夢と現世と〜の人達。あの話のその後、みたいな感じで。
ヘルメスの設定も色々考えてるのでちゃんと文章にしておきたいな、と思ってます。
後日談びーえる臭くてすみません!!まぁ、わからない人にはわからないから大丈夫ですよね。
ガチは苦手ですが、こういうのならバッチコイになってきたこの頃。
そろそろ色んなトコが腐ってきたようです。
2008.7.10.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 33 ] もはや天然記念物モンだよなお前。
くすくす、と彼が笑う。
テーブルの向かいの席。<A>が彫りいれられた椅子に、彼は座っている。
「だってさぁ、そーいう考えって今時珍しいぜ?もはや天然記念物モンだよなお前」
何の事は無い、ただの世間話の途中。
どうやら今の世間から見ると珍しい受け答えをしてしまった事が彼の笑いのツボにハマったらしい。
「……笑いすぎですよ直哉さん」
「ははっ、悪い悪い。でもホント珍しいってソレ」
あんまり笑うので思わず口を尖らせてしまう。するとそれを見てますます笑われた。
全くこの人は。
* * *
ある人からの頼まれごとで出会った直哉さん。
事故で意識を失い、彷徨っていた彼を戻す事がその時の任務だった。
夢に入り、それが夢だと自覚させた上でここまで導く。
そして状況を説明してノルマを達成させる。
それが僕の仕事。
今まで何人も導いてきて、幾度かは失敗に終わったけれど大抵の人は元通り、いやそれ以上にきっと幸せに暮らしている。
彼等は夢で起きた事など忘れ、ただ現実に戻れた事を喜び涙を流す。
けれど、一人、この人だけは僕に気づいてくれた。
「でもさぁ、ヘルメス。俺の世界がそう思うだけでお前んトコじゃその考えは普通なのか?」
笑いすぎて出てきた涙を拭いながら尋ねる直哉さんに「さぁ、わかりませんけど」と返した。
別にすねているワケじゃない。ホントにわからないだけ。
それを感じたのか「ふーん」と言って、もうそれきりその話はしなかった。
「ところで、今回はどうやってここに来たんです?」
カチャリ、と最近お気に入りの紅茶を一口含んだ。
「あれ、それ今更訊くのか?遅いなー」
「いやぁ、何だかすごく自然に来られたもので今まで失念してました」
嘘だ。
ずっと訊きたかったけど会話が楽しくて切り出せなかっただけ。
「全くそんなのでこの仕事務まるのかぁ?」
「大丈夫ですよ、滅多に人来ませんから」
「そっか」
そう言って彼もずずっと紅茶を口に含んだ。……もっと上品に飲んで頂きたいものである。
「で?結局どういう経路でこちらへ?今はまだそちらの時間ではお昼でしょう?寝るには早いのでは」
「んー、それがなぁ……」
口を濁す彼に疑問を覚えるがそのまま待った。再度問わなくても言ってくれるだろうと思ったからだ。
思ったとおり、しばらくして彼はまた口を開いた。
「実は、学校の階段から落ちた」
「へぇ、それはまた……――」
……。……。……。
って、
「はあぁっっっ!?!」
ガタンッ、と椅子を勢いよく後ろに追いやって立ち上がる。そのまま倒れてしまった椅子に目もくれず、僕は直哉さんの方へと駆け寄る。
「ちょっ、なんでそういう大事な事先に言わないんですか!!夢の方まで影響されない傷だったら僕全然気づかないんですから言ってくださいよ!!」
近くまで言って半ば怒鳴りつけるようにまくしたてた。
直哉さんは僕のその様子に呆気にとられているようでポカンと口を開けたままこちらを見ていた。
「聞いているんですか! 前みたいに悲惨な事になっていたらどうするんです!?一度干渉してしまったから二度目は無理かもしれないんですよ?!」
「ご、ごめん……でもとりあえず死んでは無いだろ?こうして“夢”見てる状態なんだしさ」
「どーだかっ。時々死んでも器用に夢見る人居ますからね!」
その言葉にさーっと青ざめる直哉さん。「冗談ですよ」と言ってあげたいが本当の事なので訂正も出来ない。
「と、兎に角……僕は貴方の体の様子を見てきます!!どうなってても知りませんからね!!!」
ふわりと右手を振って準備を始める。
時系列を整えて、彼の世界へ接続し、体を捜す。
しばらくして気配を見つけた。
「……学校の、保健室みたいですね。じゃあ、行ってきますからね?!」
そう言って暗闇に一歩踏み出す。
すると、ガシッと腕を掴まれた。
「俺も行きたい!!」
「……はあっ?!」
「行けるだろ!?行けるよな! 前にも似たような事やってっし」
「……」
確かに行けなくは無い。でも僕の一存で決められるような事でも無いのだ。
「……わかりました、ちょっと上にお伺い立ててみますから、ちょっと待ってください」
「上?そんなのあるのか?」
あるんです、と頷くだけで返して僕はまた右手を振った。
微かな手ごたえがあって、回線が繋がる。
『もしもし、どうしたの?』
「あ、キサラギさんですか。ちょっと今僕の知り合いが来てて、夢の中から自分の体見たいって言ってるんですけど、そういうのってアリですか?」
『へっ、何ソレ』
「少し前にここに“来てる”方でして。要領はわかってるんで危険は無いと思うんですけど……」
回線の向こう、少し考えて込んでいるような雰囲気が伝わってきた。
そして少しの間が空いて、
『うーん、仕方ないなぁ。でも内緒だからね。バレたらユメサキ管理所がまた色々言われちゃうから……』
「はい、了解です。ボロは出しませんよ」
プツッ
最後に簡単な報告をして回線を切る。横で待っていた直哉さんに向かって軽く頷き「OKだそうです」と伝える。
「おっしゃ!じゃあ、めくるめく夢の世界へー!だなっ」
「あんましシャレになりませんけどね」
そんなワケで僕等は暗闇に消えていった。
* * *
空を飛ぶ感覚。
上がっているようで落ちているようでいつまで経っても、何回やっても慣れないものだ。
「うわああああ、死ぬ、死ぬ!!!!」
「死ぬワケないでしょ、体ないんだから。結構気散るから黙っててくださいよ!」
僕の腕にしがみついて叫ぶ直哉さんを一瞥してそう言い放つ。
目的の場所に正確に飛んでいくのには気力を使うのだ、静かにしていて欲しいものである。
「……うっ、ヘルメスってば冷たいぞ……」
「――別に耳元で叫んだりされなきゃしゃべってても大丈夫ですよ」
少し気が咎めてそう返した。
「うぐぐ、怖い。怖いけど……慣れたら楽しいのか?」
「さぁ、僕はまだ慣れれませんからなんとも……でも、知り合いの人で飛ぶのが楽しいって言ってる人も居ますよ」
そう言ってふと思い出した。
「確か――ホラ、直哉さんの事を依頼してくださった方がいらっしゃるって以前言いましたよね。その方も、飛ばれるのは結構お好きだったみたいですよ。最近は会ってませんが……“最後に会った時の”外見だけで言うと今の直哉さんくらいなんじゃないのかな?」
「女かっ?!」
……。
そういう質問を真っ先にするな、と言いたい。
が、抑えて答える。
「はい、女の子ですよ。最も、ちゃーんとお相手が居ますから、夢見てもかないませんよ!」
釘を刺しておく。別に彼の事をタラシだとかプレイボーイだとか思っているわけじゃないが、あえて、ね。 それに嘘は言ってない。なんたって彼女にはれっきとした旦那さんがいるのだから。
「そうかぁ〜、そいつは残念。 って、いや、それ関係なしにお礼とか言いたかったんだけどさ。それが女の子だったら更に嬉しい!!な感じで。まぁ、いいや。また会う機会があったら呼んでくれよな!」
「はぁ」
それはたぶん無理だろうと思う。
彼女達はそう簡単に捕まえられる人達じゃないのだ。勿論、上に掛け合ったらすぐに見つけてくれるだろうけど、それによって起きる被害も計り知れない気がするから……。
「何だぁ、気のない返事。 んー、じゃあさ、名前くらい教えてよ」
「メイリン」
「へ?」
「彼女の名前です。“直哉さんの事”を僕に依頼したのは彼女です。昔は――違う方だったんですが、もうこの世にはいらっしゃらないんです」
「……?二代目さんって事か?一代目さんはお亡くなりに?」
「いえ、たぶん生きてますけどね。でも、“この世”に見限って違う次元に行ってしまいました。また帰ってきて欲しいんですけどね」
「???」
頭にクエスチョンがたくさん浮かんでいるのが目に見えてわかる。
クスと笑って手を顔の前で振った。
「いや、忘れてください。――っと、ホラ、あと少しで着きますよ」
下の方に見慣れた景色が出てきた。
直哉さんと出会ってから幾度と無く見に来ていた街。
彼の家の上空を通り過ぎ、学校の近くまでやってきていた。
「さて、と。流石の僕も保健室の場所まではわからないんですが……どう行けば近いですか?」
後ろを振り返りそう訊くと彼は口元に手をあてて変な顔をしていた。
「直哉さん……?」
「なぁ、ヘルメス」
「はい?」
真剣な声で彼は言う。
「なんか、唇に感触がある」
……。……。
「はぁ、流石に今は霊体なのでそれは妄想なのでは」
「ちっがうよ!!ホントになんか感覚があるんだってば!!なんかが、唇に触ってる!!!」
ホラ!と言って口元にあてた手を離すが、そうやって見たってわかるはずが無い。
けれど彼が嘘をついているようには見えず――
!
「あっ、もしかしたら意識が戻り始めてるのかもしれません!!!」
そう言えば稀にそういう事があるのだった。意識よりも感覚が先に戻ってくる。霊体は意識に優先されるため、意識が戻らないと体にも戻れないが、触られたらその感触が霊体にも伝わるらしい。……未だに仕組みはよくわかっていないんだけど。
「おっ、マジか!じゃあ比較的軽い怪我だったんかなー。っと、そこから保健室行けるぜ!」
そう言って指差した方向を見て、
「……直哉さん、指消えてってますね。これはホントに戻り始めてるみたいです」
彼の指は、というよりもう手は消えていた。
「うわ、ホントだ。なんか気持ち悪ぃのなー」
少し引きつった笑いをしながらその様子を見ている。
そしてくるりとこちらを向いた。
「じゃあ、そろそろ行くな! また夢で会いに行くから!!」
半分くらい消えかけた体でそう叫ぶ。喉も消えかけていて声は擦れ気味だ。
「はい、楽しみにしてますよ。でも無理はしないでください。……今回みたいな事も、もう起こさないように」
「別に俺が起こしたんじゃな――――」
全てを言う前に彼は完全に消えてしまった。
「やれやれ、来るときも突然。帰るときも突然……ですね」
僕は小さく肩をすくめて笑う。
「ではまた、お待ちしてますよ。直哉さん」
× × ×
後日談。 微妙にBL臭いので色薄くしてます。読みたい方は反転でどぞ。
あれからしばらくしてまた直哉さんがやってきた。今度は夜に見る夢を通して。
なんだか前に会った時よりかやつれているような気がするけど……。
「どうかしたんですか、直哉さん?」
「へ、ヘルメス……それが、俺ちょっと悩んでて……」
「何がです?」
そう訊くとガクーッと項垂れてしまった。 何か僕悪い事言ったか?話の流れとしては実に自然だよなぁ。
「直哉さーん?」
「あのさ……こないだの、唇に感触どうのこうの言ってたじゃん?」
「あぁ、はい。言ってましたね」
「だから俺はさぁ、俺のかっこよさにめろめろになっちゃった可愛い女の子が俺が倒れて意識を失ってるのをいい事にちゅっ、とやっちゃったんだと思ってたんだよ!!ていうかそう思うよな、普通思うよな?!」
「はぁ……で、違ったんですか?」
再び項垂れる直哉さん。ははっ、ちょっとウザいな、この人。
「部屋には誰も居なかったって言うんだよおお!!!!!」
……。……。
へ?
「だからっ、ホントにヘルメスの言う通り俺の妄想だったっぽいんだってば!あああ、もうイヤだ俺。そんなに欲求不満なのか!?でも仕方ないじゃんお年頃なんだからさぁ!!!……まぁ、考えようによってはファーストキス、意識無い時にされなくて良かったとかも思えるんだけどっ、でも、なんか――激しく自己嫌悪だ……」
頭を抱えて唸る彼をどーどーと宥める。
けど……あれ?なんか変じゃないか?
「お訊きしますけど――その、居なかったって“誰が”言ってたんですか?」
「慎也」
「授業フケて付き添ってくれてたらしい……だから、やっぱり誰も来なかったんだよおおお……ああああ、俺の頭って……」
あれ? それって、えーっと。
……。
いや、やめておこう。違うかもしれないし、うん。
でもホントにそうなら何となくヤバイんじゃないのか。
確か慎也って直哉さんの双子の弟さんだよなぁ。
学校も一緒で当然家も一緒。――万が一逃げるトコってあんのか、その状況で。
……。
いやいや、やめておこう。
それに、まぁ。 いざとなったら“こっちの世界”に匿えばいい話。
流石に最終手段だけどね。
ぽむっ、と彼の肩を叩く。
「確かに妄想かもしれません、けど、……兎に角、気をつけてくださいね……」
「へ?何を?」
キョトンとする直哉さんに、僕は何も言えずにただ笑って返した。