魔術師話でした。メイリンの誕生ーっぽい感じで。
流れで言うと、この物語が魔術師達の最後の話。
ちなみに最初の話はニジカケのフレアの話なのでした。 意味わかんないけどね!
2008.3.7.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 29 ] 気付いてる、痛いほどに。
闇に彩られた城から産声が上がる。
昏き闇から全てを救う光となるか、闇すら食い尽くす無となるか。
“彼女”はどちらの権利も持っていた。
* * *
暗闇のような黒い瞳、その人はそれで全てを見下しているように見えた。
親から受け継がれた血がまざまざと見受けられるその態度。
彼はこの“王国”にとても相応しい人物と言えた。
政略結婚。
誰がどう見ても私達はそうだった。
勿論それは本当だったし否定もしないけれど、それでも私はこの結婚に感謝していた。
昔、いくつかの国の重鎮達が集まるパーティの中で彼を見て、私はずっと彼に惹かれていたからだ。
綺麗な黒髪、同じように美しい黒い瞳。
私達の世界では珍しいその取り合わせに誰もが目を惹かれ、賞賛した。
そして彼は容姿だけでなく、話しかける人全てに優しい笑顔で応対し、まだ幼いながらも的確な意見を述べる知性や社交性も持ち合わせていた。
だから皆口々に言ったものだった。
「この国はますます発展するだろう」
と。
自国と彼の国が同盟を結ぶ事になり、私はその結託をより強固にする為、彼の元へ嫁いだ。
憧れていた人の妻となり、これから横で一緒に歩んでいけるのだと思うと私は胸が躍り、
そして未来は光で満ち溢れている、と信じていた。
でも、いつからだろう。
彼は時々とても暗い表情をする事があった。
暗いだけでなく、心底何かを憎んでいるような雰囲気をさせて、何かを考え込んでいる事もあった。
国の政務に関する事かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
私はとても心配だったが、彼から言ってくれるまで待つことにしていた。今までは全て相談してくれていたからだ。
だけど今では後悔している。
少しでも話を聞いておけば、今の状況は少しでも変わっていたかもしれないのに、と。
子供ができた、と。
そう告げた時の彼の顔を思い出す。
すごく驚いて、すぐに真っ赤になって、とても嬉しそうに笑った。
普段あまり笑わない彼だから、その場に居た人達は皆とても驚いたものだったっけ。
私達、素敵な親になりましょうね、とそう言って。
でも、それは叶えられなかった。
生まれてきた子の髪はブロンド。私の血が受け継がれたのだろう。
そして瞳は。
「……エリザ、君は、この世界の遺伝の法則を知っているか?」
子供を抱き上げて嬉しそうに笑っていた彼の声のトーンが一気に下がった。
どうしたのかしら、と思いながらも「えぇ、一応は」と答えた。
「髪や瞳の色は親から受け継がれる物だ。わたしも両親からそれぞれ黒髪と黒目を受け継いで、君はブロンドと黄緑の瞳を受け継いでいる。
だけど――この子の瞳は何だ?!」
そう言って彼は子供の顔をこちらへ向けた。
透き通るような、レッドアイ。
「父や祖父から散々聞かされていた事がある。 世に居る魔法使いの話だ。――彼等の多くは、遺伝に関係無く瞳に赤を宿しているそうだ。けどそれだってどこか受け継がれた色が混じっているものだ。
こんな――こんなに、純粋な紅色は、“ヤツ等”でしか有り得ない!!!」
“ヤツ等”とは、“魔術師”と呼ばれる者達の事だ。
深くは知らないが、彼の国は昔からその“魔術師”を排除しようとしているらしい。
不老不死のヒトの形をした化け物。
彼はよくそう言っていた。
彼は半ば押し付けるようにして子供を私に渡し、そして、恐ろしい言葉を口にした。
「殺そう」
耳を疑った。
「……な、に言ってるの。たった今生まれてきたこの子を、殺すと言ったの……?」
「そうだ。 育つ前に排除しなければならない。ヤツ等は、忌むべき存在なんだ――!」
私は咄嗟に彼から子供を遠ざけるように身を捩った。
「やめてサザード!!生まれてきたばかりのこの子には何の罪も無いのよ!それに、貴方と私の子供なのよ、どうしてそんな酷い事が言えるの……!」
私の剣幕に驚いたのだろうか、一瞬彼は怯んだ。
けれどすぐに持ち直して続ける。
「しかし、今殺しておかないとこれから先どうなるかわからないんだ!ただでさえ世界には6人も魔術師が存在しているというのに……これ以上増やしてなるものか!」
私にも“魔術師”がどれだけ危険な存在かはわかっている。
でも、だからと言って今生まれたばかりのこの子を殺せるわけが無い!
「この子を……殺したら私も死ぬわよ」
「エリザ?!」
「サザード、もう行って。 会議の時間になるわ」
声を上げる彼を遮るようにして言った。
「エリザ……」
尚も言い縋る彼だったが、私の態度が変わらないのを悟ると部屋を後にした。
しかし彼はこの子を殺す事を諦めはしないだろう。
私は――決断をした。
それから数日後。
私は祖国から付いてきてくれていた信頼出来る侍女を供に、とある場所へと来ていた。
森の入り口。
ここには彼の恐れる“魔術師”が住んでいるという噂があった。私は――それに賭ける事にしたのだ。
彼は数日しか経っていないというのに、まるで人が変わったようになってしまった。
暗い瞳。言動全てに苛立ちをあらわにし、他人を見下すような態度をとった。
それ程までに、彼にとって“魔術師”という存在は重く圧し掛かっていたのだ。
時々見せた暗い表情も、この事が原因だったらしい。
それぞれの魔術師へと向けた刺客がことごとく返り討ちにされ、現王のお義父様は発狂寸前なのだと人伝に聞いた。
きっと、この子の存在は彼にもっと負担をかけたのだろう。
私にはこの子が大事だった。でも、同じように彼も大事なのだ。
でも殺す事なんて出来ないし、ましてや彼や王を説得する事も出来ないだろう。万が一彼等を説得出来たとしても、この子が生きる為にこの国の環境は悪すぎる――恐らく無事に成長は出来ないだろう。
私は。
私は……、そんなの言い訳に過ぎないということには気付いてる、痛いほどに。
でも、この子の為に――この森へ、置いていく事にした。
運良く彼等、魔術師が拾ってくれるように、と願いをこめて。
眠っている我が子を入れた籠をそっと置いた。
中に名前の入ったカードを添えておく。
「メイリン……ずっと、ずっと愛しているわ」
こんな事した私を許さなくていいから、強く育ってね。
* * *
闇に彩られた城から悲鳴が上がる。
かつてこの城から産声を上げた子供が帰ってきていた。
彼女は“彼女等”にとっての光となり、
彼にとっての闇となり、無となった。
王は子供の手によって堕ち、子供は涙を流した。
遠い、遠い昔。
欲に満ちた王の行いから始まった彼女達の逃走劇はこれにて終幕。
そして彼女は、 。