「あぁっ、貴方は誰なのロミオ!!」
「……ロミオなんだろ?」
「一体、君こそ誰なんだい、ジュリエット!!」
「――だから、ジュリエットだっつってんだろ、おめー」
「いや、俺としてはさぁ、あいつ等二人とも誰?って感じなんだけど」
「……それは確かに言えてる――ん? ……って、貴様こそ誰じゃあぁぁっ!?!?!」

 まだ寒ーい冬の日に、ストーブがんがんの教室から外を見ていた黒ずくめの横に、変態ゾンビが現れた!

「あ、俺? 俺はねー、ファルギブ=ライアン。 “ファルちゃん”って呼んでくれると嬉しいな♪」



 コツ コツ コツ
「でも、いいのかね? この学園は結構広いんだが……」
「ははは、大丈夫ですよ。それに例え野垂れ死のうと僕の知ったこっちゃありません」
 吐く息が白くなるような季節。普通の学校ならばそれは廊下にも適用されて、僅かに教室から漏れる暖かい空気はあるものの、なるべく出たくないはずだ。
 が、ここR学園を舐めてはいけない。
 誰が金を出しているのか知らないが、全室(廊下含む)冷暖房完備!何じゃこいつら、世間様に喧嘩売ってんのか!と言われそうなくらい快適に過ごしているのである。
 ――さて、大変ムカつくR学園の設備の話は置いといて。
 そんな廊下を歩いているのは守山父こと、守山滋先生だ。数学の教師で、外見からはとてもじゃないけど想像出来ないくらい……頭が良いらしい。――嘘っぱちっぽいけども。
 そしてその守山先生の横を行っているのは、赤みがかった黒に近い茶髪の男の子と、真っ赤な髪の女の子だ。男の子の方は先ほどから守山先生と話しており、妙に嬉しそうな顔をしている。反対に女の子の方は窓から外を見たり、廊下に備え付けてある器具に触ったり……と実に好奇心旺盛な態度を無表情で示していた。
「――まぁ、兎に角。色々と大変な事もあるだろうが……頑張ってくれたまえ」
 と、守山先生は自分の受け持ちクラスの面々を頭に思い浮かべながら言った。自分のクラスとは言えど、一般の人には聊かアクが強すぎるところだから。
「はい。 でも大丈夫ですよ、何とかなります」
 ね、ヴァルア?と少年は後ろを振り返って言った。
「……あ、うん。 大丈夫だろう」
 “ヴァルア”と呼ばれた少女は、小さく笑うとそう答えた。



「ちょっ、お前っ……何者だ! どうやって入ってきた!!!?」
 所変わって、こちらは名物(変)クラスの教室。先ほど突然現れた金に近い茶髪の変態ゾンビに向けて、美沙君が喚いているところである。その喚き声に教室内の人たちも何事か、と集まってきていた。
「やだなぁ、ファルちゃんって呼んでっていったじゃんか〜」
 これだけの人に囲まれていても動じないのか、“ファルちゃん”は口元に指を当てながらウィンクをした。
 ぞぞぞっ
 なかなか整った顔立ちで、綺麗な金色の髪に映える紅色の瞳を持っている……そう、美男子の域に入るはずの顔なのに、真正面からそのウィンクを受け取った美沙君は、思わず震えた。
 ――ど、どこかでこの感じ……はっ、そうか!、とウィンクの衝撃に耐えながらも考え、何故これほどまでにこの人物が怖いのか、に思い当たったようだ。
「だっ、誰か……フレア呼んできてくれ……!!!」
 頼むっ、と近くに居た沙雪さんに涙目で懇願すると、深呼吸をして“ファルちゃん”に向き直った。
「ふぁ、ふぁ、ふぁ――っふー……、で、ファッルちゃぁんは一体どうやって此処に来たのかなぁ?」
 その口調で顔をにへへとさせ、息を荒くしようものなら一瞬で警察にしょっ引かれる事だろう。が、勿論その顔はにへへなんて到底追いつかないほどに引きつっていたし、息は細くなっていくばかりだった。しかも、所々声が裏返っていて、普段の美沙君を知っている者達は思わず涙してしまうほどだ。
「え? どうやって……って。 はははっ、ンなもん決まってんじゃん!あのドアから入って来たんだよ〜」
 やっだなぁ、みっちゃんってば面白い事訊くんだから〜、と“ファルちゃん”は腹を抱えて笑った。
 だが、笑っているのは彼一人で、他の人は誰一人として笑えなかった。……まぁ、その言葉に心の中で「そりゃ、そうだわな〜」とウケていたヤツはいたのだが。
 ――“みっちゃん”ってば面白い事訊くんだから〜……?
「……何で貴様、私の名前(あだ名)を知っている……?」
 冷や汗だらだらの美沙君。何とか声を絞り出して、目の前の人物にそう問いかけた。その言葉に、彼は一瞬ほけっとしたがすぐににやりと笑ってこう言った。
「んー、実はストーカーだったりし・てv」

 ……。
 …………。

「すいません、誰かお願いですから。 警察に行って、フレア警部連れてきてくれませんか」
 ……フレア警部?――どうやら美沙君は何が何でもフレアを連れて来てほしいらしい。まぁ、確かにこの変な人物に対抗出来るのは同じように変な少し変わっているフレアくらいのものだろう。
 ナナはどうなんだ?等とお思いの方もいるだろうが、実際ナナだってまだ心の片隅に“乙女”が残っているはずだ。……やはりこのような得体の知れない人物に手を出すことは――って、ん?
「わおー、ストーカーさんなんだっ? 私ナマモノ初めて見たよ〜v」
 ――前言撤回。どうやらナナも同類だったらしい。てゆーか、“ナマモノ”ってどうよ?
「はっはっは、それじゃ今日は記念すべき日だな〜。 俺も初めて会った人の事、ナマモノ呼ばわりするヤツ初めて見たぜ〜。 なかなかやるなぁ〜」
 自分より少し低いナナの頭をぽんぽんと叩きながら、“ファルちゃん”は嬉しそうに言った。……まぁ、実際にゃどんな事を思っているのかわからないのだが。
 と、そうこうしている内に守山先生ご一行が教室に着いたようだ。廊下から足音が聞こえてきている。
「ね、皆。 先生来たみたいだよー?」
 出入り口に近い席のココロが口元に手を当て、簡易メガホンを作るとそう言った。



 ガラガラガラ
「せんせー、おはよ〜」
 やはり元気なココロが、扉が開いた瞬間挨拶をする。
 ――が、今日はどうも勝手が違うようだ。
「あ、……え、……おはよう?」
 扉の向こうから出てきた人は、ココロの見知らぬ人で。当然と言えば当然なのだが……気付いたときには言っていた。
「――……き、君は誰?」
「え……っと――って、何でお前がここに居るんだっ?!?!」
 問われたものへ答えを返そうと口を開いた瞬間、視界にあるモノを捉えた少年は、教室内の誰かを指差して叫んだ。
「あれ? ビスターじゃん。やー、奇遇だな〜」
 そう、指を指されたのは先ほどからわけのわからない事ばかりしている“ファルちゃん”ことファルギブ=ライアンだったのだ。その“ファルちゃん”にビスターと呼ばれた少年。ツカツカと中に入ると、手近にあった教科書をムンズと掴んで丸め、“ファルちゃん”の頭に振り下ろした。

 ばすこんっ☆

 もう語尾に「☆」がついちゃうくらい軽快な音が教室内に響き渡った。とは言っても、その凶器(!)は人様の物、それほど強い力は入れてない筈だ。でも何度もぱすこん、ぱすこんとやっているものだから、それなりにダメージがあるのかもしれない。
「なーんでお前が此処に居るんだよ!ったく、途中で勝手にどっかに行きやがって。一体どれだけ心配した事か……」
 と、尚も腕を上下運動させつつ、ビスターが言った。
 その言葉に“ファルちゃん”――あー、もうファルと呼ぶことにしよう――は、きらりんと目を輝かせた。
「えっ、俺の事心配してくれてたの! うぅ〜ん、愛の力ってやつだなぁっ!」
「――葬式代の心配をしてたんだよ」
 少女漫画よろしく目の中に無数の星を瞬かせながら語り出そうとするファルに、ビスターは無表情でそう返した。
 ……うーん、教室内に石のオブジェが出来てやがる。
 コホンッ
「あー……、朝学活始めてもいいかね?」
 そのやりとりにポカーンとしていた守山先生。けれども後ろからヴァルアに小突かれ、我に返った。そして急いで教室内に入ると、教卓の傍に行って少し大きめに言ったのだ。
「あっ、すみません。 ほら、お前も謝れよ!」
「――す、すいません。 どうぞ始めてくだひゃい……」
 腕を振り上げながら実に冷たい言葉を浴びせかけていたビスターと、その言葉をザバザバと被り石化していたファル。守山先生の言葉によって、周囲を改めて見ることになる。
 ……今やこれも名物なのでは?、な皆のジト目。無論、心の中ではツッコミセンサーが激しく作動していることだろう。そのジト目を真っ向から受けながら、二人は冷や汗をかいた。
『……痛いな……』
『おぅ……ものすっげぇ、痛いぜ……』
 “視線が”という言葉を入れなくても会話になってしまう辺り、かなり終わっている。



「よし。 それじゃ、始めるとしよう……ってあれ? フレアはどうした?」
 皆のジト目に晒されていた二人を前まで連れてくると、守山先生はいつもはその場に居て何かと酷い事を言ってくる委員長が居ない事に気がついた。
「え? 何言ってんですか、先生。校内放送聞かなかったんですか?」
 比較的前の方の席に座る山下君が驚いたように言った。
「……校内放送?」
 そんなものあったかな……、と首を傾げながら聞き返す。
「はい。学長がめちゃくちゃふざけきった音量で『フレア君は今すぐ学長室に来るよーに!!』とかほざいてましたよ?」
 あれだけの大音量だったんです……聞いたでしょう?、と新たな疑問を投げかけつつ、その問いに答えた。
 だが守山先生は首を傾げたままだ。
 ――と、いうか。 本当に聞いていなかったりするのである。
「……えー、先生聞いてないの?」
「と、父さん……そこまで耳が悪くなっていたとは知らなかったぞ……!」
 顎に手を当てて考える守山先生を心配したのか(?)、ナナや美沙君も口々に話しかける。
 考え込んでいる間に、“守山父、急速老化か?!”なんで話題も出てきてたりして。
 が、次の一言で老化は免れた。
「私達も聞いてないですよ、先生」
 そうよね、ビスター?、と救世主(守山先生ビジョン)ヴァルアが声を上げた。
 突然話しを振られて驚いたビスターだったが、すぐに首を縦に振った。
「うん。 聞いてないですよ、先生。随分と静かだな、とか言っていたじゃないですか」
「……あ、そういえばそうだったな」
 と、先ほどまでの会話を思い出しながら呟いた。確かに、そんな言葉を出していたような気がする……、と。
「――え、もしかしてアンタ等全員老化か?」
 深く頷いた守山先生を含む3人を見て、美沙君が驚きの表情でそう言った。
 そして……
「お前なぁ、そりゃないだろ……?」
 その言葉の後に、呆れ顔でフレアが言った。

「フレアッ!」
 入り口に近いココロが1番に声をあげた。
「先生。 机持ってきましたよ、ほら」
 ココロの呼びかけには手で応えて、もう片方の手で廊下を指差した。そこには机が3つ分。
「……机? 何でそんな物が必要なんだ?」
「馬鹿か、君は。 そのくらいわかるだろうが」
「何っ?! 貴様に言われたくないぞ!」
 喧嘩をおっぱじめようとする美沙君と山下君を抑えながら、守山先生はフレアに向けて「兎に角、朝学活を始めてくれ」と言った。だが、それを聞いたフレアが呆れ顔のままで肩をすくめた。
「……の前に、この机の説明とかした方がいいんじゃないですか?」
「そうだよ、先生。まぁ、予想はついてるけどさー……とりあえず説明してよね」
 と、フレアの意見に頷きながら、ナナも言った。
「う……、そうか。 それじゃそうするとしよう。 ――皆、いるか?」
 教室内を見渡して、確認をする。……が、一人足りない。
「あー……悪い。 さっき身の危険を感じたとき、さゆちゃんにフレア呼んできてくれって頼んだんだった……」
 美沙君がおずおずと手をあげる。
「身の危険て、お前一体何があったんだよ。 しかもそれで私を呼ぶって……」
 言っておくが私はお助けマンでもスーパーマンでもないんだぞ?、と腕を組みながらフレアが言った。
「いや、でもな。 アレに対抗出来るのはお前しかいない、と思ったんだ。……ナナは別として」
「――……ホント何があったんだよ」
 今にも消え入りそうな声でぼそぼそと呟く美沙君にいつもと違うものを感じたフレアは少し声を潜めて聞いた。すると美沙君は教卓の横に並ぶ3人の内の一人を指差した。言わずもがな、ファルちゃんである。
「……なるほど」
 ふむ、と顎に手をやりながら呟いて教卓の方へと歩み寄る。そしてトン、と手を付くと守山先生の方を向いた。
「ま、さゆちゃんはもうじき要らんモンと一緒にやって来るでしょう。 ですから、説明を」
 それとも私が話しましょうか?、と3人の方を見ながら言った。
「い、要らんモン……? よ、よくわからないが――あー、説明……頼みます」
 最後の方はへこへこと謝るように口に出した。……何とも地位の低い人である。
 ぎこぎこと椅子を引いてくると、窓際に置いてちょこんと座った。
 その様子は小さい可愛い子がやれば「や〜ん、可愛い〜」とか言ってもらえそうなのが、如何せん人物が悪い。守山先生がやると思わずゼニ(金)を投げてあげたくなるくらい同情を引くものになる。
「それじゃ、私から説明しよう。 ……静かにしてもらえるかな?」
 静かな声で、でもよく通る声でフレアはそう言った。
 ――一瞬で教室内は静まり返る。
「よし。 では皆もうわかっているとは思うが、転校生だ。それも3人。いきなり3人も来るなんてちょっと非常識だが、この学園事態が非常識極まりないので仕方が無いことだろう」
 その言葉に全員が深く頷く。
「……さて、それじゃ自己紹介でもして貰おうかな」
 教卓から少し離れ、3人に真ん中へ寄るように合図をする。
「1番端の人……、そう、君からどうぞ」
 と、自分から1番遠い場所に居たビスターを見て頷いた。

「えっと……ビスター=バル=ライラって言います。 よろしくお願いします」
 緊張しているのか、少し顔が強張っている。そしてそれだけ言うと、すぐに引っ込もうとした。
 が、ここは“あの”クラスなのだ。自己紹介がそれだけで終わるはずがない。
「もっと何か……趣味とか言ってくれないのかしら?」
 普通は言うわよねぇ、と女王様(!)シーミナが綺麗な声で聞いた。周りに居た人は「そうだ、そうだ」と頷いた。
「えっ、趣味……? うー……――言っちゃって良いのかな」
 と、横の人に問いかける。ちなみにビスターの横にいるのはヴァルアだ。ヴァルアは問いかけられたが、「別にいいんじゃない?」と小さく肩をすくめただけだった。
「……それじゃ、言おうかな。 僕の趣味は……最近はやってないんだけど、ミイラを作ることです。あの工程が堪らなく好きで、昔それで賞を貰ったことがあります。 是非、皆もやってみてください。やり方は――とりあえず身近な人を誰か仮死状態にして、皮をはぎとって……」
 頬をほんのりピンクに染めて、まるで恋する乙女のように“ミイラの作り方”を話そうとするビスターに、皆はかなり引いた。そしてフレアに視線で訴えかける。その視線に耐えかねたのか、それとも自分も願っていたのか知らないが、ビスターの言葉を遮るように声をあげた。
「ごめん、次行って。 次」
 早く、ヴァルア……早く、と懇願するように次の人へと視線を投げかける。
「……ヴァルア=ウィッティンク=ミスカ。 趣味は料理です。 よろしくお願いします」
 ――実にシンプルな紹介である。てかシンプル過ぎないか?
 だが先ほどのビスターの自己紹介のせいで精神的疲労が一気に極限まで達した皆がそんな事気にするはずもなく……ヴァルアの紹介はそれだけですんだ。
 この時、皆が正気のままだったら……重要な事に気が付いたかもしれなかったのだが。
 ヴァルアの紹介が終わると、フレアは教卓の方へ行き少し大きめの声で言った。
「ほら、皆。 新しい仲間なんだ、仲良くするんだぞ」
 まるでフレアが先生のようだ。本物の先生はと言うと……あちゃー、さっきのビスターの発言でまだ怯えてやがる。
 まぁ、その怯えはビスターだけのせいじゃないかもしれない。もう一つ、自分の娘から発せられる視線も原因かもしれない、という事だ。そして守山先生はその視線を感じながら「とりあえず身近な人を仮死状態にして、皮をはぎとって……」の部分を頭の中でリフレインさせていた。
 あー……つまり、だ。
 美沙君が自分を使ってミイラを作ろうと思っているんじゃないか、と心配しているのである。
 さて、話を戻すとしよう。
「二人とも、すぐに打ち解けられるだろうが頑張ってくれ。 特にヴァルア……お前その無愛想いい加減治せよ?」
 フレアとヴァルアは知り合いなのだろうか?フレアの言葉に軽く頷きながら、少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「そういうフレアこそ、いい加減会いに行かないと突然襲撃されるよ?」
 誰とは言わないけどさ、とヴァルア小さな声で笑った。
 それからフレアは「じゃ、朝学活始めるぞー」と言って二人に先ほど運び入れた席に座るように言った。

「――……ていうか、何かなぁ? さっきから俺の事めちゃめちゃ無視してくれちゃってっっ!!」

 はっ、そういえばこの人の事を忘れていた。
 声を荒げて言ったのは、金に近い茶髪に紅い瞳、性格がおぞましく歪んでいる変態ゾンビことファルちゃんであった。
「あー、悪ぃ。 てっきりもう帰ったかと思ってたよ」
 と、フレアがいけしゃあしゃあと言った。
「帰ったって……お前の目の前にずっと居ただろーが!それとも何か?俺はゴーストかい!」
「似たよーなモンだろうが。 ゾンビ風情が人間様に何のようだ」
 ず、随分と酷い言い草である。
「えっ、その人ゾンビなの?! すごーい、ストーカーな上にゾンビだったなんて!」
 二人の会話が聞こえたのか、ナナが話しに入ってきた。
「……ストーカー……ねぇ。 お前もそこまで堕ちたか」
「ちっ、違うっつの! てゆーか、お前っ、俺には自己紹介させてくんねぇのかよ!」
 自分にとって悪い事が話題に上りそうになったので、ファルはすかさず話を切り替えた。
「自己紹介? ……そんなのしなくてもいいだろうが――いや、待てよ?」
 何か思いついたのだろうか? 二人のやりとりにぼーぜんとする皆を他所に、ぽんと手を打って満面の笑みを浮かべる。そしてファルの方を指差すとこう言った。
「あー、こいつはファルギブ=ライアンと言ってな。 趣味は“逆上がり”だそーだ」

 ……。

「「「逆上がりぃ?!」」」
 フレアがさらっと言った言葉に一瞬固まって……その後すぐに、皆でハモった。
「え? って、いや、違う! そんな趣味持ってない!ていうか出来な――はっ!」
「……で、出来ないのか?」
 驚いた顔から呆れ顔に変換した山下君が、ほんの少し哀れみの入った視線を送る。
「出来ないんだ……」
「ちょっと哀しいよね、その年になって逆上がりが出来な……ぷっ」
「違う! でっ……きないけど! 俺の趣味はそんなんじゃないーーっっ!!」
 口々に囁きあう皆にうろたえながら、ファルは何とか言い繕おうとする。
 ――だがそんな状態のファルにこのクラス相手にそんな芸当が出来るはずもなく……しばらくの間、話題は“逆上がり”に絞られていた。
「うぅっ、こいつ等何なんだよー! 俺すんげー泣きそう……っ」
 ビスター慰めてぇっ、と既に席についていたビスターの方へと駆け寄る。
 しかしあのビスターが慰める、なんて事するはずもなく。
「……お前、逆上がり出来なかったんだな……」
 さっきの山下君より濃い哀れみの混じった視線で見られたりして。



「なぁ、フレア。 さゆちゃんは無事だろうか……?」
 まだクラス中が“逆上がり”なんとやらで騒いでいる中、妙に静かなエリアで美沙君が呟いた。
「……さゆちゃん? あぁ、大丈夫だろう。こっちのさゆちゃんは確信犯だし」
 そりゃ、ちゃんとした方の世界では天然で危ないかもしれないけどな、と騒ぎの様子を見ながらフレアが返した。
「いや、っつーかな? ちょっと考えたんだけど……さゆちゃんってお前を探しに行ったじゃねーか? ってことは……あいつントコに行った、って事だよな?」
「あぁ。 だからさっき言ってただろ、“要らんモンがついてくるでしょーけど”って」
 ふぅ、大げさにため息を付きながらフレアは扉の方を見た。
「ほら、もうすぐやって来るぞ。 3……2……1……――」

 ガラガラガラッ

「はぁぁーーっはっはっはっは!! 皆、元気にしていたかね!!!」
「やっだぁもう、学長ったら、声が煩くってすっごいムカつきますよ〜〜♪」
「なっ……そ、それはすまなかった……。 では、もう一度!」
「はぁぁーーっはっはっはっは!! 皆、元気にしていたかね!!!」
「うふふっ、台詞がやけに偉ぶってるのに小さい声って何だか情けないですね〜」
「……そ、そんなぁ……」

「な? 大丈夫だったろ?」
「――う……ん。 ていうかアレは誠吾の方が可哀想な気もするな……」
 扉を開けたままで話している二人を見て、美沙君は少しだけ学長に同情した。
 そしてその様子を見ながらもう一度口を開く。
「そういえばさ……あの校内放送って、一体何だったんだ?」
「校内放送? あぁ、あの馬鹿でかいヤツか?」
 少し前の出来事を思い出しながら返す。
「そう、それ。 何で……この教室だけに聞こえたんだろうか?」
 むむむっ、ミステリー!、と拳を握り締めながら言う美沙君。それを見たフレアはまたもや盛大にため息をついて……美沙君の肩をぽんと叩いた。
「……あれな、学長室で操作出来るんだってよ」
「は?」

『はっはっは、フレア君見たまえ! この装置でこの学園の全てを管理出来るのだよ!例えば……校内放送の音量を調節したりだな、校内放送の時間を決めたりだな、校内放送の――』
『学長。 校内放送云々はどうでもいいですから、早く用件を』
『まぁ、待て。 ほら、これを見ろ! これを使うとな、校内放送を任意の教室にだけ流すことだって可能なんだ!ふふふ、実は今日初めて使ってみてな!さっきの放送、これだったのだよ!どうだ、すごいだろう!?』
『――……はいはい、すごいですねぇ。 で、用件は?』
『ふっふっふ、実に画期的だ! びゅーてぃほー! わんだほー!!』
『……いい加減にしないと怒りますよ?』

「結局その装置は校内放送の管理しか出来ないんだけどな」
 と、学長室での会話を話しながらフレアは言った。
「大変だったんだな……」
 その会話を聞いた美沙君がフレアがそうしたように、肩に手を置くとぽん、と叩いた。
 フレアはそれを見て首を振った。
「――いんや、これからの毎日を思うとそうでもないさ……」
「……それも……そうだな」
 未だに騒ぎ続けるクラスの面々を見ながら、二人は呟いた。



 R学園、名物クラスハ変人ヲ3人手ニ入レタ!
 魔王モトイ学長ハ、影ノ魔王モトイ沙雪サンの尻ニ敷カレテイル!



 転校生が来て、ますます波乱な毎日を送れそうな予感です。
っつーことで、死霊使い3人組が転校してきました。
お正月小説読んでない人がわからなくなるので、一応皆とは面識がないって事に。

あー……ロミオとかジュリエットとかそこら辺は軽ーく流しちゃってください。
色々と突っ込まれるとめちゃめちゃ痛いんで。(何

さー、これからますますはっちゃけていきますぞぉっ!(泣/え

2004.2.29 - 執筆