ラカンネルワールドのシオとラクラスのお兄さん's 、シオ達とは5歳差です。
ていうか思ったよりも長くなったから、ラカンネル番外編って感じ。
ちなみにシオとラクラスの両親も元冒険者で、パーティには実はビスターの両親とも居たんだぞ、とか。
エルフの賢者殿はシオ達のご先祖様だったりして、とか。
色々裏設定満載。 こういうの考えるのって楽しいんだ! ひゃっほい!
2004.12.11.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 6 ] 逃げても無駄、隠れても無駄。
「けっ、逃げても無駄!隠れても無駄だぜ!!」
暗〜い深〜い、オマケにじめじめっとしたダンジョンの中。
駆け抜ける足音と共に彼は叫んだ。
そして僕はそんな彼の隣を一緒に走る。
「泣きそうなくらい悔しいのは十分にわかったからさ、そうやって敵を挑発するような大声出さないでくれる?」
後ろから千歩譲っても人間の声には聞こえない奇声が聞こえてきて、心底そう思った。
* * *
なんて事はない。
ただ、挑戦したクエストに失敗した、というだけ。
「スターリオ、ホントにこっちであってるんだろうね?」
マップを持っているのは彼だったので、僕は周囲に気を配りながら小声でそう訊いた。
「あぁ、任せとけってば。ぜってぇこっちであってっから」
へっへっへ、お宝サン待ってなよ〜、と上機嫌のスターリオ。本名をスターリオ=バギアンと言う。
彼は僕の幼馴染で、先日12歳の誕生日を迎えたばかりだ。僕はその彼に3日遅れて12歳になり、冒険者試験で資格を取ったのがつい一週間前。――ちなみに僕は“回復師”、彼は“戦士”の資格を取った。
そして今。
僕等は手に入れたシナリオで、初めてのクエストに挑んでいる所だった。
「そこの角を行ったらT字路になってっから、それを左に行ってしばらくすればお宝サンが見えてるワケ」
最初からツイてるねぇ、俺達、と鼻歌まで歌いながら、彼。
僕はこんな暗くってじめじめしてて、いかにも“ダンジョン”みたいなトコで鼻歌を歌うなんてとても出来ない。だからそんな事を平気でやってのける彼を羨ましく……は全く思わないが、この雰囲気に呑まれていない彼を凄いと思ったのだった。
「ツイてるかどうかは宝を手に入れて、無事に家に着いてから言うもんだよ」
と、シナリオの文章部分を見ながら呟く。
シナリオ曰く――
『初心者でも挑めるダンジョンだが、時たまミミックが発生するので要注意』
化物図鑑登録ナンバー042「ミミック」。
ダンジョンや遺跡などに残された宝物庫に行くと必ずと言っていい程出迎えてくれるのがコイツ等だ。外見はその場にある他の宝箱と全く同じで、近寄るまで、もしくはこちら側がアクションを起こすまで宝箱との区別はつかないだろう。
唯一宝箱とミミックとを見分ける方法があるが、これをするには魔法使いと盗賊が必要だ。魔法使いが宝箱(ミミック)に一定時間“眠りの魔法”をかけて、盗賊が触って調べる。この時宝箱だと何も起きないが、ミミックの場合は――どういう理論なのかは解明されていないが――“宝箱”がクシャミのようなものをする。
魔法使いと盗賊のいるパーティはこうやって確かめることをオススメするが、いない場合は仕方ない。死ぬ気で取り掛かれ、もしくは諦めるしかないだろう。
……以上、化物図鑑より抜粋、ってね。
兎に角ミミックってのはそういうヤツ。当然(?)肉食で、図鑑に載っているイラストを見る限り人の体なんてあっという間に食いちぎれてしまいそうな歯が……もとい、牙が揃っている。
「……出なきゃいいけどねぇ」
「あ?何か言ったか?」
お、こっちだな、と手招きする彼に「何でもないよ……」と返して、後を追った。
そしてしばらく歩いて、唐突に開けた場所に出た。
その空間の奥の方には扉が3つあって、その内2つには頑丈な鍵がついていた。
「ンだよ、コレ!聞いてねぇっての!!……つか鍵なんて持ってねぇし!!」
「……僕もアンロックはまだ使えないしね」
というか“封印系”はクラスが違うので、練習しても出来るようになるのかわかんないけど。
口には出さずに心の中で呟きながら、唯一鍵の無い真ん中の扉を見た。
「とりあえず、ここしか入れないし。行ってみようか?」
「あぁ。――それにしてもおかしいよなぁ、このマップには扉は1つしか描いてないんだぜ?こういう場合、鍵のかかってる方にお宝があるってパターン強そうだしよぉ」
つかシナリオのマップとだいぶ違うし……、とぼそぼそ呟きながらも真ん中の扉に向かう。
僕は“回復師”なので主に回復や治療系の魔法を使うのだが、ただ1つだけ、知り合いに風系の攻撃呪文を教わっていた。まだ実際に使ったことはないけれど、割と殺傷能力の高い魔法らしい。
……兎に角、その呪文をすぐ言えるように頭の中で反復しつつ。そしてスターリオは切れ味の良さそうな剣を構えて、扉を開けた――
目の前には金銀財宝、宝箱の山。
「カースト……俺達、やっぱツイてると思わねぇ?」
黄金に光る宝を映し取ったのか、彼の瞳は金色に輝いていた。……いや、この場合お漫画的にただキラキラしているだけなのかもしれないけど。
財宝を目の前にウカレまくるスターリオを他所に、僕は慎重にその場を観察した。
おかしい、それがまず頭に思い浮かぶ。小さい頃に冒険話を読んだり、冒険ゲームをした事あるヤツなら必ず考えるパターン……つまり、これは罠なんじゃないかってこと。
ダンジョンに入ってからまだ30分程なのに、こんな簡単に財宝が見つかる筈ない……と思うし。何よりシナリオにはこんなにたくさんの宝があるとは書いてなかった。
『そこに眠る宝は昔、その近くに住んでいたエルフの賢者が残した魔法の杖――』
ここまでなら、全世界の冒険者が我先に!とここへ向かってくるだろう。
でもこう続くと、誰も来なくなる。
『――の残骸だ。今まで数々の冒険者達が挑戦したが、その宝を発見して皆「ガラクタ」だと判断したもので、何世紀も前から挑戦しては項垂れて帰る冒険者が後を絶たない。
君がもし腕の立つ冒険者なら、このシナリオはやめておくべきだ。しかし、初心者、それも初めて挑戦する……そんな君にはうってつけだろう。失敗してもそれほどガッカリする事もない筈だ。
しかし1つだけ。これは初心者でも挑めるダンジョンだが、時たまミミックが発生するので要注意だ。もし宝箱の代わりにミミックを見つけてしまった場合、すぐに逃げ出すことをオススメする』
読み直してから、軽くため息。
「ねぇ、スターリオ。シナリオの説明ちゃんと読んだ? これにはこんな財宝があるなんて書いてな――」
ないから怪しいよ、そう続けようとしたんだけど。
「ってスターリオ!!! 何してんのっっ!?!?」
僕の隣にはもう誰も居なくて、代わりに一番奥の、一番でっかい宝箱に今にも手を触れそうな体勢の彼が居た。
「え? いや、やっぱでっかいのが良さそうかなぁ、なんて」
ペチ、と宝箱に彼の手が乗る。
そして次に聞こえてきた音に、僕は正直、この幼馴染を殴り殺してやりたくなった。
ビリリリリリリリリッッッッッ
「な、なんだぁっ?!」
慌てて宝箱から手を離すけど、きっともう遅い。
僕は早くこっちに、と手招きをして彼を呼び寄せる。開きっぱなしのドアから外を見てみると、まだ何も見えないが明らかに“何か”が居る気配。
「ど、どうなってんだ? 俺ヤバい事した?」
「あぁ、しまくったね!無闇やたらにペチペチ触るんじゃないよ!!」
本当に殴り殺して行ってやろうかとも思ったけど、そんな事をしても今は得にならない所か損になる。僕は怒りで震える体を何とか落ち着けるように深呼吸をした。
「……兎に角、何とかして出口まで走ろう。全力で走れば逃げられるかもしれない」
早く!と彼の腕を取って走り出す。――と同時に、闇の中から影が躍り出た。
一人ずつ持っていた松明をその影に投げつけると、一瞬だけ明かりに照らされてその姿を確認出来た。
「なっ、ゴブリン?!」
出来損なった人の形をした化物。所々隆起した体は無数の傷と鎧で覆われ、その瞳には光を映さない。野生ならともかく、ヒトに創りだされた類のモノなら命令された通りに――大抵、死ぬまで追いかける。
って冷静に分析してる場合じゃなくて!!
「スターリオ、逃げるぞ!!!」
全速力で走る。さっき確認したゴブリンだけじゃなく、他の物音も聞こえてきて。冗談抜きで泣きそうになる。
時々後ろを振り返ると、すぐそこに迫るゴブリンと……グールにウェアウルフにバーサクドラゴンに……。
――あれ?
僕は走りながら考える。
ゴブリンだけならともかく、恐ろしく移動能力の低いグールにとても速い足を持つウェアウルフ。この2種類の化物が一緒に走ってくるだなんて有り得ない。しかもバーサクドラゴンまで居て、計4種類の化け物はどうした事か、一列に並んで追いかけてくるのだ。
――やはり、おかしい。
「スターリオッ、ちょっと……まっ、って!」
全力で走っていたせいで息切れがする。けれど彼の腕を掴んでその場に押しとどめた。
「カースト止まってるバヤイじゃないっての!あぁぁ、もう追いつかれるっ!!」
あと10歩程で追いつかれる、という所まで迫ってから。僕は呪文を口にして手を前に出した。
「風斬覇<ウィンダ>!!」
無数の風の刃が化け物達に襲い掛かり――通り抜ける。
「はれ?」
間抜けっぽい呟きが隣から聞こえて。
“化物”は僕等を通り抜けた。
「な、何だったんだ……?」
擦れた声でスターリオが呟いた。
僕は推測だけど、答える。
「幻術系の魔法だと思うよ。きっと宝箱に触ったら発動するように設定されてたんだ」
そしてたぶん――
「戻ろう、スターリオ」
彼の腕を引いて、走ってきた道のりを戻った。
やはり思ったとおり。
先ほど3つあった扉は1つになっていて、開けた空間も3分の1くらいに小さくなっていた。
「ほほー、こっからもうマボロシだったつーワケか」
騙されたねぇ、全く、と何故か嬉しそうに、彼。
扉を開けるとシナリオ通りに、寂れた感じの空間が広がり……
「あり?宝箱、2つあるじゃん」
また“おかしい”が頭の中に広がった。
エルフの賢者殿は杖の残骸を2つに分けて保存した?……ンな馬鹿な。
ちょっとした理想論を組み立ててみるが、1つの可能性のせいでいとも簡単に崩れ去る。
つまり、――内1つはミミックだという事。
「たぶんどっちか1コは牙生えてんだろうなぁ、カースト。……どーするよ?」
スターリオも同じ事を思ったらしく、肩を竦めて訊いてきた。
「どうしようか……生憎僕は“眠りの呪文”を知らないし。イチかバチかでやってみるのもいいけど」
たぶん今のレベルじゃ死ぬだろうなぁ、……と心の中で付け加えて。
するとスターリオは剣を構えなおし、
「うっし、そうだよな! ……じゃ、いっちょ俺サマがやってみましょっか!」
そう言って、僕に後ろに下がるように合図してきた。
「え?……だ、大丈夫なのか?」
とりあえず後ろに下がるけど、やはり不安なので回復魔法に使う宝珠<オーブ>を取り出しておく。
そういや宝珠と言えば……。
『いいか、カースト。もしもの時はコイツを強く握って、自分の家かスターリオの家の事を思い浮かべろ。思い浮かべたらスターリオの腕を掴んで、こう唱えろ――』
行きがけにルカさんがくれた宝珠。確か呪文は……“移動<ムヴァース>”だったっけ?
僕は回復用の宝珠を手に持ち、ルカさんから貰った方はすぐに取り出せるようにポケットに入れた。
「よし……行くぞ!」
ゴクリ
生唾を飲み込んで、頷いた。
スターリオは右の宝箱から攻める(?)事にしたらしい。恐る恐る近づいていって……まず剣先でちょちょい、と突付く。反応は――なし。
それに安堵したのか、かなり盛大なため息をついてから、彼はまた宝箱に近づいた。そして縁に手をかけて、押し開く……。
開いた瞬間、思わず目をつぶったけれど、それでも何の反応もなかった。だから僕もまた盛大なため息をついて彼の所で歩み寄って……
見た。
開けても何の反応もなく、ただ鎮座していただけのソレに。
牙が生えるのを。
「すすすすすすす、スターリオ!!!!!!」
僕は慌てて呼びかけるものの、足が竦んで動かない。スターリオはそんな風になっている僕を不思議に思ったのだろう。宝箱から手を離すとこっちに駆け寄ろうとした。
刹那、聞こえる音。
じゅるりっ♪
ギ、ギギギギィ……、そんな音が聞こえてきそうな程遅い回転でスターリオは後ろを向いた。僕はソレを真正面から捉えていて、正直、泣き叫びそうになった。
“宝箱”だと思っていたものに牙が生えて、唾(なのか?)を滴らせた紅い舌が蠢く。
――夢に見そう。
そんな事を考えていると、僕より早く立ち直ったらしいスターリオに手を引かれた。さっきとは反対だ。
「ぼけっとしてるトキじゃねーよ、カースト!! 逃げっぞ!!」
「あ、あぁ!」
後ろからはガッパガッパと箱を開け閉めしながら近づいてくるミミック。
僕等は死に物狂いで走って、……2つ目の角で悪夢に遭遇した。
「グルルルルルル……」
ウェアウルフだ。鋭く光った赤色の瞳に、今にも食いつきそうな牙。普通なら震え上がって、もう動けなかっただろう。でも僕は安心していた。高をくくっていたのだ。
――あれは“幻”だ、と。
「わ゛あぁ!!? カースト、どうする?挟み撃ちになるぞ!?」
「何言ってるんだよ、スターリオ。アレはまたどうせ幻術に決まってるさ……ホラ、見てなって」
そう言って、呪文を紡いで手を向ける。
「風斬覇<ウィンダ>!!!」
ザシュッ
ギャオンッ……グルルルルルルルル……
「「……」」
思わず顔を見合わせて。
「逃げるぞ!!!」
「うん!!」
深く頷いて走り出した。
僕等はウェアウルフと比べて、ダントツに移動速度の遅いミミックの方へ走った。そっちに行けば、まだ逃げ切れる可能性があったからだ。T路地で、来た方向とは別の道に逃げて化物をやり過ごし、その後でこっそり逃げよう、と思っていたのだ。
しかし誤算があった。
……ウェアウルフはとてつもなく鼻が良いのだ。
だからいくら僕等が横道にそれても、隠れていても――見つけられてしまうのだった。
「けっ、逃げても無駄!隠れても無駄だぜ!!」
暗〜い深〜い、オマケにじめじめっとしたダンジョンの中。
駆け抜ける足音と共に彼は叫んだ。
「俺達がっっ!!」
そう、付け加えて。
そして僕はそんな彼の隣を一緒に走る。
「泣きそうなくらい悔しいのは十分にわかったからさ、そうやって敵を挑発するような大声出さないでくれる?」
後ろから千歩譲っても人間の声には聞こえない奇声が聞こえてきて、心底そう思った。
「でもよ、ホントにどーするよ?!俺達アイツ等の腹ン中入っちまうかもしんねぇんだぞっ」
本当に泣いていたのか、スターリオは目元をぐい、と擦ると僕の方を向いた。
「……どうしようか。な〜んにも思い浮かばな――」
『もしもの時は』
僕は咄嗟にポケットを弄った。
……よし!
「カースト?おーい、カーストってば!」
どうしたんだよ!、と心配そうな顔で言ってくるスターリオの腕をとって、
「スターリオ!今すぐ家の事思い浮かべろ!ルイさんでもいい、シオちゃんの事でもいいから!早くっ!!」
宝珠を――ルカさんに貰った方を握り締める。
「え?あ?……お、思い浮かべ」
わけのわからない、といったような顔をした彼の言葉を遮って、唱えた。
「移動<ムヴァース>!!!!」
* * *
体を引っ張られるような感覚の後、目を開けてみればそこは見慣れた家の庭だった。
そして見慣れた……安心する家族の顔。
「に、兄ちゃん?! 何で空から降ってくんの?」
「ラクラス……?」
弟の名前を紡いで、やっと脱出出来たんだという実感が沸いてきた。僕はお茶菓子を持ったまま、呆気に取られている弟の手を借りて(ちなみにお茶菓子はその間安全な場所に置かれていた)立ち上がった。
「つかホントに何で空から? リオ兄とダンジョン行ってたんじゃなかったっけ?」
そこで思い出す。
がっしり腕を掴んでいた筈のスターリオが横に居ない事に。
「あれ?スターリオは……一緒に落ちてこなかったのか?」
その問いにラクラスが答えようとした瞬間、庭の奥――というかガーデンテラスの方から奇声が聞こえてきた。そして理解する。
「……もしかして今日はルイさん達とのお茶会だった?」
ゆっくりと、ラクラスは頷いた。
駆けつけてみると、そこはとてつもなく悲惨な状況だった。
真っ二つにへし折られたガーデンテーブル。その脇でフォークを持って泣き叫ぶシオちゃん。それを宥めるスターリオ……尻にべっちゃりとケーキの残骸付き。
僕は、推測でしかないが、ほとんど当たっているだろう答えを導き出した。
つまり……あの時僕に「思い浮かべろ」と言われたスターリオは咄嗟にシオちゃんの事を思い浮かべて、ラクラスの事を考えた僕のようにシオちゃんの目の前に飛んできたんだ。
でもシオちゃんが居た所はお茶会の真っ最中で、しかもケーキを食べようとしていた時だった。
ケーキにフォークを突き刺そうとした瞬間、上からダンジョンに行ってる筈のお兄さんが帰ってきて、ガーデンテーブルと“あたし(シオちゃん視点)”のケーキを粉砕してしまったワケだ。
そしてそれに気づいたシオちゃんは泣き叫び――今に至る。
……と、こんな所だろう。
絶対に当たっている、と確信出来る程に辻褄の合った推測だった。
「うわああぁぁぁん!!! お兄ちゃんがシオのケーキ潰したああぁぁっっ!!!!」
さっきの化物の奇声をタメを張る泣き声。ラクラスが居るせいで子供の泣き声に慣れてはいるが、これはキツい……思わず耳を押さえていると、家の中からルイさんと母さんが出てきた。
「あら、スターリオ君おかえりなさい〜」
ほわほわと花を撒き散らして微笑んだのは母さんで、
「……」
無言の怒りはルイさんだった。
背後から迫り来るどす黒いオーラに気づいたのか、ずっとシオちゃんを宥めていたスターリオの肩がビクッと震える。そしてさっきのミミックの時のように、遅い……かなり遅い回転で振り向いた。
「ス タ ー リ オ 〜〜???!!!」
普段はとても綺麗な人なのに、今は角でも生えてるんじゃないかと思う程、怖い顔のルイさん。遠くから見ているだけの僕も思わず震える程だ。
「どーいう事か説明して貰いましょうかねぇ?」
「おっ、お袋! これには深〜いワケがあって……!!!」
あたふたとジェスチャーを試みているようだけど、肝心な所は伝わらない。……というかよく考えれば(考えなくても)スターリオは自分が何でここに居るのかわかってないんじゃないだろうか?
僕は慌てて弁解しようと、2人の方へ走った。
するとスターリオは僕が来たのに気づいたからなのか、「ごめんなさい!」と早口で謝るとこっちへ走ってきて僕の腕を取った。
「へ?な、何を――」
疑問を口にする間もなく、彼は言った。
「逃げるぞ、カースト!!!」
何で僕も一緒にっ、とか、ちゃんと説明すればいいじゃないかっ、とか色々思う事はあったけど、後ろを振り返って……そんな思いはどこかへ飛んでいってしまった。
「スターリオ!!!逃げても無駄!隠れても無駄よ! おとなしく、どういう事か説明しなさい!!
カースト君も一緒に逃げるようだったら、覚悟しなさいよっっ!!」
昔は凄腕の魔法使いだったというルイさんが、かなりどデカイ炎を携えて追ってきていた。
僕はスターリオの隣を走りながら、ダンジョンの化物の方がマシだ!と、心底思ったのだった。