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▼ 第1章 第4話 共通

Bパート  開かれたお腹はぎっちりと石が詰められ、そしてそれをまたぎっちりと縫い上げられていました。
 しかし狼は気づかずにぐーすか寝続けています。
 赤ずきんちゃんとおばあさんと猟師の3人は一度家の外に出て、窓から狼の様子を伺っていました。
 そしてしばらく経った頃でしょうか、狼が目を覚まします。
「……っかー、よく寝たよく寝た」
 そしてキョロキョロと辺りを見渡します。
「よく寝たら喉渇いたな。水差しでも無ぇのか、この家は。――仕方ない」
 のっそりとベッドから起き上がる狼。
 どこか自分の体が重い気もしましたが、気のせいという事にしてドテドテと家を出ました。
 目指す先は喉の渇きを癒すもの、水がある所でした。
「水……水……」
 家の近くには井戸があり、それを見つけた狼はそちらに足を進めました。
 井戸の脇には滑車に吊るされた桶がありました。桶の中身は当然のように空なので、水を飲むには自分で汲まなければなりません。
 面倒な事だ、と思いつつ狼は桶を井戸に下ろしました。
 バシャン
 音がして、水面に着いたのがわかりました。
「よしよし」
 後は引き上げるだけです。
 しかし狼は考えました。
 ――汲んでも量が入ってなかったら、再び桶を下ろさなきゃいけない。それは実に面倒だ。出来る事ならいっぱいの状態で引き上げたい。
 井戸の中は暗いのでよく見えませんでした。
 そこで狼は重いお腹を井戸のふちに乗せ、落ちそうなくらい乗り出して井戸の中を覗きました。
 そして、

「うわああああ!!!!」

 落ちました。

 ボッチャーンッッ

 派手な音がして水飛沫が飛び散りましたが、それは地上までは届きませんでした。
 狼はお腹の石の重みによって井戸の底深くに沈んでいってしまいました。
 ――井戸のセットは前半分だけで後ろに隠れられる空間がある。
 落ちたように前のめり状態で那月君は身を隠した。
 それを、家の陰から赤ずきんちゃんとおばあさんと猟師さんが見ていました。
「これで悪い狼は死にました。二人とも助かって良かった」
「えぇ、本当にありがとうございました」
「ありがとう、猟師さん!」
 赤ずきんちゃんとおばあさんはお礼を言い、猟師さんはにこやかに帰っていきました。
「あ、そうだ。おばあちゃん!お菓子とジュースを持ってきたの、食べてね」
「あらあら。ありがとう」
 それ等は家の中にあるので、二人は家に入っていきました。
 最近どんな事があったのか、などを楽しく話す赤ずきんちゃんに優しく相槌を打つおばあさん。
 そして幕は閉じていった――。

 *

 パチパチパチパチ
 園長先生の拍手を皮切りに、園児達そして親御さん達も拍手をしてくれた。
 私達は一度幕の端から壇上に上がり、いっせいにお辞儀をする。
「本日は風倉演劇部の劇にお付き合いまことにありがとうございました!」
 奏和先輩が言って、再び深くお辞儀。
 そしてまた拍手を貰って、笑顔で私達は退場した。


 * * *


 この後パーティがあるという事で、衣装を素早く着替え始める。
 別にこのままでもいいかもしれないけど――それはあくまで“人間の役”の人が、であって。
 ……那月君の着ぐるみじゃあ、パーティどころじゃないしね。
 黒カーテンの向こうで着替えをしていると、先生達が次々に労いの言葉をかけてくれた。
「お疲れ様!すごく良かったわよ!」
「音のタイミングもバッチリだったし、なかなかどうして素晴らしかったんじゃないかね」
 保母さんや園長先生が笑顔で拍手をしてくれる。
「ありがとうございます!これも先生達のおかげです。本当に、ありがとうございました!」
 奏和先輩が言って、私達も同じように頭を下げて言った。
「子供達もね、釘付け状態だったわよ。いつもなら絶対騒ぎ出す子も真剣に見てて」
「本当ですか!良かった~。途中で飽きられたらどうしようかと思ってました」
 壇上からだと全体は見渡せても個々は観察出来ない。
 見るのが面倒臭くなって寝たり遊び始める子が居たらどうしようと内心思っていたのだった。
「ううん。そんな事無いから大丈夫よ。親御さん達も楽しそうに見てくださっていたし――あぁ、そういえば」
 顎に手を当て考えるようなポーズになる保母さん。
 ? 何だろう?
「どうかしたんですか?」
 城崎君がそう訊いた。
「あ、えぇ。親御さん達の中に――そう、風倉の制服を着た男の子が居たなぁ、と思って。もしかしてあの子が前に言ってた?」
 櫻の事か。
 ……そういや櫻がからかいに来るだろうって事、言ってたっけ。
 私はコクリと頷いた。
「は、はい……」
 うう、なんだか恥ずかしい。からかい云々を語ってしまっているせいだろうか。
 すると保母さんはにっこりと笑って、
「随分真剣に見てくれてたわよ。からかいなんて無いんじゃないかしら?」
 そう言った。
 そして、
「主役の赤ずきんちゃんじゃなくて、おばあさんばかり見ていたみたいだし。ふふ、良かったわね、素敵なお友達を持って」
「……っ」
 にっこやかーに言ってくれるけど、それってつまり!
「春日井君、やっぱり美波ちゃんの事気になるんだね~」
「違う!断じて、違うよ恵梨歌ちゃん!!!」
 ほわほわと保母さんと同じような優しい笑顔で言う恵梨歌ちゃんを遮った。
「え、な、なんで?」
「だって私の方をずっと見てるって事は、どっかにからかいのネタが無いか探してるって事だもん!絶対そうだ!
 うああああ、私ミスしなかったかなぁ?ちゃんと演技出来てた!?」
 ガクガクと肩を揺さぶる。
「う、うん、だ、大丈夫っだったよ」
「ホント!?櫻につけいるスキ与えてないよね?!」
 揺さぶるのはやめて正面から恵梨歌ちゃんを見る形にする。
 恵梨歌ちゃんもこちらを見つめて――
「うん。大丈夫、美波ちゃんもわたしも、那月君や城崎君もお兄ちゃんも――皆バッチリだったよ」
 力強く言ってくれた。
 その言葉にほーっと胸を撫で下ろす。
 ヨシ、これで万が一櫻に何か言われようと、恵梨歌ちゃんのお墨付きがあるんだからね!で回避出来るっ。
「本当に皆良かったよ」
「先輩」
 いつの間にか奏和先輩が側に居た。
 着替え終わった城崎君や那月君も居る。
「皆が居なかったら絶対に出来なかった事だ――本当に、ありがとう」
 そうしてから私達を順々に見て、やはり労いの言葉をかけてくれる。
「さ、じゃあササッと片付けをしてパーティの準備を手伝いに行こうか。ね?」
「はい!」

 いつもお邪魔していた部屋は間にあった壁が取り払われて続き部屋になっていた。
 そこに長テーブルが並べられ、園児達の机と椅子も整列していた。
 その上にはハムやらレタスやら卵やらパンやら……つまりはサンドイッチの材料が陳列されていて。
「はーい、じゃあ皆、今からサンドイッチ作るからねー!パンの間に好きな具を詰めようね!」
 保母さんが言って、園児達が各机について作業を始める。親御さん達も自分達の子供の横について楽しそうに一緒に作っていた。

 パーティというのはこのサンドイッチパーティの事だった。
 こちら側で全てを作って食べるだけ、というのも良かったんだけど、やはり自分で何かしらやった方が楽しみも増す。
 という事で、子供でも簡単に出来て作った気持ちになれるサンドイッチがチョイスされた。
 それだけでは寂しいので、部屋の隅で保母さん達がからあげやフライドポテトなどパーティには欠かせないメニューを作っている。
 簡易コンロ+油の入った鍋というのは危険なので親御さん達が子供を絶対にそっちに行かせないようにガード。まぁ、そんな事しなくてもサンドイッチ作りに夢中なようなんだけど。
「さて、何を手伝いましょうか!」
 勢いよく言うと、すぐに一つのテーブルに連れて行かれた。
 ここにもまたサンドイッチの材料が並んでいる。
「子供達が作ってる分だけじゃあ足りないから、こっちでも作ってもらえる?
 あ、城崎兄弟は小夏ちゃんと晴矢君見てあげてね」
「はい」
「おう!」
 どうやら城崎家の保護者は来ていないらしい。まぁ、怪我をしてるっていう話だったし無理も無いか。
 親御さん達の間に混じっていた櫻も呼び寄せて手伝わせる事にして――っと。
 そんなワケで城崎君と那月君は弟妹達のもとへ、私と櫻、恵梨歌ちゃん、先輩はサンドイッチ作りに専念したのだった。

 程なくして出来上がっていくサンドイッチ&オードブル。
 子供たちも各々好きな具材を詰め込んだサンドイッチが出来た、と喜んでいる。
 出来た子から先生が食べやすいように切ってあげていた。中には自分でやる!と奮闘する子も居たりして実に微笑ましい。
「皆、サンドイッチ出来たかなー?からあげやフライドポテトはお皿を持ってこっちに取りに来てね!後でデザートもあるから、その分の余裕は残しておいた方がいいかもよ?」
 ちょっと茶化しながら保母さんが言う。
「デザート?何があるの、せんせー」
「ふふ、なんだろうね~」
「えー、教えてよう!」
 なんてやりとりも聞こえてくる。その子じゃないけど、何がデザートなのか私も気になるぞ!?
 という事で側に居た保母さんに聞いてみると、どうやらゼリーと蒸しケーキらしい。ははぁ……じゅる。
 お腹がすいてるという事もあってヨダレが出そうになる。い、いけないいけない。口を閉めてその上から手で覆った。
「美波ちゃん、ものすーっごくお腹すいてます~って感じの顔だね」
「へ、あ、わかる?」
「わかるわかる。朝ご飯ちゃんと食べたよね?」
 うん、それはもう。
 ていうか恵梨歌ちゃん一緒に食べたじゃないですか……。
「んー、でもさもうお昼時だし!更に緊張しちゃっていつもよりエネルギー消費が激しいっていうか!」
 ごごごごごっと効果音を背負いつつ言うと、後ろから微妙な笑い声が聞こえた。
「ははっ、相変わらずだな。でも良かったじゃねーか、お前の好きなからあげもあるし?」
「……なんかバカにされてる気がするんだけど」
 櫻が楽しそうに笑っていた。
「へぇ?なんでそう思うんだ、事実を述べてるだけだろ。それともからあげ嫌いだっけ?」
「好きだよ!大好きだよ!でも……櫻が言うとなんかちょっと……」
 むーっと不貞腐れるとぼむっと膨らませていたほっぺたを潰された。
 ぶはっと息が飛び出る。
「別に裏はねーから、言葉通り受け取っとけって。可愛くない」
「……余計なお世話だ」
 もっかい、ぶーとほっぺたを膨らまして、そう返した。

 皆一通り欲しいモノを取って席につく。
 私のお皿にもサンドイッチとからあげとポテトとウィンナーとサラダと……ふへへへ、う、うまそぉ!
「じゃあ皆、手を合わせて~」
 パンッ
 大勢の手を合わせる音は一緒に鳴るとなかなかの音だった。
「いただきまーす!」
「いっただきまぁす!」
 保母さんの挨拶の後皆で頂きますを言って食べ始める。
 まず最初はサンドイッチから!ハムとたまごとレタスのそれを頬張ってニヘニヘと笑う。
「美味しーい!」
「うん、そうだね~。久しぶりにサンドイッチなんて食べたよ。大抵ご飯だったからね」
 奏和先輩も幸せそうに笑う。
 そう、学食では主食がご飯な事が多い。それ以外は麺類とかだから、サンドイッチなんてのは他で買わないと無いんだ。
 ちなみに購買もある事はあるが、サンドイッチは割高なので買わない人が多いらしい。……確かに、コンビニとかのサンドイッチもナメとんのか?っていうくらい高いもんねぇ……。
「ふふ、タコさんウィンナーも久しぶり」
「あっ!ホントだタコさんいいなぁ!」
 恵梨歌ちゃんのお皿には何故かタコさんの形に切られたウィンナーがあった。
 わ、私が取りに行った時はそんなの無かったぞ!?
「あぁ。後で追加されたみたいなの、いる?」
「えっ……う、ううう……!」
 首を傾げて言ってくれるけど、流石にそれを貰うのはあまりに幼稚っぽい気がして……。
 下唇を噛んで泣く泣く首を振ろうとすると、ふいに目の前にタコさんが現れた。
「……へ?」
「あーんって、ホラ、口開けろって」
 櫻が箸でタコさんを突き刺して、それを目の前に出していたのだ。
 言われた通り口を開ける。
 押し込まれるタコさん。
「むぐっ」
 口を閉じた後に箸は抜かれた。
 中に広がるタコさんの足を感じつつ、櫻を見た。
「ガキだなぁ、美波」
 くつくつと笑う櫻に何も言い返せない。ち、ちくしょう、タコさんウィンナー美味いなぁ!
 もぎゅもぎゅと口を動かしながら睨んでいたけれど、なんとなく恥ずかしくなって顔を背ける。……ホント、ガキっぽい事は確かだ。
「なんか餌付けの瞬間目撃しちまったぜ……」
 後ろから声。
 振り返ると那月君と城崎君が立っていた。
「ものすごく自然な所が不自然というか……あぁ、僕達もこちらで頂くから、席作って貰えるかな?」
 手にはお皿とジュースのコップがあった。
 はれ?小夏ちゃんや晴矢君と一緒に食べるんじゃなかったのかなぁ?
 と、そう思っていると、言いたいことがわかったのか、ついと指で一方を示した。
「――母さんが来たから。僕達はお友達と食べてこいって」
「お母さん?あれ、足は大丈夫なの?」
 確か骨折したんだよね……?
「あぁ、もう随分よくなっていてね。今日は病院に行っていたんだが、もう松葉杖も無くて大丈夫だとお墨付きをもらったそうだ」
「おぉ~。良かったね!」
 喜んだ後、示された方を見る。
 顔はよくわからないけれど、髪色が城崎君や小夏ちゃんによく似た女性が座っていた。確か生徒手帳の写真の那月君もあんな色だったっけ。……晴矢君だけ違うのは、お父さん似なのかな?
 ともかくも二人分のスペースを作って椅子を持ってくる。
「サンキュー、美波!」
 那月君は私の隣になって、ニカッと笑ってお礼を言った。
 それにもう一方の隣に居た櫻が反応した。
「……お前は、誰だ?劇ン中居たっけ?」
「へ?いや、居たじゃん見てなかったの?」
 驚いて言ったら、
「……見てないぞ?」
 と返される。……はて?
 その返答に首を傾げつつあったのだけど、前の席に座る恵梨歌ちゃんが面白そうに笑うもんだからそっちの方が気になった。
「もう、何言ってるの美波ちゃんってば。那月君は着ぐるみだったから顔見えなかったじゃない」
「あ、そうかぁ!」
 ぽむっと手を打った。
「あまりに違和感が無かったから、思い出せなかったよ!」
「おい、そりゃあどういう意味だよ美波ッ」
 狼さん再び。
 と言わんばかりに両手を襲う形にして那月君が言った。やー、こりゃ失敬、襲わないでー。
「てことはお前、あの狼か?石詰められて死んだ、マヌケな」
「おいおい、マヌケってのは否定しねーけどよう、アレは決して“オレ”がマヌケなワケじゃねぇんだからな?」
 私の頭上で交わされる言葉達。
 そりゃそうだ、狼があんな風に退治されるのは童話で決まってる。
「つーかよ、そーいうお前こそ誰だ?オレお前ん事知らねーんだけど」
 今度は那月君が言う番だった。
「あぁ、美波ちゃんの幼馴染なんだそうだよ。僕もね、さっき紹介してもらったんだ」
 奏和先輩が言う。
 さっき手伝いをしてる最中に同じテーブルだったから、ちゃんと紹介したんだ。
 隣の席でやっていたせいか、奏和先輩と随分話が弾んでいたようで。
 一体何を話していたのやら、と思っていたんだけど――
「今日は美波ちゃんの勇姿を見るためにわざわざ部活休んで見に来てくれたんだよ」
「……へ?」
 サラリと言われた言葉に目が点になった。
「ちょっ、先輩、それは言っちゃダメだって!!!」
「あ、ごめんごめん。ついうっかり」
 慌てたように櫻が言って、先輩が謝る。
 ……もう聞いちゃったけどね、ばぁぁっちり。
「櫻」
「な、なんだよ」
「私に嘘ついたでしょ」
「……な、何の話だ」
「櫻」
「……。……つきました」
 ゆらぁりと憤怒の炎を出しながら櫻の方に向き直った。
「部活無いって言ったじゃん。なんで嘘つくの」
「そ、それは……ま、まぁ」
 しどろもどろになる櫻。でもその視線を私に定めて、困ったように笑った。
「――部活よりも、美波の事見たかったから。……じゃ、ダメか?」
 私も同じように笑う。
「ダメ――に決まってんでしょうがぁ!?アンタ陸上部のホープなんでしょ!?こんな時期に休んで、足遅くなるよ?!ていうかちゃんと顧問の先生や先輩に断ってから来たんでしょうね!?もし無断とかだったら、干されるよ!?いいの、そんなので、アンタその程度にしか陸上好きじゃなかったの!?」
 怒涛の勢いで言ってやる。
 ホントにっ……なんで、こんな事するの!
「まぁまぁ、美波ちゃん落ち着いて。さっき聞いたんだけどね、今日の午前中はそれほど重要な時間じゃ無いらしいんだよ。
 それにちゃんと先生や先輩にも言ってるらしいから――ね?」
「奏和先輩……」
 先輩の言葉に一応安心して、でもギッと櫻を睨んでやる。
「なんで、先輩には言うのに私に言ってくれないかなぁ!」
「うっ」
 出会って間もない先輩に言えて付き合いの長い私に言えないとかどーいう事だよ!
 あ、なんか悲しくなってきた。
 じわりと目頭が熱くなってきて顔を下げる。
 すると、クスッと笑う声が聞こえた。……この状況で笑うヤツは誰だ!と思って顔を上げると、
「あ、ごめんごめん。……ちょっと、謎が解けたから」
 城崎君がさもおかしそうに笑っていた。
「謎……?」
 あぁ、と頷いて城崎君は続ける。
「最近ね、やたらと視線を感じるなぁと思っていたんだ。それもかなりキツい。――その主は誰か、と探るとどうやら春日井かららしい。
 何でだろう?僕は何かコイツにやったかな?と思って、その視線にイライラしてたりもしたんだけど……」
 口元を手で押さえて、笑いを堪えるような仕草を取る。
「その視線の理由がわかったよ。
 春日井って――かなりの過保護みたいだね。幼馴染っていうより、兄かもしくは父親みたいな位置に居るみたいじゃないか」
「なっ!?」
「だって、そうだろう?今日だってわざわざ部活を抜けてまで高科さんの事を見に来て。
 まるきり子供達を見に来た親御さん達と同じじゃないか」
 ……言われて、確かにそうだ、と手を打った。
「お父さんは芳くん一人で十分だよ?」
「ンなこたぁ、わかってるよ!」
 過保護だとからかわれたのが恥ずかしかったのか、顔を赤くした櫻の頭をぽむっと叩く。
「へへ、でもありがとー櫻。芳くんも万理ちゃんも今日居なかったし、ちょっと嬉しいかも」
 この年齢になって親がどうのこうのと言うつもりは無いけれど、城崎君の言葉を聞いているとそう思えた。
「でも、だからと言って部活放り出すとかはやめてよね。こっちも嫌だし」
「あぁ……わかってるよ」
 ふてくされたように、でもちゃんと櫻は首を縦に振った。

 それからはお食事タイム。
 すぐに平らげてデザートタイムにも突入した。
 保母さんっていうのは本当にすごいものだ、と改めて思った。
 通常の仕事に、私達の手伝い。それに加えてこんな前もって準備が必要なお菓子まで!
「ゼリー美味しい~。でもイチゴこんなにいっぱいで高くありません?」
「それがそうでも無いのよ。少し車で出るとね、農家の方が朝市をやっていて。ホラ、よく1パック398円とかで売ってるでしょ?アレが100円とか。まとめて買うともっと割引してくれるし」
「ほへ~」
 そういや前居た所でもそーいう朝市やら100円野菜みたいなモノはやってたっけ。
 イチゴを作ってるトコは無かったから相場は知らなかったけど。
「まだ出始めだから競争激しいのよ。7時から開く市に6時にはもう人が集まってたりね」
「すご……!」
 そんな風に保母さんによる朝市豆知識を聞きつつゼリーを頂く。
 蒸しケーキもふっわふわで美味しかった!やっぱり保母さんのスキルとしてお菓子作りは必須だったりするのかなぁ?

 ……と、そうだ。お菓子だよ、お菓子!

 デザートを食べ終わった後は各々好きな場所に移動していた。
 私は保母さんとお話をしていたし、城崎兄弟は家族のもとへ、秋ヶ谷兄妹は知り合いでも居たのか親御さん達と話をしている。……櫻は、あれ?トイレ?
 まぁ、いいや。
 私は自分の鞄の方へと移動して朝食堂のお姉さんに貰ったお菓子を取り出した。



さて、誰の所へ行く?

那月君
城崎君
奏和先輩

恵梨歌ちゃん

 ゲーム内では6話最後で選択したキャラと同じパートに飛ぶようになっていました。
 という事で、同じキャラにすると話が破綻しないようになっています。



Dパート  お菓子を渡して食べ終わった頃に、もうパーティもお開きになった。
 結構いい時間だ、園児達も遊びまくってそろそろ疲れてきたらしい。親御さんに寄り添ってうとうとしてる子も居たりする。
「じゃあ、皆さようなら~。次は明後日だからね、明日は休みだよ~」
 保母さんが言って、お子様達はわーいと喜ぶ。
 今日も休日なんだけど特別にパーティとして登校日だったんだよね。……あれ、幼稚“園”だったら、登園日になるのか?ま、いっか。
 そのおかげか親御さん達もかなり来てくれたみたいだし。
 あ、そうそう、一部の人とは私もお話をさせて貰った。
 どうやら過去の風倉演劇部を知ってる人が意外に多いらしい……。
 まぁ、ここらに住んでる人達だから何らおかしくないんだけども。
 そしてその中で実に有用な情報を手に入れた。――気がする。

「昔あたし達も風倉の文化祭に行った事あるんだよ。演劇部は特にすごかった」
 これは一人のお母さん談。
 昔からこの近辺に住んでいる人らしい。風倉には行ってなかったそうなんだけど。
「うん、本当にね。ほら、コンクールでもいいトコに行ってたんじゃなかったっけ?よく横断幕がかかってた」
 これまた別のお母さん談。
 横断幕っていうのはよくある“祝○○大会 出場!”とか言うヤツだ。今はまだ見てないけど、運動部はしょっちゅうかかってるらしい。……くそう、とか思うのは仕方ない事ですよね!
「やっぱりすごかったんですね~。私も昔見たことがあって、それに憧れて演劇部に入ったんです!」
 入ってみれば演劇部、っていうかほぼ廃部だったけど。
 でもそれを強引にだけど皆を誘って、こうして劇をやらせて貰えたのだ。結構頑張ったと思う。皆は当然、私だって。
「そうだったのね。今は――5人だったかしら?当時の演劇部にはまだ負けちゃうけど、今日も良かったわよ。これからに期待、ね」
「ありがとうございます!頑張ります!」
 一緒に話していた奏和先輩と一緒に頭を下げる。
 園長先生や保母さん達にいっぱい言って貰えた言葉だったけど、それを別の人に言って貰えるとまた嬉しい。
 そんな時、ふと一人のお母さんが思い出すように言ったのだ。
「そういえば……当時の演劇部に居た子、この辺に住んでるんじゃなかったかしら?」
「? そりゃあ、地元の人は残ってると思いますが――」
 城崎兄弟や秋ヶ谷兄妹は元々この地域の人だ。それは全然おかしくない。
 でもそういう事じゃ無いらしかった。
「結構有名な人だった気がするわよ……そっち方面に進んだワケじゃないんだけど。ホラ、えっと……ああ、名前が思い出せない」
「あー、そうだったわね、居たいた。なんか、こう――紅っていう字があったような……」
 それからしばらく悩んでくれたんだけど思い出せなかったらしい。
 でもその情報は頭に刻んでおく。
 当時の演劇部の人、しかもこのご近所さん!いつか会ってみたい気がするからだ。

 あと親御さん達と言えば、城崎母ともお話させて貰った。
スチル表示 「いつも子供達がお世話になってます。特にふゆ君と那月は同じ部活だものね。ご迷惑かけてないかしら?」
「そ、そんな!むしろこっちが迷惑かけてしまってるようなっ」
 あたふたと頭を下げる。
 さっき遠くから見た通り、城崎君と小夏ちゃんのと同じ髪色の、優しそうな女の人だった。
「……って、あれ。ふゆ君?」
「そ、ふゆ君。冬輝、だから」
 あ……そっか。城崎君は苗字で呼んでたから一瞬わからなかった。
「ん、でも那月君はそのままなんですね?」
「那月はね~、同じように“なつ”にすると、自分の名前になっちゃうから」
 そう言って城崎母は笑った。
 ってぇ、事はつまり。
「なつ、さん?」
「えぇ。城崎奈津です、よろしくね」
 そう言って奈津さんはふんわりと笑った。
 釣られて笑っていると、那月君が嫌そーな顔で肩を落としているのが目に入った。
「……どしたの、那月君」
「あぁ、あれはな」
「っ!」
 いつの間に来たのか、背後に城崎君。
「じょ、城崎君――気配殺すの上手いね?」
 そういえばよく那月君の背後にも“いつの間にか”出現している。
「そうか?そんなつもりはないが――まぁ、いいか。
 那月だけどね、自分の名前が気に入らないんだって。前に言ったんだけど覚えてるかな。“女の子みたいな名前”」
 ぽむっと手を打つ。
「あぁ!あっ、て事はあの時言ってた身近って――那月君の事かぁ!」
 確かに言われてみれば十分に女の子で通用する名前だ。なっちゃん、とか言われたら即座に女の子を想像するし。
「でもさぁ、お母さんの名前が入ってるし、良い名前だと思うけどなぁ」
「そうよねぇ。冬輝は文句一つ言わないのに、あの子ったら」
 奈津さんが困ったように笑った。
「城崎――ううん、冬輝君も入ってるんですか?」
「えぇ、冬輝は“ゆき”。お父さんの名前が優希っていうの。夫婦二人で一生懸命考えたのに、那月がそんなで母さん悲しい!」
「ンな事言ってなぁ!なっちゃんなっちゃん女の子みたい~ってからかったの誰だよ!」
 怒鳴る那月君、言われた奈津さんはケロッとした顔で「知らなーい」と笑っている。
 ハハ……那月君、完全にあしらわれてるよなぁ。
「ま、それはいいとして。那月。母さん足治ったから、もう送り迎えはいいわ。寮に入りなさい」
「なっ?!」
 突然の言葉に驚きを隠せないらしい。
 那月君は目を見開いて固まった。
「そんなに驚くことないでしょう。最初からその約束だったでしょ?それとも何?約束破る子なの?」
「うっ……そんなんじゃ、ねぇけど」
「なら、よろしい。ふゆ君、那月の事よろしく頼むわね」
「あぁ、わかってる」
 城崎君は深く頷いた。双子で二人部屋なんだっけか。
「皆もこれからも二人の事よろしくね、仲良くしてやって頂戴」
「はい!こちらこそ!」
 後ろで項垂れる那月君は最早完全に無視してほがらかに奈津さんが言った。
 私も半ば無視して――力強く返したのだった。

 *

 そんなこんなで風倉演劇部の第一幕は終わった。
 最初はどうなる事かと思ったけど――どうにかなるもんである。
 ……いや、そんな言い方は協力してくれた人に失礼か。
 どうにかしようと思う気持ちで、何事も動く可能性があるのだと、わかった。
「これはまだ第一歩に過ぎないけど、でも大きな夢への第一歩でもあるのだ!」
 なんて腰に手をあてて言い放つ。
 やたら演技染みているのは仕様だ。
「大きな夢?美波ちゃんは何か具体的に決めてるのかな?」
 奏和先輩が不思議そうに訊いてきたので、私は深く頷く。
「――まだ全然決めてませんけども!」
「……そ、そお」
 本当にまだ何も決めてないから仕方ないんだけど、そこまで落ち込まなくても……。
 でも、ま。
「何かへの第一歩には変わりないんですから、先輩!」
「わっ」
 奏和先輩の手をしっかと握って私は言う。
「第二歩目も、頑張りましょうね!」
 一瞬驚いた先輩だったけど、
「うん――頑張ろうね」
 すぐにいつもの柔和な表情に戻って同意してくれた。
 同じように周りに居た皆も頷いてくれて。

 ぐっと握りこぶしを作る。

「よーっし、なんだって来い!ってな気分!」
 その拳を空に突き出して、私は晴れやかに笑ったのだった。


 終わり