微妙過ぎて笑える、迷探偵2人組みデキちゃってる編。
守山夫婦とは一緒に暮らしてません。ちなみにもう“山下”夫妻設定。
ていうかアンタ等クサいんじゃあぁぁっ!! (ギップル
2004.12.9.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 5 ] 嫌なモンは嫌なの。
人間誰だって好き嫌いはあるだろう。
……まぁ、世の中には「好き嫌いなんてありません」というかなり珍しいタイプの人間もいるが、大抵の人は何かしら好き嫌いがあるはずだ。
そしてこの人物も、好き嫌いを持っていた――
* * *
「嫌だっ!ぜええぇぇったいに嫌だっ!!!」
とあるスーパーの野菜売り場。
ここで一組の男女が言い争っていた。
「そんな事言ったって、好き嫌いはよくないんだよ?」
そう言って野菜を籠に入れたのは男性の方で、
「嫌だ、つったら嫌なんだ!」
と言って籠から野菜を取り出すのは女性の方だった。
そんなコントのような事を続けて早十分。二人の周りには夕飯の買出しに来たオバさま達によるギャラリーが出来上がっていた。
それでも二人はそんな様子に気づいていないのか、全く変わらず続ける。
「大体ねー、碧さんからも聞いてるけどどうしてそこまで嫌うんだい? 別にまずい事もないだろう?」
籠に入れようとしているのはブロッコリーの白い版……と言えば大体の人はわかってくれるだろう。
そう、“カリフラワー”だ。
とは言え、ブロッコリーとは色も味も全くの別物。姿形はそっくりでも性格は正反対の双子のようなものだ。
「まずい事もない、だぁ? ふっ……やはり凡人の言う事は理解出来ないな!ソレのどこをどうとったら食べ物だと思えるんだ!? そんな……そんなっ、得体の知れない白い物体を!」
いやいや、得体は知れてるだろう。とギャラリーの中から一声上がったが、すぐにギロリと睨まれ、発言者のオバさまはすごすごとレジへ向かってしまった。
男性は女性の暴言に青ざめ、へこへこと謝った。
「あぁ……すみません、妻が失礼な事を。ていうかお願いですから、そう興味津々に見ないでください……」
最後の方は小声で誰にも聞こえなかったのだろう。いや、聞こえていたとしてもオバさま達には関係なかっただろう。 例え喧嘩の原因が何であれ、こういう“修羅場”は見ているだけで面白いものだったから。
「兎に角!ソレは値段も高いし、まずいから買うのには反対だぞ!どうせ買うならこっちのブロッコリーのが断然良いはずだしなっ」
隣に並んでいた緑の色違いを手に取り籠に入れる。
籠には既にいくつかの野菜が入っていて、これから先にある鮮魚コーナーや肉売り場などでまだまだ買うものは増えるだろうと思われた。
「……まぁ、ブロッコリーも買うつもりだから入れていいけど。カリフラワーもちゃんと買うからね?」
男性――山下君はかなり大げさにため息をつくと、カリフラワーを手に取り籠の中へ入れた。それを見て、隣に居る女性が何か言いたげな視線を寄せてくるのもわかっていたが、無視するように顔を背ける。
そして籠からカリフラワーを抜き取られないように高いところまで持ち上げて、言ったのだった。
「何か文句でもあるのかい?美沙」
にっこり、と笑って。
結局その日、美沙君はカリフラワーを買うのを阻止する事が出来ず、スーパーの袋にはカリフラワーが入ってしまった。しかも帰る途中に美沙君が袋から抜き取って捨てないように、カリフラワー入りの方は山下君が持っていたし、帰ってきても冷蔵庫には入れないで別の所へ隠してしまっていた。
そしてその日の夕食の準備を始めようという時。
「……なんであんなの買うんだ。金の無駄じゃないかっ」
エプロンを着けながら、あくまで小声で呟く。
でもその声は山下君に届いていたようで……
「それは勿論、美沙には好き嫌いなく食べてもらいたいからね」
だから買うんだよ、とやはりにっこりと返す。
その笑顔に美沙君は顔を紅くして俯いてしまったが、すぐに立ち直って大声で言い放った。
「……でもやっぱり食べるのは嫌だからなっ。というか普通なら好き嫌いの一つや二つ見逃してくれるんじゃないのか?! はっ、それとも――私の事、嫌いになったの……か?」
「はい?」
突然の言葉に思わず目が点になる山下君。
「だってそうじゃないか。嫌いなモノを無理やり食べさせようとするなんて……!!」
何も答えない……いや、答えられない山下君は肩をガクッ、と落とすと机に突っ伏してしまった。
(……なんでそうなるんだよ)
余りにも唐突で勘違いしまくりの発言に、ツッコむ気力さえないようだ。
そしてそんな山下君を見た美沙君。
「――おい、尚吾……ま、まさか本当に嫌いに……?」
瞳を涙で潤ませながら、机に突っ伏したままの山下君の肩に手を乗せる。
――と。
「んにゃっ??!」
「愛してるよ」
肩に乗せた筈の手を取られて、あっという間に腕の中へ。
身長差があるせいで――ちなみに年齢差も結構ある――、すっぽりと腕の中へ入ってしまった。
「なっ、いきなり何を!!」
慌てふためく美沙君だが、山下君は気にせずにもう一度繰り返した。
「愛してるよ、美沙」
「……」
言葉の意味を理解するまで5秒。
ぼふんっ
真っ赤に染まった顔を上にあげて、美沙君は口をパクパクとさせた。言いたい事があるようだが、上手く言葉にならないのだろう。
山下君はその反応に軽く笑った。
「全く、いつまで経っても慣れないんだなぁ」
そして触れるか触れないかのキス。
「嫌いになるはずないだろう? こんなに、好きなのに」
「尚吾……」
* * *
まぁ、結局と言うか何と言うか。
夫婦の愛の絆をよ〜く確かめた美沙君だったが、それにより例の物体の存在を忘れてしまい――
「な、な、何でこれが食卓に上ってるんだ!!!!」
いつの間にやらランチョンマットに鎮座していた小鉢の中身を見て、そう、叫んだのだった。