1個前の23と比べるとだいぶ軽い話かと。
ギャグに走ったつもりなんですが、あんましネタにしちゃいけないようなネタですみません。
そしてお題を無理やり入れたちっくですみません。……のああああああぁ!!!!(発狂
2006.9.14.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 24 ] さぁ戻っておいで。
ある日、街中を歩いていると珍しい光景に出くわした。
わらわらと集まった人だかり。
何かと思って近寄ってみれば、何だか皆上を向いていた。
私もそれにならって上を向くと。
「くっ、来るなァ!俺は……俺は死ぬんだああああ!!!!」
なんとまぁ、自殺志願者さんだった。
見たところ20歳前後、冴えない眼鏡にボサボサの髪。ヨレヨレのポロシャツと汚れたジーンズが哀愁を漂わせている所を見ると――大学受験失敗でもして浪人しまくったのかねぇ。
視線を下ろして横を見ると、一緒に歩いていたナナも同じように上を見ていた。
そして呟く。
「なら早く死ねばいいのに」
ぼそっ、と呟く。
「いやいやいやいや!!少しは“どうしたんだろう?”くらい言ってやれよ!」
同じく一緒に歩いていた刳灯が高速のツッコミを入れる。
「だってさァ、死ぬんだーって宣言するなんて止めてくれーって言ってるよーなモンじゃん?」
不機嫌そうな顔をしたナナがぼやいた。
私はそのやりとりを見ながら小さくため息をつく。……全く、ナナも率直過ぎるよなぁ、なんて思いながら。
確かにあの自殺志願者にも問題があると思う。本当に死にたいんなら一人でひっそりと樹海にでも行ってればいいのに。もしくは海に飛び込むとか――どちらにせよ、死体を発見した人に迷惑がかかるから良くはないのだけれど。
『きっ、君には家族が居るんだろう?!その人達が悲しむとは思わないのか!』
人ゴミの向こう、警察官が拡声器で呼びかけていた。
「うるせー!!!俺には家族なんて居ないんだよ!育ててくれた叔父さんだって去年死んじまったんだ!」
おやまぁ、意外と悲惨な生い立ちらしい。
時たまこういう風に警察官の呼びかけが正反対に作用する、という話は聞いたことがあったけれど実際その現場を見たのは初めてだった。
『うっ……じゃ、じゃぁ恋人はどうだ!?悲しむだろう?!』
「ううう、うるせえええー!!!俺は生まれてこのかた21年!彼女なんて出来た事ねええ!!!」
……。
……いや、まぁ、なんかね。
「うっはぁ、あの警察官ちょーおもしろいね!」
目をキラキラと輝かせたナナが言った。
その頭をポカッと刳灯が殴る。
「人の生き死にがかかってんだから笑うな、っつの!」
そういうお前も顔がニヤけてるぞ。……と、それは言わないでおいたけど。
それはそうと。
自殺志願者さんの彼女居ない暦21年に呼びかけの警察官は酷く驚いたようだった。
『そっ、そんな!21年も彼女が居なかったのかい?!それはさぞ辛かっただろう……僕がいい女の子紹介してあげるからちょっと携帯の番号教えてよ!』
「アンタはどこぞの斡旋業者か!!番号は090-xxxx-xxxx!!!」
言うのかお前は!
警察官の呼びかけも問題だが、それに答える自殺志願者も問題だと思う。
そしてふと横を見ると。
ピポピポ
携帯を真剣に操作しているナナが居た。
「……お前何やってんの?」
何だかやっている事の検討がつくのが悲しい気もするけど、あえて訊いてみる。
ナナはすぱっと答えた。
「早く死ねば?ってメール送ってやろうと思って」
――まぁ、そんな事だろーと思ったけど。
ってそうじゃなくて!
「お前やめろよな……それでもし彼が死んだらお前、罪に問われるぞ?」
親切心でそう言ってやったのに、
「ふ〜っふっふっふ!だいじょぉぶですよ、フレア君!勿論親父の力でもみ消します!」
自信満々に言い切られてしまった。……お前ねぇ。
私はこのままじゃ本当に送りかねないので、ナナからさっと携帯電話を取り上げた。
「むっ!何するのさー、フレア!」
「余計な事するんじゃない。お遊びじゃないんだぞ」
少しキツく言って、コツン、と頭を小突く。ナナは「……んむ」と若干不満は残ったようだったが、小さく頷いた。
『よし、アドレス登録したぞ!じゃぁ、待ってろ、とっておきの女の子を今から呼び出してやるからな!』
警察官は意気揚々とボタンを押して……
『あ、もしもし?!僕、僕!僕だってば僕だよ、僕!』
オレオレ詐欺か、お前は……!!!
――この場合はボクボク詐欺になるのかもしれないが。
しかし勿論詐欺などではなく(仮にも彼は警察官だし)その“女の子”を呼ぶためだったようだけれど。
『……なっ?!ち、違うよ、真由美ちゃん!僕はただその子を紹介したいヤツがいるってだけで!違うって、僕が好きなのは世界で真由美ちゃんだけだって!……え?あ、あたしは違う?……ちょ、それってどういう意味!?ねぇ、真由美ちゃん! 真由美ちゃんっ?!?!』
……。
……こ、これはなんとも。
「お、おい、アンタ……大丈夫か?」
自殺志願者の彼まで心配して声をかけている。それほどまでに警察官はうちひがれていたのだ。
立場が逆転してそーだな、と少し思った。
『い、いいんだ……彼女には僕なんか不釣合いだってわかってたんだ。いつも会う度にプレゼントをしなければデートすっぽかされるし、デートしたらしたで毎回高級なアクセサリーをねだられたり、フランス料理のフルコースをおごらされたり……僕はその度になんとかやりくりして、彼女を喜ばせようと頑張っていたのに……』
そしてどこからか、プチッという音が聞こえてきて。
『そ、そうだよな、おかしいよな!?今思えばこれっていいようにあしらわれてたんだよな?!っていうか財布?!財布にされてた?!く、くそうあの女、この僕をコケにしやがって……!!!』
どこかイっちゃったような警察官。さてはアレ、堪忍袋の尾でも切れたか?
『アイツを殺して、僕も死ぬ!!!!』
――やっぱり切れてたか。
「ぷぷぷぷっ!あははは!!!あの警察官面白すぎっ!!!」
「……お、お気の毒な方だ……相手にされてなかったんだな……」
ナナは笑って刳灯は落ち込んでいた。
しかし、なんというか。
「まっ、待てよ!落ち着けよ!」
自殺志願者さんが必死で呼びかける。勿論こちらには拡声器などは無いので相当“必死”だ。野次馬の中からも「兄ちゃん元気出せー!」だの「女は一人じゃないぞ!」だの……まぁ、それぞれに元気付けてるらしいが。
『うう、うるさーい!!!貴方達にこの僕の気持ちはわからないんだあああ!!!!』
どうやら逆効果だったようで。
ぶんぶん、と警棒を振り回して威嚇する始末。……これ下手したら、っつーか下手せんでもクビなんじゃなかろうか、と少し心配してしまった。
「そこでアンタがその真由美さんを殺して、自分も死ぬっつっても何の解決にもならないんだぞ!?これを教訓として、これからの人生歩んでいけばいいだろうがッッ!!」
ついさっきまで自殺しようとしてたヤツの言う言葉じゃないけどね。
『……っ!そ、それはそうだけど!』
怯む警察官。あの高低差じゃ表情なんかはわからないだろうが、声に焦りが滲んでいるのを感じ取ったのか、自殺志願者が続けて言い放つ。
「そうだと思ってるならそれでいいんだよ!アンタにはこれからの人生があるんだ。そんな真由美さんだか誰だか知らないが、最低の女のせいで人生棒に振らないで!ちゃんと生きていこうぜ!な?さぁ戻っておいで。死ぬなんて言わずに!!」
どの口からこの言葉が出てるのやら。
お前、自分が手すりの外っかわに居るって事忘れてんじゃないだろうなァ、と見上げながら思った。
そしてソレを思ったのは私だけではなかったようで。
『あぁ、ありがとう……生きる希望が湧いてきたよ。 ん?でも、君って……』
――たった今死のうとしてたんじゃぁ……?
ぼそりと呟いた言葉は、拡声器によって大きくなって下から上へと響く。
……ただの呟きに留めておけばいいものの、なんで電源入れっぱなしかねぇ。
警察官のその言葉に野次馬も皆、ポンと手を打って同じように上を見た。
上ではやや放心している自殺志願者を他の警察官がちょうど取り押さえようとしていたのだけど……。
「くっ、来るなァ!そういえば俺は……俺は死ぬんだああああ!!!!」
放心状態の解けた自殺志願者さんはそう言って、この場を振り出しにもどしたのだった。
* * *
「……ったく、やってらんないな。何がやりたかったんだあの人達は」
ずっと上を見ていたせいで少し痛くなった首を叩きながらそう言った。
隣ではいつの間にやら取り返されていた携帯を真剣に操作するナナが居て。
「いや、ちょっと待って、何でお前も同じ行動してんの?」
その向こうには同じく、携帯を真剣に操作している刳灯が居た。
2人はピコピコピコと画面から目を離さずに口を開いて、
「「早く死ねば?ってメール送ってやろうと思って」」
そう、言った。
「あのねぇ、お前等。さっきナナにも言ったけどこれで彼が死んだら――」
そこまで言って、私はしばらく考える。
振り返ると未だに拡声器と自声で呼びかけ、応戦(?)する彼等。
最初に見たときはどうなるかと思ったが、あの自殺志願者さんも何かと図太い人だったようだし、これくらいじゃあ大したダメージにもならないだろう。
それに今までの例から考えて、逆方向に働く可能性だってあるよなぁ。
なんて、思ったりして。
「――……はいはい、好きにしろよ」
深いため息をつきながら、ややなげやりに、そう、返したのだった。