない。
「食べ物……。そういやぁ、お弁当どうしよう……」
 ふと思い出したように時計を見る。時計の針は8時を示していた。此処から駅まで歩いて15分、走って5分。今からお弁当を作ったとしても十分に間に合う。
 カパッ
「……弁当にするような材料がない……」
 冷蔵庫を開け呟いたナナ。確かに冷蔵庫の中には魚の干物とか、魚の干物とか、魚の干物とか……おぃ。
 そりゃぁ、他にもお茶や牛乳や卵は入っている。それと少量の漬物と菜っ葉類。どこをどう見ても弁当のおかずになるような物はなかった。
「しかたない、出費になるが駅弁を買うか」
 がっくりと肩を落とし、はぁ、とため息をつくも……その顔はにんまりとしていた。久々の外食(?)が楽しみなのかどうなのかは知らないが……どうなのだろうか?



 結局弁当を持たずに出かけたナナはやや小走りに駅へと向かった。
 そこには既に来ている人が居てナナもその輪の中に加わった。

「やっほ〜」
「おぅ」
「おはよっ!」
 口々に声をかけてくる。それに適当に返すと皆を見渡した。
「後来てないのは?」
 見たところほとんどの人が来ているようだ。思ったより遅く出てしまったらしい。でも家を出たのは9時過ぎだったから……あれ?私間違えたっけ?、ナナは少しばかり考えていた。本当は皆浮かれまくって早く集まっただけなのだった。
「んーと……あれ?黒いバカがいねぇぞ?」
 さり気なく口の悪い刳灯君。隣には華南も居る。にこにこにこにこ……ずっとそんな表情で立っているので少し気味が悪くもある。
「あ、ホントだ。美沙がいない」
 フレアが今気づいたように辺りを見渡した。確かに夏のクソ暑い日でも非常識に真っ黒でくるあの人物が見当たらなかった。……どうしたというのだろうか?
「もう置いていかないか?」
 至極当然のように言ったのは山下君。そして隣に沙雪さん。ピスティアも本来なら居そうな気がするのだか最近はどこか諦めたような表情をしている事から半ば強制的に失恋させたのかもしれない。
 はっきり言ってその方が身のためだ。
「え?そっそれはヤバイよー」
 ナナが止める。
「だって、後から呪われたりしたらどうするの?しょうちゃん一人にするんだったら全然OKだし、いつでも準備万端!って感じだけどさ」
「待て」
 すかさず間に入ったのはフレア。
「何?それじゃぁ、フレアは呪われてもいいの?」
「いや、呪うも何も……美沙はもう来た」
 フレアが指差す方向には黒い何かが居た。
 見ているだけで「あつくるしぃんじゃ、こんちくしょーー!!」と叫びたくなるくらいだ。
「あーあ、つまんないの。しょうちゃん呪ってもらおうと思ったのに」
「……おぃ」
 その発言には山下君も少しひきつっていた。すると、フレアが呆れ笑いをして言った。
「何言ってるんだよ。美沙だったらそんなん関係なしに呪ってくれるぞ?」
 ――……おぃおぃ。



 まぁ、そんなこんなで全員が集まったので一向は電車に乗り現地へと向かった。
「紅葉綺麗なんだろうね〜、楽しみv」
 ナナが窓から景色を眺めて言う。まだ周りにあるのはビルや住宅地で紅葉の“こ”の字も出てこない雰囲気だったが皆それぞれに心の中で思い浮かべているようだ。
「綺麗だよ。風が吹くとひらひらと舞うんだ」
 にこにこにこにこ……と笑う華南。その手には大きめの弁当箱の入った紙袋が握られている。以前家に行った物は『手作りか……』と思って喉をゴクリと言わせた。あの大きさだったら少しぐらい分けてもらえるかもしれない。……そう思ったからだった。
「人も少なくってさ、いつもは俺達ぐらいしかいねぇよな?」
 刳灯が少し離れた場所から話に加わる。彼もまたにこやかに話すところを見ると楽しみにしているようだ。久しぶりに行くのだし、今回は大勢の人も一緒にいるからだろうか?……もちろん彼本人としてはその内の一人だけでいいと考えているかもしれないが。
「へぇー、人少ないんだ。ラッキーだね!」
「おぅっ」
ガッツポーズを作り「いぇいっ」と小さく言った。
「ところでさ、私お弁当はこっちで買おうと思ってるんだけど……どこで買うの?」
「あぁ、あと5つぐらい先のとこで買うんだ。あそこのは美味いしな」
 刳灯は出入り口の上部分に貼ってある路線図を指差した。
「ほら、ここだ。ここに着いたらどうせ乗り換えだしさ」
「なるほど……」

「なぁ」
「ん?」
「私の思い違いだったら良いんだけどさ」
「何だよ」
「『紅葉狩り』って何だか知ってるか?」
 フレアは美沙君の隣に座りどこか遠くを見ながら言った。
「紅葉狩り……紅葉集めて焚き火だろう?」
 対する美沙君もどこか遠くの方を見ながら言った。側から見るとその二人が会話しているとはとても思えない。フレアは思ったとおりの返答を聞くとふぅ、とため息をつき先を続けた。
「紅葉狩り……山野に紅葉をたずねて鑑賞すること。……焚き火じゃねぇよ、バカ」
「なっ、なんだと!?焚き火じゃないのか!!」
 美沙君は驚いたような声をしたが顔の表情は変わらないので色んな意味で怖い。
「くそっ、だから母さんも父さんもあんなににこやかに笑ってやがったんだな!」
 許せんっ、……そう言うはものの全然怒っているようには見えなかった。
「……だからその鞄に入ってるイモは使えないぞ?わかってるよな?」
 ちらり、と黒い鞄に目を向けまた盛大にため息をついた。

 時間の経つのは早いもので、もうすぐ其処に5つ目の駅がせまっていた。そこは降りる人がほとんどいないらしく……というよりこの電車に乗ってる人自体少なかった。だから駅に着き、R学園の一向が降りたときには各車両に1人か2人いるかいないかぐらいになっていた。
「さて、と。弁当此処で買うやつは?」
 刳灯が皆に訊く。答えたのは5人。ナナ、フレア、ココロ、美沙君、それにラーファンだった。他の人は家で作ってくるなり、途中買ってくるなり……それぞれに何かを用意していた。
 途中で買うぐらいなら此処で買えばいいじゃないか。そう思う人もいるだろうが、なんせ駅弁というのは高い。その上中身を結構絞られてしまう。それならコンビニ等で自分の好きなものを買うほうが良いという人が多かったのだ。
「じゃ、華南兄ちゃん。俺こいつら連れてって来るから、先にホーム行っといて」
「わかった。あ、なんか飲み物買ってきといてくれ」
 そう言うと華南は他の人と一緒にホームへと向かっていった。刳灯はそれを見届けるとそれとは反対の方向を指差して言った。
「向こうに売ってるとこがあるから。時間ならあるからさ、行こっか」

 刳灯に連れられて向かった先はこの駅にいる全員が其処にいるのではないかと思うぐらいの人だかりだった。……美味しいからこんなに群がっているのだろうか?、色んな意味の疑問を頭の中に植え付けられた刳灯以外の人は不思議そうにそれを見ていたが自分も此処で買わなくてはいけないのだと思い出すと人だかりの中へと消えていった。
「くっ、くそっ! 人が多くて身動きがとれん!」
 ブツブツといいながらも人を押しのけ、やっとのことで弁当の並んでいるところまでこぎつけたのは美沙君。というより余りにに黒いので皆知らず知らずのうちに避けてしまったのではないだろうか?
「ふむ……なかなか美味そうじゃないか。値段も手ごろだし」
 美沙君が弁当の並びを目の前にしてウンウン唸っていると横にフレアとナナが来た。
「どうだ?」
 フレアが訊く。
「どれも美味そうだぞ。この繁盛っぷりもわかるような気がするな」
 美沙君が答える。見ただけでは味はわからないのだがやはり見た目というのは大切なもので、見て美味しそうなイメージを与えるものでないと不味そうに思うのは至極当然の事である。
「んー……どれにしよっかなぁー。今日は奮発出切るから高くてもいいや!」
 財布を握り締めナナが言った。
「……奮発って……ナナ、お前んとこ貧乏じゃないだろう?」
 フレアが呆れたように呟く。だがそれは誰の耳にも届かなかった。
「よし、それじゃ私はこれにするかな」
 美沙君が選んだのは手ごろな大きさの物。値段もおなじく手ごろな物で、まぁ妥当だと言えるだろう。フレアも一緒の物にする事にしたので美沙君はお金を渡すとフレアに買ってきてもらうことにした。ナナはと言うと美沙君たちが買った物より幾分値段の弾む、そして中身も弾む物を買っていた。
 買う時フレアとナナは一緒のレジにはならなかったのだが、フレアがお金を渡しているときに他のレジから『おぉっ』という声が聞こえた。フレアは手早くお金を払うと人を押しのけそのレジへと向かった。
 そこではナナがお金を払っているところだった。
「よ、ちゃんと払ったのか?」
「あーフレアー。あのさ、小銭持ってない?」
 困ったような表情をしてナナが言った。
「小銭?」
「うん、私今持ち合わせがなくってさ……お釣りが足りないんだって」
 レジのほうをちらっ、と見るとまた顔をフレアの方へ向けた。
「あ、あぁ……何円いるんだ?」
 少し呆けていたがすぐに直り、財布の口を開けた。
「えーっと……何円でしたっけ?」
 レジの人に聞くと「300円」という答えが返ってきたのでフレアは百円玉を3枚取り出すとナナに渡した。
「ごめんね!すぐに返すから!……っと、はい」
 ナナはフレアから受け取った300円を店員に渡すとお釣りを待った。店員はその300円を受け取るとレジを操作しお釣りを取り出した。どうやらお釣りがないというのは小銭だけらしい……。
 千円札しかなかったのか……?、フレアはそう思いやれやれとため息をついた。が、お釣りとして帰ってきたのは9000円だった。
「……はい?」
 フレアは思わず目が点になった。別に驚くような事ではないだろうが帰ってくるお釣りはせいぜい4000円ぐらいだろうと思っていたのだ。
「……お前一万円札を出したのか?」
そう問うフレアにさも当然のようにナナは答えた。
「うん、今日は万札しか持ってきてないもん」
 ホラ、といって財布の中身を見せたナナ。そこには万札がぎっしりと詰まっていた。
 ―――――………………世も末である。



 その後人ごみから抜け出した一同は小走りにホームへと向かった。時間に余裕はあるものの待たせてはいけないという気持ちの表れだった。
「兄ちゃんー」
 どうやら人が多いのはさっきの所だけのようでホームは至って空いていた。なので用意に他の人を見つけることが出来た。
「電車は?」
「あと3分くらい……かな?」
 華南が時計を見ながら答えた。実際にはあと5分なのだが……まぁ、田舎だから早めに来るのかもしれない。
 そしてそれから約3分、列車が到着した。一堂は乗り込むと各々グループを作り目的地までの間を過ごすことにした。 大体3グループにわかれ別々の車両へと散っていった。そして此処はその中の1グループがいる車両。
「うわ〜、なんだか一気に田舎って感じになったね!」
「うんうん、なんか良いね〜」
 ナナとココロは窓際に座り景色を見ては歓声を上げていた。2人がけの席が向かい合うようにして置かれている座席の窓側に座る2人の横にフレアと刳灯が座っていた。はじめココロの隣には美沙君が座りフレアと話していたのだが突然「ねっ、眠い!」と言って、誰も座っていない席に移り寝始めてしまった。
 その為華南に突付かれた刳灯が座ることとなった。
「何の本読んでるんだ?」
 前の席で延々と本を読むフレアに刳灯は声をかけた。フレアは少し顔をあげ読んでいる所に栞を挟むと答えた。
「……ファンタジー……小説?」
 何故そんなに自信なさそうに言うのだろうか?刳灯は気になったがあえて追求はせず、かわりに題名を聞いた。
「タイトルは?何ていうの?」
「あぁ、なんか『ニジノカケラ』とか言うんだって。まだ連載中なんだけどな」
「へぇー、ニジノカケラ……ねぇ。面白いのか?」
「……う、うーん……」
 少し紅くなり、恥ずかしそうに答えるフレアに疑問を覚えた刳灯は本を覗き込んだ。
「わっ、見るなって!!」
 慌てて本を鞄にしまいこんだフレア。刳灯は納得いかないなー、と思った。
「何?あ、あれだろ?恋愛物なんじゃないの?フレア恥ずかしがりやなんだなー」
 わざとふざけたような口調で言うもフレアの表情が曇っていくのを見て『ヤ、ヤバイ』と思い口を閉ざした。少しばかり気まずい雰囲気になった……。
「教えて欲しいのなら教えてあげよっか」
 横からココロが声をかけた。
「は?……何ココロまで恋愛物見んのか?」
 怪訝そうな顔つきをし、隣の席の住人に顔を向ける。
「……後悔しないのなら教えてあげるよ、ははは。刳灯たぶん立ち直れないだろうな〜。ねぇ、フレア」
 にんまりと笑ってフレアの方を見たココロ。だけどフレアは何も言わず顔を背けた。
 『どうなっても知らんからな』、そう言っているかのようにも思えた。
「ああああ、ややっぱりいい!遠慮しとく!!」
 何か嫌な空気を感じ取った刳灯は手を顔の前でブンブンと振った。
「そう?あーあ、惜しいことしたねv」
 ふふふ、と笑ってまた景色を眺め始めたココロ。刳灯は訊けば良かった……と後悔していた。けれど訊いたらきいたで後悔していたことだろう。

「な、昼飯っていつにするんだ?」
 後ろの席でずっと寝ていた山下君がやっと起きたようで刳灯の後ろ頭をコツンとやりながら言った。起きたばかりなのでまだ目がトロンとしている。
「昼?あぁ、もうそんな時間かー。それじゃ食べようか!」
 その言葉を合図に皆はそれぞれの弁当を取り出した。駅弁組(?)も丁寧に包装してある弁当を取り出すと包装紙を取りにかかった。他の人も弁当箱を包んであるナプキンやらベルトやらを取り準備万端だった。
「じゃっ、いっただきま〜すv」
 皆、律儀に手をパンッ、とあわせると『頂きます』と言って箸を取った。
 ……と此処で座っている席の説明をしておこう。

↑ 前 ↑
ナナフレア 通路 山下君華南
ココロ刳灯 美沙君沙雪さん
↓ 後 ↓
色はその人のイメージカラーだそうだ。……かなりエグいとか言わないように。

 冒頭の言葉を覚えている方は誰が誰の犠牲者になったかお分かりだろう。
 全くもって不幸な人である。……が、頑張れ……。

 そして運命の時は来た。

  ガサガサッ

       パキンッ

 美沙君は箸の袋を破り綺麗に二つに割った。
 その割れ具合に満足な様子でふふんと笑ったあと不透明なその蓋を……とった。

 まず目に飛び込んで来たのは真っ白いご飯とその上の梅干。8つに小分けされた弁当独特の形がまた良い。そして右手に漬物。その横には名産なのか知らないが山菜を使ったおかずが入っていた。あとは至って普通の弁当のおかず。煮物やら揚げ物やら……その中にアレはあった。
 まずその異変に気がついたのは沙雪さんだった。
「あれ……?みっちゃん、食べないの?美味しそうじゃない」
 首をかしげて訊いた沙雪さん。右手に持っている箸にはミニトマトが刺さっており、そこに出来た亀裂からは果汁がまるで血のように滴り落ちていた。 普通はそれを見ているだけでミニトマトを食べる気がしなくなりそうなものだが、沙雪さんは気にせずに口にほおりこんだ。
「みっひゃん?はあくたれひゃいとひかんきひゃうよ?」
 口に物が入っているときはしゃべらないように。
 どこの家庭でも言われているような事だが此処にそれを破っている人がいた。はっきり言って何を言っているかわからない。……状況から察すると何を言いたいかはわかるが……。美沙君はそんな沙雪さんの呼びかけに答えず。震える手で弁当箱を持っていた。
「美沙君?」
 前の席に座っていた山下君も異常だと気がついたのか美沙君に呼びかける。その呼びかけにも対応しない美沙君を見て山下君はその目線の先の弁当を見た。
 ……どこかで見たことあるようなシチュエーションだとかは言ってはならない。
 白い、白いソレは鰹節とみりん、しょうゆで味付けされ、ぱっと見ではわからないほど小さく刻まれ弁当箱の一角に鎮座していた。
「美沙君……まさか嫌いなおかずが入ってるからって食べな……」
 全てを言い終わる前に美沙君はキッ、と顔を上げ右手に弁当箱を持った。
 まるで野球選手のようにかまえると、投げた……っっっっっ!!!!



へぶしっっ!!!



 哀れな山下君。
 顔面に弁当を投球され無残にも崩れ落ちた。

 一同は――沈黙した。





 一体何がいけなかったんだろう?
 紅葉狩りの意味を理解していなかったのが悪かったのか?
 鞄の中にイモを詰めて弁当を持ってこなかったのがいけなかったのか?
 駅弁の選び方は良かったとも悪かったともいえない。

 いや……ただ、運がわるかったのだろう。

 でも。一番運が悪かったのは……哀れなハリセン野郎だろう。
 確かに彼の言葉に地雷原は潜んでいたかもしれない。
 それを踏んでしまったかもしれない。

 ……兎に角哀れだった……。



 あの後、美沙君はずっと機嫌の悪いまま、山下君は弁当臭いまま余り楽しいとは言えない紅葉狩りとなった。
 罪の判決は、貴方が決めてやってください。
いい加減にしろよ、自分。ってなぐらい今回のは長いです。
しかも内容が薄いときた!!どうすんのさ!!!(何
もうワケがわかんないですが兎に角ナナの素性は金持ちってことで。

2003.9.9 - 執筆 / 2005.3.20 - 加筆修正