没になったヤツの設定にちょこちょこ足して書き上げてみました。守山夫妻のぷろぽーず編。
意図したワケじゃないんだけど「迷探偵」の登場人物は山がついてる人が多いですね。
守山・館山・鉦山・高山・山下。あれ、多すぎ……?
美沙は7歳とかその辺り? てか夫妻の年齢差もっとあるような設定してた気がすっけど
これだと3歳差くらいっぽいですね。……うーん、まぁ、どうでもいいか。
2008.7.10.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 32 ] ごめんなさい、嘘吐きました。
ある晩の事だった。
僕の住んでいるアパートが突然襲われた。
……いや、アパート全体が襲われたワケでなく、いやいやその前に実際に襲われたワケでもないんだけど。
兎に角僕には強襲されたも同然な事が起こった。
だんだんだんだんだんだんだんだんだん!!!!!
ドアを凄まじい勢いで叩かれる。
とんでもないその力は治まることがなく、それどころか長い間叩き続けているというのに強まっている気さえする。
覗き窓を見なくてもわかる。
彼女だ。
隣に住んでいる友人はさぞ迷惑しているだろう。
……と、思うが、かえって楽しんでいるかもしれない。
だんだんだんだんだんだんだんだん!!!
一向にやまないその音に流石にヤバイと思って僕は立ち上がった。
そして大きなため息を一つ。
これから先のやり取りの事を考えると自然とそうなるのだ。
カチャリ
観念して鍵を開ける。
そしてこちらから開ける前に向こう側からドアノブが回り――
「やっと開けてくれましたね?!」
その向こうには、やっぱり思ったとおりの女性(ヒト)が居た。
* * *
彼女の名前は間山碧。
綺麗な黒い髪を長く伸ばし、さながらお人形さんのように可愛らしい彼女は、外見そのままに箱入り娘で。
「なんで開けてくれないんですか!?」
……外見に似合わず、少々凶暴性のある性格をしていた。
「い、いや、だって僕には何も話す事とか無いし……」
しどろもどろでそう返すとギラリと視線だけで殺されそうな程睨み付けられる。
あーあ、と胸の中のちっちゃい自分が頭を抱える。そして、「外見に騙されるよなぁ」なんて大きく肩を落とした。
「話す事が無い?!そんなものいくらでもでっちあげればいいじゃありませんか?!可愛い恋人がわざわざ尋ねてきているんですから、そんなの当然でしょう!?」
……そう、何だかよくわからないが――彼女は僕の恋人らしい。
出会ったのは大学の構内。
すごく可愛い子が入ったと浮かれる友人達の話を聞いて、卒業までに一度くらいは見てみたいねと話していた矢先に、声をかけられ、あろうことか抱き付かれ告白までされていた。
正直な話、僕は凡人よりも劣ると思われる外見なので絶対にドッキリだろうと思っていたのだが、友人達の反応なんかを見るとそうではないらしい。
その衝撃の告白後も彼女は僕の所へやってきては愛の告白を繰り返した。
10年程前に何とかで何とかだから助けてもらって云々――とかも言っていたけれど残念ながら僕はそれを覚えていなかった。
だからか、彼女の告白は何回されてもいまいちピンと来ず、その上彼女に憧れていたヤツ等の嫉妬に狂った行動は僕を疲弊させていった。
出会ってから数週間。
僕はとうとう色んな事に耐え切れなくなり、彼女から逃げた。
……と言っても一大学生に逃亡なんて出来るはずも無く。上手いこと先読みをして避ける毎日を過ごしていただけなのだが。
しかし、それでも効果はあったようでしばらくの間彼女の姿は見ていなかったし嫉妬ヤロウも出てこなかった。
うーん実に快適な暮らしだ! そう言うと友人に頭をしこたま殴られたがまぁ、いい。 最近進んでいなかった論文をしあげてしまおう。
そう思って気合を入れた瞬間。
アパートに彼女がやってきたのだった。
「守山先輩。……率直に訊きますけど、私の事避けてませんか?」
うっ、本当になんて率直なんだ!思わずのけぞるがいやいやここはちゃんと答えなければと居住まいを正す。
「い、いや、そんな事ないよ。……ホラ、僕も最近論文書いたりしなきゃいけないから忙しくてね!だっ、だだ、だからたぶん会うことが無かったんだと思うよ!」
どもり過ぎた。これじゃあその通りです、と言っているようなものだろう……。
彼女もやはりそれを感じたらしく視線を下げた。わ、悪い事をしたかな……。
と思ったのも束の間、
「……先輩に論文の課題出すなんて、やめさせてやろうかしらあの教授」
―――― ……。
ちょっと待てえええええ!!なっ、なんか今聞こえちゃったぞ?!
彼女はどうやらシュンとなって項垂れたのでは無く、何か悪い事を考えている顔を隠すために顔を下げていたらしい。……最悪だよ。
「いやっ、あのね!教授どうこうより僕がやりたい事なんだから!そういう事は言わない!」
「……そう……ですか。すみません余計な事言って」
ホントにそれは余計だよ、とは口が裂けても言えなかったのでただ笑うだけにした。
そして気づかれないように息を吐き、彼女の方へと向き直った。
「ところで間山さん、こんな所まで来るって何か用事でもあったのかい?」
そう言うと彼女は視線を彷徨わせた。何だか“らしく”無い。
「――何か急ぎの用だったとか?」
もう一度訊くと今度は慌てて首を横に振った。
「いっ、いいえ!違います!何でもありませんよ!! ただ……その、先輩の顔見たくなって……」
顔を赤らめてぼそりと呟くように言う彼女に、大抵の男はかなりくるものがあるんだろう。その、アレ的な意味で。
でも僕はどうした事か、背筋に悪寒が走った。見ると腕にも鳥肌が立っている。……いや、可愛いよ!可愛いんだけど、どうもそれだけですまされない雰囲気があるというか……。
「そっそぉ、なんだ?! そ、それは、その、う、嬉しいなああああぁぁ〜〜」
声が裏返ってしまう。情けないとは思うのだが、どうしようも無いのだから仕方ないか。
なんて事を考えているとそれが伝わってしまったのだろうか、彼女はどこか悲しそうな顔で
「先輩、私と居るの……迷惑ですか?」
と言ってきた。
オーゥ、イェス!!!
そう言ってしまいたいのも山々だがそんな正直に言えるはずがない。
言ったら最後男共に袋叩きにあい、明日には港にコンクリ詰めかもしれないのだ。
それに……きっと、罪悪感で潰れてしまう。
「そっ、そんな事……」
「私!」
無い、と言おうとしたら彼女に遮られた。
「本当に先輩の事が好きです!相手にされてないとわかってるけど……昔から先輩の事だけが好きなんです……っ」
真剣な眼差し。ここでカッコイイ男ならすかさず抱きしめ甘い台詞の一つでも二つでも三つでも、いやもう何個でも囁いてきっキスとかしちゃうんだろうなぁ。 なんて頭の隅で考える。
でも、僕には無理だ。
彼女の告白を真っ向から受け止めて、それで僕の中の“何か”にすとんとハマった。
お家柄もよく頭脳明晰容姿端麗、非の打ち所の無い(性格にはちょっと難があるが猫かぶりは得意なようなので大丈夫だろう)彼女と、何につけても平々凡々……以下の僕。
釣り合うはずがない。 だから、彼女の告白も今までずっと現実味を帯びないまま聞き流してしまっていたのだ。
助けた云々はやはり思い出せないけれどずっと想ってくれるぐらいだ、何かよっぽどの事をしたんだろう。けれどそれのせいで彼女のレールが変な方向に曲がりそうになっている。
ここで修正してやらねば、彼女はずっとこのまま、こんな何も出来ない男の後をついてくるのかもしれないのだ。
「……うん、ありがとう。すごく嬉しいよ。でも――」
「好きな方でもいらっしゃるんですか……?」
ただたんに無理だ、と言おうとしただけなんだけど彼女がこう言ってきたのでしばし考える。
確かにそっちの方が諦めがつきやすくていいかもしれない、と。
僕は小さく頷いた。
* * *
あの後彼女は「そうですか」とだけ言って立ち上がり、それっきり僕の方を見ようともせず部屋を出て行った。
すかさず隣から友人がやってきてあれこれ訊かれたが、僕はそれも聞き流していた。思っていた通り、胸に何かがずしんと残っていたからだった。
「守山ー!!!お前アホかー!!!!!」
スパコーンとはたきながら言ってくるのは今年になって仲良くなった友人の高山。 関西からやってきているらしくいつでもノリツッコミを欠かさない彼の周りは笑いが絶えない。
「いきなり何だよ。アホって言うな」
「アホやからアホなんや!あ、ついでに言うとアホってのは一種の褒め言葉でな、関西の方ではバカ言われる方がキツいねんって」
「じゃあお前はバカだな」
「ちょっ、このアホんだら!!バカ言うたらアカンて!!!オレ泣いちゃうやん!!」
さめざめと泣きマネをする高山に一緒に歩いていた友人が慰めるマネをする。全くマネばっかりじゃないか。
「まぁ、まぁ、泣き止め高ちゃん。 ……で、いきなりはたき入れて来るくらいだし、何かあったのか?」
「そう!!よう聞いてくれたで館ちゃん!!」
ちなみに僕の友人の名前は館山と言う。隣に住んでいる縁から仲良くなったのだ。
「ちょっと風の噂で聞いたんやけど……お前、碧ちゃんフッたんやって?!」
「…!」
なんて情報の早い……。
「うっ、だって……仕方ないだろう。僕には到底釣り合わない子なんだから」
そう言うとまたスパコーンと叩かれた。
「このアホ!単細胞!!脳細胞!! なんか最後のは違う気すっけどまぁ、いいや!!」
ぐいっと胸倉を掴まれて至近距離で叫ばれる。
「碧ちゃんはなぁ!どこぞの御曹司と結婚してまうで!!!」
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。
すごくうるさい。
が、何だか聞き捨てなら無い言葉が聞こえたような。
「それ本当かよ? まぁ、良い所のお嬢さんだったみたいだし別におかしくは無いが……」
隣で冷静に分析する館山を視界の端で捕らえながら、意識はどこかへ飛んでいた。
昨日、僕の部屋でした告白が最後だったのか、と。
だからあんなに切羽詰ったような様子だったのか……、と。
「おーい、守山?聞いてる?碧ちゃん、他のヤロウのモンになってしまうで?」
何の反応も無い僕を訝しげに思ったのか顔の前でヒラヒラと手を動かす。それをガシッと捕まえると
「今、彼女はどこに居るんだ?!」
そう半ば叫ぶように言った。
「へっ、な、なんでオレに訊くん……?」
キョトンとした高山に横から実に冷静な声が飛ぶ。
「それはお前、ちょい役っぽい関西弁のうるさそうなヤツが意外と情報通ってのはセオリーだろうが。「おう、わかってるでまかしとき!わいが今からすぐに車回してくるさかい!よっしゃぁ、行ったるでええ!!!」 くらい言ってみろよ」
普段落ち着いた標準語なのにアクセントも完璧な関西弁でしゃべられてかなりビビる。
高山も同じくらい、いやそれ以上にビビったらしく気持ち悪そうに館山を見ていた。
「……なんや合ってんだが合ってないんだがようわからんでキモいな、館ちゃん……。あ、ちなみにオレは場所なんぞ知らん!!」
「チッ、使えないな」
さっきのとあわせてかなり酷い言い様だが、それは今に始まった事じゃないのでほっておく。
それよりも今は彼女に会いたい!
会って、それでっ
…… それで?
何を言えばいいんだろう。
* * *
どこから聞いてきたのか、午後になると館山が情報を持ってきた。
なんでも向こうの御曹司とやらとどこそこのレストランで会っているのだとか。
何を言えばいいのかわからない。だけど、兎に角僕はそこへ向かった。
見るからに高そうな雰囲気を漂わせる一画。そこに件のレストランがあった。
一応持ってる中で一番上等な服を着てきたし、とりあえず不審者には見えないはず!と自分に言い聞かせながら僕は扉をくぐった。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
ボーイが声をかけてきた。
確かに“お一人様”だが、ここで食べるつもりではないので返答に困り視線を彷徨わせた。するとそのボーイの向こう、窓際のテーブルの一つに見知った顔があった。
――彼女だ。
僕がそちらを見た時に同じように向こうも気づいたらしい。彼女が驚いたように席を立った。
「先輩……?!」
ボーイもそれに気づいたようでさっと脇に引いた。
僕といえばボーイが退いたせいで(おかげで?)彼女を真正面から見る事になり――
(な、なんだアレ?! あれ、こんなに可愛い子だったっけ……?!)
思わず立ち尽くしていた。
可愛らしい花柄をあしらった着物姿。いつも下ろしたままの髪もゆるく結って着物とよく合う簪で留められている。
いつも会っているはずなのに、まるで初めて見る人みたいでものすごく心臓がドキドキしている。
ふと彼女以外の面々を見てみると向かいにはスーツ姿の男が、そしてもう2人年配の男女が座っている。
あれではまるで見合いではないか!!
高鳴る心臓の鼓動が治まらぬまま、今度はムカムカがやってきた。
「まや……っ」
そこまで言って口を閉じる。
違う、こうじゃなくて。
「碧!!! 迎えに来た!!!」
駆けてくる彼女を抱きとめ、謝っても許して貰えないとわかっていながら、振り返って頭を深く下げる。 そしてすぐに碧の手を引いてレストランから出た。
*
「……せ、せんぱい……?」
だいぶ歩いた頃、後ろから声がかかる。
僕はまだ振り返らずに近場の公園へと入って隅のベンチに彼女を座らせた。
そしてその隣には座らないで、正面に立って、深く頭を下げる。
「ごめんなさい、嘘吐きました」
「……え?な、何のことですか……」
「昨日の。好きな人がいるっていうの、嘘なんだ。別にそんな人がいるわけじゃなくて、僕は……」
“でも僕は、君とは付き合えない。”
そう昨日ならはっきりと言えたのに、その先が出てこない。
というよりも、そんな事もう言えない。
ずっと自覚してなかったけれど、僕は、
「僕は君の事が好きなんだ。やっと気づいた。 だから、他のヤツの所へ行くって聞いて、いてもたってもいられなくて……」
「先輩……」
「こっ、こんな事しちゃってホントに迷惑だし空気読めてないしバカだけど……もしまだ僕の事好きでいてくれてるようだったら――僕と、付き合ってください」
顔があっという間に熱くなる。彼女はいつもこんな想いで告白してくれていたのだろうか。
返事が怖くて顔を上げられない。
そんな僕の手にそっと彼女の手が触れて。
「喜んで」
顔を上げて、彼女の笑顔を見て。
何だかすごく幸せな気分になって、思わず抱きしめた。
「ありがとう! 必ず幸せにするから!」
「ふふ、先輩それってプロポーズですね」
「へっ、あっ、えっ、……と、そう、なるかも、しれない」
「じゃあ、幸せにして貰います。任せましたから……ね?」
* * *
「と、まぁ、そんな感じで結ばれちゃったワケだ」
「へーへーへー!!今の状態からじゃあ全く想像つかないね!この数年の間に何があったんだろ?」
守山家のリビングで一人の男と一人の少女が楽しく話していた。
「んー、……いや、数年間ずっと今の調子だったけど。美沙のお母さんはなんと言うか、ツンデレでデレ成分が皆無に近い状態というか……ちょっと特殊な愛の形を持ってる人でな」
「よくわかんないけど父さんは昔からケツに引かれてたって事か〜!」
「まぁ、そうだな。……て、ケツ言わずにせめてシリと言いなさい。女の子だろう?」
はーいと足をぷらぷらさせながら少女は答えた。
少女の名前は守山美沙。“守山先輩”と“碧”の間に生まれた子供である。 運が良い事に外見は全て碧の血が勝ったようで、まだ小さいながらも将来が楽しみな容貌をしていた。
対して向かいに座る男性の名前は館山紀之。守山のお隣さんだった人である。
「あれ?ところで何でおっちゃんはそんな詳しく知ってんの?」
「おにーさんな、おにーさん」
「……おにーさんは、何で知ってんの?」
大人気ない様子にうんざりしながらも律儀に言い直す少女。
「いや、そこはそれ、友人の将来を心配というかデバがめというか特大スクープというか、興味本位というか……まぁ、そんな感じの思惑が重なって尾行してたんだ」
「最悪だな!」
「そうはっきり言ってくれるな。でもそのおかげでこうして美沙もお父さん達が絶対話してくれない事知れるんだぞ?」
「それもそうだけど……」
最悪な行為だという事は変えようが無い事実である。
むーんと考え込んでいると玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー、美沙帰ったわよー」
「あっ、お母さんだ! おかえり〜」
とてとてと玄関へと向かい買い物袋を受け取る。その脇には荷物持ちに連れていかれた父親も居たがそちらは無視して台所へ向かう。 決して面倒だから、話したくないから、などという反抗期ではなく、たんにもう持てなかったからだ。
「あら、館山来てたの」
「お邪魔させて貰ってるよ。……相変わらずすごい買い込み方だな?おーい、大丈夫かぁ、守山?」
「……あんまし大丈夫じゃない……」
ずどん
両手に持っていた荷物を下ろすとそんな音が響いた。
「一体何が入ってんだ?その大きさからはあり得ない音が響いたぞ……」
「アンタには関係無いでしょ。さ、滋さん、それ納戸に運んでおいてちょうだい」
「……了解……。よっ、こいせっと」
ヨタヨタと歩いていく守山に哀れみの視線を送る館山。まるで女王様と奴隷のようだ、と思ったが口には出さないでおいた。
が、
「まるで女王様とどれいだな!!」
冷蔵庫に荷物を入れていた美沙がそれを見て思った事を言ってしまったようだ。
一瞬場が凍ったが、すぐに碧がにっこりと笑って娘の頭を撫でた。
「よく見てるのねぇ、美沙。大正解よ」
(おいおい……)
優しく言う碧と撫でられて嬉しそうにする美沙を見て思わず心の中で突っ込んでしまった。
そしてそろそろお暇するかな、と腰が上げかけた時、美沙が爆弾を落とした。
「えへへー、でも知ってるんだぞ!実はお母さんと父さんはらぶらぶだったのだ!」
ピキキキ
今度の凍り方は一瞬で溶けるようなモノでは無かったらしい。
長い沈黙が広がり、ややあって碧の顔が館山の方を向いた。
「何――を、話したのかしら……ね?」
「いやっ、別に何も」
慌てて誤魔化そうとするが既に横で美沙がぺらぺらしゃべり始めてしまっている。
そしてそれを一通り聞き終えるとにこっと優しげに微笑み、
「館山、今度余計な事しゃべったら沈めるわよ」
(どこにだよ……)
そう突っ込みたいのを抑えてこちらも笑顔で対応する。やや、引きつってはいたが。
「了……解」
*
守山邸を後にして夕焼けを横手に見ながら車を走らせる。
相変わらずあの家族は面白い、そんな事を思いながら。
「しっかし……アレを話してああなるんだから、“本当”の事話したらマジで沈められそうだなぁ」
“本当”は御曹司との結婚話など無く、全ては碧が滋をその気にさせる為の策略だったという事。
ひょんな事から“相手の男”と知り合いになって聞いた話だ、真実に近いものだろう。
そうまでして手に入れたいものだったのかねぇ……、としみじみ思う。
確かに友達として守山滋は良いヤツだ。本人は何かにつけ劣る劣ると自分を卑下していたが実際言うほどでも無い。……まぁ最近はだいぶん髪が後退してきてヤバイな、とは思うが。
まぁ、何にせよ他人にそれだけの想いを持てるのはすごい事だ。
素直にそう思って、未だ一人身の自分はどうしたものかな、と空笑いをした。