ダグラさんはR学園の初期にちらっとだけ出てる不良っぽい人です。
ちなみにダグラの由来はグダグダとダラダラです。 嘘です。(いつもの如く適当名前です。
でもこれ書きながらグダグダダラダラでもいいんじゃないかと思ったり。
やっぱりR学園は楽でいいなぁー。
2008.3.4.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 28 ] 信じてくれなくたって、いい。
いつものようにテストの採点をしていた守山滋氏は、有り得ない点数を出している生徒の答案を見て、頭を捻った。
解答欄には赤丸ばかり。点数は100点満点だ。
問題を作った身としては少し悔しかったりもするが、生徒が理解してくれたのだと思うと誇らしくもあった。
――が。
この生徒に関しては簡単にそうは思えなかった。
何故なら、いつも1ケタがザラな生徒だったからだ。
人を疑いたくはないがこればかりは疑問に思ってしまう。
果たしてこれは彼の実力なのだろうか、と。
* * *
5時間目の授業は数学だった。
担任の守山先生が入ってきて委員長のフレアが号令をかける。
「きりーつ、れい! よろしくお願いしますー」
「「よろしくお願いしますー」」
全員が着席したのを確認すると、守山先生は持っていた答案用紙を教卓の上に置いた。
皆思わず、ある者は嬉しそうに、ある者は嫌そうにそれを見つめた。
「この間やったテストを返すから、呼ばれた人から取りにくるように」
出席番号順に名前を読んでいく。
例の生徒の順番はすぐにやってきた。
「ダグラ君」
「うーっす」
髪を金髪に染め、凶悪な面をしたダグラはヤル気のない声を上げ、教卓の方へと向かった。
守山先生は色々と悩んだあげく、点数に変わりは無いという事で、他の生徒と同じように彼を褒めた。
「よくやったなダグラ君。 すごいぞ、100点だ」
そう言って答案用紙を渡そうとして……
「はっ?! バカでバカでどーしようもない不良まがいの事やってるダグラが100点だと?!?! 天変地異の前触れか!!!!」
横から美沙君に掠め取られた。
「こ、こら!美沙、それはダグラ君のなんだから返しなさい!」
そうは言うものの内心守山先生はこんな事を考えていた。
(美沙が上手い事追求して真実を導き出してくれれば)
と。
つまりはやっぱりダグラの事を疑っているわけである。
「ホラ、見てくれよフレア!いっつも1ケタばっかのダグラが3ケタだぞ!信じられないよな!!」
ヒラヒラと答案を風に泳がせながらフレアの席へと向かう美沙君。
その答案を見ようと周りには人が集まっていた。
「へぇ?本当に100点だな。 これは――死に物狂いで勉強したのか、それとも……?」
受け取ったそれに目を通して、近くまで来ていたダグラをジト目で見る。
周りに居た他の人達もジト目では無いが一斉にそっちを見たので、居心地悪そうにダグラは頭をかいた。
「べ、べんきょーしたんだよ。 ま、まぁ?おれがやりゃあこんなモン、おちゃのこさいさいよ」
声に出したらわからないが、文字で書くとこんな感じ。
おわかりだろうか、“漢字”が無いのだ。
「うっわ、おちゃのことか言ってますよこのバカ。 ダグラが100点とるなんてカンニング以外の何物でも無いってのにね!!」
フレアが濁していたのにサラッとズバッと言ったのはナナだった。
「あー、でもバカにはカンニングする能力も無さそうだから、実際にはダグラのそっくりさん説が有力ですねぇ!」
もうボロクソである。
すると横から声が上がった。ナナと同じ明るいオレンジ色の髪を持つココロだった。
「それは酷いよナナ! いくらダグラがバカだからってカンニングくらいは出来るよ!だって不良は意外と手先が器用なんだよ!特攻服に刺繍とかしなきゃいけないもんね。ね、ダグラ!」
フォローするのはそっちなのか、と少し期待したらしいダグラはガクッと肩を落とした。
まぁ、日頃の行いがモノを言うのだから、それは仕方ないのだが。
「お、おまえらはオレをあまく見すぎてるぜ。 オレがほんきを出せばなぁこんなテストラクショーなんだよ!はんっ、100てんとれねー方がおかしいんだよ!」
少しだけ漢字が増えている。バカバカ言われ続けたので反抗だろうか。
しかし彼はやはりバカに変わりなかった。“100点”を取れなかった人間の神経を逆なでしすぎたのだ。
「……とか言ってますよ、フレアさん。参ったね、バカにバカ呼ばわりされるたぁ、私の予定に入ってないんだけど」
「全くだな。少なくとも今まで1ケタしか取ってこなかったような人間に言われるのは憤慨だ」
大体100点を取れている人間の方が圧倒的に少ないのである。今やフレアとナナを筆頭に、クラスのほとんどはダグラへの敵意をあらわにしていた。
「ちょ、ちょっと待った!まだ全員分返して無いから、それまで待った!」
流石に私刑状態はマズイと思ったのか、守山先生が割り込んだ。確かにまだ返してもらってない生徒もいたし、皆は渋々自分の席に戻った。
全てを返し終わり、結局今回のテストで100点を取ったのはダグラと美沙君だけだった。
「美沙が100点取るのはいつもの事だから別に不思議は無いな。ムカツクが」
フレアが言った。
ちなみに今はもう終学活の時間で、教卓の所にフレアは居た。
「ふっ、天才とは罪なものだな……」
浸っている美沙君を殴りたい衝動にかられるが、ここで殴ってはバカを認めるようなモノ、と皆それを押さえた。
と、それはともかく。
「しかし本当に勉強したから、だと言うのか?ダグラ」
あからさまにおかしい点数だったから終学活でもう一度話し合おうという事になっていたのだった。
「そ、そのとおりだ!オレだってほんきをだせばナァ――」
「それはもう聞いたから」
ダグラの発言をピシャリと遮ってフレアは言う。
そしてどうしたものか、と首を傾げた。
「……こうなると嘘発見器でも使うか。嘘ついたのがわかったら地獄の苦しみを与えられるような――」
「ちょっとまてええええ!!!!!!」
今度はダグラがフレアの言葉を遮った。
無理も無い。
何だか彼にとってとても不吉な言葉が聞こえたのだから。
「ていうかさっきからウソだのバカだの……少しくらいは本当にオレがべんきょうしたって思ってくれてもいいんじゃねーのか!」
「「いや、そりゃ無理だろ」」
声を張り上げたダグラにクラス一同の心が一致したようだった。
まぁ、それも仕方ない。
見かけだけならともかく、実際にダグラは“不良”だったのだから。
するとこれには流石にかなりのショックを受けたようで、ダグラは机に片方の手をついてもう片方で顔を覆った。悲劇のポーズだろうか。
「……でもオレはやったんだぜ……信じてくれなくたって、いい。オレはやったんだぜ……!」
いや、そこは信じてもらえなきゃダメだろ。それと同じ言葉を繰り返すな。
他の人はどうあれ、とりあえずフレアはそう思った。
そしてそれを口に出そうとした時――
「信じますわ……!!!」
ガタンッと椅子を鳴らしながらシーミナが立ち上がった。
彼女は所謂優等生なお嬢様だった。全てを信じ、全てを愛するような慈母の心を持つ麗しき少女。
そんな彼女が「信じる」と、そう言ったのだ。
「ダグラさん!わたしはあなたを信じますわ。だから、これからもお勉強頑張ってくださいね!」
ガシッとダグラの両手を掴んでシーミナは言った。
皆もシーミナがそこまで信じるのなら……とやや他力本願な片付け方をしようとした、が。
掴まれた瞬間に袖口から落ちたらしい“何か”をフレアが拾い上げた瞬間、状況は一変した。
「……答案見本……」
実際に何ていうのかは知らないが、その“何か”にはそう書かれていた。
落ちたのは小さく折りたたまれた紙で、広げるとそれはまさしく全ての答えが書かれてある答案の見本だったのだ。
「ああっ!!それは僕が無くしたと思っていた答案見本!!!」
声が上がったのは窓際の椅子の上。
禿げ上がったおっさん――改め、守山先生だった。
「は?どういう事ですか?簡潔に説明してください」
嫌な予感がして、フレアは眉間に皺を寄せながら訊いた。
守山先生は頬をかくという(この人がやると)全然可愛く見えない仕草をしながらこう答えた。
「いやぁ、実は答案見本と作り終えた直後にいきなり腹が痛くなってね。慌ててトイレに駆け込んで、戻ってきたらもう無かったんだ」
それなのになんでこんな所にあるんだろうねぇ、と首を傾げ、
「あ!」
と、思い出したように手を打った。
「そういえばあの時ダグラ君と職員室の入り口ですれ違ったね!テスト期間中は職員室に入ったらいけないって言われてるのに堂々と入ってたから気にも留めなかったけど――あれって何かあったのかな?」
「何かあったのかな、じゃねええええ!!!!!」
ちゃぶ台を引っくり返すかのように教卓を投げるフレア。
窓際に向かって投げたので、逃げる隙間も無く守山先生は教卓に押しつぶされた。
「全部アンタの不注意のせいじゃねぇか!!普通いくら腹痛だからってそういうのは隠していくだろ!つかその前にダグラの行動に疑問を抱け!あからさまにおかしいだろ!教育指導室ならともかく職員室に入る必要なんてカケラも無いようなヤツだろ!?」
そしてグルッとダグラの方へ振り返り、
「大体っ!!お前もそういう事考える暇があったらちったぁ、努力しろ!そうしたら3ケタは死んでも無理だが、10点台は取れるかもしれないんだぞ!それはさておいてもカンニングってのは犯罪だ、わかってんだろうな?嘘発見器じゃない、地獄の苦しみを――」
ゴワワワワワワとフレアの背後で炎が燃えている。
それがなかなか鎮火しないのを見て、皆は早々に帰り支度をして各々挨拶をして帰っていった。
そして教室にはいつまでも説教を続けるフレアと縮こまるダグラ、教卓の下敷きとなった守山先生だけが残されて。
「いやぁ、今日も平和でしたなぁ」
全くそうは思っていないのがまる分かりのナナの声が、虚しく校庭に消えた。